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グラウンドの中心で断末魔を叫ぶ

第26話

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 白旗しらはたは勝ちを確信したようにニンマリと笑みを浮かべている。

「ほゥ、ならば聞かせて貰おうか。お前が気が付いたトリックとやらを」

「ホンマにええんか小林こばやし? 俺が次に言葉を発した瞬間、お前の連勝記録はストップやで? 何か言い残しておくことはないか?」

「……特にないな。お前が見事に真相を言い当てたときは、潔くかぶとを脱ごう」

 ひたすら調子に乗る白旗に対して、小林はあくまで冷静だ。

「ふん、ほならお望み通り当てたるわ。これは遠隔操作の殺人やねん」

「……遠隔操作?」

「からくりはこうや。犯人は甲斐かいに向かってシャボン玉を飛ばすだけ。

「ええッ!?」
 ふみは白旗の推理に驚愕する。

「水素は非常に燃えやすい性質の気体や。甲斐が持っとった煙草に接触でもすれば、引火して周囲のシャボン玉は次々に燃え上がるやろな」

 甲斐の顔を襲った炎の正体は、水素に引火した煙草の火だった。
 確かにその方法なら、甲斐に近づかずに、衆人環視の中でも犯行が可能だろう。

「……それで白旗、お前の考えでは犯人はどこからシャボン玉を飛ばしていたんだ?」

「そら、校舎のどっかからやろ」

「ならお前の推理は成立しないな」

「何ィ!?」

「事件発生当時、風はグラウンドから校舎に向かって吹いていた。向かい風ではターゲットに水素入りのシャボン玉を当てることはできない」

「……ぐッ」
 小林に痛いところを突かれて、白旗は顔を顰める。

「……ほなら風上からや。それなら甲斐を狙うことも可能やろ?」

「いや、犯行場所がグラウンドだと、どうしても風の影響に左右されてしまう。些細な風向きの変化でも、軽いシャボン玉は方向を変えてしまう。お前の言う方法でグラウンドにいた甲斐を殺害するというのは、あまり現実的とは言えないだろう」

「くそーッ!!」
 小林に自信のあった推理を否定され、白旗はガックリ肩を落としている。

「……ならお前はどう考えるねん、小林ィ!? お前ならこの事件のトリックがわかるんか!?」

「そうだな。大枠では私も白旗と大体同じ考えだが、私はシャボン玉ではなくに仕掛けがあるのではないかと睨んでいる」

「……ラインパウダーって、グラウンドに引いてある、あの白線のことですか?」
 ふみ香が小林に確認する。

「そうだ。普通、ラインパウダーは消石灰しょうせっかいが使われることが多いが、生石灰せいせっかいにアルミを混ぜた物が使われたのだとしたら……」

「……オイオイ、それって発熱剤やないか!?」

「……発熱剤?」
 ふみ香が白旗に尋ねる。

「水を入れることで化学反応が起きて、発熱するユニットや。生石灰だけでも水を加えることで発熱するけど、アルミの粉が混ざっていれば火を使わずに湯を沸かすこともできる」

「グラウンドに撒かれた発熱剤は、スプリンクラーの水によって発熱する。そしてそのとき同時に、化学反応によって水素が発生する。そこから先は、白旗の説明と同じだ。発熱剤に火気を近づければ、引火する危険は当然ある」

「…………」

 ――勝敗は決していた。

 グラウンドに引かれていた白線に、スプリンクラーの水。
 小林の推理にはそれらの要素が無理なく組み込まれている。

「……そ、そう都合よく上手くいくもんかいな?」

「そうだな。私の推理にしても、確実性という意味では白旗の推理といい勝負だろう」

「……なら、この勝負は一先ず引き分けということで」

「では、これからグラウンドに残っている白線を調べに行くとするか」
 小林がそう言って立ち上がると、白旗が慌てて引き止める。

「……ま、待て待て。それより何か俺パフェ食いたなってきたわ。お前らも何か頼まへんか?」

「……いや、全く」
「……私も別に」

「何でやねん!! 今日は俺の奢りや!! 何でも好きなもん頼んでええからッ!!」

 その言葉を聞いた小林は、ふみ香と顔を見合わせ、凶悪な笑みを浮かべていた。

「そうか、そこまで言うなら遠慮なく。抹茶パフェにレアチーズケーキ、杏仁豆腐、フルーツ餡蜜、それから……」
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