1 / 44
名探偵への挑戦状
しおりを挟む
本格ミステリとは、探偵と犯人、或いは読者と筆者の知恵の攻防である。
探偵(読者)は事件の謎を解き、犯人を特定すれば勝利。一方、犯人(筆者)は犯行を探偵(読者)に見破らせなければ勝利である。
ただ、ここに一つ大きな問題がある。
――それは探偵と犯人の勝利条件の差だ。
物語の展開上、多くの場合、最終的に戦いを制するのは探偵となる。
しかし本格ミステリに登場するどの名探偵の推理も、一見尤もらしく見えはするものの、よく見れば穴の開いた出来損ないのロジックでしかない。仮に事件を解決出来たとしても、それは単に幸運に恵まれただけだ。
何故なら、探偵には事件解決に必要な情報を全て揃えているか否かを知る術がないからだ。もしも探偵が所有する情報が事件解決に不十分であった場合、当然その推理は見当違いなものになるだろう。
そして、探偵の推理には常にその可能性が付き纏うのだ。
言い換えるなら、探偵自身には自分の推理が正しいか否かの判断が出来ないということだ。
何々、きちんと証拠を見つけていれば推理の正しさを証明出来る?
ならば、その証拠が真犯人の用意した偽の証拠でないと言い切れる根拠は?
何々、犯人が自白した場合は探偵の推理の正しさは保証される?
ならば、その自白が真犯人を庇う為の嘘ではないと言い切れる根拠は?
――所謂、後期クイーン的問題である。
この問題を解決しない限り、如何に美しいロジックであったとしても、探偵の推理は幾重もある事件の真相の表層を言い当てたに過ぎない。
果たして、それで本当に探偵の勝利といえるのだろうか?
探偵とは本当に称賛され、祝福されるべき存在なのだろうか?
――答えは否。
犯人が完全犯罪を目指すように、探偵もまた完全な推理を目指すべきだろう、と筆者は考えるのである。
それが出来なくて何が名探偵か。
何が「本格」か。
読者と筆者の対決については、特に思うところはない。読者は精緻な洞察と推理であろうと、ヤマ勘や第六感であろうと、メイントリックと犯人を当てればそれで筆者は敗北を認めないわけにはいかない(但し、読者は負けた場合の方が作品をより楽しめるというジレンマはあるが)。
だが、もしも。
もしもあなたに一読者としてではなく、名探偵として本作の事件に挑む気概があるのなら、どうすれば必ず正しい真相に辿り着けるかを考えてみて欲しい。
そして、その答え合わせは本書の結末で。
それでは、名探偵諸君の健闘を心から祈っている。
探偵(読者)は事件の謎を解き、犯人を特定すれば勝利。一方、犯人(筆者)は犯行を探偵(読者)に見破らせなければ勝利である。
ただ、ここに一つ大きな問題がある。
――それは探偵と犯人の勝利条件の差だ。
物語の展開上、多くの場合、最終的に戦いを制するのは探偵となる。
しかし本格ミステリに登場するどの名探偵の推理も、一見尤もらしく見えはするものの、よく見れば穴の開いた出来損ないのロジックでしかない。仮に事件を解決出来たとしても、それは単に幸運に恵まれただけだ。
何故なら、探偵には事件解決に必要な情報を全て揃えているか否かを知る術がないからだ。もしも探偵が所有する情報が事件解決に不十分であった場合、当然その推理は見当違いなものになるだろう。
そして、探偵の推理には常にその可能性が付き纏うのだ。
言い換えるなら、探偵自身には自分の推理が正しいか否かの判断が出来ないということだ。
何々、きちんと証拠を見つけていれば推理の正しさを証明出来る?
ならば、その証拠が真犯人の用意した偽の証拠でないと言い切れる根拠は?
何々、犯人が自白した場合は探偵の推理の正しさは保証される?
ならば、その自白が真犯人を庇う為の嘘ではないと言い切れる根拠は?
――所謂、後期クイーン的問題である。
この問題を解決しない限り、如何に美しいロジックであったとしても、探偵の推理は幾重もある事件の真相の表層を言い当てたに過ぎない。
果たして、それで本当に探偵の勝利といえるのだろうか?
探偵とは本当に称賛され、祝福されるべき存在なのだろうか?
――答えは否。
犯人が完全犯罪を目指すように、探偵もまた完全な推理を目指すべきだろう、と筆者は考えるのである。
それが出来なくて何が名探偵か。
何が「本格」か。
読者と筆者の対決については、特に思うところはない。読者は精緻な洞察と推理であろうと、ヤマ勘や第六感であろうと、メイントリックと犯人を当てればそれで筆者は敗北を認めないわけにはいかない(但し、読者は負けた場合の方が作品をより楽しめるというジレンマはあるが)。
だが、もしも。
もしもあなたに一読者としてではなく、名探偵として本作の事件に挑む気概があるのなら、どうすれば必ず正しい真相に辿り着けるかを考えてみて欲しい。
そして、その答え合わせは本書の結末で。
それでは、名探偵諸君の健闘を心から祈っている。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
泉田高校放課後事件禄
野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。
田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。
【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】
嘘つきカウンセラーの饒舌推理
真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)
終焉の教室
シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。
そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。
提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。
最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。
しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。
そして、一人目の犠牲者が決まった――。
果たして、このデスゲームの真の目的は?
誰が裏切り者で、誰が生き残るのか?
友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

大ばあばの秘密、解読します。
端木 子恭
ミステリー
シーナの大ばあばが亡くなった。
遺品整理中に出てきた古いノートには「殺害計画」が。
これは大ばあばの空想? それとも実行したの?
ミス研のユズに頼んでノートを解読してもらううち、ターゲットはキヨさんという幼馴染だと判明する。
大ばあば・柑奈の過去を訪ね、謎を解いていく二人。
中学生ふたりで紐解く、家族の「秘密」は……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる