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2.乱れ(南)
しおりを挟む〝助けて〟
先輩が倒れる前に言った言葉。
自分なのか、先輩なのか、アルコールの匂いが体から漂よい、意識を正常に戻してくれない。
先輩の崩れ落ちる体をギリギリで支え、こぼれ落ちる涙を目で辿る。
五年前と何も変わらない整った顔立ちとサラサラで黒色の髪はサイドだけかきあげられて、あの頃よりも大人っぽくなっている気がする。
一年間毎日のように見ていた高校時代の記憶よりも細く軽そうな先輩の体に初めて触れる。
「っ……ほんとに、勘弁して下さいよ」
何かが心の底で崩れ、壊れる音がする。
同じ部活に所属してるだけで、歳も二つ離れていたから特に大きな接点は無かった。
南 浩太(みなみ こうた) 20歳。
高校時代、一年間も想い続け打ち明けることができず卒業してしまった先輩を何も知らないまま思い続けるのは苦しくてもう二度と会うことはないと思っていた。
「とりあえず、俺の家に連れて帰りますよ」
意識のない先輩に優しく問いかける。
返ってくる言葉はないのに、仮に拒絶されたとしても無理やりにでも自分の所に置いておきたくなると自分で分かってて震える。
自分の背中に先輩の腕を回し背負いあげる。
軽い、本当に想像していたよりも軽い。
自分の背中と触れ合ってる面積は少ないはずなのにそこから伝わる熱が鋭く刺す。
「くっそ……さっさと連れて帰らないと変な気起こしそう……」
何を考えて、何を想像してるのか分かっているはずなのに五年間封じ込めていた想いを開けたくないと怖がってるのに、触れたくてめちゃくちゃにしたくてたまらない。
会うことはないと分かっていても、会いたいと何度も思って忘れる為に生きてきたのに、今の自分がおかしくなる音が止まらない。
最低だ。
「先輩軽すぎ……よいしょっと」
家に着き、そのまま先輩だけを自分のベッドに寝かせる。
先輩の分、体が軽くなり離れた所から暖かった温度は冷め始める。
冷静に、ならないと取り返しがつかなくなるかもしれない。
「……とりあえず水飲ませて、服も着替えさせないとスーツがシワになるよな」
グラスに水を入れ、先に自分が一口飲んでから違うグラスにまた水を入れてベッド横の机に置く。
「先輩、ひろ先輩。起きてください、水飲んでスーツ脱いで下さい」
体を揺すりながら声をかける。
自分のベッドに先輩が横になっている感覚を
ふわふわとした頭で必死に認識して気が狂いそうになる。
「起きてください、ひろ先輩……起きてくれないと、俺なにするか……」
返ってこない言葉、だいぶ飲んだのか赤くなってる顔に、涙でまだまつ毛が濡れているのがわかる。
「俺が……着替えさせますよ」
自分のベッドに横たわる先輩にまたがりネクタイから緩め始める。
一枚ずつ脱がし、その度に手の震えが増す。
軽いと思っていたのに、白い肌には程よく着いた筋肉に、華奢だけどしっかりと軸のある体つき。
「ひろ先輩……」
興奮と後ろめたさと、胸がえぐられ締め付けられる感覚。
この綺麗な体はもう特別な誰かに見せた事があるのだろうか。
この敏感そうな箇所は誰かに触らせた事があるのだろうか。
この人は、もう誰かにとっての特別な〝人〟になってしまっているのだろうか。
嫉妬だ。
五年も経って、一度も会ってなかったのに綺麗に忘れる事なんか一度も出来なかった。
今の先輩が誰と、どんな風に生活しているのかなんて知らないけれど自分にとっての先輩は五年前で止まっている。
どんな相手と遊んでもそれは欲しいと思えるものじゃなかった。
なのに、なのに、全てが狂う音を感じた。
「もう……むり」
欲しい、奪いたい、自分の体でめちゃめちゃに押し潰して、呼吸ができないように縛り付け離したくない。
グラスにそそいだ水を一気に口に含み、中途半端に乱れたスーツを容赦なく踏みつけ、自分の口から先輩の口へと注ぎ込む。
「んっ……ゴクッゴクッ……クチュ、クチュ」
無理やり流し込む水が溢れてこぼれ落ちる。
「チュ……ンッ……はぁはぁ……ほんと、最悪」
意識が無いはずなのにまるでとろけきった表情をしてる先輩を上から見下ろし、背筋が凍るほど興奮する。
だらしなく口からこぼれる雫を拭い、自分の下半身が疼いて痛いのが分かる。
「まだ……足りない……チュ……クチュ、ンッンッ……」
先輩、今だけは起きないで。
これで、忘れよう。
もし今日がきっかけで今後関わる事があっても
この気持ちはもう閉まっておこう。
「好きだ……ンッ……チュ、クチュ、チュ……」
体が熱い。意識が朦朧とする。
「トイレ、行かないと」
自分の腫れ上がった下半身を見てまた胸が締め付けられる。
この感覚はもう何度経験したか分からない。
めちゃくちゃにしたいのか、めちゃくちゃにされたいのか全部が分からなくなって好きで好きでたまらない人と繋がりたいと願うだけ。
カチャカチャ……シュル……
「はぁ……はぁ、んっ……んんっ……先輩っ……!」
また、火がつく。
一度閉じ込めて、それでも忘れられなかった思いに油がそそられる。
それが何か分かっててまた閉まう。
「先輩……好き……だ」
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