上 下
22 / 63
螺旋状の殺意

第22話

しおりを挟む
 非常階段三階に関係者が集められた。

「さて、今回の殺人事件について順にご説明致しましょう」
 小林こばやしこえがぐるりと辺りを見回した。

 第一発見者の木本きもとことね、白旗しらはた誠士郎せいしろう美里みさとふみ、将棋部の部員たち、非常階段一階付近にいた土井どい和彦かずひこ手塚てづか寧々ねねのカップル。そして、刑事二人。

「……説明ったって、梶原かじわら殺したんは遊部あそべで決まりやろ?」
 白旗が口を尖らせて言う。

「いや、それは違うな。梶原を殺した犯人は別にいる」

「……それはあり得ないですよ。私たちは犯人の後を追って、非常階段を三階から一階まで駆け下りたんです。血の跡もあったし、そもそも兇器きょうきはさみは遊部さんの手の中にありました」
 ふみ香も小林の推理の無理を指摘する。

「断言するが、非常階段を一階まで降りて来た奴は三十分間一人もいなかったぞ。そこの関西弁の箒頭が犯人じゃないと言うのならな」
 とは土井。先刻の白旗とのやり取りの意趣返いしゅがえしのつもりだろう。

 多数からの反論を受けても、小林声はどこ吹く風である。むしろ、その反応を楽しみにしていたようにニヤニヤ笑みを浮かべている。

「皆さん、考える順番が逆なんですよ。だから犯人の仕掛けた罠に気が付かない」

「……逆? ……罠? 小林君、確かさっきもそんなことを言っていたが、どういうことかいい加減説明してくれ給え」
 警部は腕組みしながらむくれてみせる。

「わかりました。まず前提として、殺された順番は梶原の次に遊部が殺されたのではありません。

「……なッ!?」
 ふみ香は思わず驚きの声を上げてしまう。

「……んなアホな話があるかァ!? 二人を死に至らしめた兇器の鋏は一階で死んどった遊部が手に持っとったんやぞ!! 梶原の後に遊部が死んだちゅうのは確定事項や!!」

「ところがそれだと説明できない点が残る。階段に残された血痕だ。非常階段に点々と落ちていた血の跡は、梶原と遊部、二人の血が混じり合ったものだった。仮に梶原が先に殺されたのだとすれば、階段に落ちていた血は梶原だけのものでなくてはおかしい」

「……確かに血痕はAB型とO型、梶原と遊部の二人の血液が混ざったものでした」
 オールバックの若手刑事が小林の推理を補足する。

「更に、遊部には致命傷となった首の傷以外に外傷はなかった。遊部優吾ゆうごと梶原海斗かいと、二人の血が混ざったものを非常階段に落とすには、先に遊部を殺しておかないと上手くいかないのだよ」

「……ほなら、犯人は先に一階で遊部を殺して、その後三階まで非常階段で上がってから梶原を殺し、また非常階段で一階に逃げた言うんか!? 動きとして不自然過ぎやし、犯人が一階に逃げたなら、カップルに目撃されてへんとおかしいやないか!!」

「…………」
 白旗の指摘は的を得ている、とふみ香は感じた。
 確かに先に遊部を殺していたなら、階段の血の跡には説明が付くが、今度はそれ以外の部分で矛盾が生じることになってしまう。

「それとも三階で梶原を殺した後、兇器の鋏だけが一階の遊部の死体の手元に戻って行ったとでも言うつもりか?」

「何だ白旗、今日はやけに冴えているじゃないか。正に今お前が言った通りだよ。犯人が二人の命を奪った後、
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

四次元残響の檻(おり)

葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

パイオニアフィッシュ

イケランド
ミステリー
ぜひ読んでください。 ミステリー小説です。 ひとはしなないです。

No.15【短編×謎解き】余命5分

鉄生 裕
ミステリー
【短編×謎解き】 名探偵であるあなたのもとに、”連続爆弾魔ボマー”からの挑戦状が! 目の前にいるのは、身体に爆弾を括りつけられた四人の男 残り時間はあと5分 名探偵であるあんたは実際に謎を解き、 見事に四人の中から正解だと思う人物を当てることが出来るだろうか? ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 作中で、【※お手持ちのタイマーの開始ボタンを押してください】という文言が出てきます。 もしよければ、実際にスマホのタイマーを5分にセットして、 名探偵になりきって5分以内に謎を解き明かしてみてください。 また、”連続爆弾魔ボマー”の謎々は超難問ですので、くれぐれもご注意ください

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
ミステリー
オカルトに魅了された主人公、しんいち君は、ある日、霊感を持つ少女「幽子」と出会う。彼女は不思議な力を持ち、様々な霊的な現象を感じ取ることができる。しんいち君は、幽子から依頼を受け、彼女の力を借りて数々のミステリアスな事件に挑むことになる。 彼らは、失われた魂の行方を追い、過去の悲劇に隠された真実を解き明かす旅に出る。幽子の霊感としんいち君の好奇心が交錯する中、彼らは次第に深い絆を築いていく。しかし、彼らの前には、恐ろしい霊や謎めいた存在が立ちはだかり、真実を知ることがどれほど危険であるかを思い知らされる。 果たして、しんいち君と幽子は、数々の試練を乗り越え、真実に辿り着くことができるのか?彼らの冒険は、オカルトの世界の奥深さと人間の心の闇を描き出す、ミステリアスな物語である。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

【完結】少女探偵・小林声と13の物理トリック

暗闇坂九死郞
ミステリー
私立探偵の鏑木俊はある事件をきっかけに、小学生男児のような外見の女子高生・小林声を助手に迎える。二人が遭遇する13の謎とトリック。 鏑木 俊 【かぶらき しゅん】……殺人事件が嫌いな私立探偵。 小林 声 【こばやし こえ】……探偵助手にして名探偵の少女。事件解決の為なら手段は選ばない。

処理中です...