56 / 63
【番外編】時計ヶ丘高校・文化祭
第56話
しおりを挟む
「――と、威勢よく啖呵を切るまでは良かったが、兄貴の作った将棋AIに勝てる見込みは全くない、というわけだな」
――放課後の実験室。
小林声は、三角フラスコとアルコールランプで淹れたコーヒーをビーカーで美味そうに啜っていた。
小柄で少年のようなベリー・ショートの髪が印象的な少女・小林声は実際に起きた殺人事件を解決に導いたこともある、学園でその名を知らぬ者はいない名探偵だった。
「……はい、その通りで御座います」
ふみ香は丸椅子に座って、柳のように項垂れている。
「些か冷静さを欠いたな、美里」
「……はァ。あのときはもう、兄の思い通りにことが運ぶのを阻止することで頭がいっぱいで、それ以外のことはあんまり……」
「だが、よくお前の兄貴はその勝負を受けたな。兄貴の目的は部長の六角に敗北を与えることなのだろう? それなのに相手がお前では、手間暇かけてAIまで開発した苦労が水の泡ではないか」
「……ええ。当然、兄は将棋部の代表者が私になることを認めませんでした」
とはいえ、ふみ香としても自分の与り知らないところで自分の居場所を失うだなんて真っ平御免だった。
「そこでパソコン部の窓辺部長の提案で、兄が私に勝てば私はパソコン部のものになり、兄はその後六角部長と戦うことになりました。私が負けても、その後六角部長が勝てば最新型パソコンは将棋部のものになる、という取り決めで」
「……ふん、パソコン部は何としてもお前のことが欲しいようだな」
「そこで小林先輩に相談なんですが、私が兄の作ったAIに勝つ方法はないものでしょうか?」
すると、小林は眉間に皺を寄せて露骨に嫌そうな顔をした。
「私の専門はあくまで謎解きだ。謎も何もない、単なる将棋の対局に私が力を貸せるかどうかは甚だ怪しいものだぞ」
「……ですよね」
「だが、美里には音楽室で起きた事件の捜査協力をして貰った貸しがあるからな。絶対に勝たせてやる、などという保証はできないが、それでも良ければ相談にくらい乗ってやろう。それでは詳しい対局のルールを教えてくれ」
「はい。持ち時間は将棋部側は30分。持ち時間がなくなると、1分の制限時間内に次の手を指さなければ時間切れ負けになります。パソコン部側は将棋を指すのはAIなので、持ち時間はなしです」
「……ふむ。随分AIに有利な条件だな。それでAIが選んだ手を実際に指すのはお前の兄貴になるのか?」
「いいえ。『成金君』っていうロボットアームがパソコンに繋げられていて、そのロボットアームが実際に駒を掴んで将棋を指すんです。駒をとったり、ひっくり返って成ることだってできちゃう優れものです」
「……なるほどな。将棋がわからない者でも楽しめる為の工夫といったところか。対局に使う道具はどちらが用意するのだ?」
「基本、将棋部の部室にある備品を使います。毎年、文化祭用に少し高級なやつを使っているみたいですが、特にルールで決まっているわけではありませんね」
「……そうか。たった今、お前が将棋AIに勝てるかもしれない策を思い付いた」
小林はそう言って、凶悪な笑みを浮かべていた。
――放課後の実験室。
小林声は、三角フラスコとアルコールランプで淹れたコーヒーをビーカーで美味そうに啜っていた。
小柄で少年のようなベリー・ショートの髪が印象的な少女・小林声は実際に起きた殺人事件を解決に導いたこともある、学園でその名を知らぬ者はいない名探偵だった。
「……はい、その通りで御座います」
ふみ香は丸椅子に座って、柳のように項垂れている。
「些か冷静さを欠いたな、美里」
「……はァ。あのときはもう、兄の思い通りにことが運ぶのを阻止することで頭がいっぱいで、それ以外のことはあんまり……」
「だが、よくお前の兄貴はその勝負を受けたな。兄貴の目的は部長の六角に敗北を与えることなのだろう? それなのに相手がお前では、手間暇かけてAIまで開発した苦労が水の泡ではないか」
「……ええ。当然、兄は将棋部の代表者が私になることを認めませんでした」
とはいえ、ふみ香としても自分の与り知らないところで自分の居場所を失うだなんて真っ平御免だった。
「そこでパソコン部の窓辺部長の提案で、兄が私に勝てば私はパソコン部のものになり、兄はその後六角部長と戦うことになりました。私が負けても、その後六角部長が勝てば最新型パソコンは将棋部のものになる、という取り決めで」
「……ふん、パソコン部は何としてもお前のことが欲しいようだな」
「そこで小林先輩に相談なんですが、私が兄の作ったAIに勝つ方法はないものでしょうか?」
すると、小林は眉間に皺を寄せて露骨に嫌そうな顔をした。
「私の専門はあくまで謎解きだ。謎も何もない、単なる将棋の対局に私が力を貸せるかどうかは甚だ怪しいものだぞ」
「……ですよね」
「だが、美里には音楽室で起きた事件の捜査協力をして貰った貸しがあるからな。絶対に勝たせてやる、などという保証はできないが、それでも良ければ相談にくらい乗ってやろう。それでは詳しい対局のルールを教えてくれ」
「はい。持ち時間は将棋部側は30分。持ち時間がなくなると、1分の制限時間内に次の手を指さなければ時間切れ負けになります。パソコン部側は将棋を指すのはAIなので、持ち時間はなしです」
「……ふむ。随分AIに有利な条件だな。それでAIが選んだ手を実際に指すのはお前の兄貴になるのか?」
「いいえ。『成金君』っていうロボットアームがパソコンに繋げられていて、そのロボットアームが実際に駒を掴んで将棋を指すんです。駒をとったり、ひっくり返って成ることだってできちゃう優れものです」
「……なるほどな。将棋がわからない者でも楽しめる為の工夫といったところか。対局に使う道具はどちらが用意するのだ?」
「基本、将棋部の部室にある備品を使います。毎年、文化祭用に少し高級なやつを使っているみたいですが、特にルールで決まっているわけではありませんね」
「……そうか。たった今、お前が将棋AIに勝てるかもしれない策を思い付いた」
小林はそう言って、凶悪な笑みを浮かべていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
彩霞堂
綾瀬 りょう
ミステリー
無くした記憶がたどり着く喫茶店「彩霞堂」。
記憶を無くした一人の少女がたどりつき、店主との会話で消し去りたかった記憶を思い出す。
以前ネットにも出していたことがある作品です。
高校時代に描いて、とても思い入れがあります!!
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
三部作予定なので、そこまで書ききれるよう、頑張りたいです!!!!
瞳に潜む村
山口テトラ
ミステリー
人口千五百人以下の三角村。
過去に様々な事故、事件が起きた村にはやはり何かしらの祟りという名の呪いは存在するのかも知れない。
この村で起きた奇妙な事件を記憶喪失の青年、桜は遭遇して自分の記憶と対峙するのだった。
変な屋敷 ~悪役令嬢を育てた部屋~
aihara
ミステリー
侯爵家の変わり者次女・ヴィッツ・ロードンは博物館で建築物史の学術研究院をしている。
ある日彼女のもとに、婚約者とともに王都でタウンハウスを探している妹・ヤマカ・ロードンが「この屋敷とてもいいんだけど、変な部屋があるの…」と相談を持ち掛けてきた。
とある作品リスペクトの謎解きストーリー。
本編9話(プロローグ含む)、閑話1話の全10話です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
バージン・クライシス
アーケロン
ミステリー
友人たちと平穏な学園生活を送っていた女子高生が、密かに人身売買裏サイトのオークションに出展され、四千万の値がつけられてしまった。可憐な美少女バージンをめぐって繰り広げられる、熾烈で仁義なきバージン争奪戦!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる