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また奪われる
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その頃、マリーベルは他の店でマイラたち3人と祝宴を楽しんでいた。
彼女はヘンリー達の帰還をまだ知らない。
宴は本当に楽しかった。
冒険にはマイラ達の方から誘ってくれた。
マリーベルの知識と技術は、薬草採取に限らず役に立つ。時間があるならまた一緒に冒険がしたい。そう言ってくれたのだ。
マリーベルには、まずそのことがたまらなく嬉しかった。
自分は人から必要とされている。自分に価値があるのだという事を実感できたからだ。
今までの自分の努力は無駄ではなかった。ヘンリー1人に縋り付こうという意識を変え、広く他の人々とも関りを持てば、自分を本当に必要としてくれる人達も確かにいる。
そのことはマリーベルに深い喜びを与えていた。
そして、マイラ達はマリーベルの貢献を素直に褒めてくれたし、マリーベルもマイラたちの息のあった戦いぶりをどんなに素晴らしく思ったかを伝え、彼女達を照れさせた。
―――この人たちと本当の仲間になりたい。
マリーベルは心底そう思った。
支えあい、信頼しあえる者達と仲間になりたい。それは自然な発想だった。
そろそろお開きにしようかという頃に、そんなマリーベルを喜ばせてくれることをマイラが言ってくれた。
「どうかな、マリーベル。今のあなたの仲間が、本当にあなたの事を冒険に不要だと思っているなら、私達のパーティに入らないか?
私達は、エイシアもレミもそれなりに戦えるから、よほど多くの敵に囲まれるような危険さえ避ければ、あなたを守りながらでも十分戦える。今回の仕事を成功させて私はそう思った。
むしろ、あなたの知識と技術があれば、受けられる仕事の幅は遥かに広くなるだろう。考えておいて欲しい」
「私も共に働きたいと思っています」
エイシアがそう告げる。
「私も、私も、マリーさんとこれからも冒険がしたいな」
レミが元気良くそう言った。
「はい。ありがとうございます。とても嬉しいお話しです。直ぐにでもお願いしたいと思います。
でも、もう少しだけ、良く考えてから答えさせてもらってもいいですか?」
マリーベルはそう答えた。
今この瞬間の気持ちを言えば、直ぐにでも参加させて欲しかった。
だが、改めて今のパーティから抜けることを現実的に考えると、マリーベルはそれでも尚、ヘンリーのことが気にかかっていた。
彼との過去の幸せな日々は嘘ではなかったし、彼を愛した気持ちに整理も出来ていなかったからだ。
「もちろん今すぐ答えろなんていわないよ」
マイラがそう言った。
(でも、マイラたちへの親愛の情も嘘ではない)
マリーベルはそう思った。だからこんなことを口にした。
「あの、もしパーティには入れなくても、友達にはなってもらえますか?」
マイラは少し驚いたように目を丸くして答えた。
「これは少しショックだな。私はとっくに友だと思っていたんだが」
「私もそう思っていますよ」
「当たり前じゃない。今更だよ」
エイシアとレミもそう答えた。
マリーベルは熱いものがこみ上げて来るのを感じていた。
「ありがとう、ございます」
彼女は何とかそう言った。
嬉しくて泣き出してしまいそうだった。
自分は今幸せだ。マリーベルはそう実感していた。
だが、それから暫らくして、マリーベルとマイラたちの周りに不穏な空気が立ちこみ始める。
急激な勢いで、マイラたちの悪評が流れ始めたのだ。
悪評の内容はその全てが何ら根拠のない、だだの罵詈雑言そのものだった。
曰く「盗賊ギルドの手先だ」「外国の間諜だ」「魔族が化けている」「闇の神々を信仰している」「淫猥な行為に溺れている」等々、ほとんど悪口なら手当たり次第といった感じだった。
これが、何年も王都に住んでいる者相手だったなら、ここまで荒唐無稽で根拠のない罵詈雑言を信じる者などほとんどおらず、むしろ噂を流す者の方が糾弾されたはずだ。
そして、ほとんど名が知られていない人間相手の行為だったとしても、気にも留められず噂は広まらなかっただろう。
だがマイラ達は王都にやって来たばかりで、彼女達のことを信頼する者は少なく、しかしその割には多少の耳目を集めていた。
見目麗しい女性ばかりの3人組で、しかも比較的短い期間の内に幾つかの冒険を成功させていたからだ。彼女達をやっかむ者も多少はいただろう。
つまり、悪意ある者が悪評を流す相手としてはうってつけだったのだ。
状況を知ったマリーベルは愕然とした。そして噂の出所をたどって更に衝撃を受けた。
どうやら、ヘンリーの腰巾着のようなことをしている者達が出所らしいと分かったからだ。
そういった者達が基点になって、多額の資金を使って噂を言って回る者達を大量に雇えば、このくらいのことは出来る。
ヘンリーが意趣返しにやったに違いない。
マリーベルはヘンリーから、自分達が苦労して帰って来たときに、他のパーティの宴に参加していた、と責められていた。
マリーベルもその事を後から知って気が咎めてもいた。そして、謝罪と労いの言葉をメンバー全員にかけてもいた。
なんといっても今のパーティメンバーの事なのだから。
だが、今のパーティの苦境を知っていて、その上で宴会に興じていたというならともかく、ヘンリー達の苦境などマリーベルは知らなかったのだし、知る術もなかった。それなのに、声高に責められるのは筋が違うとも思った。
実際、ヘンリー以外のメンバーは大怪我を負ったガズン本人すら、特にマリーベルを責めてはいない。
ヘンリーだけが大騒ぎをしていたのだ。マリーベルはそんなヘンリーを黙殺した。
ヘンリーはそのマリーベルの態度にも、なにやらショックを受けているようだった。
マイラたちを狙い撃ちにしたこの異常なほどの悪評の広がりは、その報復としてヘンリーが仕掛けたとしか思えない。
(なんて、なんで姑息で、そして卑劣なの!)
マリーベルは、こみ上げてくる悲しみと怒りによって、ヘンリーに対して持っていた最後の気持ちが消滅していくのを感じた。
マリーベルは、マイラ達に会いに出かけた。せめて謝罪したかったからだ。
だが、彼女達が滞在する宿に赴いて取次ぎを頼んでも、面会を断られてしまった。
当然だろう。
彼女達は何の咎もなしに、直接の関わりすらないのに、ただの巻き添えだけでこんな目に会ってしまっているのだから。
だが、これでマリーベルはヘンリーによって新しく得た友達すら奪われてしまったのだ。
彼女はヘンリー達の帰還をまだ知らない。
宴は本当に楽しかった。
冒険にはマイラ達の方から誘ってくれた。
マリーベルの知識と技術は、薬草採取に限らず役に立つ。時間があるならまた一緒に冒険がしたい。そう言ってくれたのだ。
マリーベルには、まずそのことがたまらなく嬉しかった。
自分は人から必要とされている。自分に価値があるのだという事を実感できたからだ。
今までの自分の努力は無駄ではなかった。ヘンリー1人に縋り付こうという意識を変え、広く他の人々とも関りを持てば、自分を本当に必要としてくれる人達も確かにいる。
そのことはマリーベルに深い喜びを与えていた。
そして、マイラ達はマリーベルの貢献を素直に褒めてくれたし、マリーベルもマイラたちの息のあった戦いぶりをどんなに素晴らしく思ったかを伝え、彼女達を照れさせた。
―――この人たちと本当の仲間になりたい。
マリーベルは心底そう思った。
支えあい、信頼しあえる者達と仲間になりたい。それは自然な発想だった。
そろそろお開きにしようかという頃に、そんなマリーベルを喜ばせてくれることをマイラが言ってくれた。
「どうかな、マリーベル。今のあなたの仲間が、本当にあなたの事を冒険に不要だと思っているなら、私達のパーティに入らないか?
私達は、エイシアもレミもそれなりに戦えるから、よほど多くの敵に囲まれるような危険さえ避ければ、あなたを守りながらでも十分戦える。今回の仕事を成功させて私はそう思った。
むしろ、あなたの知識と技術があれば、受けられる仕事の幅は遥かに広くなるだろう。考えておいて欲しい」
「私も共に働きたいと思っています」
エイシアがそう告げる。
「私も、私も、マリーさんとこれからも冒険がしたいな」
レミが元気良くそう言った。
「はい。ありがとうございます。とても嬉しいお話しです。直ぐにでもお願いしたいと思います。
でも、もう少しだけ、良く考えてから答えさせてもらってもいいですか?」
マリーベルはそう答えた。
今この瞬間の気持ちを言えば、直ぐにでも参加させて欲しかった。
だが、改めて今のパーティから抜けることを現実的に考えると、マリーベルはそれでも尚、ヘンリーのことが気にかかっていた。
彼との過去の幸せな日々は嘘ではなかったし、彼を愛した気持ちに整理も出来ていなかったからだ。
「もちろん今すぐ答えろなんていわないよ」
マイラがそう言った。
(でも、マイラたちへの親愛の情も嘘ではない)
マリーベルはそう思った。だからこんなことを口にした。
「あの、もしパーティには入れなくても、友達にはなってもらえますか?」
マイラは少し驚いたように目を丸くして答えた。
「これは少しショックだな。私はとっくに友だと思っていたんだが」
「私もそう思っていますよ」
「当たり前じゃない。今更だよ」
エイシアとレミもそう答えた。
マリーベルは熱いものがこみ上げて来るのを感じていた。
「ありがとう、ございます」
彼女は何とかそう言った。
嬉しくて泣き出してしまいそうだった。
自分は今幸せだ。マリーベルはそう実感していた。
だが、それから暫らくして、マリーベルとマイラたちの周りに不穏な空気が立ちこみ始める。
急激な勢いで、マイラたちの悪評が流れ始めたのだ。
悪評の内容はその全てが何ら根拠のない、だだの罵詈雑言そのものだった。
曰く「盗賊ギルドの手先だ」「外国の間諜だ」「魔族が化けている」「闇の神々を信仰している」「淫猥な行為に溺れている」等々、ほとんど悪口なら手当たり次第といった感じだった。
これが、何年も王都に住んでいる者相手だったなら、ここまで荒唐無稽で根拠のない罵詈雑言を信じる者などほとんどおらず、むしろ噂を流す者の方が糾弾されたはずだ。
そして、ほとんど名が知られていない人間相手の行為だったとしても、気にも留められず噂は広まらなかっただろう。
だがマイラ達は王都にやって来たばかりで、彼女達のことを信頼する者は少なく、しかしその割には多少の耳目を集めていた。
見目麗しい女性ばかりの3人組で、しかも比較的短い期間の内に幾つかの冒険を成功させていたからだ。彼女達をやっかむ者も多少はいただろう。
つまり、悪意ある者が悪評を流す相手としてはうってつけだったのだ。
状況を知ったマリーベルは愕然とした。そして噂の出所をたどって更に衝撃を受けた。
どうやら、ヘンリーの腰巾着のようなことをしている者達が出所らしいと分かったからだ。
そういった者達が基点になって、多額の資金を使って噂を言って回る者達を大量に雇えば、このくらいのことは出来る。
ヘンリーが意趣返しにやったに違いない。
マリーベルはヘンリーから、自分達が苦労して帰って来たときに、他のパーティの宴に参加していた、と責められていた。
マリーベルもその事を後から知って気が咎めてもいた。そして、謝罪と労いの言葉をメンバー全員にかけてもいた。
なんといっても今のパーティメンバーの事なのだから。
だが、今のパーティの苦境を知っていて、その上で宴会に興じていたというならともかく、ヘンリー達の苦境などマリーベルは知らなかったのだし、知る術もなかった。それなのに、声高に責められるのは筋が違うとも思った。
実際、ヘンリー以外のメンバーは大怪我を負ったガズン本人すら、特にマリーベルを責めてはいない。
ヘンリーだけが大騒ぎをしていたのだ。マリーベルはそんなヘンリーを黙殺した。
ヘンリーはそのマリーベルの態度にも、なにやらショックを受けているようだった。
マイラたちを狙い撃ちにしたこの異常なほどの悪評の広がりは、その報復としてヘンリーが仕掛けたとしか思えない。
(なんて、なんで姑息で、そして卑劣なの!)
マリーベルは、こみ上げてくる悲しみと怒りによって、ヘンリーに対して持っていた最後の気持ちが消滅していくのを感じた。
マリーベルは、マイラ達に会いに出かけた。せめて謝罪したかったからだ。
だが、彼女達が滞在する宿に赴いて取次ぎを頼んでも、面会を断られてしまった。
当然だろう。
彼女達は何の咎もなしに、直接の関わりすらないのに、ただの巻き添えだけでこんな目に会ってしまっているのだから。
だが、これでマリーベルはヘンリーによって新しく得た友達すら奪われてしまったのだ。
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