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即死ダウト
第10話
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パチンコで大勝ちしたその日の夜、バーで一人飲んでいると、隣のカウンター席にいた髭面の男から妙な話を聞かされた。
「あそこの隅のテーブル席に一人で飲んでいる客がいるだろ? あの男は毎晩あの席である変わったギャンブルをしているんだ」
「……変わったギャンブル?」
「トランプのゲームでダウトって知ってるか? 相手の嘘を見抜く、洞察力が試されるゲームさ」
「……へェ」
ダウトなら俺も知っている。
使うのはジョーカーを抜いた52枚のトランプ。プレイヤーはA(1)からK(13)のカードを数字を宣言しながら順番に裏返しで出していき、早く手札をゼロにした者の勝利。
他のプレイヤーが宣言した数と違うカードを出したと判断したら「ダウト」とコールする。カードを確認して数字が違っていれば、嘘をついたプレイヤーがペナルティとしてそれまでに出したカードの山を全て回収しなくてはならない。逆に数字が正しかった場合は、「ダウト」をコールしたプレイヤーがカードの山を回収することになる。
子どもの頃、何度もやって遊び飽きたゲームだ。
「でもこの遊びは終盤『ダウト』の連発になって中々決着がつかないことが多かったような……。ましてや二人でやるようなゲームではないでしょう?」
「ああ、その通りだ。そこで通常のダウトとはルールが一部変更されてた、変則ダウトで対決することになっている。……その名も、即死ダウト」
――即死ダウト。
何とも物騒な名前のゲームである。
「通常のダウトと違うのは、ただ一点。どちらかが『ダウト』を宣言した時点でゲームが終了するというところだ。『ダウト』が成功したらコールした方の勝ち。失敗したらコールした方の負け。つまり、一発勝負。プレイヤーはより慎重に相手の嘘を見極めなければならない」
「……なるほど、正に即死というかけか。面白そうですね」
俺は髭面の男に礼を言うと、隅のテーブル席に移動する。直径1メートルの足の長い円卓の上には氷の入ったグラスと灰皿が置かれている。
テーブル席にはニット帽を被った二十代前半くらいの学生風の男が一人で座っていた。ニット帽の男はスマホ画面を睨みつけながら、しきりに画面をタップしている。
「ここで面白いゲームができるって聞いたんだが……」
「悪い、三分間だけ黙っていてくれないか」
「…………」
俺は言われた通り、男の正面に座って三分間静かに待つことにする。
「待たせたな。アンタ、即死ダウトの挑戦者か?」
「そうだ。大まかなルールはさっき髭の男に聞いてきた」
「オーケー」
ニット帽の男はポケットから新品のトランプの箱を取り出すと、俺に投げて寄越した。
「俺は服部って者だ。アンタ、名前は?」
「……鏑木」
「よし鏑木、そのトランプを調べて問題がなさそうならジョーカー二枚を抜いて、よく切ってくれ。そしたらカードを裏にしたまま13枚ずつ、四つの山に分けておいてくれ」
言われたとおり、俺は黒いガラス製の円卓にカードを並べていく。
「…………」
俺がカードを分けている間も、服部はスマホを難しい顔をしながらタップしていた。
「できたら四つの山から一つ選んでくれ。それがアンタの手札だ」
俺と服部は四つの山からそれぞれ一つずつ選択する。
俺の手札は♢2、♠3、♣3、♡4、♠5,♢7、♣7、♡9、♡10、♠J、♡Q、♣Q、♢K、の13枚。
「……残りのカードはどうするんだ?」
俺が質問すると服部はスマホを見たまま答える。
「ゲームには使わない。だが、先攻と後攻を決る必要があるな」
服部は余った二山のカードを重ねると、円卓の上にズラリと一直線に広げた。
「この中から一枚ずつカードを引いて、数字が大きい方に先攻後攻を選ぶ権利が与えられる。同じ数字の場合は柄が強い方の勝ちとする」
俺が♢10で、服部が♣6。
「……先攻」
俺は少し考えて、先攻を選択する。
「勝負を始める前に確認したいんだが、どちらも『ダウト』をコールせずにゲームが終わった場合、勝敗はどうなる?」
この即死ダウト、すぐに決着が付くが故に「ダウト」をコールするタイミングが難しい。二巡目に入ってもお互いに様子を見ることも充分あり得る展開だ。
「そのときはドロー、引き分けだ。それで、幾ら賭ける?」
「……まずは様子見。一万だ」
「オーケー。それじゃあゲーム開始だ」
服部がニヤリと笑った。
「あそこの隅のテーブル席に一人で飲んでいる客がいるだろ? あの男は毎晩あの席である変わったギャンブルをしているんだ」
「……変わったギャンブル?」
「トランプのゲームでダウトって知ってるか? 相手の嘘を見抜く、洞察力が試されるゲームさ」
「……へェ」
ダウトなら俺も知っている。
使うのはジョーカーを抜いた52枚のトランプ。プレイヤーはA(1)からK(13)のカードを数字を宣言しながら順番に裏返しで出していき、早く手札をゼロにした者の勝利。
他のプレイヤーが宣言した数と違うカードを出したと判断したら「ダウト」とコールする。カードを確認して数字が違っていれば、嘘をついたプレイヤーがペナルティとしてそれまでに出したカードの山を全て回収しなくてはならない。逆に数字が正しかった場合は、「ダウト」をコールしたプレイヤーがカードの山を回収することになる。
子どもの頃、何度もやって遊び飽きたゲームだ。
「でもこの遊びは終盤『ダウト』の連発になって中々決着がつかないことが多かったような……。ましてや二人でやるようなゲームではないでしょう?」
「ああ、その通りだ。そこで通常のダウトとはルールが一部変更されてた、変則ダウトで対決することになっている。……その名も、即死ダウト」
――即死ダウト。
何とも物騒な名前のゲームである。
「通常のダウトと違うのは、ただ一点。どちらかが『ダウト』を宣言した時点でゲームが終了するというところだ。『ダウト』が成功したらコールした方の勝ち。失敗したらコールした方の負け。つまり、一発勝負。プレイヤーはより慎重に相手の嘘を見極めなければならない」
「……なるほど、正に即死というかけか。面白そうですね」
俺は髭面の男に礼を言うと、隅のテーブル席に移動する。直径1メートルの足の長い円卓の上には氷の入ったグラスと灰皿が置かれている。
テーブル席にはニット帽を被った二十代前半くらいの学生風の男が一人で座っていた。ニット帽の男はスマホ画面を睨みつけながら、しきりに画面をタップしている。
「ここで面白いゲームができるって聞いたんだが……」
「悪い、三分間だけ黙っていてくれないか」
「…………」
俺は言われた通り、男の正面に座って三分間静かに待つことにする。
「待たせたな。アンタ、即死ダウトの挑戦者か?」
「そうだ。大まかなルールはさっき髭の男に聞いてきた」
「オーケー」
ニット帽の男はポケットから新品のトランプの箱を取り出すと、俺に投げて寄越した。
「俺は服部って者だ。アンタ、名前は?」
「……鏑木」
「よし鏑木、そのトランプを調べて問題がなさそうならジョーカー二枚を抜いて、よく切ってくれ。そしたらカードを裏にしたまま13枚ずつ、四つの山に分けておいてくれ」
言われたとおり、俺は黒いガラス製の円卓にカードを並べていく。
「…………」
俺がカードを分けている間も、服部はスマホを難しい顔をしながらタップしていた。
「できたら四つの山から一つ選んでくれ。それがアンタの手札だ」
俺と服部は四つの山からそれぞれ一つずつ選択する。
俺の手札は♢2、♠3、♣3、♡4、♠5,♢7、♣7、♡9、♡10、♠J、♡Q、♣Q、♢K、の13枚。
「……残りのカードはどうするんだ?」
俺が質問すると服部はスマホを見たまま答える。
「ゲームには使わない。だが、先攻と後攻を決る必要があるな」
服部は余った二山のカードを重ねると、円卓の上にズラリと一直線に広げた。
「この中から一枚ずつカードを引いて、数字が大きい方に先攻後攻を選ぶ権利が与えられる。同じ数字の場合は柄が強い方の勝ちとする」
俺が♢10で、服部が♣6。
「……先攻」
俺は少し考えて、先攻を選択する。
「勝負を始める前に確認したいんだが、どちらも『ダウト』をコールせずにゲームが終わった場合、勝敗はどうなる?」
この即死ダウト、すぐに決着が付くが故に「ダウト」をコールするタイミングが難しい。二巡目に入ってもお互いに様子を見ることも充分あり得る展開だ。
「そのときはドロー、引き分けだ。それで、幾ら賭ける?」
「……まずは様子見。一万だ」
「オーケー。それじゃあゲーム開始だ」
服部がニヤリと笑った。
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