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彼らがゆり花に入った理由 竹
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竹田周平は平々凡々、近所に一軒は必ずいるような当たり障りのない家庭に産まれた。
両親、祖父母共にベータにも関わらず性判定でオメガと診断された。
それがなにかわかったのは、初めて訪れた性を取り扱った特殊な病院で『はじめてのオメガ』という小冊子をもらったときだ。
「俺、子ども産めるのか」
「ほんとねぇ、すごいわねぇ」
母はのほほんと言い、父は娘が追加されたということか?と的外れなことを言っていた。
祖父母は特になにも言わなかったが、なにかあれば隠さずすぐに言うようにとしつこいほど言われた。
どうしてあんなにしつこかったか、今ならわかる。
祖父母の若い頃は性差別が根強く残っていたからだった。
ただ、周平はそのような扱いを受けたことはなかった。
下町の気風とそこで育った子どもたちはおおらかで良い意味で馬鹿だった。
ある日の帰り道のことだ。
「ペー助、オメガってやつなの?」
「そうだよ」
「すげぇ!ちょっとしかいないんだろ?俺、自慢しよー」
「ペー助、あたしが将来ママ友になってあげるわ」
「リンリン、結婚する気満々かよー」
リンリンはターキーの後頭部を持っていた体操服袋でフルスイングで殴った。
ターキーもリンリンも、もちろんその家族もオメガだとわかったからといって態度が変わることはなかった。
だってオメガだろうとベータだろうと見た目が変わるわけでも、性格が変わるわけでもなかったから。
周平はいつでも周平だった。
中学2年の終わり、初めての発情がきた。
その頃には『はじめてのオメガ』ではなく、『オメガとして生きる』という少々難易度があがった小冊子を病院からもらっていた。
両親は父の仕事の都合で海の向こう、フィリピンへ渡っていたので祖父母が面倒を見てくれた。
祖母はオロオロし、祖父はどっしりと構えていたのを覚えている。
ただ何度か自慰をすれば治まってしまったそれに違和感を覚えて病院へ行くと、フェロモン欠乏症だと診断された。
原因不明のそれを治す術はない。
相性の良いアルファがいればその数値が上昇する可能性がある、と眉唾ものの話を聞いただけだった。
高校は隣町の進学校へ行った、なんとターキーもリンリンの進学先も同じだった。
馬鹿でいられた子どもの頃と違いオメガらしい体つきになった自分をターキーたちが守ってくれていたのだ、と気づいたのは入学してからだった。
通学電車ではターキーが周平とリンリンを守った。
高校は特進クラスと普通クラスに別れていて、特進クラスにはアルファもいた。
周平達はもちろん普通クラスだ。
二年に上がると普通クラスから文系、理系にクラス編成が別れた。
周平は文系コースを選び、それはターキーもリンリンも同じだった。
そこで周平は初めてオメガの友人ができた。
男オメガは希少と聞いたがいるもんなんだな、と最初の周平の感想はそれだった。
オメガの彼は同じ性の友人ができたことを喜び、周平に懐いた。
そんな彼にはアルファの幼馴染がいて、ことある事にクラスへやってきていた。
彼に引き合わされる形で周平達もそのアルファと親しくなった。
誰の目から見てもそのアルファは友人オメガのことが好きなんだとわかったが、肝心の友人オメガだけがそれに気づいていないようだった。
そんな中、アルファが周平に対して距離を詰めてきた。
常に友人オメガの隣にいたアルファが、周平をかまうようになった。
アルファが話題をふるのも、スキンシップをとるのも周平だ。
その頃には女友達と過ごすことが多くなっていたリンリンはそれを外側から見ていた。
「ペー助、あいつには気をつけな」
「なにに気をつけるんだ?」
「あいつは信用できない」
苦虫を噛み潰したような顔のリンリンの言ったことがわかるのは三年生に上がる時だった。
周平にかまうアルファを見て、友人オメガが自分の中に秘められていたアルファへの想いに気づき二人は晴れて両思いとなった。
周平は当て馬にされたのだ。
なるほどこういうやり方もあるのか、とそう思った。
「ペー助、おまえムカつかないの?」
「ムカつくより感心した」
「どこが」
「好きな相手を手に入れるのに手段なんて選んじゃダメなんだなって」
「いや、お前いいように使われたんだぞ?」
周平よりターキーやリンリンの方が憤っていた。
それから周平は特進クラスのアルファを、普通クラスにいるオメガを観察し始めた。
時に男女問わずオメガならずベータをも侍らせているアルファもいたが、それはそれで平等に扱われているように見えて楽しそうだった。
一方で性に関わらず恋人たちを見るといいな、と思うようになった。
両親も祖父母もとても仲が良かった、いつか自分にもそんな相手が現れればいい。
どこをとっても特徴のない自分ができることは、しっかりアピールすることだと周平は思った。
まず相手の視界に入らなければ何事も始まらない。
フェロモンで誘えないならば尚更、とその思いは強くなっていった。
そんな折り、祖母が倒れた。
「周平の晴れ姿が見たいねぇ」
祖母はそう言い残し、この世を去った。
ならば残された祖父には晴れ姿を見せてやろうと、周平はゆり花へと願書を送った。
ゆり花のパーティで、周平は積極的にアルファに声をかけた。
常に笑顔を絶やさず、好印象をもってもらうために相手が喜びそうなことを囀り、自分というものを売り込んだ。
ただそれを買ってくれるアルファはいなかった。
アルファの視界には入れても心には入れなかった。
周平はいつまでも恋に恋していた。
両親、祖父母共にベータにも関わらず性判定でオメガと診断された。
それがなにかわかったのは、初めて訪れた性を取り扱った特殊な病院で『はじめてのオメガ』という小冊子をもらったときだ。
「俺、子ども産めるのか」
「ほんとねぇ、すごいわねぇ」
母はのほほんと言い、父は娘が追加されたということか?と的外れなことを言っていた。
祖父母は特になにも言わなかったが、なにかあれば隠さずすぐに言うようにとしつこいほど言われた。
どうしてあんなにしつこかったか、今ならわかる。
祖父母の若い頃は性差別が根強く残っていたからだった。
ただ、周平はそのような扱いを受けたことはなかった。
下町の気風とそこで育った子どもたちはおおらかで良い意味で馬鹿だった。
ある日の帰り道のことだ。
「ペー助、オメガってやつなの?」
「そうだよ」
「すげぇ!ちょっとしかいないんだろ?俺、自慢しよー」
「ペー助、あたしが将来ママ友になってあげるわ」
「リンリン、結婚する気満々かよー」
リンリンはターキーの後頭部を持っていた体操服袋でフルスイングで殴った。
ターキーもリンリンも、もちろんその家族もオメガだとわかったからといって態度が変わることはなかった。
だってオメガだろうとベータだろうと見た目が変わるわけでも、性格が変わるわけでもなかったから。
周平はいつでも周平だった。
中学2年の終わり、初めての発情がきた。
その頃には『はじめてのオメガ』ではなく、『オメガとして生きる』という少々難易度があがった小冊子を病院からもらっていた。
両親は父の仕事の都合で海の向こう、フィリピンへ渡っていたので祖父母が面倒を見てくれた。
祖母はオロオロし、祖父はどっしりと構えていたのを覚えている。
ただ何度か自慰をすれば治まってしまったそれに違和感を覚えて病院へ行くと、フェロモン欠乏症だと診断された。
原因不明のそれを治す術はない。
相性の良いアルファがいればその数値が上昇する可能性がある、と眉唾ものの話を聞いただけだった。
高校は隣町の進学校へ行った、なんとターキーもリンリンの進学先も同じだった。
馬鹿でいられた子どもの頃と違いオメガらしい体つきになった自分をターキーたちが守ってくれていたのだ、と気づいたのは入学してからだった。
通学電車ではターキーが周平とリンリンを守った。
高校は特進クラスと普通クラスに別れていて、特進クラスにはアルファもいた。
周平達はもちろん普通クラスだ。
二年に上がると普通クラスから文系、理系にクラス編成が別れた。
周平は文系コースを選び、それはターキーもリンリンも同じだった。
そこで周平は初めてオメガの友人ができた。
男オメガは希少と聞いたがいるもんなんだな、と最初の周平の感想はそれだった。
オメガの彼は同じ性の友人ができたことを喜び、周平に懐いた。
そんな彼にはアルファの幼馴染がいて、ことある事にクラスへやってきていた。
彼に引き合わされる形で周平達もそのアルファと親しくなった。
誰の目から見てもそのアルファは友人オメガのことが好きなんだとわかったが、肝心の友人オメガだけがそれに気づいていないようだった。
そんな中、アルファが周平に対して距離を詰めてきた。
常に友人オメガの隣にいたアルファが、周平をかまうようになった。
アルファが話題をふるのも、スキンシップをとるのも周平だ。
その頃には女友達と過ごすことが多くなっていたリンリンはそれを外側から見ていた。
「ペー助、あいつには気をつけな」
「なにに気をつけるんだ?」
「あいつは信用できない」
苦虫を噛み潰したような顔のリンリンの言ったことがわかるのは三年生に上がる時だった。
周平にかまうアルファを見て、友人オメガが自分の中に秘められていたアルファへの想いに気づき二人は晴れて両思いとなった。
周平は当て馬にされたのだ。
なるほどこういうやり方もあるのか、とそう思った。
「ペー助、おまえムカつかないの?」
「ムカつくより感心した」
「どこが」
「好きな相手を手に入れるのに手段なんて選んじゃダメなんだなって」
「いや、お前いいように使われたんだぞ?」
周平よりターキーやリンリンの方が憤っていた。
それから周平は特進クラスのアルファを、普通クラスにいるオメガを観察し始めた。
時に男女問わずオメガならずベータをも侍らせているアルファもいたが、それはそれで平等に扱われているように見えて楽しそうだった。
一方で性に関わらず恋人たちを見るといいな、と思うようになった。
両親も祖父母もとても仲が良かった、いつか自分にもそんな相手が現れればいい。
どこをとっても特徴のない自分ができることは、しっかりアピールすることだと周平は思った。
まず相手の視界に入らなければ何事も始まらない。
フェロモンで誘えないならば尚更、とその思いは強くなっていった。
そんな折り、祖母が倒れた。
「周平の晴れ姿が見たいねぇ」
祖母はそう言い残し、この世を去った。
ならば残された祖父には晴れ姿を見せてやろうと、周平はゆり花へと願書を送った。
ゆり花のパーティで、周平は積極的にアルファに声をかけた。
常に笑顔を絶やさず、好印象をもってもらうために相手が喜びそうなことを囀り、自分というものを売り込んだ。
ただそれを買ってくれるアルファはいなかった。
アルファの視界には入れても心には入れなかった。
周平はいつまでも恋に恋していた。
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