少女探偵・小林声と日常の謎たち

暗闇坂九死郞

文字の大きさ
上 下
10 / 19
即死ダウト

第10話

しおりを挟む
 パチンコで大勝ちしたその日の夜、バーで一人飲んでいると、隣のカウンター席にいた髭面の男から妙な話を聞かされた。

「あそこの隅のテーブル席に一人で飲んでいる客がいるだろ? あの男は毎晩あの席である変わったギャンブルをしているんだ」

「……変わったギャンブル?」

「トランプのゲームでダウトって知ってるか? 相手の嘘を見抜く、洞察力が試されるゲームさ」

「……へェ」
 ダウトなら俺も知っている。

 使うのはジョーカーを抜いた52枚のトランプ。プレイヤーはAエース(1)からKキング(13)のカードを数字を宣言しながら順番に裏返しで出していき、早く手札をゼロにした者の勝利。
 他のプレイヤーが宣言した数と違うカードを出したと判断したら「ダウト」とコールする。カードを確認して数字が違っていれば、嘘をついたプレイヤーがペナルティとしてそれまでに出したカードの山を全て回収しなくてはならない。逆に数字が正しかった場合は、「ダウト」をコールしたプレイヤーがカードの山を回収することになる。

 子どもの頃、何度もやって遊び飽きたゲームだ。

「でもこの遊びは終盤『ダウト』の連発になって中々決着がつかないことが多かったような……。ましてや二人でやるようなゲームではないでしょう?」

「ああ、その通りだ。そこで通常のダウトとはルールが一部変更されてた、変則ダウトで対決することになっている。……その名も、即死ダウト」

 ――即死ダウト。
 何とも物騒な名前のゲームである。

「通常のダウトと違うのは、ただ一点。どちらかが『ダウト』を宣言した時点でゲームが終了するというところだ。『ダウト』が成功したらコールした方の勝ち。失敗したらコールした方の負け。つまり、一発勝負。プレイヤーはより慎重に相手の嘘を見極めなければならない」

「……なるほど、正に即死というかけか。面白そうですね」

 俺は髭面の男に礼を言うと、隅のテーブル席に移動する。直径1メートルの足の長い円卓の上には氷の入ったグラスと灰皿が置かれている。
 テーブル席にはニット帽を被った二十代前半くらいの学生風の男が一人で座っていた。ニット帽の男はスマホ画面を睨みつけながら、しきりに画面をタップしている。

「ここで面白いゲームができるって聞いたんだが……」

「悪い、三分間だけ黙っていてくれないか」

「…………」
 俺は言われた通り、男の正面に座って三分間静かに待つことにする。

「待たせたな。アンタ、即死ダウトの挑戦者か?」

「そうだ。大まかなルールはさっき髭の男に聞いてきた」

「オーケー」

 ニット帽の男はポケットから新品のトランプの箱を取り出すと、俺に投げて寄越した。

「俺は服部はっとりって者だ。アンタ、名前は?」

「……鏑木かぶらき

「よし鏑木、そのトランプを調べて問題がなさそうならジョーカー二枚を抜いて、よく切ってくれ。そしたらカードを裏にしたまま13枚ずつ、四つの山に分けておいてくれ」

 言われたとおり、俺は黒いガラス製の円卓にカードを並べていく。

「…………」

 俺がカードを分けている間も、服部はスマホを難しい顔をしながらタップしていた。

「できたら四つの山から一つ選んでくれ。それがアンタの手札だ」

 俺と服部は四つの山からそれぞれ一つずつ選択する。

 俺の手札は♢2、♠3、♣3、♡4、♠5,♢7、♣7、♡9、♡10、♠J、♡Q、♣Q、♢K、の13枚。

「……残りのカードはどうするんだ?」

 俺が質問すると服部はスマホを見たまま答える。

「ゲームには使わない。だが、先攻と後攻を決る必要があるな」

 服部は余った二山のカードを重ねると、円卓の上にズラリと一直線に広げた。

「この中から一枚ずつカードを引いて、数字が大きい方に先攻後攻を選ぶ権利が与えられる。同じ数字の場合はスートが強い方の勝ちとする」

 俺が♢10で、服部が♣6。

「……先攻」
 俺は少し考えて、先攻を選択する。

「勝負を始める前に確認したいんだが、どちらも『ダウト』をコールせずにゲームが終わった場合、勝敗はどうなる?」

 この即死ダウト、すぐに決着が付くが故に「ダウト」をコールするタイミングが難しい。二巡目に入ってもお互いに様子を見ることも充分あり得る展開だ。

「そのときはドロー、引き分けだ。それで、幾ら賭ける?」

「……まずは様子見。一万だ」

「オーケー。それじゃあゲーム開始だ」

 服部がニヤリと笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

昭和レトロな歴史&怪奇ミステリー 凶刀エピタム

かものすけ
ミステリー
 昭和四十年代を舞台に繰り広げられる歴史&怪奇物語。  高名なアイヌ言語学者の研究の後を継いだ若き研究者・佐藤礼三郎に次から次へ降りかかる事件と災難。  そしてある日持ち込まれた一通の手紙から、礼三郎はついに人生最大の危機に巻き込まれていくのだった。  謎のアイヌ美女、紐解かれる禁忌の物語伝承、恐るべき人喰い刀の正体とは?  果たして礼三郎は、全ての謎を解明し、生きて北の大地から生還できるのか。  北海道の寒村を舞台に繰り広げられる謎が謎呼ぶ幻想ミステリーをどうぞ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

virtual lover

空川億里
ミステリー
 人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。  が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。  主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。

それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和
ミステリー
 売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。  バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。  猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

仮題「難解な推理小説」

葉羽
ミステリー
主人公の神藤葉羽は、鋭い推理力を持つ高校2年生。日常の出来事に対して飽き飽きし、常に何か新しい刺激を求めています。特に推理小説が好きで、複雑な謎解きを楽しみながら、現実世界でも人々の行動を予測し、楽しむことを得意としています。 クラスメートの望月彩由美は、葉羽とは対照的に明るく、恋愛漫画が好きな女の子。葉羽の推理力に感心しつつも、彼の少し変わった一面を心配しています。 ある日、葉羽はいつものように推理を楽しんでいる最中、クラスメートの行動を正確に予測し、彩由美を驚かせます。しかし、葉羽は内心では、この退屈な日常に飽き飽きしており、何か刺激的な出来事が起こることを期待しています。

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

処理中です...