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揺れる気持ち

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周平が武尊に連れられて行ってしまった後、竹田家に取り残されたのは侑と大和であった。

「武さん、めっちゃ嬉しそうだったな」
「ペー助、大丈夫かな」
「まぁ、なんとかなるだろ」

大和の発情期ヒートは概ね五日間、大事をとって一週間は周平は帰らない。
周平は誰が発情期に入っても、マナベは休暇をとることにしている。
大和が部屋に籠り初めて一日目、竹田家に宅配便が届いた。
差出人は卯花で、それは大粒のぶどうだった。

──山梨に出張に行ったので送ります

良いタイミングだこと、と侑はシロップを作りぶどうの皮を剥いて凍らせた。
冷やしたシロップに凍らせたぶどう、一口で水分も糖分もとれるそれは発情期にはうってつけだなぁと侑は大和の部屋へ赴いた。

「やまち、食べれる?」

ベッドで猫のように丸くなって浅い息を吐いて、こくこくと頷くのに侑は近づいた。
汗を拭いてやり、口に冷えたぶどうを入れると大和は小さく笑う。

「おいし」
「うん、卯花が送ってきた」
「なんれ?」
「出張だったんだと」
「あっくんも食べてね」

おう、と侑も一粒口に入れて美味いなと二人でひっそりと笑いあった。
それからも毎日のように卯花から果物や100%ジュースなどが届いて侑は首を傾げた。
さすがに怪しい、と思ったがどうしようもない。
有難くちょうだいして、周平が帰ってきたら相談しようと決めた。


一方、周平はゆっくりとねちっこいの違いはなんだろうなぁ、と考えていた。
窓の外は落ちかけた陽が街を照らしていて、今日もなにもできなかった。
寝て食べて体を触られて、また眠る。

──ゆっくりシュウのペースで

自分のペースになったことなんてここ数日あったかな?とも考えるのだ。
お互いのモノを触りあって、執拗に乳首を嬲られ、尻の自分でも触ったことのない場所まで知られてしまった。
フェロモン欠乏症のせいなのか、あまり濡れないのでローションを使ってぐちゃぐちゃにされる。
可愛いね、気持ちいいね、と囁きを落とされながら何度もイかされて気づけば寝落ちしている。
これではいけないと自分でも思う、マグロは駄目!と授業も受けたのだ。
けれど、武尊が触れるところは全部気持ちよくて困る。

ペタリとうつ伏せになったシングルベッドの上から、なにかカタカタやっている武尊をぼんやりと見やる。
まだ最後まではしていない、あの狂気いや凶器を自分の薄い腹に収めることはできるのだろうか。
そういえば、アルファだとバレると付き合いきれないと去っていかれたと言っていた。
それが男なのか女なのか知らないし、何人いたかも知らない。
知りたいし聞きたいけど、聞いても知っても嬉しい気持ちにはならないから黙っておこう。
もしかしたら最後の一線は超えていないのかもしれない。

「武さん」
「んー?」
「童貞?」
「違うよ」

狂喜いや凶器なので入らなくてフラれたってわけではないらしい。
アルファのなにが駄目だったんだろうな、誰しもが憧れる存在じゃないのかな。

「武さん」
「んー?」
「なんで最後までしないの?」

カタカタと目まぐるしくキーボードを叩いていた指がぴたりと止まった。
パソコンの画面からこちらへ投げかけられた視線は、困ってるような嬉しそうなそんなふうに見えた。

「するよ」
「いつ?」
「したいの?」
「もう、入るんじゃないのかなって」

そうだね、と寄ってきた武尊が横になれるように周平は場所を開けた。

「嫌いにならない?」
「それはわからん」

ふっと吹き出した武尊に周平も合わせて笑う。
顔を合わせるように寝転がってちゅちゅと唇を合わせて、抱きしめあった。

「理性がもつかわからない」
「嘘だぁ。結構余裕に見えるよ?」
「そう?我慢してるよ」
「しなくていいのに。ちゃんと覚悟決めてきたのに」

うーん、と眉を下げる武尊にモヤモヤと考えたくないことが湧き上がる。

「俺では気持ちよくなれない?俺ばっかりしてもらってる」
「シュウに触れるだけで嬉しいよ」
「そうじゃなくて」

むむむと口を尖らせる周平が可愛いな、と武尊は思う。
本音は眠らせることもなく抱きたいし、そうしようと思っていた。
だけど、二人きりで過ごすうちに急に怖くなったのだ。
一度体を求めると際限なく求めてしまう、そうやって去っていった恋を思うと臆病になってしまった。
周平に嫌われたら立ち直れそうにない、だったら周平の発情期を待って先に番になってしまおうと卑怯なことを考えた。
そうすれば逃げ出せない。
好きだから抱きたいし、好きだから抱いて嫌われたくはない。
相反する気持ちの狭間で揺れている自分がいる。

「シュウの全部がほしいよ」
「もうあげてると思うけど」
「ん?」
「武さんのことちゃんと好きだと思う。武さんが何を不安に思ってるのか知らないけど、好きだけじゃ駄目なのかな。もっと頼ってくれていいのに」

ふにゃと下がる目尻に、あぁ敵わないと思った。
手放せる恋ではなくて、手放せない愛にいつの間にか変わっていた。







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