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対決
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マリーベル達がマンティコアと戦っている時。ヘンリーはその付近に身を隠して、マリーベル達の様子を伺っていた。
マンティコアによる襲撃は、彼が意図したものだったのである。
ヘンリーは、以前の冒険の際に接触を持ったマンティコアと、その後も連絡を取り合っていた。
マンティコアが望む情報を提供し、見返りに魔道具などを入手していた。
そして、今回の襲撃もマンティコアに依頼してマリーベルたちを襲撃させた。
若い女達3人を食うことが出来る。と、話を持ちかけたのである。
マンティコアが邪魔な3人の娘達を食い殺し、あわやマリーベルも、というところでヘンリーが助けに入り撃退する。
これがヘンリーの筋書きだった。
そうすれば、マリーベルは自分を本当に守ってくれるのが誰か思い知り、二度と間違えたりしないはずだ。そうなれば今後は優しくしてやろう。それで全てが解決する。
ヘンリーは愚かにもそう信じていた。
しかし、事態は想定外の展開になり、ヘンリーは呆然としてしまっていた。
マリーベルが1人で逃げることを拒否した時には、彼は、これで上手くいったとほくそ笑んだ。
ところが、その後空中を走る変な女が現れ、マンティコアは倒されてしまった。
その変な女はマリーベルに従っているらしい。これもショックだった。
それは、マリーベルが自分で戦う術を手に入れてしまった事を意味しているからだ。
ヘンリーには、この後自分がどうどうすればいいのか全く分からなかった。
ヘンリーはマリーベルたちにばれないように、最初は相当遠くから彼女達をつけていたのだが、マンティコアとの戦いが始まると急速に距離をつめて、今は彼女達のかなり近くにまで来ていた。
タイミング良くマリーベルを助けに駆けつけることが出来るようにするためだ。
そんな場所で呆然としてしまっていたヘンリーの姿を、周りの様子を慎重に伺ったマリーベルが発見した。
ヘンリーもマリーベルに見つけられたことに気付いたが、それでも彼はどうしてよいか分からなかった。
本来ならとりあえず逃げるべきなのかもしれないが、今の彼にはマリーベルに背を向けて去ることが出来なかった。
マリーベル達は4人全員でヘンリーの方へ歩いて来て、20mほど離れた場所で止まった。
そして、マリーベルがヘンリーに声をかけた。
「こんなところで何をしているの」
「お、お前を助けようとして……」
「そう。私達が死にそうな目に会うことを知っていたということね。つまり、あのマンティコアをけしかけたのはあなた」
「ち、違う。俺はただ……」
それきり言葉を続けられなくなってしまったヘンリーの姿を見ながら、マリーベルはヘンリーの異常さに気付いていた。
マリーベルは、ヘンリーは自分の憎んでおり殺しに来るのではないかと本気で考えていた。
だが、ヘンリーの目的は自分を殺すことではない。
もし殺すことが目的なら、先ほどマンティコアと死闘を演じている時に襲ってくれば簡単に殺せたはずだからだ。
つまり、ヘンリーの目的はマリーベルの命ではなく、彼女には全く理解できない何かであって、その為に訳の分からない陰謀を企てているのだ。
だが、マンティコアがマイラ達を殺そうとしたのは間違いない。それを画策したのがヘンリーであることも。
そう思うと、耐えがたい怒りがこみあげて来る。
そしてまた、感情の問題だけではなく、理性的に考えてもヘンリーを放置することは出来ない。
(この男を放っておくと、今後も何をしでかすか分からないわ。余りにも危険すぎる)
そう思ったマリーベルは、ひとおもいにこの場でヘンリーを殺すことすら考えた。4対1ならそれも可能だろう。
だが、彼女の生来の善性がその行いを拒否した。
いくらヘンリーが魔物を使って自分たちを襲った可能性が極めて高くても、裁きも経ずに今彼を殺すのは犯罪行為に他ならない。
彼女は自分も仲間達も犯罪者にはしたくなかった。
そして、ヘンリーがマンティコアを使った事を証明して、彼を罪に問う事も簡単ではないだろう。
だが、この男は早急に且つ確実に止めなければならない。
(なんて理不尽なんだろう)
マリーベルはそう思った。
そして、マリーベルは理不尽な目にあう理由を知っていた。自分が弱いからだ。
理不尽を振り払い、己の意を通したいなら、強くあるしかない。
今まではマリーベルが目指して来た強さは、直接的な戦闘能力ではなかった。
だが今は、ヴァルキリーのジェンナという形で戦闘能力も得ていた。
そして、目の前にいる男には、直接戦闘で分からせるのが一番効果的だろう。
そう考えたマリーベルは、ひとつの結論を出した。
マリーベルはマイラ達の方を向いて彼女達に告げた。
「皆にお願いしたい事があるの。私がこの男と決闘で決着をつけることを認めて欲しい」
「なんで!そんなこと必要ないよ。もう会わないように遠くに行っちゃえばいいんだから」
レミが真っ先にそう言って反対した。
マイラもそれに続く。
「そうだ。何らかの決着をつけるにしても、そんな方法を選ぶ必要はない」
エイシアだけはマリーベルの顔を静かに見つめていた。
「いいえ。そうやって決着をつけるしかない。私はそう思うの」
マリーベルはいっそうの決意を込めてそう言った。
「……そうか。だが、とりあえず、良く話し合おう」
マリーベルの表情を見て思うところがあったらしいマイラがそう言った。
「そうね、私も皆に、自分の意見を聞いて欲しい。申し訳ないけれど、今日は王都に戻りましょう」
マリーベルもそう答え、4人は王都への帰途についた。
ヘンリーはその間もただ呆然として、その場に佇んでいた。
結局、マリーベルとヘンリーの決闘は行われることになった。
マイエルヘルム王国では、冒険者同士のいざこざを正式な決闘で決着をつけるという制度があった。
血の気が多い冒険者同士のいざこざは良く起こり、場合によって殺し合いになりかねない。そのくらいなら、ルールに則った正式な形で決着をつけた方がいいという発想によるものだ。
決闘の結果は法的に強制され、更に場合によっては魔法によって縛られることもある。
2人の決闘の場所に選ばれたのは、城壁の外のかなり広い空き地になっている場所だった。
マリーベルが精霊魔法を使えると申し出た為に、魔法で周りに被害が出ないようにかなり広い場所が用意されている。
そしていよいよ決闘開始という時に、レミがマリーベルに話しかけた。
「マリーさん、やっぱりこんなこと必要ないよ。止めようよ」
この決闘については、4人でしっかり話し合って決めたことだった。
レミも一度は納得したのだが、いよいよマリーベルが危険な決闘に臨むという段になって、やはり心配になってしまったらしい。
そのレミにマイラが語りかけた。
「レミ、前にも言っただろう。
生きて行くうちには、どうしても戦わなければならない時というのが訪れることがある。
どんなに理不尽でも、傍から見れば無意味でも、それどころか死ぬと分かっていてさえも、戦わなければならないという時が。
マリーベルにとっては、今がその時なんだ」
「でも……」
「ごめんなさい、レミ。私も今が戦わなければならない時だと思うの。でも負けるつもりも死ぬつもりもない。私のことを応援していて」
「……分かった」
「私もご武運をお祈りしています」
エイシアがそう声をかけた。
「ありがとう。行って来ます」
そう言ってマリーベルは、決闘場である空き地へと進んで行った。
マリーベルの反対側からはヘンリーが進んでくる。
ヘンリーは不適な笑みを浮かべている。
先日の混乱からはさすがに立ち直っていた。
2人が定位置に着いたところで、審判を勤める戦神の司祭が2人に向かって告げた。
「これより、冒険者マリーベル、同じく冒険者ヘンリーの決闘を執り行う。
マリーベルが勝った場合には、ヘンリーはマリーベルとその仲間達に今後一切危害を加えず、近寄ることもしない。
ヘンリーが勝った場合には、マリーベルはヘンリーの冒険者パーティの一員となり、二度と離脱しない。
以上、両者異存はないか」
「異存ありません」
「ねえよ」
マリーベルとヘンリーがそれぞれ答える。
「それでは、始めッ!」
マンティコアによる襲撃は、彼が意図したものだったのである。
ヘンリーは、以前の冒険の際に接触を持ったマンティコアと、その後も連絡を取り合っていた。
マンティコアが望む情報を提供し、見返りに魔道具などを入手していた。
そして、今回の襲撃もマンティコアに依頼してマリーベルたちを襲撃させた。
若い女達3人を食うことが出来る。と、話を持ちかけたのである。
マンティコアが邪魔な3人の娘達を食い殺し、あわやマリーベルも、というところでヘンリーが助けに入り撃退する。
これがヘンリーの筋書きだった。
そうすれば、マリーベルは自分を本当に守ってくれるのが誰か思い知り、二度と間違えたりしないはずだ。そうなれば今後は優しくしてやろう。それで全てが解決する。
ヘンリーは愚かにもそう信じていた。
しかし、事態は想定外の展開になり、ヘンリーは呆然としてしまっていた。
マリーベルが1人で逃げることを拒否した時には、彼は、これで上手くいったとほくそ笑んだ。
ところが、その後空中を走る変な女が現れ、マンティコアは倒されてしまった。
その変な女はマリーベルに従っているらしい。これもショックだった。
それは、マリーベルが自分で戦う術を手に入れてしまった事を意味しているからだ。
ヘンリーには、この後自分がどうどうすればいいのか全く分からなかった。
ヘンリーはマリーベルたちにばれないように、最初は相当遠くから彼女達をつけていたのだが、マンティコアとの戦いが始まると急速に距離をつめて、今は彼女達のかなり近くにまで来ていた。
タイミング良くマリーベルを助けに駆けつけることが出来るようにするためだ。
そんな場所で呆然としてしまっていたヘンリーの姿を、周りの様子を慎重に伺ったマリーベルが発見した。
ヘンリーもマリーベルに見つけられたことに気付いたが、それでも彼はどうしてよいか分からなかった。
本来ならとりあえず逃げるべきなのかもしれないが、今の彼にはマリーベルに背を向けて去ることが出来なかった。
マリーベル達は4人全員でヘンリーの方へ歩いて来て、20mほど離れた場所で止まった。
そして、マリーベルがヘンリーに声をかけた。
「こんなところで何をしているの」
「お、お前を助けようとして……」
「そう。私達が死にそうな目に会うことを知っていたということね。つまり、あのマンティコアをけしかけたのはあなた」
「ち、違う。俺はただ……」
それきり言葉を続けられなくなってしまったヘンリーの姿を見ながら、マリーベルはヘンリーの異常さに気付いていた。
マリーベルは、ヘンリーは自分の憎んでおり殺しに来るのではないかと本気で考えていた。
だが、ヘンリーの目的は自分を殺すことではない。
もし殺すことが目的なら、先ほどマンティコアと死闘を演じている時に襲ってくれば簡単に殺せたはずだからだ。
つまり、ヘンリーの目的はマリーベルの命ではなく、彼女には全く理解できない何かであって、その為に訳の分からない陰謀を企てているのだ。
だが、マンティコアがマイラ達を殺そうとしたのは間違いない。それを画策したのがヘンリーであることも。
そう思うと、耐えがたい怒りがこみあげて来る。
そしてまた、感情の問題だけではなく、理性的に考えてもヘンリーを放置することは出来ない。
(この男を放っておくと、今後も何をしでかすか分からないわ。余りにも危険すぎる)
そう思ったマリーベルは、ひとおもいにこの場でヘンリーを殺すことすら考えた。4対1ならそれも可能だろう。
だが、彼女の生来の善性がその行いを拒否した。
いくらヘンリーが魔物を使って自分たちを襲った可能性が極めて高くても、裁きも経ずに今彼を殺すのは犯罪行為に他ならない。
彼女は自分も仲間達も犯罪者にはしたくなかった。
そして、ヘンリーがマンティコアを使った事を証明して、彼を罪に問う事も簡単ではないだろう。
だが、この男は早急に且つ確実に止めなければならない。
(なんて理不尽なんだろう)
マリーベルはそう思った。
そして、マリーベルは理不尽な目にあう理由を知っていた。自分が弱いからだ。
理不尽を振り払い、己の意を通したいなら、強くあるしかない。
今まではマリーベルが目指して来た強さは、直接的な戦闘能力ではなかった。
だが今は、ヴァルキリーのジェンナという形で戦闘能力も得ていた。
そして、目の前にいる男には、直接戦闘で分からせるのが一番効果的だろう。
そう考えたマリーベルは、ひとつの結論を出した。
マリーベルはマイラ達の方を向いて彼女達に告げた。
「皆にお願いしたい事があるの。私がこの男と決闘で決着をつけることを認めて欲しい」
「なんで!そんなこと必要ないよ。もう会わないように遠くに行っちゃえばいいんだから」
レミが真っ先にそう言って反対した。
マイラもそれに続く。
「そうだ。何らかの決着をつけるにしても、そんな方法を選ぶ必要はない」
エイシアだけはマリーベルの顔を静かに見つめていた。
「いいえ。そうやって決着をつけるしかない。私はそう思うの」
マリーベルはいっそうの決意を込めてそう言った。
「……そうか。だが、とりあえず、良く話し合おう」
マリーベルの表情を見て思うところがあったらしいマイラがそう言った。
「そうね、私も皆に、自分の意見を聞いて欲しい。申し訳ないけれど、今日は王都に戻りましょう」
マリーベルもそう答え、4人は王都への帰途についた。
ヘンリーはその間もただ呆然として、その場に佇んでいた。
結局、マリーベルとヘンリーの決闘は行われることになった。
マイエルヘルム王国では、冒険者同士のいざこざを正式な決闘で決着をつけるという制度があった。
血の気が多い冒険者同士のいざこざは良く起こり、場合によって殺し合いになりかねない。そのくらいなら、ルールに則った正式な形で決着をつけた方がいいという発想によるものだ。
決闘の結果は法的に強制され、更に場合によっては魔法によって縛られることもある。
2人の決闘の場所に選ばれたのは、城壁の外のかなり広い空き地になっている場所だった。
マリーベルが精霊魔法を使えると申し出た為に、魔法で周りに被害が出ないようにかなり広い場所が用意されている。
そしていよいよ決闘開始という時に、レミがマリーベルに話しかけた。
「マリーさん、やっぱりこんなこと必要ないよ。止めようよ」
この決闘については、4人でしっかり話し合って決めたことだった。
レミも一度は納得したのだが、いよいよマリーベルが危険な決闘に臨むという段になって、やはり心配になってしまったらしい。
そのレミにマイラが語りかけた。
「レミ、前にも言っただろう。
生きて行くうちには、どうしても戦わなければならない時というのが訪れることがある。
どんなに理不尽でも、傍から見れば無意味でも、それどころか死ぬと分かっていてさえも、戦わなければならないという時が。
マリーベルにとっては、今がその時なんだ」
「でも……」
「ごめんなさい、レミ。私も今が戦わなければならない時だと思うの。でも負けるつもりも死ぬつもりもない。私のことを応援していて」
「……分かった」
「私もご武運をお祈りしています」
エイシアがそう声をかけた。
「ありがとう。行って来ます」
そう言ってマリーベルは、決闘場である空き地へと進んで行った。
マリーベルの反対側からはヘンリーが進んでくる。
ヘンリーは不適な笑みを浮かべている。
先日の混乱からはさすがに立ち直っていた。
2人が定位置に着いたところで、審判を勤める戦神の司祭が2人に向かって告げた。
「これより、冒険者マリーベル、同じく冒険者ヘンリーの決闘を執り行う。
マリーベルが勝った場合には、ヘンリーはマリーベルとその仲間達に今後一切危害を加えず、近寄ることもしない。
ヘンリーが勝った場合には、マリーベルはヘンリーの冒険者パーティの一員となり、二度と離脱しない。
以上、両者異存はないか」
「異存ありません」
「ねえよ」
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