異世界陸軍活動記

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 ずる休み

 皆一度はした事のある行いだろう。
 学校に行けと急かす親に対し、お腹が痛い頭が痛いとあれこれ理由を付けて布団から出ない。もちろんどこも悪くないし、ただ眠いだけだったりする

 親からして見たら「またか」とため息をつき、心底面倒な顔をする。だが本当に具合が悪い可能性も数パーセントある為。
「じゃあ病院行く?」
 と聞いてくる
 
 違うんだよ! そこは「今日薬飲んでゆっくり休んで」と言って欲しいんだ。ただ単に眠くて起きたくないだけなんだよ、病院行くならこの布団から起きなきゃならないでしょ! 常識でしょそんな事!

 子供は何としても休もうと駄々をこね、親はずる休みと分かっているので何としても学校に行かせようとする。
 世界中でこのようなやり取りがされており、俺もその駆け引きをしたものである。
 戦績は9割程、数字だけで見れば俺の圧勝に見えるが、俺の場合年に一回しかずる休みを決行しなかったせいもあり成功率が高い。
 戦績が悪い人はずる休みを乱発しすぎるのが原因だろう、こういった事は次期を見極め、極力どうしても休みたい日だけにした方がいい。その方が成功率も上がるだろう。
 しかも俺場合、頭痛腹痛の他に『生まれつき心臓が弱い』というアドバンテージ(爆弾)があった為、どうしても学校に行きたくない場合はそれを行使する事も出来る。
 だが実際それを行使した結果、直ぐに病院に連れていかれ検査で丸一日潰れた事から、ずる休みには使えないという事が分かり、それ以降行使しなかった

 体調が思わしくないという事で出来るずる休みだが、こちらの世界ではそれが通用しない。
 と言うのも、女神が賜りしありがたい『防病の契約』という物があるからである。
 人が生まれるとまず最初に行くのが、世界中にある女神を祀る教会であり、その場に必ずある魔法陣と契約を果たす。その魔法陣に触れ契約をすると、生涯病気にかからないという『防病の契約』、病気にならないのなら病欠も無い訳で‥‥。
 病欠で休めないとなれば無理やり怪我をする方法もあるが、胸に輝くマイナの形見のペンダントにより、フロルドから受けた怪我も即回復、無傷の状態になっている

 他の手段としたら親兄弟親戚を亡き者にする事だが、身内無しの俺には使えないし‥‥。となると俺は金輪際ずる休みが出来ないのか? となるが実の所そうでもない、最終兵器が残っている

「ぐああぁぁぁぁ!」

 大勢の兵士がいる前で苦しみだす振りをした

「ハヤト中尉どうしました!」

 何人かの兵士が集まる、皆何事かと苦しんでいる俺を気遣うように肩に手を掛けたり、のぞき込んダリしている。
 そこに━━

「は、離れろ! 俺から離れるんだ!」

 近寄る兵士を手で制し、肩に触れている兵士の手を弾くと、本当にただ事ではないという空気を察し辺りは緊張状態になる

「今軍医を呼んできます!」

「駄目だ! 呼ぶな、これ以上兵士を近づけさせるな!」

「一体どうしたのですか中尉!」

 よし! 聞いてほしいセリフが出て来た

 そこで俺は
「こ‥‥この場所は魂が乱れている‥‥」
 適当な事を言い
「そのせいで、グ、グラースオルグの反動が‥‥ッ!」
 頭を両手で抑え、今にも何かが出てきそうな演技を加えた

 グラースオルグという単語が出た瞬間、心配して集まっていた兵士達が、サー‥‥と引いて行った

 よし!

「す、すまない。後退させてほしい」

「は、はい了解しました‥‥」

「それと‥‥クッ! ‥‥この事はコーホン司令に連絡して欲しい、はぁはぁ」
 
 俺には直接的な上司はおらず、偉くなって階級も高くなってしまった。となるといったい誰に報告すればいいのか? という事になるが、このロメはタクティアが仕切っているので報告するならタクティアになるのだが、タクティアはグラースオルグの反動など無い事は知っているので、「なら暫く横になってたらどうです?」とか言って帰してくれないだろう。
 だからブレドリア奪還の総司令を務めるコーホンの方に連絡してとお願いしといた

「分かりました‥‥誰か付けましょうか?」

「いや、俺一人で大丈夫だ。すまないが後は頼む」

 俺はそそくさとその場から去り、ハルトの移転門へと急いだ。そこからモレントの移転門へと移動し、そのまま家へと帰って来た

 別にずる休みとか、ただ帰りたい気分で帰ってきたわけではない、大事な理由があった
 
 その理由とは━━

 女神サーナにより俺は全ての魔法を失った・・・・・・・・・

 冗談でもなんでもなく、本当に全ての魔法が使用不可能になってしまった。
 女神サーナに奪われたのはこれで3度目、1度目は『火』の魔法を、2度目はブレドリア奪還後に残りの属性魔法5種を。
 そして今回、サーナは残りの全てを奪って行った‥‥。
 いつも使っていた『洗浄』魔法や、『収納』魔法、『耐壁』『硬化』‥‥とにかく全部だ、しかもそれは召喚魔法にも及んでいる。
 ポッポも呼べず、呼ばれなくても勝手に出て来るラグナまで‥‥とにかく全てだ。
 ‥‥いやすべてでは無いな、『財布』の魔法だけは何故か使用できるようになっているが、その他の魔法は使う事が出来なくなっていた

 この事をタクティアに相談すべきか悩んだが、それよりも先に魔法が使えなくなったという恐怖でとにかく安全な場所に移動したかった為、逃げるようにしてモレントの家に帰って来た。
 果たして俺はこれからどうしたらよいのだろうか?

 取りあえず家に帰ってきたのだから、家に入って少し落ち着いてからゆっくり考えようと思う。取りあえず玄関の鍵を━━

 鍵‥‥

 か‥‥

「鍵がねえ!」

 家の鍵は2つあり、一つは俺が持っていて『収納』に入れてあった。もう一つは召喚獣のラグナが持っていた。
 サーナにより魔法が封じられた結果、家に入る為の鍵が取り出せない事になる

「うわぁ‥‥どうしよう」

 鍵が無いなら家に入れない。それなら窓を壊して入ったらいいじゃない? となるがこちらの世界では窓に『硬化』魔法が掛けられており、本当に割れない。
 魔力を通した武器などで割るしか無いが‥‥

 穂先を布で隠してある槍『蜻蛉切』に目をやる

 壊すしかないか?

 後始末が大変だし、修理業者とか呼ぶのが面倒だけど仕方ない、やるか

 蜻蛉切の布を取り、窓に向かって構える。
 槍に力を通し━━

「あれ? ハヤト帰ってきたの?」

 ━━壊して。え?

「お帰りハヤト」

 窓を壊そうとした瞬間女性の声がし、そちらを振り向けば部下であり、お隣さんであるコトン・ラティウスが立っていた。
 左手には簡単なギブスがはめられている状態である

「もう退院したのかコトン」

「うん、骨にひびが入っただけだったからね、直ぐに家に帰れたんだよ。所でハヤトはどうしたの? こんな所にいて、任務は終わったの? それと、何で武器を構えているの? 防具を付けたままだし」

「いや‥‥ちょっと鍵を落としたみたいで、窓を壊して入ろうかなって」

「そんな事しなくてもドアは開いてるよ」

「えっ?」

「私が鍵を持ってるし」

「んっ?」

「夕食はラグナが作ってくれるんでしょ? デュラ子がうるさくてさぁ、私が作る料理をマズイマズイって言って食べるんだよ、本当に酷いよね。だったら自分で作って食べればいいのにって思うんだけど」

 そう言ってコトンはドアを開けた。俺の家のドアを

 コトンは勝手に俺の家の鍵を作っていたらしい

 結果として窓を壊さず家に入れた。入れたけど‥‥

 入れたけど‥‥勝手に作ったの?
 

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