ダーティマシーナリーの享楽

絃屋さん  

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招かれざる客は客に非ず

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山積みになった書物がグラグラと揺れている。
「違う!そうじゃないって何度言ったら分かるんだ! 」
ソシエルが叫ぶと、書庫の埃が舞い上がる。
アンはメガネの埃が気になり、話を全く聞いていない。
「お前らは仕事を手伝っているのか邪魔しにきてるのかどっちだ」
怒りの矛先は、狐耳の男の子ポンに向けられている。
見た目は10歳ほどの少年の耳は完全に垂れており、萎縮している。
「さすがにそれは権利の濫用ですよぉ」
恐る恐るといった風に少年が進言する。
その進言は、火に油を注ぐ。
「んなことは、解ってんだ。いちいち気にしてたら仕事が進まないんだよ」
「……」
少年はちらりと、床に転がっているもう1人に目をやった。
「これはさすがに仕事ではないアル……」
チャイナ服のタンは縛られている。
比喩ではなく、実際に、物理的に縛られていた。
「うーん、おかしいな」
「御主人様、そもそもこれは何を?」
「東亜細亜に伝わる緊縛秘術らしいが……そもそも偽書だったか」
「足をどけるアル」
縛られたタンは完全に足置きにされている。
「杉谷の依頼だったから出所は確か……うーん」
「御主人様!」
「なんだよ、うるさいな。今考え事してんだよ」
「紐が絡まって動けません」
「そこで寝とけ。おい、いつまでボケッとしてるアン!お茶いれろ」
「畏まりました」
アンは壁をすり抜けて、給湯室に消えていく。
「さぁて、役立たずどもにはお仕置きが必要だな」
「私は言うとおりにしてただけアル。役立たずはポン助だけアルよ」
「言い訳無用!」
そういうとソシエルは、タンの脇に手を入れて擽り始めた。
「ぐぅ、やめてぇ、やめてくらさぃ、脇は弱いアル」
「ほう、脇じゃなければいいのか?」
そういうと、今度は足の裏を執拗に撫で回す。
「ひぃぃ、やめてぇ」
その様子を見ていたポンは、なぜか羨ましそうに見ている。
「御主人様ぁ、御主人様ぁ、僕も、僕もお願いします」
「このド変態が、お前はそこでヨダレたらして見とけばいいんだよ」
「そんなぁ~酷すぎるよぉ」
3人が過剰なスキンシップをしていると、急にアラートが鳴りはじめた。
「なんだ?」
「なになに、侵入者?」
「なんでお前は楽しそうなんだよ」
さらにアナウンスが告げられる。
「第一層突破されました」
「ちっ、お仕置きはいったん中止、お前ら迎撃準備!」
「御主人様、紐!」
その言葉と同時に、炎が捕縛していた紐を焼き払う。
「山海径、解体芯書を展開。ポン、タン、備えろ!」
「はい!」
「りょーかいアル!」
書物にシールドがコーティングされ、防衛機構が作動する。
正面の扉がぶち抜かれ、姿を現したのはボロボロの服をまとった機械人形だった。
「!?」
「人形?」
「あれはたしか……」
「なんだ、タン知ってるのか?」
ソシエルが尋ねる。
「御主人様、あれはラブドールですよ。しかもかなり旧型の」
「ほう、愛玩用のからくりの類いか」
「えーと、typeはFです。誤作動でしょうか」
「なんでもいい、とにかくぶっ壊す!」
人形は、一直線に向かって走り出し、防御の体勢をとったソシエルの横を素通りしていった。
「……」
「敵意がないのかな?」
「わからん、お前ら油断はするなよ」
人形は何か目的があるのか、ひとつの本棚の前に止まる。
「アイタイ……アイタイ」
人形はシールドの上から、一冊の本に手を伸ばしている。
「死者の書……ずいぶん物騒なもんをご所望で」
「来るよ」
機械人形は、今度はタンの方に突進してくる。
「動きが単調姿過ぎるアル!」
人形が避けようとしたタンの目の前で急に停止する。
「馬鹿!油断するな」
人形の手足が分離し、タンの身体に密着する。
「気持ち悪いアル」
さらに、本体から伸びたコードが帯電しスタンガンのようにタンの身体に電撃を加えた。
「ぎぁぁぁぁぁ」
生身の身体に致死量の電気を加えられたタンは気絶してしまう。
「うー、ビリビリ恐いよぉ」
ポンはそれを見て、ゴム性のブレードナイフに変化し、ソシエルがキャッチする。
「肝心な時に役に立たないやつだな、物理はメス豚の担当だろうがぁ」
タンを罵りながら、ソシエルは
関節のコードに狙いを定めて、人形に斬りかかる。
ソシエルの運動能力はそれほど高くはない。
あくまでも文官である。
右腕を斬り落とし、右足を狙ったところで人形はすでに反撃に転じる。
しなる脚に吹っ飛ばされて、壁に叩きつけられる。
「ぐはっ」
致命傷にはならなかったが、すぐには起き上がれない。
「……魔女への鉄槌を展開」
人形は追撃を加えようとソシエルに向かってくる。
だが、直前でその動きが止まる。
「ソウルスティール。御主人様、お茶が入りましたよ」
空中に浮遊したアンが、ティーカップのお茶を人形の頭に注いでいた。
「お客様、残念ながら来館される際には、その汚いお召し物は脱いで裸エプロンで来館ください」
「はぁはぁ、お茶が……もったいねぇ」
それだけ言うとソシエルは意識を失った。


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