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家族の風景
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心臓の音が高まる。
自然と声が、足が震えるのがわかる。
病院の出口までは、たった数メートルしかないにも関わらず、遠いものに感じられた。
ダーウィン一家は、母と娘、それから父親の3人なのだろうか。
「アーシャ、振り返らないでね」
アイリスと呼ばれた少女が表情を変えずに言った。
その時、エレベーター前でちょっとした騒ぎが起きた。
病人が急に苦しんで倒れたようで、皆の関心がそちらに向いていた。
「じゃあ、行こうか」
ひょいっと身体を持ち上げられ、自然に抱きつく形になる。
父親はいかにも職人らしい、無骨な身体をしており、子供一人なら片手で持ち上げられそうだった。
それでいて、抱え上げる際の所作は手慣れていて、いつもそうしているのだと言わんばかりの自然な慈愛に満ちた動きだった。
「ファラが嫉妬するわね」
母親が言った。
「なーに、2人同時でも苦じゃないよ」
「じゃあ、私も合わせて3人はどうかしら?」
アイリスがいたずらっぽい顔で見上げる。
「さすがに、それはキツいぞ」
ゴーフルは、見知らぬ家族に囲まれながら、直前までの不安とは別の種類の戸惑いを感じていた。
あまりにも自然過ぎる流れだ。
病院の出口まであと数歩というところまで来た。
「すみません」
扉をくぐろうとした瞬間に、呼び止める声がした。
「どうしました?」
「娘とはぐれてしまって、3歳くらいの髪の短い女の子なんですが」
身なりのキレイな婦人だったが、それぐらいの娘がいるにしては老けている印象だ。
「それは、大変ですね。はぐれたのは病院の中ですか?」
母親が同情的な声をあげる。
「はい、つい数分目を離したすきにどこかに行ってしまって」
女性はアイリスを見て、それからゴーフルの顔も覗きこもうとする。
「すぐに病院の受付に確認しないといけませんね、呼び出してもらうのはどうですか?」
父親が言う。
「そうですね、そうします」
「あぁ、うちの娘は恥ずかしがり屋でね。大丈夫、怖がらずに挨拶しなさい」
顔を見られないように、体をと押し付けていたが、恐る恐る女性に向き合う。
「こ、こんにちは」
「こんにちは、ごめんなさいね」
顔を見せた事で逆に、人違いだと分かったのか女性は足早に受付の方に
去っていった。
敵はゴーフルがわざわざ服装や、ウィッグまで用意して脱走したとは考えていないようだ。
「さぁ、行きましょう」
「もうすぐ、私達の車よ」
カプセル型の乗り物が普及してからも移動にはもっぱら車が使われる事が多かった。
地中を潜るカプセルは長距離の移動速度を劇的に早めはしたが、小回りのきく車のような利便性はなかった。
「じゃあ、行こうか」
「私達の教会に帰りましょう」
運転は自動だが、父親が前に座る。
後ろは母親を真ん中にして、ゴーフルとアイリスが両脇に座る形になった。
「買い物をする余裕はなくなってしまったわね」
「なにか、必要なものが?」
「ええ、1つだけ買い忘れているものがあるの」
母親は笑顔でそう言った。
自然と声が、足が震えるのがわかる。
病院の出口までは、たった数メートルしかないにも関わらず、遠いものに感じられた。
ダーウィン一家は、母と娘、それから父親の3人なのだろうか。
「アーシャ、振り返らないでね」
アイリスと呼ばれた少女が表情を変えずに言った。
その時、エレベーター前でちょっとした騒ぎが起きた。
病人が急に苦しんで倒れたようで、皆の関心がそちらに向いていた。
「じゃあ、行こうか」
ひょいっと身体を持ち上げられ、自然に抱きつく形になる。
父親はいかにも職人らしい、無骨な身体をしており、子供一人なら片手で持ち上げられそうだった。
それでいて、抱え上げる際の所作は手慣れていて、いつもそうしているのだと言わんばかりの自然な慈愛に満ちた動きだった。
「ファラが嫉妬するわね」
母親が言った。
「なーに、2人同時でも苦じゃないよ」
「じゃあ、私も合わせて3人はどうかしら?」
アイリスがいたずらっぽい顔で見上げる。
「さすがに、それはキツいぞ」
ゴーフルは、見知らぬ家族に囲まれながら、直前までの不安とは別の種類の戸惑いを感じていた。
あまりにも自然過ぎる流れだ。
病院の出口まであと数歩というところまで来た。
「すみません」
扉をくぐろうとした瞬間に、呼び止める声がした。
「どうしました?」
「娘とはぐれてしまって、3歳くらいの髪の短い女の子なんですが」
身なりのキレイな婦人だったが、それぐらいの娘がいるにしては老けている印象だ。
「それは、大変ですね。はぐれたのは病院の中ですか?」
母親が同情的な声をあげる。
「はい、つい数分目を離したすきにどこかに行ってしまって」
女性はアイリスを見て、それからゴーフルの顔も覗きこもうとする。
「すぐに病院の受付に確認しないといけませんね、呼び出してもらうのはどうですか?」
父親が言う。
「そうですね、そうします」
「あぁ、うちの娘は恥ずかしがり屋でね。大丈夫、怖がらずに挨拶しなさい」
顔を見られないように、体をと押し付けていたが、恐る恐る女性に向き合う。
「こ、こんにちは」
「こんにちは、ごめんなさいね」
顔を見せた事で逆に、人違いだと分かったのか女性は足早に受付の方に
去っていった。
敵はゴーフルがわざわざ服装や、ウィッグまで用意して脱走したとは考えていないようだ。
「さぁ、行きましょう」
「もうすぐ、私達の車よ」
カプセル型の乗り物が普及してからも移動にはもっぱら車が使われる事が多かった。
地中を潜るカプセルは長距離の移動速度を劇的に早めはしたが、小回りのきく車のような利便性はなかった。
「じゃあ、行こうか」
「私達の教会に帰りましょう」
運転は自動だが、父親が前に座る。
後ろは母親を真ん中にして、ゴーフルとアイリスが両脇に座る形になった。
「買い物をする余裕はなくなってしまったわね」
「なにか、必要なものが?」
「ええ、1つだけ買い忘れているものがあるの」
母親は笑顔でそう言った。
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