透明な恋が終わった先で、君と笑えるように

矢田川いつき

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プロローグ

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 人は迷う生き物だ。
 土地勘のない場所では簡単に方向を見失う。
 時には、知っている場所でさえ迷うこともある。
 幼い記憶を辿れば、ショッピングモールなんかでの迷子もそうだ。
 ある程度大人になってみれば、人生なんていう形のない曖昧な道で途方に暮れる。
 今、自分はどこにいるのか。どこに向かえばいいのか。
 なにをしたくて、なにをしたくないのか。
 複雑な情報や自分がいる環境、綯い交ぜになった感情に振り回され、自分の気持ちさえもわからなくなり、言い知れぬ不安や焦燥感に追い立てられる。
 それはある種の必然で、程度の差こそあれ、おそらく誰もが経験するのだろう。
 大人というにはまだ幼く、子どもというには成長しすぎた高校生の時に、僕は進路というありふれた悩みを抱えていた。
 周囲がとりあえずの行き先を定める一方、僕は特にやりたいこともなく、身近に大切にしたい恋人なんかもおらず、ぼんやりと白紙の進路調査票を眺めていた。
 そんな、夏休み前のことだった。

「こんにちは! いや、もうこんばんはの時間かな?」

 天真爛漫な、僕とは対照的な彼女と出会ったのは。
 高校生の夏らしく、幼馴染に半ば連行されるようにして付いて行った肝試しで遭遇した。

「どうどう? 私、生身の人間じゃなくて幽霊でしょ?」

 すべての記憶を失くした、迷子の幽霊に――。

 幽霊らしくない無邪気な笑顔を、今でも鮮明に覚えている。
 振り返ってみれば、あの出会いが僕の迷いの質をも変えていった。

「私が迷子の理由、というか未練を解消するの手伝って!」

 そんなお願いをされた、高校三年生の六月。
 忘れられない、叶うはずのない恋が、始まった瞬間だった。
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