異世界陸軍活動記

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再会に次ぐ再会

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「ぷはぁぁぁ! 美味い! やっぱり酒豪だらけの飲み会での酒は美味いねぇー!」

「酒豪は一人しかいませんよ」

「なーに言っちゃってるのタウロン、1、2、3、4。ほら4人いるじゃん」

 やっとエンジンがかかってきたニーアは口がよく回り、喋らない時は酒を飲んでいる時だけだ。一方で既にオーバーヒート欠気味のエクレール

「なんだか飲みしゅぎてしまったようだ   ヒック!」
 顔を真っ赤に染め呂律が怪しい

「まだ三杯しか飲んでないじゃないですか、酔ったふりをして逃げようとしても私の目の黒いうちは誤魔化せませんよ」

「そうだ! エクレール。今夜は逃がさないからなー!」

 酒があまり飲めないエクレールに対し、タウロンとニーアは容赦ない。エクレールが弱いのは知ってたがここまで弱かったかな? 酒入りのチョコレートはいくら食べても酔わないのに。
 エクレールが飲んでいる酒はそんなに強いのか‥‥俺もちょっと飲んでみようかな

「すいませーん、これと同じの一つもらえますか」
 ちょっと興味が出たので同じ物を注文してみる

「今夜って言ったかニーア? 冗談だろ? 今太陽は真上辺りだぞ。あっ隊長、こ、こ、コレが飲みたいなら私のを飲んでくれ、こる‥‥こら、コレは私にはきつすぎる」

 呂律がすでに‥‥大丈夫かなこの人、帰りにおんぶして帰るとか勘弁してよ

 これ以上飲ませたら本気でやばそうだったので渡されたコップを貰い、代わりに飲むことにする。コップに口を付けようとするとアルコール独特の匂いが鼻に伝わる。思わず『うっ!』となる位キツイ匂い、今まで嗅いだことの無い強烈な匂いだったが、ここの酒はこんな物かな? と思いそのままコップに口を付けた。

「あっ!! くっ!」
 きっつぅぅ!! 何これ!? 消毒液かよ! いや、消毒液なんか飲んだこと無いけどさ

「あっ! 間接、間接だ!」
 
 ニーアがなにやら騒いでいるが

「タウロン見た? エクレールが口を付けたコップでハヤトが飲んだよ!」

 間接キスの事ですか‥‥いい年した大人が間接キスとか。それにしてもエクレールはこんなのを3杯も飲んだの?
 
 そのエクレールの前には新たに同じ物が運ばれてくる、多少絶望顔のエクレールだが注文したのはニーアだ。そしてニーアの前にはエクレールと同じ飲み物が‥‥つまりニーアは消毒液を今現在10杯以上飲んでいる。体内の菌という菌が死滅していそうだ

 まあニーアの体内とかどうでもいいけれど

「所でタウロン達はさ、何でコントルにいるの? 二人とも中央の担当だったと思うけれど」

 タウロンとニーアは元々、大陸中央緩衝地帯付近での任務に当たっていたはず、それなのにどうして‥‥
 まさかとは思うけれど‥‥

「はい、私の部隊もニーアの部隊もとある作戦の為にここに来ているのです、ここから船に乗りその場所に向かうらしいのですが、私とニーアはもちろん、隊長ですらその内容を聞いていないみたいで‥‥それよりも私達が抜けた後の穴の方が不安なんですよね、大陸中央ですからこまめに間引きに出向いて魔物が集落を作るのを阻止しないといけないのですが‥‥」

「そ、そう、なんだ‥‥」

 


 ◆◇◆◇


 軍港都市コントルに来る前

「へぇー ラベル島、それってどこにあるの?」
 次はラベル島に移動とタクティアに聞いた時の事だった

「大陸の西側にある結構大きな離島ですよ、中等部の歴史の授業で習いますし、軍学校でも習うはずですが」

 軍学校の座学で‥‥あー
「あったな確か、この大陸以外では一番デカい島だったか?」

 大陸西側にあり大陸からかなり離れた場所にある島、どちらかといったらマシェルモビア側、つまり中間よりも北側にあり、地図だけを見るとマシェルモビアの海域に見えるが、実際は海軍力で勝るハルツールの領域になっている。
 そのラベル島は陸軍が駐留しているが、その島を守る為に海軍が厳重に海域を守っており、実質陸軍はやる事が無い。海軍はかなりの数の軍艦をその島に回しており、絶対に落ちない島とも言われている

「はい、そこがハヤト隊の最終任務地になりますね」

「最終?」

「次は無い、つまりはハヤト隊は永久にそこに駐留することになります」

「永久って、結構凄いこと‥‥‥でもないか」
 あちこち飛ばされるハヤト隊が特別であるだけで、他の部隊なんかは殆ど動き回ったりしない、ずっとその場所にいる兵士や部隊だってあるくらいだ

「そうですね、やっと落ち着く事が出来ますよ。なんとか間に合ったし」

「何? なんか時間と戦ってたのかい?」

「‥‥‥これはウチの部隊の隊員にも秘密にして欲しいのですが」

「うん」
 なんだろう? 真剣モードだ

「近々、マシェルモビアの領土に直接侵攻する事になります」

「直接って‥‥無理じゃん。戦力的に均衡してるしここから勝ち越すって出来ないとおもうよ、緩衝地帯すら抜けられないのにどうやって」

「当然の事ながら緩衝地帯を使って侵攻するのは無理でしょう、ですから海から軍艦を使い大陸西部の直接マシェルモビアの領土に侵入、そこで一番近い移転門を一気に落とします」

「‥‥それって成功するの?」

「私個人の考えだと難しいでしょうね、していたなら既に過去にどちらかがしているでしょう」

「何故今それを実行する?」

「私が軍に入る前から計画があった様です、その為制海権を完全に掌握する必要がありました。その為の海軍の予算増だったんです。海軍の予算が増額された時点で作戦が進行していたのも同然ですね」

「タクティアは成功しないと思っているんだろ?」

「成功しないとまでは言い切りませんが」

「で? 本部はその作戦を何故実行するの、勝算はあるんだろうね」

「勝算があるから実行するんでしょうね]

 タクティアは少し間を置いた後
「‥‥‥軍団が‥‥動くそうです」

「マジで!?」

 今現在マシェルモビアにある軍団、兵数は3万以上の大部隊である。ハルツール軍は軍団規模の部隊を編成していない。軍団に対する対応を後回しにしていた

「はい、ハルツールはマシェルモビアの軍団がハルツール側に攻撃をかけるのと同時、ほぼ全ての戦力をもって陸、そして海で戦いを仕掛けます、マシェルモビアの軍団が緩衝地帯で進行している隙に、しかも、ハルツールの今作戦の主力が無事に上陸出来るよう、つまりこれは大規模な陽動作戦でもあります。
 陸で足りない分は大陸西部と中央の緩衝地帯の兵も引っ張り出し、海は東も西も一斉に押し上げます。そして西側を進む軍艦には陸軍を乗船させ目的地に到達後マシェルモビア領土に直接上陸、陸軍は移転門を落とすことになるでしょう。
 ハルツールが上陸させる兵士の数は軍団規模、兵士の中でも精鋭が選ばれる事になります」

 一通りの説明をしてくれたタクティアは深くため息を付き
「本当に‥‥間に合って良かったです」


 ◆◇◆◇


 もう少しラベル島に配属が遅れていたら、ハヤト隊もその中に入っていたのかもしれないとタクティアは言っていた。
 タウロンとニーア、この二人の任務が敵中に突っ込むような無謀ともいえる作戦では無いと願いたい

「それにしてもハヤトはラベル島ですか、いいですねぇ。陸軍にとっての楽園、羨ましいです」

「いいでしょ? ウチの参謀があれこれ裏で手を回してたみたいでね、ただ休暇を取るに帰るにしても船での移動になるし、大陸からかなり離れてるから時間が掛かるのが問題らしいよ。
 ほとんどの人はラベル島に家族まで呼んでそこに住む人もいるらしいんだ。俺ももしかしたらそこで家でも借りて住もうかと思ってるんだよね」

 サーナタルエの家はゴルジア首相からの借りものだから、家賃とか税金とか払わなくてもいいし

 

 その後もタウロン達と飲み続け、店の客の殆どが入れ替わり、日が沈んでもまだ俺達は飲んでいた。
 ニーアはさっきから酔いのせいかずっと笑い続け、エクレールは酒を飲むふりをしつつ何とか持ちこたえている。さっきから水ばっかり飲んでいるが、完全に出来上がっているニーアはそれに気づいていない。
 ニーアの部隊では酒を飲める人がいないらしく、他の人と一緒に飲めるのが嬉しくエクレールが進めるアルコール度数が高い酒を次々に口に運ぶ。
 どうやらエクレールはニーアを潰す魂胆でいるらしい‥‥その手が通じるといいですね

 俺とタウロンはペースを考え大人の飲み方をしていたが、しばしばニーアから自分が飲んでいるのと同じ度数の酒を差し入れされる

「━━でさぁ! ウチの隊長もビビっちゃってね、アタシがハヤトを部隊に入れてって言っても入れてくれなかったんだよね」

 昔同じ部隊にいた事で、話は自然と昔の部隊の話に流れていく‥‥‥だが、4人共死んでしまった隊員達の話はしなかった。
 いくら昔の事とはいえ、まだ4人共完全に忘れてはおらず、まだ思い出にはしたくないのだろう。俺も自然と死んでしまった仲間の話はしなかったし避けていた

「それは仕方ないだろう、あの時の隊長は『威圧』がまだあったからな、私も最初は━━っ!」

 話の内容が俺の昔の話になっていき、威圧の話になった時だが、ついつい口を滑らしてしまったエクレール

「え、何? 最初は?」

「あ、いや‥‥特には」

「何、何なの? ねえハヤト、エクレールはどんなんだった?」

 ニーアからそう聞かれたが、俺も酔いが回っていたためかつい‥‥
「最初に顔を合わせた時はエクレールが泣きながらお漏ら━━」

「わーっ! わーっ!」
 必死に大きな声を出し手で俺の口を塞ごうとするが、テーブルを挟んで正面に居たため手は届かず、勢いよくテーブルにお腹が当たりそのままテーブルにつんのめる

「えっ!? 『おもら』って言った!? おもらって、もしかしてお漏らしの事!」

 羞恥で顔が赤いのか、それともテーブルに顔をぶつけたせいで赤くなったのか、そのどちらかで顔を赤く染めたエクレールがニーアの口を押える

「ちっ! 違う! 私はそんな事━━!」

 つい口が滑ってしまったあとに、あちゃーと思ったが、俺もかなり酔いが回っていたので、まぁいいかと思い直す。
 エクレールには悪いけど、最初に口走ったのは彼女だし

「まぁまぁエクレール、ハヤトの威圧は我々も実体験しているので別に粗相をしたのもしょうがないと思いますよ?」
 
「タウロンも決めつけるような事を言うなぁ!」

 タウロンもニーアもお漏らしには厳しいのか、さらに追及する

「エクレールが漏らしてから別の部隊が救助に来るまでの着替えとかは? まさかそのままで!?」

 しかも面白いものを見つけたような目をするニーアの追及は止まらない

「ち、違う! 着替えだってもちろん持っているし、あの時は隊長に『洗浄』をかけて貰った!」

「「「あ‥‥」」」
 おっとぉ‥‥これはエクレールの失言、俺とタウロン、ニーアは同時に声を出し

「え? ‥‥あ!」
 一歩遅れてエクレールも自分で言った事を理解した

「あっはっはっは! やっぱり漏らしたんじゃん! ぷーっ!クスクス」
 
 全く容赦のないニーアに、あれだけ否定していたエクレールは、元々赤かった顔がさらに赤くなり、恥ずかしさからか目に涙を浮かべてしまった

 
 ‥‥‥なんか、こう
 そのエクレールの顔を見るともっとからかってやろうという気持ちがムクムクと起き上がって来るが‥‥


 やめとこう、後が怖い

 その後、エクレールは煽るように酒を飲みバタリと机に伏したり、タウロンの中二病が炸裂したり、15年前の思い出が汚されたような顔をニーアがしたりと、そんな話をしたりして、多分閉店ぐらいまで居たような記憶がある



 ・・・・

 ・・・・

 左の頬が何か硬い物に押し付けられているような感覚、結構な痛みが頬にあるが、意識が覚醒するまでその痛みに耐えなければならなかった。
 そして自分という存在を確認しその痛みの元を探ると、どうやら硬い床の上にうつ伏せで寝ているらしく、痛みから逃れるため頭を上げようとするが

 動かない

 何かに後頭部押さえつけられ頭を上げられない

「いって‥‥‥」

 押さえつけられている物をどかそうと腕に力を入れるが、その腕も動かない、それどころか足すら動かす事が出来なかった。
 ふと、右腕を誰かに掴まれているような感覚があり、右腕があるであろう場所に眼球を動かすと、そこには俺の腕を掴んだままのエクレールが倒れていた

「エクレール!」
 咄嗟に名を呼んだが、俺の声は掠れ、力が無い。だが倒れているエクレールの姿を見て一気に意識が覚醒する

 な、何があった! エクレールが!

 動かない左手に無理やり力を入れると何かに左手が挟まれている感覚、完全に押さえつけられている訳ではなく、無理やり左手を抜き取り力を込め、頭ごと上半身を起き上がらせた

 その瞬間

「へぇぇぇぇー」
 という声と同時に頭を押さえつけていた物がゴロンと転がる感覚

「なんだ?」
 転がった物をみると

「タウロン?」
 少し頭を整理するのに時間が掛かったが、俺の上で押さえつけていたのはタウロンの体だったらしい、それで何となく昨日の事を思い出してみると‥‥‥

「ああ、昨日は4人で飲んで‥‥それから‥‥‥」

 周りを見渡すと倒れている俺達を、これから出勤であろう人たちが避けて道を通っていた
「道路で寝た訳ね‥‥」

 ちなみに俺の両足にはニーアが乗っかり寝ていた

「どうりで動かない訳だ」

 

 
 最後まで意識があったニーア曰く

 エクレールが最初に潰れ、ニーアの標的になったのは正面に座っていたタウロンになり、タウロンが潰れた後俺に標的が向いたが、丁度閉店時間となり、潰れたエクレールとタウロンを俺が抱えるようにして運ぶことになった。
 ちなみに俺はその事も覚えていない。
 そして帰る途中(どこに帰ろうとしたのかは不明)バランスを崩した俺が倒れ、そのままエクレールも倒れることに、タウロンはそれに巻き込まれるように俺の上に倒れ込み、それを後ろから見ていたニーアは何となくめんどくさくなったそうでそのまま自分も寝る事に、しかし、地べたに直接寝たく無いので俺の足の上に乗っかるように寝たと


 互いに目を覚ました3人だが、ニーアは何事も無かったように普通で
「いやぁ昨日‥‥今日か? 今日は楽しかったよハヤトまた飲みに行こうね、今度はサシだぞ!?」
 と上機嫌で帰って行き



「うっぷ!‥‥また機会がありましたら‥‥うっっ!」

「『洗浄』」
 
「あ、ありがとうハヤト、どうかハヤトも元気で‥‥‥」
 ふらふらになりながらタウロンも帰って行った

 二人は今日軍艦に乗りこの都市を出るらしい。
 そうであっては欲しく無いが、もし二人があの作戦で直接上陸する作戦に携わっていたのなら‥‥
 
 もしかしたら二人の最後の姿を見るのは今日が最後かもしれない
 そう思いつつ二人の後ろ姿を見送った


「さて、これはどうしよう」
 
 まだ意識が曖昧で「うー」とか「あー」とか言っているこの人、俺の腕を掴んだまましゃがみ込んでいるエクレールだ。
 ハヤト隊の出発は昼なのでそれまで回復してくれればいいのだけれど

 当然だがここに放置して行くわけにもいかず、かと言ってこの出勤する人達が見ている中、抱えて連れて行くのは恥ずかしい。でも連れて行かなきゃどうするの? という状況のなか、彼女の背に手を回しぐっと力を入れ起き上がらせる━━

「ハヤト?」

 ん? 呼んだ?

「ハヤトだよな‥‥‥」
 俺にそう呼びかけてきたのは、やたらとカッコイイ男性兵士だった。その後ろにはもう1人男性兵士がいたが、二人の恰好は海軍の制服、つまり海軍の人間になるが、
 海軍に俺の知り合いは‥‥‥

「バール? お前、バール!」
 俺が唯一知っている海軍の人間

「おおう! やっぱりかハヤト!」


 軍学校において、陸軍に入れる才能を持ちつつも、竜翼機乗りに志願し、4年の所を3年で軍学校を卒業。その後、巡洋艦アルドレスに配属される事となった俺の親友の一人
 
 バール・エリネルだった
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