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少女探偵と五十円玉二十枚の謎

第3話

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 豊島とよしまは驚きのあまり、大きく目を見開いている。

 グラスの中の二十枚の五十円玉が一瞬で消えたかと思ったら、もう一つの伏せられた空のグラスから千円札が出現した。

「簡単なマジックですよ。今トリックをご説明致します」
 小林こばやしがニヤリと凶悪な笑みを浮かべて言う。

「まずグラスに入っていた五十円玉ですが、予め真ん中の穴にマジック用の見えにくい糸を通しておきます。二十枚全てに糸を通して結べば、グラスの中の硬貨は一繋がりになる。この状態でグラスをハンカチで隠し、ハンカチを引き上げるときに硬貨と繋がった糸を持って回収する。するとグラスの中の五十円玉は一瞬にして消えたように見えます。

 そしてもう一つの伏せておいたグラスですが、当然こちらにも仕掛けがあります。グラスのフチの大きさに厚紙を切って、卓袱台の木目模様に合うよう印刷した紙を貼り合わせておきます。これをグラスのフチにくっつけておけば、何も入っていないグラスの下に千円札を隠しておけるという寸法です」

 その説明を聞いて豊島は納得する。
 なるほど、タネがわかればどうと言うことのない単純な手品だ。

「……それで、その手品が両替男とどう関係するんですか?」

「男はこのマジックを自分に近しい人間に見せました。家族か友人、否、毎週土曜日に彼の家に遊びに来る、仲の良い甥っ子だと仮定しましょう。この甥っ子、マジックに目がないようで、男にもう一度同じマジックを見せてくれと要求してくる。しかし、マジックにおいて同じ演目を立て続けに見せることはタブー中のタブーとされています。何故なら、トリックを見破られるリスクが格段に跳ね上がってしまうからです」

「……確かに小さな子どもに手品を見せればそういうことはありそうですね」

「困った男は甥っ子にこう言いました。『五十円玉は千円札に変わってなくなってしまったから、もうこのマジックを見せることはできない。また来週、君が五十円玉二十枚を用意してきてくれたならそのとき同じ技を見せてやる』とね」

 ――なるほど。上手いかわし方だ。

「子どもの興味ほど移り変わりの激しいものはありません。一週間も経てば、甥っ子の興味も別のものに移っているだろうと男は楽観的に考えていました。ところが甥っ子は次の土曜日、本当に五十円玉二十枚を持ってきたのです。男は約束通り、同じマジックを見せることにしました。甥っ子には記念に変えられた千円札を渡し、男のポケットには五十円玉二十枚が残ることになる」

「……嗚呼、段々話が見えてきましたよ」

「甥っ子は毎週五十円玉二十枚を男に渡していたのです。これで、①男は何故一週間のうちにに五十円玉を二十枚も溜め込んでいるのか、の謎はなくなりました。次に、②男は何故本屋で両替するのか、ですがこれは証拠隠滅が目的だったのです」

「……証拠隠滅?」

「折角、五十円玉を千円札に変えても、男のポケットの中にジャラジャラ小銭が入っていることがバレたら甥っ子にマジックのタネがわかってしまう。そこで男は甥っ子の隙を見て、近所の本屋に両替に行ったのです。両替自体はどこで行っても良いのですが、男には一刻も早く証拠を消しておきたい事情があった」

 ――甥っ子にマジックを見破らせない為。
 そう考えれば、男が終始落ち着かない様子だったことも説明できる。
 本屋を逃げるように立ち去ったのも、すぐに戻らないと甥っ子から疑われると思ったからだろう。

 ――まさか、両替男の謎の行動をここまで論理的に説明してしまうとは。

「ありがとうございます。素晴らしい推理だった!!」

 豊島は小林の推理にとても満足して帰って行った。
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