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第一章 来訪者たち

探偵の矜持

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 12月25日。
 午前2時5分。

 わたしたちは烏丸に案内されて、それぞれ二階と三階の部屋を一部屋ずつあてがわれた。

 部屋割は、三階の四部屋を烏丸、飯田、不破、切石。二階を鮫島、城ヶ崎、鈴村(わたし)、綿貫と振られる。

 部屋の前に来てまず驚かされたのは、全ての部屋の扉の前に顔認証システムが備え付けられていたことだ。

 部屋に入るときも出るときも、この認証をパスしない限り扉は開かないように設定されている。開いた扉は五秒経過すると自動的に閉められ、ロックされる。
 外観からは想像出来ないハイテクぶりだ。

「ふん、随分と凝った仕掛けだな。どうせこれもこれから行うゲームとやらに関係あるのだろうが」
 城ヶ崎はベッドに寝そべった態勢で、つまらなそうに鼻を鳴らした。

 わたしは今、城ヶ崎の部屋にいる。十畳程の広さの部屋の中には水と食料の詰まった冷蔵庫とベッド、それから小さなテーブルの他に殆ど何もない。
 なので、必然的に城ヶ崎と同じベッドの上に座ることになる。

 ――何となく気詰まりだった。
 それでなくても、わたしは支倉が死んだことに責任を感じているというのに。




「……やっぱりわたし、ここに来るべきじゃなかったんですかね?」

 そう呟くと、意外にも城ヶ崎がわたしの言葉に反応する。

「何故そう思う?」

「わたしには支倉さんの言うような死ぬ覚悟もなしにここに来てしまいました。そしてその所為で支倉さんは死ぬことになった。わたしが残酷館に来なければ、彼は死なずに済んだかもしれないのに」

「それは違うな」
 城ヶ崎はベッドから起き上がると、わたしの目をじっと見つめた。

「探偵に必要なのは死ぬ覚悟なんかじゃない。何があっても生き残るという強い意志だ。死ぬ覚悟なんてものは自殺志願者なら誰でも出来る。だが、オレたち探偵の使命は事件の謎を解いて真相を突き止めることだ。その為には途中で死ぬような真似は絶対に許されない。どんなことをしても生き延びようとするのが正しい探偵の在り方だ」

 城ヶ崎が頑なに寿司を食べることを拒んでいたのは、そういった信念からなのだろう。

 理屈はわかる。

 探偵の死は事件の迷宮入りを意味する。
 例え事件を解決することができなくとも、生きてさえいればまだ犯人を追い詰めることが可能なのだから。

「でも」
「支倉貴人の探偵としてのスタイルは、金を使うことで危険から全力で身を守るというものだった。そして、それ自体は決して間違いじゃない。手段を選ばず生き残るという点では、探偵の鏡とも言える。だが、ここに集められたのは全員が探偵だった。更に、烏丸が提示した七億プラス残酷館の所有権という報酬はあまりにも巨額過ぎた。この状況で幾ら交渉しても、自分の代わりに寿司を食べてくれる人間が現れないことに、支倉は内心焦っていたのだろう。そこでお前にあんなことを口走ったんだよ。『死ぬ覚悟もなしに』とね。恐らく挑発のつもりだったのだろうが、結局は自分の言葉に縛られる結果になった」

「…………」

「この勝負はお前の勝ちだよ、眉美。奴を自滅に追い込んだのはお前の手柄だ。よくやった」

「……はい」

 城ヶ崎がわたしを褒めたり慰めたりすることは、これが初めてのことだった。
 助手とはいえまだ一度も事件解決の役に立ったことなどなく、ただ城ヶ崎にくっ付いていただけなのだから、それで当然だ。

 今かけられた言葉は、わたしが城ヶ崎の弟子になった一年前からずっと待ち望んでいたものだった。
 なのに、少しも嬉しいと思えないのは何故だろう?
 城ヶ崎のことを汚らわしいとさえ感じてしまうのはどうしてだろうか?

 ――わたしは残酷館に来たことを心の底から後悔し始めていた。
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