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ロメ攻略司令の考え ②
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トンプソンに侵攻した敵兵への海軍からの艦砲射撃、ロメへの退路を断つための攻撃、そしてロメへの直接攻撃により、都市ロメの奪還は成った。
ロメからトンプソンの間の残党狩りも完全となり、ロメ攻略の命を受けていたタクティアの役割は終了する。それに伴い、今度はロメ防衛の任に当たる事となる
ロメを無事に奪還出来たとは言っても、都市ブレドリアは完全に奪還できずにいる状況にある。半分以上の面積を取り戻せたとしても、まだブレドリア北部にはマシェルモビアの兵が残っており、ブレドリアはもちろんの事、その後ろにある移転門を完全に奪い返さなければ安心はできない
5年前のマシェルモビア領土への直接侵攻の失敗に続き、逆に進行を受けてしまったハルツール軍はかなりの戦力を失ってしまったが、ブレドリアとロメの都市を犠牲にしてまで遂行された作戦により、今度はマシェルモビアに甚大な被害を与えた。
それにより両者の戦力はハルツール側が上回る状態になり、次の戦闘まで互いに戦線を動かせないままでいる
ハルツールはブレドリアの完全奪還の為、兵力をブレドリアに集中し、マシェルモビアもこれ以上の後退を防ぐためブレドリアに兵を集めていた。
両者は相手の出方を待つように膠着状態にある
両国とも動けずにいたが、ついにハルツールはブレドリア完全奪還のため動き出す。
奪還のための作戦会議が開かれ、軍の主要人物はもちろんの事ハルツール政府の代表らも集まっていた。その中にはタクティア・ラティウスの姿もあった
今回立てられた作戦は単純明快、ブレドリアにまだ存在しているマシェルモビア軍に対し、全軍で正面から打って出るというものだった。
作戦と呼べるものではなかったが、今この状況マシェルモビア軍の戦力、士気とも落ちている状態で策を講じ戦うよりも、今だからこそ正面突破がふさわしいと判断されたからである。
大量破壊兵器である『赤い柱』はもう使えず、海からは遠すぎるので海軍による艦砲射撃も望めない、となれば全ての戦力を持ち正面から戦う方が得策である。
時間が経てば経つほどマシェルモビア軍は戦力を立て直す、ロメの完全な奪還がなった今こそ勝機であった
「今回の作戦には儂ゴルジアとリテア・ネジェン主席も参加をする事とした」
「‥‥は?」
その言葉が出て来たのはタクティアだけでは無かった。丸刈りの少しだけ厳つい面持ちのその首相は、既に髪の毛に白髪が目立ち始め、老人と言えるような年齢になってきている。
その老いた首相の言葉にポカンとした表情の上級士官達、首相ゴルジア・サトの言っている意味を理解出来なかった。
何故? 政府のトップとナンバー2が戦場に赴かねばならぬのか‥‥。
タクティアは前方に対面する形で座っている軍の上層部の面々を伺ったが、みな目を固く閉じているだけであった。
ゴルジア首相は軍の会議にも頻繁に出席していたものの、軍が立てる作戦には口を挟むことは殆ど無いし、自身が戦場に出るなど言うはずが無かった。
だが今作戦では自身どころかネジェン主席も戦場に赴くと言う
首相は一体何を考えているのでしょうか‥‥上層部の面々を見る限り無理やり押し切られた感はありますが‥‥
政府のトップ二人が戦場に出るなどリスクしかない、ゴルジアは更に言葉を挟む
「皆も不思議に思っているじゃろうが、今回の作戦はハルツールの命運をかける。失敗をすればハルツールはいよいよ終わりに近づくじゃろうし、成功すれば一気に戦線を押し戻すことが出来る。
ならばその意気込みとして、政府のトップ二人が出る事によって兵達の士気も上がるじゃろう。主席にも許可を得ておる━━」
政府のトップ二人がおらずとも士気は上がっている。ロメを取り戻しブレドリアを完全に制圧すれば、残るは移転門。それさえ奪い返す事が出来ればハルツールの勝利は目前なのだ。これで士気が上がらないはずがない。
首相の言っている事は、軍の仕事を増やし邪魔をしているに過ぎない。政府トップが出るのであればそれに伴い軍から護衛を出さなければならず、それに兵の配置など無駄が増える。
それ位分かっているはずなのに、タクティア以外の士官達は何故かウンと納得していた
それを不思議に思いながらも首相の発言に反論する
「失礼ながらよろしいでしょうか?」
ロメ奪還など数々の作戦を成功してきたタクティアには、階級も上がりそれなりの発言力というものが付いていた
「よって━━む? お主はタクティア・ラティウスか‥‥どうした何か質問でも?」
途中で会話を遮られたせいか少しだけ表情を変えたが、直ぐに発言をしたのはタクティアだと分かり発言を促す。
首相とはウエタケ・ハヤトの事で色々とあったため、双方とも顔も名前も憶えていた
「はい、では‥‥政府のトップ二人が戦場に出てくるなど危険以外のなにものでもありません、必ず勝利するという保証はないのです。もしも敗れる事があるとしたら、主席と首相の身に危険が生じます。
二方を守る為にも兵の配置も全て変えなくてはならないのです、今の状態で軍にはその余裕がありません」
「ふむ‥‥そなたの意見ももっともだが、儂と主席の事は気にせんでいい。儂らの護衛はこちらで用意する、軍には負担をかけぬ。兵の配置もブレドリア奪還の為だけに留まればいい」
「しかし━━」
「分かってくれタクティア・ラティウスよ、儂ら政府は今何も出来ぬ。全て軍に任せ一兵士に命のやり取りをさせておる、その事で主席も心を痛めておられる。
だからせめて兵士の支えになればと思い気持ちだけでも━━」
「ですが!━━」
精神論以外のなにものでも無い理由に反論しようとしたタクティアだが、隣に座っていた士官に肩を掴まれてしまう。
その顔には『止めておけ』という意味合いを受ける事が出来た
その表情にタクティアは唖然とした。
明らかに足枷なのにも関わらず、その肩を掴んできた士官以外の者達も同じような表情でタクティアを見ていた
‥‥どうして? 皆もおかしいとは思わないのですか? 全く意味の無い事を首相は始めようとしているんですよ
今この場において、タクティアの言っている事に理解を示そうとする者はいない。皆が皆首相の言っている事だけに理解を示しているのだ。
今さっきまで眉間にシワを寄せていた上層部でさえ、おかしいと感じていた周りの士官達でさえ、タクティアを非難するような目をしている。今タクティアの肩を掴んでいる者も、最初は首相の発言に眉を曲げていたのだ
‥‥私が‥‥おかしいのですか?
首相はあまり軍に関与しないが、何かしらの関与をする場合必ずその言葉は通る。今回は明らかにおかしいのだが、今その首相の案は通ろうとしていた
周りの態度に自分がおかしい事を言っているように感じ、タクティアは椅子に座ろうとした
だがその時とある男の顔が浮かぶ。
その男はタクティアの同僚であり、ハヤト隊を作る時にも力を貸してくれ、その他にもソルセリーを前線から離す為にラベル島駐留の事でも手を貸してくれた男だった。
大体タクティアの悪だくみにはその同僚が手を貸してくれていた。
だが‥‥、その同僚はマシェルモビアに内通していたとして、タクティア達が大陸深部を横断している間にすでに処刑されている。
もっとも信頼がおける男だった‥‥裏切者だったと聞いた時目の前が真っ暗になったのを覚えている。
同僚はマシェルモビアに内通していたとされるクォーモリの部屋を調査していたが、その最中突如逃げ出したと聞いている、理由は分からない。
同僚はそのまま移転門を使い逃亡、軍港都市コントルで発見され抵抗した為その場で処刑された‥‥
◆◇
タクティア達が大陸深部から命からがら帰還して暫くの事。
隊長であったハヤトの遺産の処分について、検討しなければならない状態にあった。ハヤトには身内がいなかった為、代わりにタクティアがその処分について対応する事となった。
ハヤトの住んでいた家は元々首相が与えた家であったため、家については問題ない。家具は首相の方で処分してしまっていたのでこれも問題はない。
それでもハヤトの遺産は多少なりともあり、その一つは軍港都市のコントルにあるハヤトの愛車であったバギーがあった。
車を改造して作ったという小さな屋根の無いその乗り物は、危険以外の何物でもない。運転席が剥き出しと言ってもいい状態にあり、何かにぶつかったら命が無いだろうという代物だった。
それでもそれを欲しいと言っている団体もあり、ハヤトと親交のあったオヤスグループや召喚獣研究所などが手を上げていた。
タクティアはコントルに立ち合いのために出向く
「この小さな乗り物ですか?」
「ええ、間違いありません」
「これくらいだったら簡単に積み込み出来そうです、直ぐに陸送のトラック回してきます」
輸送業者はトラックの手配に戻って行った。トラックは直ぐにでも来るだろう、バギーを積み込み軍本部に持って行けば仕事は終わりだった。それまでタクティアはバギーの側に居るだけでよかったのだが‥‥
「‥‥?」
ふと棒状のハンドルの裏側に、何かの入れ物のような物がいくつも挟まれていた
「何でしょうか?」
ハンドルからそれを外し、中を確認すると━━
「書類?」
そこには数枚の書類が‥‥その書類を確認すると、そこには処刑されたクォーモリと首相とのやり取りが書かれた物が入っていた。
そしてその数枚の書類の一枚に、殴り書きされた文字で
『首相を信用するな』
と書かれていた。その文字は急いで書いたであろう汚い文字であったが、確かにその文字はタクティアの仲の良かった同僚の文字であった
「これは‥‥」
まだハンドルの裏にはまだ入れ物が詰め込まれている。それに手を伸ばそうとした時
「お待たせしました」
トラックを呼びに行っていた業者がトラックと共に戻って来た。
タクティアは伸ばした手を引っ込め
「‥‥輸送先なのですが、軍本部ではなく私の家にお願いします」
タクティアはハヤトのバギーを自ら引き取る事にした。そして軍にも許可を貰い家に運ばせ、バギーのハンドル裏に詰め込まれている入れ物を全て取り、中を確認した。
入れ物の中身は全て書類であり、その全部にクォーモリと首相の異常なやり取りがあった事が記載されている。
不可解な金の動きから物や人まで‥‥何故この様な物が必要なのかという物まで細かく記載されていた。
多分これが全てでは無いのだろうもっとほかにもあったはず、しかしこれしか持ち出す事が出来なかったのではないだろうか?。
同僚はコントルで処刑されている、そしてこの殴り書きの文字『首相を信用するな』これをハヤトのバギーに隠した
タクティアは同僚が何かに巻き込まれたのでは? と考えた。全ての書類を確認したが、確証出来るような物は無い。
だが、タクティアはこの時から首相に対し手の疑心暗鬼が芽生えていた━━
◆◇
椅子に座ろうとしていたタクティアだが、もう1人の頼りになる男の顔が浮かぶ。
大体その人に任せておけばどうとでもなると言う人物だった
腰を掛けようとしていたタクティアだが、スッと立ち上がり一つの提案を首相にする
「話の内容は理解しました。ですが私から一つだけ提案をしたいと思います」
「ふむ‥‥提案とは?」
「軍からは兵士を護衛に付ける事は難しいですが、それでもお二方の安全は最重要です」
「じゃからそれは━━」
「ですから一人だけ軍から護衛に付けたいと思います」
「1人‥‥じゃと?」
「はい、護衛に関しては彼以外の人物はいないでしょう」
タクティアの発言に、ゴルジア首相は誰か察したのだろうか? 目を細めた
「ウエタケ・ハヤト中尉を推薦します」
ゴルジアは細めた目をそのまま閉じ‥‥そしてゆっくりと瞼を開けた
「分かった、こちらに異論はない」
◆◇
作戦会議終了後
首相ゴルジア・サトは軍本部から政府専用者に乗り込んだ。黒塗りの車でゴルジアの他に運転手と1人の官僚が乗っており、外から車内は見えぬよう特殊なフィルムが貼られている。
軍本部の門から車が出ると、ゴルジアは『ふぅー』とため息をつく
「タクティアめ、余計な物を付けおって」
ゴルジアはその口を大きく開く、するとその口の中に指を入れると何かをつまみそれを引きずり出した
「あ゛~あ~」
つまんだ指の先には細長い虫のような物が出て来る、長さは30㎝程の細い物体
「奴には効かんかったではないか」
ゴルジアは引きずり出したその虫を、前の座席の背もたれに投げつけるように放り投げた
「‥‥儂に対して何か感づいておるのか?」
投げられ背もたれにぶつかったその虫は、黄色い光の粒に変わり消えてゆく‥‥
その虫はかつて『プロイダ』と呼ばれていた召喚獣であり、ハルツールはもちろん、マシェルモビアでさえ契約が出来ない召喚獣であった。
今や大陸深部でしか契約出来ないその召喚獣は、2カ月前まで世界にはゴルジアの他にもう1人契約者がいた
『ハーメルン』と名付けられた召喚獣は人の思いを増幅させる心を操るという特徴を持っていた。一方ゴルジアが口の中に入れていた召喚獣は、古文が読めないハヤトが適当に契約したハーメルンの本来の姿であり、言葉に魔力を乗せ人の思考を操る能力を持つ召喚獣であった。
しかし、契約者に対し何かしらの疑念があった場合その力は減少する。つまりタクティア・ラティウスはゴルジアに対し何かしらの疑念があったという事になる
本来召喚者の資格のなかったゴルジアだが、女神サーナにより与えられたその力で、ゴルジアは人の心を操り今の地位についていた
「よりにもよってハヤトとはのう‥‥」
ゴルジアは少しだけ考えた様子であったが
「『止』の魔道具を使う、魂を用意しておけ」
同乗していた官僚に短くそう指示した
「はい」
「本当は使いたくはないんじゃがのう~」
ゴルジアの言葉ではそう言っているが、その表情は違っていた‥‥
◆◇◆
後日、タクティアは休暇中であったハヤトを軍本部に呼び出していた。
仲の良かった同僚の事もあり、どうもゴルジア首相に対し警戒心が無いとは言えなかった。ハヤトに頼むのは主にリテア・ネジェン主席の護衛を頼むためだ。
ハヤトはグラースオルグの反動があったとして2度医療施設に送られており、その事で心配もあったが、タクティアの元を訪れたハヤトは笑顔だったため、どうやら反動の心配はなさそうだった
「よく来てくれました。グラースオルグの反動と言うのが出ていたようですが、体の方は大丈夫ですか?」
「おう! 全く問題ないよ、それどころか心も体も調子イイネ! スゴクイイ!」
「それは安心しました‥‥それでなんですがお話がありまして━━」
「俺も話があってね、俺さ~軍を辞めて絵本作家になるからさ、退役の手続き宜しくね」
「‥‥‥‥へ?」
護衛を頼もうとしたタクティアだが、その頼む相手から来た言葉は「軍を辞める」だった
ロメからトンプソンの間の残党狩りも完全となり、ロメ攻略の命を受けていたタクティアの役割は終了する。それに伴い、今度はロメ防衛の任に当たる事となる
ロメを無事に奪還出来たとは言っても、都市ブレドリアは完全に奪還できずにいる状況にある。半分以上の面積を取り戻せたとしても、まだブレドリア北部にはマシェルモビアの兵が残っており、ブレドリアはもちろんの事、その後ろにある移転門を完全に奪い返さなければ安心はできない
5年前のマシェルモビア領土への直接侵攻の失敗に続き、逆に進行を受けてしまったハルツール軍はかなりの戦力を失ってしまったが、ブレドリアとロメの都市を犠牲にしてまで遂行された作戦により、今度はマシェルモビアに甚大な被害を与えた。
それにより両者の戦力はハルツール側が上回る状態になり、次の戦闘まで互いに戦線を動かせないままでいる
ハルツールはブレドリアの完全奪還の為、兵力をブレドリアに集中し、マシェルモビアもこれ以上の後退を防ぐためブレドリアに兵を集めていた。
両者は相手の出方を待つように膠着状態にある
両国とも動けずにいたが、ついにハルツールはブレドリア完全奪還のため動き出す。
奪還のための作戦会議が開かれ、軍の主要人物はもちろんの事ハルツール政府の代表らも集まっていた。その中にはタクティア・ラティウスの姿もあった
今回立てられた作戦は単純明快、ブレドリアにまだ存在しているマシェルモビア軍に対し、全軍で正面から打って出るというものだった。
作戦と呼べるものではなかったが、今この状況マシェルモビア軍の戦力、士気とも落ちている状態で策を講じ戦うよりも、今だからこそ正面突破がふさわしいと判断されたからである。
大量破壊兵器である『赤い柱』はもう使えず、海からは遠すぎるので海軍による艦砲射撃も望めない、となれば全ての戦力を持ち正面から戦う方が得策である。
時間が経てば経つほどマシェルモビア軍は戦力を立て直す、ロメの完全な奪還がなった今こそ勝機であった
「今回の作戦には儂ゴルジアとリテア・ネジェン主席も参加をする事とした」
「‥‥は?」
その言葉が出て来たのはタクティアだけでは無かった。丸刈りの少しだけ厳つい面持ちのその首相は、既に髪の毛に白髪が目立ち始め、老人と言えるような年齢になってきている。
その老いた首相の言葉にポカンとした表情の上級士官達、首相ゴルジア・サトの言っている意味を理解出来なかった。
何故? 政府のトップとナンバー2が戦場に赴かねばならぬのか‥‥。
タクティアは前方に対面する形で座っている軍の上層部の面々を伺ったが、みな目を固く閉じているだけであった。
ゴルジア首相は軍の会議にも頻繁に出席していたものの、軍が立てる作戦には口を挟むことは殆ど無いし、自身が戦場に出るなど言うはずが無かった。
だが今作戦では自身どころかネジェン主席も戦場に赴くと言う
首相は一体何を考えているのでしょうか‥‥上層部の面々を見る限り無理やり押し切られた感はありますが‥‥
政府のトップ二人が戦場に出るなどリスクしかない、ゴルジアは更に言葉を挟む
「皆も不思議に思っているじゃろうが、今回の作戦はハルツールの命運をかける。失敗をすればハルツールはいよいよ終わりに近づくじゃろうし、成功すれば一気に戦線を押し戻すことが出来る。
ならばその意気込みとして、政府のトップ二人が出る事によって兵達の士気も上がるじゃろう。主席にも許可を得ておる━━」
政府のトップ二人がおらずとも士気は上がっている。ロメを取り戻しブレドリアを完全に制圧すれば、残るは移転門。それさえ奪い返す事が出来ればハルツールの勝利は目前なのだ。これで士気が上がらないはずがない。
首相の言っている事は、軍の仕事を増やし邪魔をしているに過ぎない。政府トップが出るのであればそれに伴い軍から護衛を出さなければならず、それに兵の配置など無駄が増える。
それ位分かっているはずなのに、タクティア以外の士官達は何故かウンと納得していた
それを不思議に思いながらも首相の発言に反論する
「失礼ながらよろしいでしょうか?」
ロメ奪還など数々の作戦を成功してきたタクティアには、階級も上がりそれなりの発言力というものが付いていた
「よって━━む? お主はタクティア・ラティウスか‥‥どうした何か質問でも?」
途中で会話を遮られたせいか少しだけ表情を変えたが、直ぐに発言をしたのはタクティアだと分かり発言を促す。
首相とはウエタケ・ハヤトの事で色々とあったため、双方とも顔も名前も憶えていた
「はい、では‥‥政府のトップ二人が戦場に出てくるなど危険以外のなにものでもありません、必ず勝利するという保証はないのです。もしも敗れる事があるとしたら、主席と首相の身に危険が生じます。
二方を守る為にも兵の配置も全て変えなくてはならないのです、今の状態で軍にはその余裕がありません」
「ふむ‥‥そなたの意見ももっともだが、儂と主席の事は気にせんでいい。儂らの護衛はこちらで用意する、軍には負担をかけぬ。兵の配置もブレドリア奪還の為だけに留まればいい」
「しかし━━」
「分かってくれタクティア・ラティウスよ、儂ら政府は今何も出来ぬ。全て軍に任せ一兵士に命のやり取りをさせておる、その事で主席も心を痛めておられる。
だからせめて兵士の支えになればと思い気持ちだけでも━━」
「ですが!━━」
精神論以外のなにものでも無い理由に反論しようとしたタクティアだが、隣に座っていた士官に肩を掴まれてしまう。
その顔には『止めておけ』という意味合いを受ける事が出来た
その表情にタクティアは唖然とした。
明らかに足枷なのにも関わらず、その肩を掴んできた士官以外の者達も同じような表情でタクティアを見ていた
‥‥どうして? 皆もおかしいとは思わないのですか? 全く意味の無い事を首相は始めようとしているんですよ
今この場において、タクティアの言っている事に理解を示そうとする者はいない。皆が皆首相の言っている事だけに理解を示しているのだ。
今さっきまで眉間にシワを寄せていた上層部でさえ、おかしいと感じていた周りの士官達でさえ、タクティアを非難するような目をしている。今タクティアの肩を掴んでいる者も、最初は首相の発言に眉を曲げていたのだ
‥‥私が‥‥おかしいのですか?
首相はあまり軍に関与しないが、何かしらの関与をする場合必ずその言葉は通る。今回は明らかにおかしいのだが、今その首相の案は通ろうとしていた
周りの態度に自分がおかしい事を言っているように感じ、タクティアは椅子に座ろうとした
だがその時とある男の顔が浮かぶ。
その男はタクティアの同僚であり、ハヤト隊を作る時にも力を貸してくれ、その他にもソルセリーを前線から離す為にラベル島駐留の事でも手を貸してくれた男だった。
大体タクティアの悪だくみにはその同僚が手を貸してくれていた。
だが‥‥、その同僚はマシェルモビアに内通していたとして、タクティア達が大陸深部を横断している間にすでに処刑されている。
もっとも信頼がおける男だった‥‥裏切者だったと聞いた時目の前が真っ暗になったのを覚えている。
同僚はマシェルモビアに内通していたとされるクォーモリの部屋を調査していたが、その最中突如逃げ出したと聞いている、理由は分からない。
同僚はそのまま移転門を使い逃亡、軍港都市コントルで発見され抵抗した為その場で処刑された‥‥
◆◇
タクティア達が大陸深部から命からがら帰還して暫くの事。
隊長であったハヤトの遺産の処分について、検討しなければならない状態にあった。ハヤトには身内がいなかった為、代わりにタクティアがその処分について対応する事となった。
ハヤトの住んでいた家は元々首相が与えた家であったため、家については問題ない。家具は首相の方で処分してしまっていたのでこれも問題はない。
それでもハヤトの遺産は多少なりともあり、その一つは軍港都市のコントルにあるハヤトの愛車であったバギーがあった。
車を改造して作ったという小さな屋根の無いその乗り物は、危険以外の何物でもない。運転席が剥き出しと言ってもいい状態にあり、何かにぶつかったら命が無いだろうという代物だった。
それでもそれを欲しいと言っている団体もあり、ハヤトと親交のあったオヤスグループや召喚獣研究所などが手を上げていた。
タクティアはコントルに立ち合いのために出向く
「この小さな乗り物ですか?」
「ええ、間違いありません」
「これくらいだったら簡単に積み込み出来そうです、直ぐに陸送のトラック回してきます」
輸送業者はトラックの手配に戻って行った。トラックは直ぐにでも来るだろう、バギーを積み込み軍本部に持って行けば仕事は終わりだった。それまでタクティアはバギーの側に居るだけでよかったのだが‥‥
「‥‥?」
ふと棒状のハンドルの裏側に、何かの入れ物のような物がいくつも挟まれていた
「何でしょうか?」
ハンドルからそれを外し、中を確認すると━━
「書類?」
そこには数枚の書類が‥‥その書類を確認すると、そこには処刑されたクォーモリと首相とのやり取りが書かれた物が入っていた。
そしてその数枚の書類の一枚に、殴り書きされた文字で
『首相を信用するな』
と書かれていた。その文字は急いで書いたであろう汚い文字であったが、確かにその文字はタクティアの仲の良かった同僚の文字であった
「これは‥‥」
まだハンドルの裏にはまだ入れ物が詰め込まれている。それに手を伸ばそうとした時
「お待たせしました」
トラックを呼びに行っていた業者がトラックと共に戻って来た。
タクティアは伸ばした手を引っ込め
「‥‥輸送先なのですが、軍本部ではなく私の家にお願いします」
タクティアはハヤトのバギーを自ら引き取る事にした。そして軍にも許可を貰い家に運ばせ、バギーのハンドル裏に詰め込まれている入れ物を全て取り、中を確認した。
入れ物の中身は全て書類であり、その全部にクォーモリと首相の異常なやり取りがあった事が記載されている。
不可解な金の動きから物や人まで‥‥何故この様な物が必要なのかという物まで細かく記載されていた。
多分これが全てでは無いのだろうもっとほかにもあったはず、しかしこれしか持ち出す事が出来なかったのではないだろうか?。
同僚はコントルで処刑されている、そしてこの殴り書きの文字『首相を信用するな』これをハヤトのバギーに隠した
タクティアは同僚が何かに巻き込まれたのでは? と考えた。全ての書類を確認したが、確証出来るような物は無い。
だが、タクティアはこの時から首相に対し手の疑心暗鬼が芽生えていた━━
◆◇
椅子に座ろうとしていたタクティアだが、もう1人の頼りになる男の顔が浮かぶ。
大体その人に任せておけばどうとでもなると言う人物だった
腰を掛けようとしていたタクティアだが、スッと立ち上がり一つの提案を首相にする
「話の内容は理解しました。ですが私から一つだけ提案をしたいと思います」
「ふむ‥‥提案とは?」
「軍からは兵士を護衛に付ける事は難しいですが、それでもお二方の安全は最重要です」
「じゃからそれは━━」
「ですから一人だけ軍から護衛に付けたいと思います」
「1人‥‥じゃと?」
「はい、護衛に関しては彼以外の人物はいないでしょう」
タクティアの発言に、ゴルジア首相は誰か察したのだろうか? 目を細めた
「ウエタケ・ハヤト中尉を推薦します」
ゴルジアは細めた目をそのまま閉じ‥‥そしてゆっくりと瞼を開けた
「分かった、こちらに異論はない」
◆◇
作戦会議終了後
首相ゴルジア・サトは軍本部から政府専用者に乗り込んだ。黒塗りの車でゴルジアの他に運転手と1人の官僚が乗っており、外から車内は見えぬよう特殊なフィルムが貼られている。
軍本部の門から車が出ると、ゴルジアは『ふぅー』とため息をつく
「タクティアめ、余計な物を付けおって」
ゴルジアはその口を大きく開く、するとその口の中に指を入れると何かをつまみそれを引きずり出した
「あ゛~あ~」
つまんだ指の先には細長い虫のような物が出て来る、長さは30㎝程の細い物体
「奴には効かんかったではないか」
ゴルジアは引きずり出したその虫を、前の座席の背もたれに投げつけるように放り投げた
「‥‥儂に対して何か感づいておるのか?」
投げられ背もたれにぶつかったその虫は、黄色い光の粒に変わり消えてゆく‥‥
その虫はかつて『プロイダ』と呼ばれていた召喚獣であり、ハルツールはもちろん、マシェルモビアでさえ契約が出来ない召喚獣であった。
今や大陸深部でしか契約出来ないその召喚獣は、2カ月前まで世界にはゴルジアの他にもう1人契約者がいた
『ハーメルン』と名付けられた召喚獣は人の思いを増幅させる心を操るという特徴を持っていた。一方ゴルジアが口の中に入れていた召喚獣は、古文が読めないハヤトが適当に契約したハーメルンの本来の姿であり、言葉に魔力を乗せ人の思考を操る能力を持つ召喚獣であった。
しかし、契約者に対し何かしらの疑念があった場合その力は減少する。つまりタクティア・ラティウスはゴルジアに対し何かしらの疑念があったという事になる
本来召喚者の資格のなかったゴルジアだが、女神サーナにより与えられたその力で、ゴルジアは人の心を操り今の地位についていた
「よりにもよってハヤトとはのう‥‥」
ゴルジアは少しだけ考えた様子であったが
「『止』の魔道具を使う、魂を用意しておけ」
同乗していた官僚に短くそう指示した
「はい」
「本当は使いたくはないんじゃがのう~」
ゴルジアの言葉ではそう言っているが、その表情は違っていた‥‥
◆◇◆
後日、タクティアは休暇中であったハヤトを軍本部に呼び出していた。
仲の良かった同僚の事もあり、どうもゴルジア首相に対し警戒心が無いとは言えなかった。ハヤトに頼むのは主にリテア・ネジェン主席の護衛を頼むためだ。
ハヤトはグラースオルグの反動があったとして2度医療施設に送られており、その事で心配もあったが、タクティアの元を訪れたハヤトは笑顔だったため、どうやら反動の心配はなさそうだった
「よく来てくれました。グラースオルグの反動と言うのが出ていたようですが、体の方は大丈夫ですか?」
「おう! 全く問題ないよ、それどころか心も体も調子イイネ! スゴクイイ!」
「それは安心しました‥‥それでなんですがお話がありまして━━」
「俺も話があってね、俺さ~軍を辞めて絵本作家になるからさ、退役の手続き宜しくね」
「‥‥‥‥へ?」
護衛を頼もうとしたタクティアだが、その頼む相手から来た言葉は「軍を辞める」だった
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