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見えない証拠
第51話
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そして最後に残ったのが、まりあが眠っている水の間だ。
水の間のドアノブに手を掛けると、内側から鍵が掛けられていて動かない。
「鰤岡の奴、あれだけ酔っていたのによく鍵を閉め忘れなかったな」
「そこは俺が口を酸っぱくして言っといた。何せこっちは脅迫状を見ているからな。……それで、これからどうする?」
元が僕と結麻に訊く。
「いや、もう充分だろう。水の間以外の部屋は全て調べて、異常はなかったんだ。そして鰤岡のいる水の間は、内側から鍵を掛けられている。鰤岡に危険が及ぶ心配はない」
「いいえ、ここまできたら調べるべきね」
結麻はきっぱりとそう言った。
「侵入者が何時入ってきたかがわからない以上、水の間が安全だと100%断言はできないでしょう? ここまで調べたのだから、最後までやるべきよ」
「……でも調べるったってどうやって? 鰤岡に火の間で見つかった脅迫状のことを伏せたままで、どうやって扉を開けさせる?」
「マスターキーを使う」
結麻はそう言って、上着のポケットから鍵の束を取り出した。
「ほら、私この館の所有者だから。全ての扉の鍵を開けられちゃうわけ」
「……鰤岡に無断で水の間に入るってことか?」
「それ以外に方法ある?」
「…………」
僕と元は顔を見合わせる。
「何ぼやっとしてるの、今はまりあの安全が第一でしょう? 細かいことに拘ってる場合?」
「……わかったよ。たが、まだ鰤岡が起きているかもしれない。マスターキーで鍵を開けるのは、ノックしても返答がなかったときだけだ」
「オーケー。それでいきましょう」
僕たち三人は水の間の前まで来る。そこで僕は扉を三回ノックする。
「鰤岡、起きてるか? 起きてたら返事しろ」
「まりあ、大丈夫?」
暫く待ってみても返答はない。
「……仕方がない、鍵を開けよう」
結麻がマスターキーを差し込んで、水の間の扉は開かれた。
僕が電気のスイッチを付けると、結麻が猛然とまりあのいるベッドへと駆け寄る。
「まりあ!」
次の瞬間、部屋の中は再び暗闇に包まれた。
「……何だ!?」
「停電だ!!」
「落ち着いて、すぐ自家発電に切り替わるから!!」
結麻の発言の通り、その五秒後に照明がついた。
「……何だったんだ今のは?」
元が首を捻りながら呟く。
確かに今起きたことは異様だ。原因もわからない。だが今はそれよりも、まりあの無事を確認することが先決だ。
「鰤岡、大丈夫か!?」
僕は急いでベッドから布団を引き剥がす。
するとそこには、胸を真っ赤な血で濡らしたかつて鰤岡まりあだったものが横たわっていた。
「いやあああああああああああああッ!!」
「そ、そんな……!?」
「…………」
僕は目の前の恐ろしい光景にパニックを起こしかけるのを必死に堪える。こんなときこそ冷静さを失ってはいけない。
――考えろ。考えるんだ。
――今、この館で何が起こっているのか。
普通に考えれば犯人は自明だ。まりあを殺すことができた人物は一人しかいない。だが、僕は自分の推理に不整合があることに気がつく。
――水の間は内側から鍵をかけられた、密室だったのだ。
水の間のドアノブに手を掛けると、内側から鍵が掛けられていて動かない。
「鰤岡の奴、あれだけ酔っていたのによく鍵を閉め忘れなかったな」
「そこは俺が口を酸っぱくして言っといた。何せこっちは脅迫状を見ているからな。……それで、これからどうする?」
元が僕と結麻に訊く。
「いや、もう充分だろう。水の間以外の部屋は全て調べて、異常はなかったんだ。そして鰤岡のいる水の間は、内側から鍵を掛けられている。鰤岡に危険が及ぶ心配はない」
「いいえ、ここまできたら調べるべきね」
結麻はきっぱりとそう言った。
「侵入者が何時入ってきたかがわからない以上、水の間が安全だと100%断言はできないでしょう? ここまで調べたのだから、最後までやるべきよ」
「……でも調べるったってどうやって? 鰤岡に火の間で見つかった脅迫状のことを伏せたままで、どうやって扉を開けさせる?」
「マスターキーを使う」
結麻はそう言って、上着のポケットから鍵の束を取り出した。
「ほら、私この館の所有者だから。全ての扉の鍵を開けられちゃうわけ」
「……鰤岡に無断で水の間に入るってことか?」
「それ以外に方法ある?」
「…………」
僕と元は顔を見合わせる。
「何ぼやっとしてるの、今はまりあの安全が第一でしょう? 細かいことに拘ってる場合?」
「……わかったよ。たが、まだ鰤岡が起きているかもしれない。マスターキーで鍵を開けるのは、ノックしても返答がなかったときだけだ」
「オーケー。それでいきましょう」
僕たち三人は水の間の前まで来る。そこで僕は扉を三回ノックする。
「鰤岡、起きてるか? 起きてたら返事しろ」
「まりあ、大丈夫?」
暫く待ってみても返答はない。
「……仕方がない、鍵を開けよう」
結麻がマスターキーを差し込んで、水の間の扉は開かれた。
僕が電気のスイッチを付けると、結麻が猛然とまりあのいるベッドへと駆け寄る。
「まりあ!」
次の瞬間、部屋の中は再び暗闇に包まれた。
「……何だ!?」
「停電だ!!」
「落ち着いて、すぐ自家発電に切り替わるから!!」
結麻の発言の通り、その五秒後に照明がついた。
「……何だったんだ今のは?」
元が首を捻りながら呟く。
確かに今起きたことは異様だ。原因もわからない。だが今はそれよりも、まりあの無事を確認することが先決だ。
「鰤岡、大丈夫か!?」
僕は急いでベッドから布団を引き剥がす。
するとそこには、胸を真っ赤な血で濡らしたかつて鰤岡まりあだったものが横たわっていた。
「いやあああああああああああああッ!!」
「そ、そんな……!?」
「…………」
僕は目の前の恐ろしい光景にパニックを起こしかけるのを必死に堪える。こんなときこそ冷静さを失ってはいけない。
――考えろ。考えるんだ。
――今、この館で何が起こっているのか。
普通に考えれば犯人は自明だ。まりあを殺すことができた人物は一人しかいない。だが、僕は自分の推理に不整合があることに気がつく。
――水の間は内側から鍵をかけられた、密室だったのだ。
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