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枯れ尾花
第34話
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それから俺は小林の指示で、空き教室で殺人があったことを警察に連絡した。到着した鑑識課の捜査で、空き教室から犀川高校三年・山本理央の血痕が検出された。
その後、警察が空き教室を調べていることへの恐怖に耐えられなくなった英語教師・木更津滉一が自首。木更津の供述から犀川高校周辺の雑木林を捜索した結果、山本理央の遺体が発見された。
〇 〇 〇
――後日。鏑木探偵事務所にて。
「もう何が何だかわかんない! どういうことか説明して!」
依頼人である相川百華が赤い髪を掻き乱して言う。隣にいる益子怜もコクリコクリと頷いている。
「最初から謎なんて何もなかったんですよ」
小林声は偉そうに机に脚を乗せてふんぞり返っている。あれだけ幽霊を怖がっていた癖に、である。
「いやいや、最初から最後まで謎しかないと思うんだけど? 結局、委員長が見た女の幽霊ってなんだったの?」
「幽霊なんてものはこの世に存在しない。それが今回の事件の真相です。織幡聖恵が見たのは幽霊なんかではなく、実在する女子生徒、山本理央の死体だった」
「はあああ!?」
相川はますます混乱した様子だ。
「順を追って説明しましょう。まず木更津晃一は山本理央を空き教室内で殺害してしまった。人が寄り付かない空き教室で密会していたことから、この二人が男女の関係にあったことは想像に難くありません。動機はおそらく別れ話などの痴情の縺れからきたものと考えられます。しかし、殺人自体は突発的なものだった。正気にかえった木更津はさぞや困ったことでしょう。死体を他の場所に移そうにも、死体を抱えた状態で校舎の中を移動するわけにはいきません。万が一誰かに見られたら一発アウトですからね。どこかに埋めようにも、そもそもどうやって校舎の外へ移動させればいいのか?」
「……校舎の外へ移動って、まさか」
益子が震える声で言う。
「勿論、窓から落とすなんて方法は論外です。そんなことをすれば、当然大きな音が出ることになるし、血や臓器が飛び出たらそこに死体があった痕跡を多く残すリスクがあります。地上にマットやトランポリンを用意するのも、誰かに見られる危険性があって上手くありません」
「じゃあどうやって?」
「ペッタン人形ですよ」
「……へ?」
相川が気の抜けたような声を出す。
「手足の部分に粘着性のゴムが付いた、壁に張り付きながら少しずつ下に降りていくあの玩具ですよ。木更津は山本の死体をペッタン人形にして、地上まで死体を傷付けずに移動させたのです」
「んな馬鹿な!?」
相川と益子が驚くのも無理はない。
俺だって最初に小林から真相を聞かされたときは、驚きのあまり脱力した。
「幽霊が放課後現れた理由は大きく二つ。一つは校舎から生徒がいなくなるのを待つ為。もう一つは死体の死後硬直が全身に回るのを待つ為」
「死後硬直?」
「ある程度関節が固まっている方が、ペッタン人形には適しているからです。死後硬直がピークに達するまでに八時間程かかり、その後二十四時間持続します。空き教室の窓に死体のペッタン人形をセットして、木更津も階段で地上に降りる。あとはゆっくり降りてくるペッタン人形を回収して、車に乗せればいい」
「…………」
驚愕の真相に、相川たちはショックで声も出せない様子だ。
「さあ、これで幽霊の謎は氷解しました。この真相を知らせれば、きっと御友人も安心して学校に来れるようになることでしょう」
その後、警察が空き教室を調べていることへの恐怖に耐えられなくなった英語教師・木更津滉一が自首。木更津の供述から犀川高校周辺の雑木林を捜索した結果、山本理央の遺体が発見された。
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――後日。鏑木探偵事務所にて。
「もう何が何だかわかんない! どういうことか説明して!」
依頼人である相川百華が赤い髪を掻き乱して言う。隣にいる益子怜もコクリコクリと頷いている。
「最初から謎なんて何もなかったんですよ」
小林声は偉そうに机に脚を乗せてふんぞり返っている。あれだけ幽霊を怖がっていた癖に、である。
「いやいや、最初から最後まで謎しかないと思うんだけど? 結局、委員長が見た女の幽霊ってなんだったの?」
「幽霊なんてものはこの世に存在しない。それが今回の事件の真相です。織幡聖恵が見たのは幽霊なんかではなく、実在する女子生徒、山本理央の死体だった」
「はあああ!?」
相川はますます混乱した様子だ。
「順を追って説明しましょう。まず木更津晃一は山本理央を空き教室内で殺害してしまった。人が寄り付かない空き教室で密会していたことから、この二人が男女の関係にあったことは想像に難くありません。動機はおそらく別れ話などの痴情の縺れからきたものと考えられます。しかし、殺人自体は突発的なものだった。正気にかえった木更津はさぞや困ったことでしょう。死体を他の場所に移そうにも、死体を抱えた状態で校舎の中を移動するわけにはいきません。万が一誰かに見られたら一発アウトですからね。どこかに埋めようにも、そもそもどうやって校舎の外へ移動させればいいのか?」
「……校舎の外へ移動って、まさか」
益子が震える声で言う。
「勿論、窓から落とすなんて方法は論外です。そんなことをすれば、当然大きな音が出ることになるし、血や臓器が飛び出たらそこに死体があった痕跡を多く残すリスクがあります。地上にマットやトランポリンを用意するのも、誰かに見られる危険性があって上手くありません」
「じゃあどうやって?」
「ペッタン人形ですよ」
「……へ?」
相川が気の抜けたような声を出す。
「手足の部分に粘着性のゴムが付いた、壁に張り付きながら少しずつ下に降りていくあの玩具ですよ。木更津は山本の死体をペッタン人形にして、地上まで死体を傷付けずに移動させたのです」
「んな馬鹿な!?」
相川と益子が驚くのも無理はない。
俺だって最初に小林から真相を聞かされたときは、驚きのあまり脱力した。
「幽霊が放課後現れた理由は大きく二つ。一つは校舎から生徒がいなくなるのを待つ為。もう一つは死体の死後硬直が全身に回るのを待つ為」
「死後硬直?」
「ある程度関節が固まっている方が、ペッタン人形には適しているからです。死後硬直がピークに達するまでに八時間程かかり、その後二十四時間持続します。空き教室の窓に死体のペッタン人形をセットして、木更津も階段で地上に降りる。あとはゆっくり降りてくるペッタン人形を回収して、車に乗せればいい」
「…………」
驚愕の真相に、相川たちはショックで声も出せない様子だ。
「さあ、これで幽霊の謎は氷解しました。この真相を知らせれば、きっと御友人も安心して学校に来れるようになることでしょう」
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