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おにぎりパーティ再び

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左から松竹梅の並びで正座して、目の前の呆けたような顔をした男をまじまじと見つめた。

「かん、ちが、い?」
「「「 そう、なにもしてないのに好きになるとかありえない 」」」
「いや、そんなことは…」
「だって、おたくペー助のことなんも知らないだろ?」
「笑顔が可愛い」

照れ照れと頭をかきながら、あと垂れた目もいいし声も好きだし鼻も丸くて可愛いし手も繋いでくれたし、とまた遠い目になった武尊に三人は呆れて声も出なかった。

「ペー助、今日の汁物なに?」
「茄子と牛の味噌汁」
「やった、それ好き」

武尊は放っておいて松竹梅はそれぞれのやるべき事のために散っていった。

カウンターキッチンから武尊の様子を見ながら、周平は安く買えた鮭あらを焼いてほぐし白ごまをふってだし醤油をほんの少し足して混ぜた。
油切りをしたツナにはマヨネーズではなく、塩昆布を混ぜ込んでごま油とだし醤油で和える。
たらこは焼いて、鰹節はマヨネーズと和えて刻んだ大葉を混ぜて具は完成だ。
冷蔵庫の麦茶ポットの中には出汁が入っていて、それを鍋に入れて火にかける。
ふわっと出汁のいい匂いが立ち上がった時、武尊がどこかの世界から戻ってきた。

「いい匂いする」
「あ、おかえり。武さん、ご飯食べていく?」
「おかえり…」
「あ、ちょっと!トリップすんな」

周平が慌てて武尊に駆け寄りパンパンと顔の前で手を打った。
パチパチと目を瞬かせた武尊を見て思う、悪くない顔いやむしろかっこいい部類に入るんだけどなぁと。

「ご飯、食べていく?」
「食べる」
「ん、わかった。じゃ、楽な格好しなよ」

周平は武尊のジャケットを脱がせ、座椅子を持ってきてそこに座らせた。
もう少しでご飯炊けるから、と武尊の前に麦茶を置いて周平はまたキッチンへと戻っていった。
牛肉を軽く炒めて、あく抜きをした茄子を出汁に放り込んでいるとご飯が炊けた。

「好き嫌いある?」
「多分ない」
「なんだよ、多分って」

笑いながら周平は味噌を溶かしいれ、最後に牛肉をいれた。
刺さるような視線がその背中に刺さっているが、それには気づかないふりだ。

「なんか、なんか手伝う」
「そう?じゃ、ご飯お願い」

コンロの横に設置されている炊飯器を開けると、ぶわりと湯気があがってつやぴかの炊きたてご飯がお目見えした。
ガス炊きは美味しいよ、の声を聞きながら粒立ちしている白飯をお櫃に移していく。

「…新婚」

嬉しそうに呟いた武尊のその一言は周平の耳に入ったが、やはりそれも気づかないふりをした。
飛躍しすぎてもう突っ込む気も起きない。


こたつにはおにぎりの具とたくあんと柴漬け、海苔と茄子と牛の味噌汁とおにぎりメーカー。

「ごはーん!」

はーい、と二階から下りてきた大和と侑はあからさまにまだいたの?という顔をしたが良い機会かもしれないと二人同時に思った。
なぜなら今日は恋愛リアリティショー鑑賞会なのだ。
デイジー編が終わって今はクリスティ編、前回八人から五人に減った。
今日はいよいよ、五人から三人になる。

「フリフリ君ないじゃん」
「俺と交互に使うよ」

わくわくと楽しそうな武尊に周平は具は何がいい?と聞いて作り方を教えた。
味噌汁にはお好みでごま油をいれて、乱切りした茄子は柔らかく淡白な味に牛肉の濃さが美味しい。

「なぁ、あんたあれ見てみ?」

侑が箸でテレビを指して、ペシリとその手首を大和に叩かれる。
あっくんお行儀、と言われた侑はハイハイと箸を置いた。

「ビリーがさ、クリスティを一生懸命口説いてんだろ?」
「そうですね」
「クリスティの見た目を褒めたりさ、ベンチに座る時にはハンカチ敷いたり、クリスティの好きそうなケーキ選んでやったりさ。そういうことペー助はあんたにしてないだろ?」
「そうだよ、なのになんでペー助なの?」

鮭おにぎりを頬張ったばかりの武尊はキョトンと目を丸くして、ゴクンと飲み込んだ。

「好きになるのに理由いりますか?」
「は?」
「褒めてくれたからとか、好きなケーキくれたからとか、そんなの意味ないです」
「え?」
「あ、でもきっかけはあります。僕の場合はシュウの笑い方です。僕には刺さりました」

ぽっかーんと空いた口が塞がらない三人を尻目に武尊はからりと笑った。

「だから、勘違いじゃないです」

雨上がりの雲間から見えた晴れ間のような、くっきりと浮かび上がる虹のような、そんな笑顔に三人は言葉を失った。

『クリスティ、どうしてビリーは駄目だったんだい?』
『ひどいわ、駄目なんかじゃない。私のためにいろんな気を使ってくれて、エスコートしてくれてとても嬉しかったわ』
『じゃあなぜ?』
『それだけだったの。嬉しいって気持ち以上のものが溢れてこなかったのよ』
『もしかしてもう心に決めた人がいる?』
『うふふ、どうかしら?だけど些細なを見逃さないようにしてるのは確かね』

画面の中で悠然と微笑むクリスティ、それを松竹梅はじっと見つめていた。



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