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見えない証拠
第53話
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ある事件を解決した帰り道、俺と小林声は別荘が立ち並ぶ山道を車でぐるぐると彷徨っていた。
予約していた宿にチェックインする時間はとうに過ぎており、俺はすっかり心細くなっていた。
「鏑木、こんな夜更けに迷子になるだなんてお前は何をやらせても駄目だな。この駄目人間め!」
「……あのな、元はと言えばお前の道案内がデタラメだったからこうなったんだろうが。何で毎回通り過ぎてから『今のとこ右折』って言うんだよ」
「仕方ないだろう、通り過ぎてしまったものは。……そんなことより鏑木、おしっこ」
「はァ!?」
「……おしっこに行きたい」
「……何でコンビニに寄ったときに済ませておかないんだよ!」
「過ぎたことを今更言っても仕方ないだろう。あ、ヤバい。意識したら猛烈に尿意が」
「お、おい、お前ふざけるなよ!」
「あまり大きな声を出すな。漏れる」
「……わ、わかった。それじゃあ車を路肩に停めるから、その辺の茂みでさっさと済ましてこい」
「それは無理な相談だな」
「……あん?」
「私のような花も恥じらう美少女が、野ションなどできるかァ!!」
「威張るなーッ!!」
そんなやり取りをしていると、俺たちを乗せた車は一軒の巨大な建物の前に差し掛かった。窓から光が漏れていることから、中に人がいるようだ。
「……よし、あの家でトイレを借りよう」
俺と小林は車を降り、玄関のインターフォンのボタンを押す。
出てきたのは高校生くらいの小柄な少年だった。少年は俺たちの姿を見て、何故か落胆したように溜息を吐いた。
「……あの、申し訳ないんですがこれからここには警察が来るので。ですからトイレはお貸しできません。お引き取りください」
「警察が来るということは、何か事件ですか?」
警察という言葉に小林が素早く反応する。
「……いや、その、実はたった今友人が殺されまして」
「聞いたか鏑木、ここにはまだ警察が手をつける前の死にたてほやほやの新鮮な死体があるらしい」
小林は嬉しそうに目を輝かせている。不謹慎なことこの上ない。
「……どうやらトイレは借りられなさそうだ。小林、他を当たるぞ」
「何を言っている、それを聞いてみすみす引き返せるか。私は決めたぞ、絶対にこの家で用を足すことに!!」
「……いや、貸しませんよ。人の話聞いてます?」
少年は困ったように眉尻を下げる。
「あー、自己紹介が遅れました。私は小林。探偵を生業にしている者です。一宿一飯の恩義は必ずお返しするとお約束しましょう」
「……ですから、早く帰ってください」
〇 〇 〇
それからすったもんだがあって、結局トイレは貸して貰えることになった。
トイレから出てきてスッキリした表情の小林は、少年、凩哲平からさっそく事件の概要を聞き出していた。
「……なるほど。容疑者二人、燃杭元は密室に守られ、塊原結麻はアリバイに守られているということですね」
「さあ、もうトイレも済んだんですしお引き取りを……」
「ところで兇器は何だったのですか?」
「は?」
「鰤岡まりあさんの胸を刺した兇器ですよ。現場には残っていなかったのですか?」
「……ええ、はい。布団に血を拭ったような跡はありましたが、それらしいものは何も……」
「だとすると、それが犯人を特定する証拠になりそうですね。これは俄然面白くなってきた」
小林はそう言いながら嬉しそうに笑っていた。
予約していた宿にチェックインする時間はとうに過ぎており、俺はすっかり心細くなっていた。
「鏑木、こんな夜更けに迷子になるだなんてお前は何をやらせても駄目だな。この駄目人間め!」
「……あのな、元はと言えばお前の道案内がデタラメだったからこうなったんだろうが。何で毎回通り過ぎてから『今のとこ右折』って言うんだよ」
「仕方ないだろう、通り過ぎてしまったものは。……そんなことより鏑木、おしっこ」
「はァ!?」
「……おしっこに行きたい」
「……何でコンビニに寄ったときに済ませておかないんだよ!」
「過ぎたことを今更言っても仕方ないだろう。あ、ヤバい。意識したら猛烈に尿意が」
「お、おい、お前ふざけるなよ!」
「あまり大きな声を出すな。漏れる」
「……わ、わかった。それじゃあ車を路肩に停めるから、その辺の茂みでさっさと済ましてこい」
「それは無理な相談だな」
「……あん?」
「私のような花も恥じらう美少女が、野ションなどできるかァ!!」
「威張るなーッ!!」
そんなやり取りをしていると、俺たちを乗せた車は一軒の巨大な建物の前に差し掛かった。窓から光が漏れていることから、中に人がいるようだ。
「……よし、あの家でトイレを借りよう」
俺と小林は車を降り、玄関のインターフォンのボタンを押す。
出てきたのは高校生くらいの小柄な少年だった。少年は俺たちの姿を見て、何故か落胆したように溜息を吐いた。
「……あの、申し訳ないんですがこれからここには警察が来るので。ですからトイレはお貸しできません。お引き取りください」
「警察が来るということは、何か事件ですか?」
警察という言葉に小林が素早く反応する。
「……いや、その、実はたった今友人が殺されまして」
「聞いたか鏑木、ここにはまだ警察が手をつける前の死にたてほやほやの新鮮な死体があるらしい」
小林は嬉しそうに目を輝かせている。不謹慎なことこの上ない。
「……どうやらトイレは借りられなさそうだ。小林、他を当たるぞ」
「何を言っている、それを聞いてみすみす引き返せるか。私は決めたぞ、絶対にこの家で用を足すことに!!」
「……いや、貸しませんよ。人の話聞いてます?」
少年は困ったように眉尻を下げる。
「あー、自己紹介が遅れました。私は小林。探偵を生業にしている者です。一宿一飯の恩義は必ずお返しするとお約束しましょう」
「……ですから、早く帰ってください」
〇 〇 〇
それからすったもんだがあって、結局トイレは貸して貰えることになった。
トイレから出てきてスッキリした表情の小林は、少年、凩哲平からさっそく事件の概要を聞き出していた。
「……なるほど。容疑者二人、燃杭元は密室に守られ、塊原結麻はアリバイに守られているということですね」
「さあ、もうトイレも済んだんですしお引き取りを……」
「ところで兇器は何だったのですか?」
「は?」
「鰤岡まりあさんの胸を刺した兇器ですよ。現場には残っていなかったのですか?」
「……ええ、はい。布団に血を拭ったような跡はありましたが、それらしいものは何も……」
「だとすると、それが犯人を特定する証拠になりそうですね。これは俄然面白くなってきた」
小林はそう言いながら嬉しそうに笑っていた。
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