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目覚め

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ある日、自分の中に自分とは異なる人格がいることに気がついた。
それは、とても不思議な感覚で誰にもその事実を伝えることができなかった。
子供の頃に父と母が乗った飛行機が事故に遭い、孤児となったあと親戚の家をたらい回しにされた時期があった。
その時のトラウマが影響しているのかもしれない。
幸い高校を卒業したタイミングで祖母と一緒に住み始めてからは、違和感のことは思い出すことすらなく、平穏な日々を送れていた。
別の人格が表に出ることはもともと無かったので、そのことに気付く人間もいなかった。
そして、自分すらもその記憶に蓋をしてしまっており、別人格の名前すら忘れてしまった。

だから、幼少期のメモを参考に、新たにその人格を整理しなければならなくなるとは思いもよらなかった。

そのきっかけは、未知のウィルスに感染してしまった事から始まる。

そのウィルスは、何故か本来持っている情緒や感情の揺れ動きに対して強く反応し肉体の急激な変容をもたらすという特徴をもっていた。

世界でも自分をのぞいて2例しか発症者がいない奇病で、治療の方法はおろか、要因も特定できていないという。

唯一、特別なウィルスがその引き金となっていることだけはわかっていた。

「基本的には、ほとんど人体に影響を与えることがないのですが、強いショックやメンタルの不調に見舞われると身体が反応するとされていむす」
「反応ってどういうことですか? 今朝みたいな事が頻繁に起こるということですか?」
医師に疑問をぶつけてみるが、かえってくる返答の歯切れが悪い。
「私が聞いている内容とは少し異なりますが、恐らく、たぶん、そうじゃないかと」
「治る方法はあるんですか?」
「今のところはありません」
「嘘だろ」
「ただ言えることは、気持ちを安定させていくことができれば日常生活には支障がないということです」
「気持ちって言われても、人間なんだから感情を完全にコントロールするのは無理ですよ」
「できるだけ、できるだけフラットな気持ちでいるように心がけましょう」
「わかりました。頑張ってみます」 そう答えるのが精一杯だった。
朝のことを思い出そうとすると、それこそ感情を乱されるような気がしていた。
まさか、朝起きたら肉体が若返っているなんて。

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