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螺旋状の殺意

第18話

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 白旗しらはた誠士郎せいしろうが将棋部に入部して、一ヶ月が経った。
 白旗は部員たちから囲いや戦法を教えられ、それらをみるみるうちに吸収し、部長の六角ろっかく計介けいすけを上回る程の棋力を身に付けていた。

 ――放課後の将棋部の部室にて。

「まさかこの短期間で、ここまで力を付けるとは……」
 六角が感嘆の声を漏らす。

「ま、これが才能ちゅうことなんでっしゃろなァ」
 とは白旗だ。

 小林こばやしこえとの推理対決では全く良いところがない白旗だったが、浪速なにわのエルキュール・ポアロを名乗るだけあって、地頭はかなりいいらしい。

「もう六角先輩、簡単に負けないでくださいよー。白旗先輩が調子に乗るじゃないですかー」
 美里みさとふみがむくれて言う。

「ま、美里には一週間で追いついたけどな」

「何よ、このォ!!」

「いやスマンスマン、冗談やて。せやけど真面目にやってみると、将棋て楽しいもんなんやな。自分でもこんなにハマるとは思ってへんかったわ。中々に奥が深い」

「……まァ、そう言って貰えるなら将棋部員として悪い気はしませんけど」

「きゃああああああああああああああああああああああああああッ!?」

 そのとき、部室の近くで女の悲鳴が聞こえた。

「……何ごとや!?」
「外の非常階段の方から聞こえたぞ!!」

 ふみ香たち将棋部員たちは揃って部室から飛び出し、走って声のした方へ向かう。

 非常階段の扉の前には茶色い髪をツインテールにした、小柄な女子生徒が腰を抜かしたように座り込んでいる。上履きの色から二年生だとわかる。
 先程の悲鳴の主だろう。

「おい、どないしたんや?」

「……あ、あっち」
 ツインテール少女はそう言って、非常階段の扉を指差している。

「…………」
 白旗は一度唾を飲み込むと、意を決した表情で非常階段の扉を開ける。

 扉の先、非常階段の踊り場には左目から血を流して倒れている男子生徒の死体があった。背が高く、よく日に焼けている。生前はきっと爽やかなイケメンだったことだろう。

「……コイツは三年の梶原かじわら海斗かいとだ」
 そう言ったのは将棋部部長の六角だ。

「……お知り合いですか?」

「二年のとき、同じクラスだったんだ。テニス部員だった筈だ」

「……どうやら目を刃物で貫かれて殺されたようやなァ」
 白旗が死体を覗き込みながら言う。

「……は、はやく!!」
 ツインテールの少女が白旗のズボンを掴んで何かを訴えかけている。

「何や?」

「犯人の男は、その階段を下に降りて逃げて行ったのよ!!」

「……それをはよ言わんかい!! 美里、犯人追いかけるで!! 部長たちはこの子と現場の保存を頼みます!!」

「……わかった!!」

「どうして私まで犯人を追いかけなきゃいけないんですかァ!?」

「うるさい、黙って付いて来い!!」

 ふみ香と白旗は、赤く錆びた金属製の螺旋階段を大急ぎで駆け下りていった。
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