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迫真の演技
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「さて、それじゃあオムチュを換えましょうね」
ヘスティアは通常モードに切り替えたらしく、ゴーフルに優しく話しかける。
「うっ、う」
何度経験しても、この恥ずかしい状況は慣れない。
「じゃあおててはナイナイして、両足をあげてね。そうそう、もう慣れっこかしら」
「んっ」
手際よく汚れたオムツは取り替えられて新しいフカフカのオムツがその下半身を覆う。
「はい、これで終わり」
「ヘスティアさん、リハビリを続けたら……オムツは卒業できますか?」
「もちろん、だってその身体は4歳くらいなんだから、本当ならもうパンツのお姉ちゃんになってるはずでしょ?」
「わ、言わないで」
たしかに、普通なら4歳児ともなれば自分でトイレにもいけるだろうし、少なくとも昼間のおもらしは卒業していそうな年齢だ。
「甘えん坊なアーシャちゃんは、いつまでもママに甘えていたいからオムツが大好きになっちゃったのね」
「ち、違います。これは何かの間違えというか……その」
「大丈夫。最初は誰だって失敗しながら大人になっていくんだから」
「あ、ありがとうございます」
「ふふ、じゃあ明日の返事期待しているわ」
ヘスティアはからかうでもなく、優しく微笑みながら言う。
「はい、一晩しっかり考えます」
「くれぐれも、他の看護師の前では気をつけてね。組織の人間がどれくらいいるか解らないしね」
その言葉に改めてゴーフルは気を引き締めた。
ヘスティアと入れ替わりに入ってきたのは昨晩の小児科担当の看護師だった。
「あー、なんかアーシャちゃん嬉しそうね。私のときはあんなにイヤイヤしてたのに。ヘスティアさんには柔順なのね」
「当たり前よ、私にワガママを言ったらどうなるかよーく、解っているでしょうからね」
言葉は冗談とは思えないくらい凄味がある。
「……怖っ」
ヘスティアの方が小児科の看護師よりは立場は上らしい。
「オムツは今替えたばかりだから、しばらくは大丈夫かな。あとは離乳食お願いします」
「わかりました」
やはり、ゴーフルはまだ普通の食事はさせてもらえないらしい。
ヘスティアが外に出て、昨日の看護師とふたりきりになると、ゴーフルは少し緊張する。
急に味方が居なくなり、敵地で1人過ごすような頼りなさはある。
「あらあら、そんなに固くならなくていいのよ。昨日はアーシャちゃんが悪い子だからお仕置きしただけで、普段はとーっても優しいんだから」
「う、うん僕いい子にするよ」
「よろしい。じゃあ食事の前に、お注射終わらせちゃいましょうか」
そういうと唐突に看護師は注射器に薬剤を注入し始めた。
「やだ、お注射怖い、やだよー」
ゴーフルはヘスティアの話を思い出し、これが筋肉弛緩剤なのではないかと恐怖した。
「大丈夫、ちょっと最初はチクッとするけれどすーぐ終わりますからね」
「やだやだやだぁ」
「あらあら、いい子になるって言ったのは嘘だったのかなぁ。嘘をつくのは悪い子だって昨日教えてあげたよね」
元科学者のゴーフルにとって、注射など怖くもなんともないが、今回は別である。
「アーシャちゃん、お注射の時に暴れたら、間違って違うところに針が刺さってしまうかもしれないわ」
優しく諭しているように見えるが、これでは脅しているのと同じである。
「んぐ、うっ、うわーん」
ゴーフルは迫真の演技で泣き出した。
いや、もはや演技ではなく幼児さながらの恐怖の涙である。
「あらあら、涙でお顔がグシャグシャね。それにお漏らしまでしちゃって、わかった。わかったから、お注射は後にしましょう」
ここまで泣かれたら、他の病室にも何事かと騒がれてしまう。
「うっ、うぇーん。お注射やぁだぁー、やだぁー」
「しょうがないわねぇ」
ついには看護師も諦めて、目の前から注射のキットを片付けた。
ヘスティアは通常モードに切り替えたらしく、ゴーフルに優しく話しかける。
「うっ、う」
何度経験しても、この恥ずかしい状況は慣れない。
「じゃあおててはナイナイして、両足をあげてね。そうそう、もう慣れっこかしら」
「んっ」
手際よく汚れたオムツは取り替えられて新しいフカフカのオムツがその下半身を覆う。
「はい、これで終わり」
「ヘスティアさん、リハビリを続けたら……オムツは卒業できますか?」
「もちろん、だってその身体は4歳くらいなんだから、本当ならもうパンツのお姉ちゃんになってるはずでしょ?」
「わ、言わないで」
たしかに、普通なら4歳児ともなれば自分でトイレにもいけるだろうし、少なくとも昼間のおもらしは卒業していそうな年齢だ。
「甘えん坊なアーシャちゃんは、いつまでもママに甘えていたいからオムツが大好きになっちゃったのね」
「ち、違います。これは何かの間違えというか……その」
「大丈夫。最初は誰だって失敗しながら大人になっていくんだから」
「あ、ありがとうございます」
「ふふ、じゃあ明日の返事期待しているわ」
ヘスティアはからかうでもなく、優しく微笑みながら言う。
「はい、一晩しっかり考えます」
「くれぐれも、他の看護師の前では気をつけてね。組織の人間がどれくらいいるか解らないしね」
その言葉に改めてゴーフルは気を引き締めた。
ヘスティアと入れ替わりに入ってきたのは昨晩の小児科担当の看護師だった。
「あー、なんかアーシャちゃん嬉しそうね。私のときはあんなにイヤイヤしてたのに。ヘスティアさんには柔順なのね」
「当たり前よ、私にワガママを言ったらどうなるかよーく、解っているでしょうからね」
言葉は冗談とは思えないくらい凄味がある。
「……怖っ」
ヘスティアの方が小児科の看護師よりは立場は上らしい。
「オムツは今替えたばかりだから、しばらくは大丈夫かな。あとは離乳食お願いします」
「わかりました」
やはり、ゴーフルはまだ普通の食事はさせてもらえないらしい。
ヘスティアが外に出て、昨日の看護師とふたりきりになると、ゴーフルは少し緊張する。
急に味方が居なくなり、敵地で1人過ごすような頼りなさはある。
「あらあら、そんなに固くならなくていいのよ。昨日はアーシャちゃんが悪い子だからお仕置きしただけで、普段はとーっても優しいんだから」
「う、うん僕いい子にするよ」
「よろしい。じゃあ食事の前に、お注射終わらせちゃいましょうか」
そういうと唐突に看護師は注射器に薬剤を注入し始めた。
「やだ、お注射怖い、やだよー」
ゴーフルはヘスティアの話を思い出し、これが筋肉弛緩剤なのではないかと恐怖した。
「大丈夫、ちょっと最初はチクッとするけれどすーぐ終わりますからね」
「やだやだやだぁ」
「あらあら、いい子になるって言ったのは嘘だったのかなぁ。嘘をつくのは悪い子だって昨日教えてあげたよね」
元科学者のゴーフルにとって、注射など怖くもなんともないが、今回は別である。
「アーシャちゃん、お注射の時に暴れたら、間違って違うところに針が刺さってしまうかもしれないわ」
優しく諭しているように見えるが、これでは脅しているのと同じである。
「んぐ、うっ、うわーん」
ゴーフルは迫真の演技で泣き出した。
いや、もはや演技ではなく幼児さながらの恐怖の涙である。
「あらあら、涙でお顔がグシャグシャね。それにお漏らしまでしちゃって、わかった。わかったから、お注射は後にしましょう」
ここまで泣かれたら、他の病室にも何事かと騒がれてしまう。
「うっ、うぇーん。お注射やぁだぁー、やだぁー」
「しょうがないわねぇ」
ついには看護師も諦めて、目の前から注射のキットを片付けた。
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