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即死ダウト
第12話
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翌日、小林を連れて先日行ったバー・PASSIONEに赴くと、服部はやはり店内の隅のテーブル席にいた。
「誰かと思えば鏑木じゃん。この前は運が悪かったな。まァ生きてりゃそういう日もあるってことで、今日も一勝負どうだ?」
「……いや、今日はどうしてもアンタとやりたいという奴を連れてきた」
「初めまして、小林です。どうぞお手柔らかにお願いします」
小林はそう言って、服部に向かって行儀よくペコリと頭を下げた。
「……え?」
これには服部も意表を突かれたようで、目を丸くしている。
「……おいおい鏑木、勘弁してくれ。俺は小学生相手に賭けをするつもりはないぜ」
「安心してくれ。コイツは俺の代わりに勝負するだけの代打ちだ。実際に金を出すのが俺なら問題はないだろう?」
小林は小学生ではなく高校生なのだが、俺は敢えて訂正しないことにする。
「最初のゲームは一万で始めさせて貰う」
服部は品定めするように小林をマジマジと眺めている。
「……ふん、まァいいだろう。即死ダウトのルール説明はしなくてもいいんだよな?」
「はい。鏑木から聞いていますので」
服部は新品のトランプを取り出すと、小林に手渡した。
「トランプの確認が終わったらジョーカーを抜いたあとよく切って、13枚ずつの四つの山に分けてくれ」
……そして決まった小林の手札は、♡A、♠3、♠4、♢4、♡7、♣8、♢10、♣10、♡J、♢J、♠Q、♢K、♣Kの13枚。
余った二つの山を重ねて一直線に広げたカードから小林と服部が一枚ずつ引いて、先攻と後攻を決める。
小林が♠6、服部が♡3。
「先攻でお願いします」
小林が迷わず先攻を選択する。
「オーケー。そんじゃゲーム開始だ」
「1」
小林が手札から♢10が引き抜かれる。
思わず声が出そうになった。
意味がわからない。小林の手札には♡Aがあるのに、何故それを出さないのか?
このゲームは二人で対戦する関係上、一巡目は先攻が奇数、後攻が偶数のカードを出していく。13まで行って二巡目になると、今度は先攻が偶数、後攻が奇数のカードを出すことになる。
つまり先攻がAを温存しておくことにメリットはなく、むしろ「ダウト」をコールされるリスクしかない。
小林がそんな単純なことに気が付いていない筈はないと思うのだが……。
「2」
俺はまたしても声が出そうになるのを寸でのところで堪える。
俺とのゲームでは百発百中で「ダウト」を言い当てた服部が、小林の嘘を見破れずスルーを選択した。
「……ふーむ、なるほどなるほど」
小林は手札を眺めながらニヤニヤと笑っている。対する服部も無表情でスマホ画面をじっと睨みつけている。
――両者の間で一体どんな駆け引きが行われているのか?
「3」
小林が場に伏せたのは、またしても宣言した数字とは違うカード。♠4だ。
手札には♠3があるにもかかわらず、である。
――二連続での悪手。
「4」
小林の謎の奇行に対して、服部はまたしてもスルー。
もしや小林が何らかの手を打っていて、服部のイカサマを封じているのか?
「5」
「ダウト」
小林が♣Kを出したところで、すかさず服部が「ダウト」をコールする。
これにより、1ゲーム目はあっさり服部の勝利となった。
「……おいおい小林、何普通に負けてんだよ。それに何だ、あの妙な行動は?」
「狼狽えるな鏑木。最初のゲームは元々捨て石にするつもりだったのだ。次で勝てば何の問題もなかろう」
「…………」
小林は負けた直後でも涼しい顔をしているが、本当に服部に勝てる算段があるのか?
「敵の手の内は大体わかった。次は負けない」
「誰かと思えば鏑木じゃん。この前は運が悪かったな。まァ生きてりゃそういう日もあるってことで、今日も一勝負どうだ?」
「……いや、今日はどうしてもアンタとやりたいという奴を連れてきた」
「初めまして、小林です。どうぞお手柔らかにお願いします」
小林はそう言って、服部に向かって行儀よくペコリと頭を下げた。
「……え?」
これには服部も意表を突かれたようで、目を丸くしている。
「……おいおい鏑木、勘弁してくれ。俺は小学生相手に賭けをするつもりはないぜ」
「安心してくれ。コイツは俺の代わりに勝負するだけの代打ちだ。実際に金を出すのが俺なら問題はないだろう?」
小林は小学生ではなく高校生なのだが、俺は敢えて訂正しないことにする。
「最初のゲームは一万で始めさせて貰う」
服部は品定めするように小林をマジマジと眺めている。
「……ふん、まァいいだろう。即死ダウトのルール説明はしなくてもいいんだよな?」
「はい。鏑木から聞いていますので」
服部は新品のトランプを取り出すと、小林に手渡した。
「トランプの確認が終わったらジョーカーを抜いたあとよく切って、13枚ずつの四つの山に分けてくれ」
……そして決まった小林の手札は、♡A、♠3、♠4、♢4、♡7、♣8、♢10、♣10、♡J、♢J、♠Q、♢K、♣Kの13枚。
余った二つの山を重ねて一直線に広げたカードから小林と服部が一枚ずつ引いて、先攻と後攻を決める。
小林が♠6、服部が♡3。
「先攻でお願いします」
小林が迷わず先攻を選択する。
「オーケー。そんじゃゲーム開始だ」
「1」
小林が手札から♢10が引き抜かれる。
思わず声が出そうになった。
意味がわからない。小林の手札には♡Aがあるのに、何故それを出さないのか?
このゲームは二人で対戦する関係上、一巡目は先攻が奇数、後攻が偶数のカードを出していく。13まで行って二巡目になると、今度は先攻が偶数、後攻が奇数のカードを出すことになる。
つまり先攻がAを温存しておくことにメリットはなく、むしろ「ダウト」をコールされるリスクしかない。
小林がそんな単純なことに気が付いていない筈はないと思うのだが……。
「2」
俺はまたしても声が出そうになるのを寸でのところで堪える。
俺とのゲームでは百発百中で「ダウト」を言い当てた服部が、小林の嘘を見破れずスルーを選択した。
「……ふーむ、なるほどなるほど」
小林は手札を眺めながらニヤニヤと笑っている。対する服部も無表情でスマホ画面をじっと睨みつけている。
――両者の間で一体どんな駆け引きが行われているのか?
「3」
小林が場に伏せたのは、またしても宣言した数字とは違うカード。♠4だ。
手札には♠3があるにもかかわらず、である。
――二連続での悪手。
「4」
小林の謎の奇行に対して、服部はまたしてもスルー。
もしや小林が何らかの手を打っていて、服部のイカサマを封じているのか?
「5」
「ダウト」
小林が♣Kを出したところで、すかさず服部が「ダウト」をコールする。
これにより、1ゲーム目はあっさり服部の勝利となった。
「……おいおい小林、何普通に負けてんだよ。それに何だ、あの妙な行動は?」
「狼狽えるな鏑木。最初のゲームは元々捨て石にするつもりだったのだ。次で勝てば何の問題もなかろう」
「…………」
小林は負けた直後でも涼しい顔をしているが、本当に服部に勝てる算段があるのか?
「敵の手の内は大体わかった。次は負けない」
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