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お手柔らかに

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ほうれん草と卵の中華スープ、青椒肉絲、肉団子、きゅうりたっぷり春雨サラダに白いご飯、あとはたくあんやなめこ、ごはんでっせ!が並ぶこたつ。

「なに、なんで借りてきたたぬきみたいになってんの」
「なんだよ、それ」
「いや、ペー助なんで武さんと座んないの?」

周平は今、いつも大和が座る席に座っている。
大和は少し熱が下がり、粥を食べて薬を飲んだらまたぐっすりと眠ってしまった。
卯花の詳しいことは言えていない、結局なにをしに来たのか見当もつかなかったからだ。

「なんか、恥ずかしい」
「今さら!?」
「今さらって、そんな?」
「うん、いただきまーす」

もぐもぐとかきこみながら侑が言うことは、顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。

「ほら、ペー助が庭いじりしてる時もそいつはうろちょろしてるし、ご飯作ってる時も鍋かき混ぜてるだけなのにドヤ顔してるし。仕事かなんか知んないけどパソコン使ったり、なんか描いてる時とかそいつと背中合わせでゲームしたり本読んだりしてんじゃん。こないだなんか、パソコンに向かってる時にポテチ口に入れてやってたし」
「っ、嘘だっ!!」
「なんでそんなしょうもない嘘を、俺がつくんだよ」

なあ?と話をふったのは武尊で、武尊は嬉しそうに頷いた。
嘘、そんな、え?と周平は愕然とし、いつの間にか寄ってきた武尊に肉団子を口に入れられた。

「冷める前に食べよう」
「…うん」

あまりに自然なそれに、ほらなと侑は白けた目を周平を向けた。
それを受けて、あっと思った瞬間には頭が沸騰しそうなくらい恥ずかしくて顔が熱くなった。

「いっつもこんな?」
「まぁまぁ、そんな感じ。気づいてなかったん?」
「なんで言ってくんないの!?」
「えー、なにその言いがかり。武さんは危険人物じゃないって自分で言っといて。どら焼きも二人で作りに行って、会社行く時は弁当まで作ってさ、そんなんなんだって思うだろ」
「ちょ、もうやめて…恥ずかしい。でも、でも!そんなの、あっくんだってやまちにだってするよ」

ずるずるとたまごスープを飲みながら侑は肩を竦めた。
確かに、誰にでも優しい周平ならそうするだろう。
弁当だって作ってくれるだろうし、菓子を口に入れてもくれるだろう。

「でもさ、さすがに俺らでもさ四六時中ひっつかれたら嫌じゃない?」
「…嫌、かも?」

だろ?と言う言葉を受けてチラと窺った武尊の目が笑っていて、伸びてきた手が唇の端についた肉団子の甘酢を掬いそのまま口に入ってきた。
人差し指についた甘酢が舌にのり、ちゅぽと音を立てて出ていったそれが武尊の口に入る。
ぽかんとする周平と、周平しか見えていない武尊、うげぇキモと声を上げる侑。

「なんか、いろいろごちそーさん」

料理の出来ない武尊がいる時は専ら食器洗い係なので、侑は自分の食器を片付けてそそくさとリビングを後にした。


「ほんとに俺のこと好きなんだ…」
「最初からそう言ってるけど」
「いや、なんていうか鎮静剤的なもんかと…」

いきなりプロポーズをされて、気づけば常に傍にいてそれに疑問を持つこともなかった。
嫌だと思ったこともないし、どら焼き作りも生クリームも餡子も栗もいちごもとにかく詰め込んだやつを一口食べて不味いと顔を顰めていた。
あれは面白かったな、と振り返る。

「シュウ、なに考えてる?」

パンと手を打たれて、これではいつもと逆だと思わず吹き出してしまった。
 
「ごめん、これまでのこと考えてた」
「シュウは僕と結婚したくありませんか?」
「なんでそうなる」

目の前の額に手刀を下ろして、あははと笑うと武尊も同じように笑ってくれた。

「武さんは、なんでそんなすぐに飛躍するかな」
「じゃあ、恋人になってくれますか?」
「まぁ、すぐに結婚するよりかは…」
「ほんとに!?」

武尊の飛びかからんばかりの勢いに驚いた周平は、ころりと転げてその背中が床についた。
その途端、本日二度目のキスが降りてきた。
合わせるだけでなく、ペロリと唇を舐められて舌を捩じ込まれ驚きに開いた目は武尊の手で覆われた。
耳朶を擽られ、上顎を執拗に舐められ舌同士を擦り合わせ、ぢゅるると唾液を吸い上げられた。
瞼の上にある手が気持ちいい、この手の気持ち良さを知っている。
初めて手を繋いだ時に感じた、手のひらのしっとりとした温かさ。
チュッと軽い音を立てて離れていく唇と、明るくなる視界。

「シュウ、好きだよ」
「…えっと、お手柔らかに?」

見下ろすギラギラした瞳に、早まったかな?と周平は思うのであった。
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