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第3章 幸せの感触
第22話 これからのこと
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「瞳さんってさ、進路っていつ決めた?」
高坂くんと解散したあと、私は瞳さんのところに来ていた。帰宅するや否や、待ち構えていたかのようにお母さんからタッパー入りの保冷バッグを渡されたからだ。ここ最近は特に多く、二日に一回のペースで来ている気がする。
「ん~? 進路ぉ~?」
私が麦茶を片手に辟易としている一方で、瞳さんは熱心にカップラーメンの物色をしながら曖昧に返事をした。いつも通りのマイペースっぷりは、見ていてなんだか安心する。
「確か~、高二の時だったかなあー?」
「やっぱり私くらいの時期だよねー。あーあ、どうしようかなあ」
「どうしたどうした? あれか、最近できた噂の彼氏くんか?」
夕ご飯を食べたばかりだというのに、今から食べるらしいミニカップラーメンを手にした瞳さんは、意地の悪い笑みを浮かべてテーブルについた。ラベルには濃厚辛味噌唐辛子入りとある。
「んーーまあ、んー……そう」
少しだけ迷って、私はこくりと頷いた。
美菜と同様に、瞳さんにもずっと好きだった高坂くんと恋人になったことは大まかに話してある。もっとも付き合ってすぐのころ、瞳さんのところに来た時に「あれ? なんかいいことあったの~?」と一発で見抜かれたのだが。
それからは青い糸とのことも相まって、私の悩みのほとんどを瞳さんに相談していた。
「なんか彼、やってみたいことがあって進路を固めようとしてて、すごいなあって思って。私は勉強苦手だし、スポーツもできないし、やりたいこともわからないしで中途半端だなあって」
「んーなるほどねぇ。ちなみにそれ、彼氏くんには言ったの?」
「ううん、言ってない。まずは自分で考えてみようかなって」
それに、やっぱりまだ高坂くんとの距離をこれ以上縮めていいものか迷ってもいた。彼との距離が近くなればなるほど、不幸も近づいてくるような気がして。そして、いざ不幸に見舞われた時の悲しみや悔しさも大きくなってしまうような気がして。その結果、未だに高坂くんのことを「実くん」と呼べていないし、じつは私から「好き」とは伝えられていない。本当に、悩みは尽きない。
「ねえ。瞳さんも高二の時に決めたって言ってたけど、なんかきっかけとかあったの?」
「私? んー、そうね~~」
私の問いに瞳さんは少し考えるような素振りをしつつ、電気ケトルから沸いたお湯をカップに注いだ。
「私はねー、お金を稼ぎたかったから」
「え?」
「お金持ちになって、美味しいものをたくさん食べて、買いたいものを好きなだけ買って、なに不自由なく暮らしたかったのよー、私。んで、理系で勉強得意だったから医者になったの」
いつの間にセットしたのか、キッチンタイマーの音が鳴った。どうやら三分経ったらしい。瞳さんはフタを開けると、スープ粉末を入れて美味しそうにラーメン頬張り始めた。
「私も高二で決めたって言ってもそんなもんよ。大それた理由なんてない。人にはそれぞれのペースがあるんだから、紫音ちゃんは紫音ちゃんのペースでいいんじゃない? あーうま~~ってか、辛っ!」
「私のペースねー。はい、お水」
ヒーーッと舌を出す瞳さんに水を勧めてから、私は今ほどの言葉を反芻する。確かに、クラスのほかの友達でやりたいことが決まっているなんてほとんど聞いたことがない。当然言ってない可能性もあるけど、高坂くんみたいに明確になっている人は少ないだろう。
けれど、私の選択する進路によっては高坂くんと離れてしまうかもしれない。もちろん彼の進路に合わせることもできるけど、高坂くんのことだからきっと喜んではくれない。むしろ悲しませる可能性すらある。やっぱり他の人がどうこうではなく、私は私の意志で、自分の進路を決める必要がある。
「はーっ、はーっ、あ~~辛かった。まあでも、まだ焦らなくていいと思うよ。受験まで一年以上あるし、選択肢や視野を広げるためにこの大学に行く、とかでもいいんだし。あとは愛しの彼氏くんに相談してみればいいんじゃない?」
「もう~っ! だから恥ずかしいからそういうの止めてー!」
続く瞳さんのいじり猛攻に反論しつつも、やっぱり高坂くんに相談してみようかなと思っている自分に気づいて、私の頬はさらに熱くなった。
高坂くんと解散したあと、私は瞳さんのところに来ていた。帰宅するや否や、待ち構えていたかのようにお母さんからタッパー入りの保冷バッグを渡されたからだ。ここ最近は特に多く、二日に一回のペースで来ている気がする。
「ん~? 進路ぉ~?」
私が麦茶を片手に辟易としている一方で、瞳さんは熱心にカップラーメンの物色をしながら曖昧に返事をした。いつも通りのマイペースっぷりは、見ていてなんだか安心する。
「確か~、高二の時だったかなあー?」
「やっぱり私くらいの時期だよねー。あーあ、どうしようかなあ」
「どうしたどうした? あれか、最近できた噂の彼氏くんか?」
夕ご飯を食べたばかりだというのに、今から食べるらしいミニカップラーメンを手にした瞳さんは、意地の悪い笑みを浮かべてテーブルについた。ラベルには濃厚辛味噌唐辛子入りとある。
「んーーまあ、んー……そう」
少しだけ迷って、私はこくりと頷いた。
美菜と同様に、瞳さんにもずっと好きだった高坂くんと恋人になったことは大まかに話してある。もっとも付き合ってすぐのころ、瞳さんのところに来た時に「あれ? なんかいいことあったの~?」と一発で見抜かれたのだが。
それからは青い糸とのことも相まって、私の悩みのほとんどを瞳さんに相談していた。
「なんか彼、やってみたいことがあって進路を固めようとしてて、すごいなあって思って。私は勉強苦手だし、スポーツもできないし、やりたいこともわからないしで中途半端だなあって」
「んーなるほどねぇ。ちなみにそれ、彼氏くんには言ったの?」
「ううん、言ってない。まずは自分で考えてみようかなって」
それに、やっぱりまだ高坂くんとの距離をこれ以上縮めていいものか迷ってもいた。彼との距離が近くなればなるほど、不幸も近づいてくるような気がして。そして、いざ不幸に見舞われた時の悲しみや悔しさも大きくなってしまうような気がして。その結果、未だに高坂くんのことを「実くん」と呼べていないし、じつは私から「好き」とは伝えられていない。本当に、悩みは尽きない。
「ねえ。瞳さんも高二の時に決めたって言ってたけど、なんかきっかけとかあったの?」
「私? んー、そうね~~」
私の問いに瞳さんは少し考えるような素振りをしつつ、電気ケトルから沸いたお湯をカップに注いだ。
「私はねー、お金を稼ぎたかったから」
「え?」
「お金持ちになって、美味しいものをたくさん食べて、買いたいものを好きなだけ買って、なに不自由なく暮らしたかったのよー、私。んで、理系で勉強得意だったから医者になったの」
いつの間にセットしたのか、キッチンタイマーの音が鳴った。どうやら三分経ったらしい。瞳さんはフタを開けると、スープ粉末を入れて美味しそうにラーメン頬張り始めた。
「私も高二で決めたって言ってもそんなもんよ。大それた理由なんてない。人にはそれぞれのペースがあるんだから、紫音ちゃんは紫音ちゃんのペースでいいんじゃない? あーうま~~ってか、辛っ!」
「私のペースねー。はい、お水」
ヒーーッと舌を出す瞳さんに水を勧めてから、私は今ほどの言葉を反芻する。確かに、クラスのほかの友達でやりたいことが決まっているなんてほとんど聞いたことがない。当然言ってない可能性もあるけど、高坂くんみたいに明確になっている人は少ないだろう。
けれど、私の選択する進路によっては高坂くんと離れてしまうかもしれない。もちろん彼の進路に合わせることもできるけど、高坂くんのことだからきっと喜んではくれない。むしろ悲しませる可能性すらある。やっぱり他の人がどうこうではなく、私は私の意志で、自分の進路を決める必要がある。
「はーっ、はーっ、あ~~辛かった。まあでも、まだ焦らなくていいと思うよ。受験まで一年以上あるし、選択肢や視野を広げるためにこの大学に行く、とかでもいいんだし。あとは愛しの彼氏くんに相談してみればいいんじゃない?」
「もう~っ! だから恥ずかしいからそういうの止めてー!」
続く瞳さんのいじり猛攻に反論しつつも、やっぱり高坂くんに相談してみようかなと思っている自分に気づいて、私の頬はさらに熱くなった。
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