上 下
9 / 63
変化する呪いの文字

第9話

しおりを挟む
 ――またしても校内で殺人事件が起きた。

 事件があったのは西校舎三階の美術室で、殺されていたのは美術部三年の舟生ふにゅう桐絵きりえだった。舟生桐絵は頸部けいぶを刃物で複数回刺されて死亡していた。死亡推定時刻は12時50分から13時40分の昼休みの間で、この時間、舟生はコンクールに出す為に制作していた絵を一人で描いていた。

 そして、事件現場の美術室には一つ不可解な点があった。
 室内に飾られていた石膏像せっこうぞうが全て破壊されていたのである。それも、原型を留めないくらい粉々に砕かれていた。

「……さて、ここで問題です。犯人は何故こないな真似せェへんとあかんかったのか?」
 白旗しらはた誠士郎せいしろうは関係者を集めた美術室の中をぐるりと見回した。

「……ただ単に、犯人と被害者が揉み合ったときに偶然壊してしまったんじゃないんですか?」
 美里みさとふみが怖ず怖ずと遠慮がちに指摘する。

「アホ言え。それやったら石膏像が粉々にされとることの説明がつかへん。偶然倒しただけなら、原型がわからなくなる程に砕けるわけがない。つまり、石膏像は犯人が確固たる意志を持って入念に破壊したっちゅうこっちゃ」
 白旗は勝ち誇ったようにニヤリと笑う。

「そして、犯人ならもうわかっとる。薗原そのはら優樹菜ゆきな、お前やッ!!」

 白旗が指差した先には、髪の長い眼鏡をかけた大人しそうな少女がいた。上履きの色から三年生であることがわかる。薗原は三角巾で左腕を吊るしていた。

「……ど、どうして私が犯人なんですか?」

「そんなん簡単なこっちゃ。現場の石膏像が徹底的に壊されとる理由をよォ考えたらわかる。さっき美里が指摘した通り、犯人と被害者が揉み合った際、事故で石膏が壊れてしもたんやな」

「……え?」
 ふみ香は聞き間違いだと思った。結局、石膏像は揉み合ったときに壊れたということなのか?

「美里、勘違いしとるようやけど、偶然壊れたんは石膏像やないで。石膏像の他にも石膏でできとるもんがあるやないか。せやな、たとえば、とかな」

 薗原の顔がさっと青ざめる。

「舟生桐絵に抵抗されて、犯人は自分の左腕を覆っとるギプスを壊してしもた。どの程度破片が飛び散ったかは想像するしかないけど、犯人はギプスの破片を拾い集めるより逆に石膏の破片を増やすことで痕跡を隠すことを思い付いたんや。木を隠すなら森の中。そして、幸い現場は美術室。石膏ならそこら中にある」

 薗原優樹菜は柳のように項垂れて、膝から崩れ落ちる

「……し、仕方なかったんです!! 私、万引きしたところを舟生さんに見られて、それで強請ゆすられてて……!! こんなことが学校に知れたら、指定校推薦の話がなかったことにされるって思って……」

「詳しくは署で伺おうか」
 鷲鼻の刑事が薗原を立たせて、ギプスで覆われていない方の腕に手錠をかける。

「……ま、俺の灰色の脳細胞にかかればざっとこんなもんや。これで一勝一敗の五分。次も勝たして貰うで小林こばやしィ!!」
 白旗はそう言って辺りをぐるりと見回した。が、小林の姿はどこにもない。

「…………あれ、小林は?」

「……小林先輩なら今日は朝から学校に来てないですよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

四次元残響の檻(おり)

葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。

パイオニアフィッシュ

イケランド
ミステリー
ぜひ読んでください。 ミステリー小説です。 ひとはしなないです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

No.15【短編×謎解き】余命5分

鉄生 裕
ミステリー
【短編×謎解き】 名探偵であるあなたのもとに、”連続爆弾魔ボマー”からの挑戦状が! 目の前にいるのは、身体に爆弾を括りつけられた四人の男 残り時間はあと5分 名探偵であるあんたは実際に謎を解き、 見事に四人の中から正解だと思う人物を当てることが出来るだろうか? ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 作中で、【※お手持ちのタイマーの開始ボタンを押してください】という文言が出てきます。 もしよければ、実際にスマホのタイマーを5分にセットして、 名探偵になりきって5分以内に謎を解き明かしてみてください。 また、”連続爆弾魔ボマー”の謎々は超難問ですので、くれぐれもご注意ください

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
ミステリー
オカルトに魅了された主人公、しんいち君は、ある日、霊感を持つ少女「幽子」と出会う。彼女は不思議な力を持ち、様々な霊的な現象を感じ取ることができる。しんいち君は、幽子から依頼を受け、彼女の力を借りて数々のミステリアスな事件に挑むことになる。 彼らは、失われた魂の行方を追い、過去の悲劇に隠された真実を解き明かす旅に出る。幽子の霊感としんいち君の好奇心が交錯する中、彼らは次第に深い絆を築いていく。しかし、彼らの前には、恐ろしい霊や謎めいた存在が立ちはだかり、真実を知ることがどれほど危険であるかを思い知らされる。 果たして、しんいち君と幽子は、数々の試練を乗り越え、真実に辿り着くことができるのか?彼らの冒険は、オカルトの世界の奥深さと人間の心の闇を描き出す、ミステリアスな物語である。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

【完結】少女探偵・小林声と13の物理トリック

暗闇坂九死郞
ミステリー
私立探偵の鏑木俊はある事件をきっかけに、小学生男児のような外見の女子高生・小林声を助手に迎える。二人が遭遇する13の謎とトリック。 鏑木 俊 【かぶらき しゅん】……殺人事件が嫌いな私立探偵。 小林 声 【こばやし こえ】……探偵助手にして名探偵の少女。事件解決の為なら手段は選ばない。

処理中です...