異世界陸軍活動記

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転機

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「オリバーを呼んできてくれ、任務が急遽変更になった」

 カナル隊長は、俺と後ろで笑い転げているブライとニーアに向けてそう言ってきた。


 隊長の後ろにはタウロンとミラがいる、隊長と一緒に今回の任務の詳細を聞いていたのだ。

 ブライとニーアがまだ腹を抑え苦しんでいる最中なので、俺がオリバーを呼んでくることになる。


 ◇


「任務の事だが、つい先ほど変更になった」

 隊長の話を聞いている隊員達は、皆真面目な顔で聞いているがブライはお腹をさすっている、まだ痛みが取れないのだろう。

「中央後方の予定だったが、急遽、中央前線に変更になった」

「‥‥あー、隊長? ハヤトがいるにも関わらずですか?」
 まだ仮入隊中の学生がいる場合、その部隊は比較的安全な場所の任務に当たるが、今回変更された任務は異例のことになる。

「そうだ、中央前線に歪みが発生した」

「「「 えっ!? 」」」

「バリス隊から任務遂行予定地に移動中発見したとの報告があった、バリス隊は遂行中の任務があるので動けん、今動けるのは我々しかいない、準備でき次第すぐに出発する」


 ◇


 任務を遂行するにあたって必要な物を軍から支給される、武器・防具はもちろんのこと、食料と水、食料は任務予定期間よりももしものことを考え多めに、水は比較的契約しやすいと言われる『水』魔法を使える者が多いので極々少量、隊によっては水は持って行かない隊もある。

 そして、もし隊員が死亡した場合の時の棺桶、『収納』魔法には、生きている人間はもちろんのこと、死亡した人間も入れることが出来ない、しかし魔道具化した棺桶の場合は遺体を収めたうえで収納出来る、
 これを一人一つ支給される、使いたくはない魔道具だがこれがないと遺体を背負って帰還しなければならない、仲間の遺体を放置することも出来ないし、放置した場合は、兵士に最も忌み嫌われるヒュケイに遺体をむさぼられることになる、共に過ごした仲間が食われるところは絶対に見たくはない。
 カナル隊長とオリバーは実際にこの棺桶を使ったことがあるらしい、かつて隊長は仲間をこの棺桶の中に入れたとか・・

 そのほかに支給されるのは個人を特定するためのネックス型のタグ、数が多く遺体が回収できない場合このタグを回収する、タグには所属する隊・個人の番号そして名前が記載されている、このタグの回収には敵国マシェルの兵も含まれる

 タグはその兵が死亡したという証拠になる、相手国のタグも集めるのは、敵国でもあるが同じ兵として敬意を払うということでだ、もし相手国のタグを拾わなかった場合、それは自国の兵が死んでも拾ってもらえなくなる、そうすれば家族などに死亡したことすら伝わらないことになる、軍からは相手国のタグを拾えとは言われてないが、お互いの兵にとって暗黙のルールになっている。

 それと敵国の兵の遺体についても同様、棺桶に余裕があれば回収することになっている、オリバーは別の隊に居たとき敵の遺体を2度回収したことがあったそうだ。



 

 今隣ではミラが俺の準備の手伝いをしてくれている、今回の任務が始まる1週間前

「来ちゃった」
 といきなり来られた時は何事かと思ったが、1週間の休みを貰ったとのことで俺は学校に、次の任務の準備をしたいから1週間休みたいと申し出た結果、あっさり承諾されそのまま誘われるがままミラの部屋に行った、朝から晩まで、おはようからおやすみまで常にミラと一緒だった。
 食事も3食ミラの手作りだ、ただ・・日に日に砂糖の量が多くなり甘さが増してくるのは正直辛かった、『防病の契約』で病気にかからないからだろう、この世界の人たちは偏食が多い、ただの煮物に砂糖一袋使ったときは開いた口が塞がらなかった。

 楽しそうに俺の世話をしてくれるミラを見て、ふと初等部にいたコトンちゃんを思い出した、もうそういえば4年? 5年だったか会っていない、ケンタ君もそうだけど今度の任務が終わってから一度会いに行ってみようかな、もう忘れているだろうか。


 そんな隣で手伝いをしてくれるミラの首には2つのチェーンが下がっている、一つは個人識別用のタグともう一つは俺がミラの部屋に行った初日にプレゼントした物だ、
 鍛冶で以前作った日本刀の改良をしている時一緒に作った物で、召喚獣のコスモの翼の片方を形どった物、全て魔鉱石で出来ており、『硬化』と『照明』の魔法を付与してある、『硬化』は強度のため、『照明』は弱い光をゆっくりと点灯するようにかけている、翼の模様によってキラキラと不規則に光る、以前ミラと見た滝から溢れ出る光のように輝いていた。



「いいかハヤト、女はなプレゼントに弱いんだ、10代のときは安い物でもいいけど20代になるとな、同じプレゼントでも、金銭的価値のある物にしか興味がなくなるから注意しろよ」

 我が敬愛する兄さんのお言葉である、中学校からカノジョ持ちの兄は、その当時付き合っていた女性とずっと付き合っていた、その兄のありがたいお言葉なので間違いはないだろう、ただし被験者は一人だけなので少々不安だが、

「今は俺の手作りだけど、そのうちもっとイイのを買ってあげるよ」
 給料なんてまだ出ていないし、一応任務の手当てはつくけど

 申し訳なさそうに渡したプレゼントに彼女は、両手で大事そうに持ちながら

「ううん、これでいいの‥‥ありがとう」
 
 少し目に涙を浮かべミラはそう言った、そして事あるごとに手で優しく触ったり、服の上からペンダントの辺りを抑える仕草をするようになった、そこまで喜んでくれるとこっちも嬉しいし、ミラはとても純粋な人なんだと思った

 それに引き換え、実の姉の洋子は恐ろしいことに小学校から彼氏がいて、ウチに連れ込んだ男は2桁になる、洋子が彼氏を連れてくると、洋子の隣の部屋の兄さんが俺の部屋に避難してくる、

「いや‥‥色々聞こえてきて」

 色々聞こえてくるらしい、それが実の姉だから悶々としつつもどうにも出来ない、複雑な気持ちになるとか

「元カレから貰ったプレゼントさー、全部で3万にしかならなかったよ」
 新しい男が出来ると、元カレのプレゼントをすべて売却する洋子、まぁそれはいいが元カレの名前が、〇〇万の元カレとかになる、それを聞いた元カレは何と思うだろうか?

 ・・・あんなのに騙された元カレ達が悪いんだろう、ご愁傷様


 ・・・・・・・・

 ・・・・


「これで全部だね」

「うん、ミラありがとう」

「どういたしまして」
 お互いにニッコリとほほ笑む



 それをじーっと見ていたニーアとタウロ
「ねぇ、あんた達何かあった?」

 ビクッ!! っとミラの体が一瞬震える

「え? いや別に…」
「そ、そ、そうよ、私たち特に何もしてないわよ」

 俺はうまく返したが、ミラはボロが出るような言い方だ、二人の事は他の隊員達には内緒にしようとミラと決めていたので、ミラの今の言い方は少しだけまずい

「ハヤトさー‥‥お姉ちゃんじゃなくて名前で呼ぶようになったんだね、なんで?」
 半目でニーアが探るように見つめてくる
 
 今度はビクッ!! っと今度は俺の体が震える

「え‥‥ほ、ほら、一応同じ隊の仲間だし、ほら、ね、いつまでもお姉ちゃん呼びはちょっと…ね」

「ふーん、でミラさーその首に掛かってるネックレス? ペンダント? この前は無かったよね」
 ニーアは追撃の手を休めることは無いそうだ

「これは買ったの! そう、この前の休みに買ったの!」

 ニーアの手がス~っとミラの首に掛かるチェーンに手をかけ、服の中からペンダント部分を出す。

 あ…マズイ
 
「‥‥これ、ハヤトの召喚獣の翼に似てるわね、何で?」

 キラキラと光るペンダントに
「へーこれは凄いですね」
 とタウロンがペンダントを褒める

 でしょ? 俺が作ったんですよ! と言いたいが言えない

「たまたま買ったのがそうだったの! 買ったらそうなってたの!」

「へーぇたまたまねぇー、ハヤトはアクセサリーとかも作ってたわね」

「え? ええ・・」

 目が完全に泳ぎまくっているミラと、苦さ9割笑い1割の苦笑いを浮かべる俺を、交互にニーアは見ていた、そんな二人を見て確信したような納得したような顔をしたニーアは


「ふぅ、まぁいいわ二人とも、でもねここは軍だから規律という物があるからね、所かまわず好き勝手しないようにね、するなら証拠を残さないようにしてね」

「う――――‥‥」
 顔を両手で隠しうずくまるミラ、正直可愛い今したい、いろいろと‥‥

 証拠?大丈夫、魔法大辞典で『洗浄』に匂いを消すのが載っていたから証拠は出さない、任せてミラ

 これで追及は終わりかと思ったが、二―アの顔がニヤニヤしているまだ追及は終わってないようだ、さすがにこのままではイカンと思い話題を変える、何か‥‥何か‥‥ん?タウロンも変な首飾りしているな。

「というか、タウロンも首飾りしてるよねそれは?」

「ああ、これですか?これは撮影用ですよ」

「撮影?」

「ええ、戦闘の記録のための物ですよ、報告書では伝えきれない情報があった場合こちらで解析するんです」


「おおーい!! ニーア!! タウロン!! 手伝ってくれ!!」
 オリバーの声がするなーと思ったら、かーなり遠いところからオリバーが二人を呼んでいる。

 ホントに遠いな‥‥あそこからこの声量が届くとは。

「おっとぉ呼ばれたよ、続きは後でね、ああ、それと…倉庫の後ろの着替え用のテントってさー、中からカギを掛けられるようになってるから便利だよねー」
 ニッヒッヒと笑いながら二人はオリバーの方へ向かっていった。

「ふぅー、オリバーのおかげで助かったね」
 隣を見ると若干顔を赤くしている

 周りに誰もいないのを確認して、お尻をサワサワと触ってみる

 バチ―ン!
「痛った!」

 手をはたかれてしまった、駄目だったか…と思ったが、そのあとすぐに手を掴まれそのまま倉庫の方に体を引っ張られ、歩き出した。

「証拠隠滅は俺に任せといてミラ」

 と言うと彼女は『身体強化』使い、俺を担いで走り出した
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