異世界陸軍活動記

ニボシサービス

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再会と‥‥‥

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「ハヤトだぁ~?」
 隣から女性なのに低い声が聞こえてくる

 
 夜中にタクティアに呼び出され新しい隊員が増えると聞いた。それは良い事だとエクレールは思い、少し眠いながらもその場にいたのだが‥‥

 何故だろう? ひどく身に危険が迫っているような気がする

 新しく編入された隊員は召喚隊の装備を身に着けた女性だった。その女性召喚者は我が部隊の隊長を『ハヤト』と呼んだのだ。

 自然に足が一歩後ろに下がるが、いつの間にかその腕を何かに掴まれておりその場から動けないでいた。
 その自分の腕を掴んでいたのは、先ほど低い声を出したソルセリーから伸びた腕であり、既にエクレールをその場に固定していた。 
 強く掴まれている訳では無いが、腕は痺れ、嫌な汗が体から吹き出す

「えっ‥‥‥コトン?」
 隊長のハヤトは少しあっけに取られた表情

「そうだよ、ちゃんと覚えててくれたんだね」
 笑顔の女性召喚者は嬉しそうに破顔する

「えっ? で、でもコトンて俺の胸の下位の身長しかなかったのに‥‥」

「何言ってるのハヤト、あれから何年たったと思ってるの? 私はもう25歳だよ」

「お、おう‥‥なんか、大きくなったね‥‥」

 隊長が大きくなったねと言った時、隊長の視線が一瞬その女性召喚者の胸に目が行ったのをエクレールは見逃さなかった。
 その彼女の胸はローブの上からでも分かるくらい豊満で、小ぶりなエクレールの胸はもちろんの事、比較的ふくよかな胸を持つソルセリーを凌駕していた。
 
 そして、ソルセリーもハヤトの下がった視線を見逃さなかった

 ギリリッ

 と掴まれた腕に痛みが走り危うく声を出しそうになったエクレール、腕の痛みの原因を作ったソルセリーの不穏な雰囲気に気付いた他の男性兵士は自然と二人から距離を取る。
 唯一、女性召喚者の胸の大きさに目を奪われているデディ・アバルドは、その場で目が釘付けになって動けないでいた

「それであの時の約束ちゃんと守ってくれるんでしょ?」
 女召喚者もといコトン・ラティウスは胸の前に手を合わせ、上目遣いでハヤトに聞いてくる

「約束‥‥って?」

「もう! ハヤトったら忘れちゃったの? 将来私をお嫁さんにしたいって言ってたじゃない」

 『癒し』よ!!!!!
 
 咄嗟に回復魔法を発動したエクレールの勘に間違いは無かった。エクレールが知っている成人女性の平均握力を超えるほどの力が前腕を強く圧迫。
 引きちぎらんとするソルセリーの力を何とか回復魔法で再生する、その力は思わず女神に祈ってしまうほど強力であった

「お嫁さん? って、そんな事━━」
 イマイチピンと来ていないハヤトを遮るようにタクティアが割って入る

「まあまあ、積もる話もあるでしょうがここにいつまでもいると海兵さんの邪魔になります、少し落ち着いた場所で話をしましょうか? 艦首辺りがあいてそうですからそちらに行きましょうハヤト隊長、コトンもそれでいいですか?」

「うん、そうだね」

「はいはい、皆さんもお疲れさまでした。合流した空母の人員が多くて部屋が手狭になっていますが、今日はゆっくりと休んでください、では解散しましょう」
 ぱんぱんと手を叩き、きょうはもうお終いだと解散を促すタクティア

「じゃあハヤトあっちに行こう?」
 ハヤトの腕に手を回し、自らの豊満な胸を押し付ける形で引っ張っていく

「あのね、ケンタクン知ってるでしょ」
「ケンタ君ってあの同じ初等部の?」
「そうそのケンタ、ケンタもね軍に入ったんだよ」

 ぐいぐい引っ張るコトン・ラティウスに、少し押され気味のハヤトはそのまま艦首の方へと連れていかれた。
 そしてその後を追うタクティアがソルセリーの横を通り過ぎる時

「申し訳ありませんが、私も人の子、姪の幸せの方が大事ですから」
 
 エクレールはその時初めてタクティアの本質を見た気がした。薄ら笑いを浮かべるタクティアは小声でソルセリーにそう伝え去っていった。
 この時すでにライカとタバル、ノース、オーバの4人は危険察知力が高いのかこの場から去っており、残るは腕を掴まれ動けないエクレールと腕を掴んでいるソルセリー、そして胸に気を取られているデディの3人だけであった。
 
 タクティアが言った事の意味を徐々に理解してきたソルセリーは、その顔をゴブリンのように醜く変える。
 そのゴブリンのような顔を見て怯えるデディ

 マズイ!
「落ち着けソルセリー! 女がしてはいけない顔をしているぞ!」

 エクレールはその日、朝まで眠る事を許されなかった


 ◆◇

 
 何となく体が痛い
 そんな理由で目が覚めてしまった

 昨日‥‥と言っても日にちが変わってからだから正確には今日か、あの後船首の方に移動してコトンと初等部の時の話だったり、その後どんな風に過ごして来たのかなどを色々聞いていた。
 タクティアも何故だか付いてきてその話に加わっていた

「コトン、ハヤト隊長の右側は私専用の場所なので、コトンは左側に座って下さい」
 などとどうでもいい事を言い、俺がタクティアとコトンに挟まれるようにして座っていたが、いつの間にか寝てしまったようだった。
 不意に左肩にサラッと流れる細い物、気づくとそこには俺の左肩に寄りかかるように寝ているコトンの姿があった

「コトン‥‥」
 あんなに小さかったのにいつの間にか大きくなって、しかも軍に入っていたなんて‥‥人の縁ってのは分からないものだな、それと‥‥でかい! 

 何がでかいとは言わないけれど明らかに体のシルエットからはみ出てるから目立つ。
 初等部の時のおっぱい先生よりは小さいけれど‥‥‥あっ、おっぱいって言っちゃった

 さて、ちょっとトイレに行きたいから少し‥‥‥

 少しコトンの頭の位置を変えようとしたら、右肩にも何か重さを感じ、右肩を見ると‥‥‥
「なんでやねん」
 タクティアが俺の右肩に寄りかかって寝ていた
「お前もかよ」

 コトンとタクティアが目を覚まさぬよう『土』魔法で二人の間に支えを作り、そっと立ち上がった。床に座ったまま寝てしまったせいか体が固まって痛い。
 寝る間もなく働いている海軍兵士に挨拶をしつつ、腕を伸ばしたりと軽くストレッチをしながらトイレに向かうと、同じくトイレに来たであろうエクレールがいた。
 しかも物凄い酷い顔で

 目の下に隈が出来ているし、目が血走っている。口が半開きでその姿はゾンビのようだ。いつも早起きして刀を振るうか弓を引いているエクレールにしては珍しい

「おはようエクレール、何か凄いよ? 女がしてたら駄目な顔をしてるけどちゃんと寝ないと体を壊すと思うよ? 体調管理をしっかりとね」
 部下の事を思って言って見たのだが‥‥‥

「ああ! そうだな! 私の顔は酷いだろうさ! 私はこれから寝るから、隊長は私を起こさないようにして欲しい! もう少しゆっくり寝させてくれないか!」

 凄い怒られてしまった。物凄い機嫌が悪いエクレールはトイレに入って行く

「あっ、はい‥‥」
 エクレールの荒い口調にビックリして普通に返事をしてしまう、もしかしてトイレで眠る気なのか?

 すると急にトイレの扉が開き
「私は寝るからな!」
 そうエクレールは言ってまた扉を閉めた。大事な事だから2回言ったんだろう、睡眠は大事‥‥‥

 女の人は時折機嫌が悪くなるが、多分‥‥今日がその日なんだろう
 
 
 
 
 


 
 ◆◇◆◇

 空母スネックが航行不能になり轟沈処理させられ、空母の人員が大量にあふれかえっているこの艦だが、この艦だけでは乗せきれず、いくつものボートを繋いでそれに乗れなかった人員を乗せている

 この状況に名前を付けるなら『カルガモ艦隊』だろう
 
 さてこのカルガモ艦隊はこの後、ハルツールで最も近い港に向かい、そこで過剰な人員を降ろす事になる。
 当初は空母スネックの人員をそこで降ろす予定だったが、それが変更されその港で陸軍の兵士と空母スネックの竜翼機パイロット、そして空母スネックの乗組員の半数以上が降りる事となった。つまりハヤト隊は最初の港で降りる事となる。
 空母スネックの乗組員のうち、幾人かはそのまま艦に乗り海軍本部のある軍港コントルへと向かう

 俺達陸軍兵士が途中で降りることになった理由として、当然ながら海は危険という事。ラベル島がマシェルモビアの手に落ち、海での戦力図が大きく変わってしまった。
 それに加え、敵が使用した完全に姿を消すことが出来る魔道具、更にハルツールでしか作れない『耐壁』魔法を使用していたという問題もある。
 それと召喚獣『ヤマト』をもう召喚出来ないというのもあった。いるのは分かってはいるけれど、何となく扉を閉めカギを掛けられたような感じを受ける。
 この船の艦長にもう一度召喚は出来るか? と聞かれたが俺は召喚出来る自信が無いので出来ないと答えた。もし召喚出来たなら俺達ハヤト隊と、この艦に乗っている召喚隊の小隊は軍港コントルまで乗船していただろうと思う

「もう何事も無ければいいのに‥‥‥」

 ・・・・

 ・・・・

「しまった、これフラグっぽい」
 
「ねえ、『ふらぐ』って何?」
 
 俺の左に陣取っているコトンが聞いてくる、タクティアに左側に居なさいという言い付けを守りずっと俺の左側にいる素直なコトン。
 どこに行っても付いてくるコトンに初等部でもいつも隣にいたな~と、何となく懐かしくなる
 
 『ふらぐ』をコトンに説明しながら常に上空に飛び交っている竜翼機を眺めている、この艦に積める竜翼機の数は4機のみ、だが先の戦闘の空戦で生き残った竜翼機はそこそこある、更にスネックは飛行甲板が破壊されたため飛びたてなかったパイロットが沢山おり、いくつかの竜翼機をパイロット達は交代で乗り索敵に当たっていた
 
 空母スネックが途中大爆発を起こしたのは、やはり弾薬庫がやられたからでありそれに巻き込まれ誘爆した竜翼機と弾薬は使えなくなってしまっていた。
 ただ、燃料となる人工魔石は無傷だったのでこの艦に積み込んでいる、索敵をしてもあの魔道具を使っているなら発見は難しいと思うが‥‥‥

 そしてコトンの話はフラグから子供の時の話に変わり、そしてなぜか子供は何人欲しいかの話へ変わっている、自分は5人兄弟だから子供は6人欲しいとか何とか‥‥‥
 何となくコトンに対して少し恐怖を抱いてしまう、話がどんどんそっちの方に向かっているのが正直怖い。コトンを嫁に欲しいとか一言も言って無いのにコトンの中ではそうなっているらしい、話を逸らすべく別の話を振ってみるが、連想ゲームのように話題が元に戻る

 ハヤト「竜翼機で飛んでみたいなー」
 コトン「ハヤトも飛べる召喚獣もっているよね?」
 ハヤト「もってる」
 コトン「将来私達の子供がその召喚獣に乗りたいって駄々をこねるかも」
 ハヤト「‥‥‥」

  
 ハヤト「俺の愛車で2人乗りの『バギー』って名前の乗り物があるんだけど」
 コトン「じゃあ8人乗りの車に買い換えて?」
 ハヤト「‥‥‥」

 ハヤト「そろそろ軍を辞めて、タスブランカ代表の護衛をしたいと思ってるんだ」
 コトン「それなら私も軍を辞めるから、家の事は私に任せて」
 ハヤト「‥‥‥」


 怖えぇぇぇぇぇぇぇ!!!

 もう何を言っても話を戻される、コトンてこんな子だったの?

 直ぐにでもこの場から逃げ出したい気持ちがあるが、時折左腕に触れるコトンの胸の感触が気持ちよく逃げ出せずにいる。これが男の逃げられないサガと言うやつだろう

 

 恐怖と快感の両天秤に悩んでいると2機の竜翼機が返ってきた。その2機の内、後ろを飛んでいる竜翼機は少しだけ大きく形も変わって見えた

「珍しい機体だね」

「そう? 私にはよく分からないけど」
 経験の浅いコトンには違いが分からなかったみたいだ

 ・・・・・

 ・・・

 暫くすると海軍兵士が慌ただしく動き出す、もうこれだけで何か不都合な事が起きている事は分かった。コトンもどこか不安げな表情をしている
 準備運動をするように艦の主砲が動いており、これからまた戦闘でも起こるような気配だ

「ちょっと聞いてこようか? コトンは艦の中に入っていた方がいいかも」

「ダメ、私も一緒に行く」

「そう、はて‥‥タクティアがさっきから見かけないけれど、どこに行ったのか」

「おじさんなら艦橋内にいると思うけれど」

「それもそうか」
 多分艦長達と話でもしてるんだろう、海兵が忙しくしている中手を止めさせてまで話を聞くのは良くないかな‥‥じゃあさっきの竜翼機を見てくるか、普通の奴とちょっと変わってたし

「ちょっと竜翼機を見に行こうか、俺の見間違いかもしれないけど何となく変わっていたし」




 カタパルト付近に移動するとそこには見慣れた竜翼機ではなく、やはり少し大きく通常よりもより流線形の形をした竜翼機がカタパルトに設置されていた

「何これ? 新型なの? かっけぇ」
 それは後方に大型の推進装置が付いた見た事の無い機体だった。その新型の竜翼機の周りをぐるりと一周する。
 その新型を整備していた技術者が仕事中ではあったが、興味を抑えられなかったのでつい声を掛けてしまった

「この竜翼機って新型ですよね」

「はい、実戦テスト中で今は巡洋艦アルドレスに搭載されている竜翼機です」

「へーぇやっぱり」
  
 ‥‥巡洋艦アルドレスって、バールが乗っている船か‥‥あれ? バールが来たのか? ならバールは無事だったか、良かった!

 あの嵐の後、通信が出来ないでいたため安否が不明だった先行していた巡洋艦3隻、その内のバールが乗っていた船の竜翼機だった。
 かなり心配したが、どうやらバールも無事だったようだ。暫く待っていたらバールが来るだろうか? と思い、邪魔にならない場所に移動しバールの帰りを待っていたのだが、来たのは別のパイロットだった

 あのパイロットは確か‥‥コントルでバールと会った時後ろにいた人じゃないかな? バールの事を班長とか呼んでたし、バールの部下だろう

 バールの事をそのパイロットに聞こうと思ったが、そのパイロットが俺に気付き向かってくる
「ウエタケ・ハヤト曹長でしたね?」

「そうだよ、君はバールの部下‥‥でいいんだよね」

「はい、アルドレス第一索敵班のアデル・フラーです」

「やっぱりね見間違いじゃ無かった。それでここに来たのは君だけ? バールは他の場所にいるのかな?」
 
 俺の質問にアデル・フラーは一瞬顔を曇らせたが、真っすぐ俺を見据え敬礼をし

「第一索敵班班長のバール・エリネルは、敵艦の索敵を進行中、マシェルモビア海軍旗艦ディレコモビアを発見、敵旗艦ディレコモビアに対し特攻を掛け戦死しました」

「‥‥‥‥‥は?」

「ハヤトしっかりして!」
 コトンが俺に抱きついてきたと思ったが、そうではなく、俺が倒れそうになったのを支えてくれただけだった。
 アデルの話はまだ続く

「敵旗艦ディレコモビアはそれにより航行不能になり━━」

 

 バールが戦死?‥‥‥

 あのバールが?

 嘘だ


「━━それでバール班長からハヤト曹長に謝罪の言葉とお願いを預かって来ております」

「あ、ああ、そう‥‥‥それで、何と?」

「はい、班長は一緒に飲みに行く事が出来ず申し訳ないと」

 ああ‥‥確かに約束した。ラベル島で一緒に飲もうと

「そしてお願い‥‥‥曹長に対する最後の遺言は━━」

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