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西瓜割り

第21話

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 俺、鏑木かぶらきしゅんは殺人事件が苦手だ。
 当たり前の話だが、殺人事件には必ず死人が存在する。名探偵が謎を解き、事件を解決しても、死者が生き返るわけではない。犯人の罪が軽くなるわけでもない。

 事件が解決しても周囲の人間の悲しみや心の傷は、決してなくならないのだ。

     〇 〇 〇

 鏑木探偵事務所は今日も開店休業状態。

 小林こばやしこえはソファに寝そべって、高校野球を観戦している。冷房の効いた我が探偵事務所が相当居心地がいいようで、小林は夏休みの殆どをここで自堕落に過ごしていた。

「……小林、お前はあの結末で本当に良かったと思っているのか?」

「何のことだ?」
 小林はテレビに視線を向けたままだった。

「例の西瓜スイカ殺人事件だよ。お前が事件解決の為なら手段を選ばないことは知っているつもりだったが、今回ばかりはやり方が酷いんじゃないか?」

「……何が言いたい?」
 小林はやはりこちらを見ずに言う。

大崎おおさきさんだっけか? 彼女、今回の事件で相当傷ついただろ? あれじゃ自分の所為で音無おとなしが逮捕されたと考えてもおかしくないぞ」

「ふん、それがどうした? ならば大崎が傷つかないよう、殺人事件を見て見ぬふりするのが正しかったとでも言うつもりか?」

「……そうじゃない。そうじゃないが、もっと丸く収めることもお前ならできたんじゃないのか、と思ってな」

 小林はそこでようやくこちらを振り返り、軽蔑したように俺を睨みつける。

「鏑木、お前が私に何を期待しているのかは知らないが、大団円だいだんえんなどというものは現実には存在しない。殺人事件が起きた時点で、どう転んでも悲劇にしかなりえないのだ。そんな中で私にできることは、私自身も傷を負うことくらいだ」

「……傷を負う?」

「当事者と同等とまでもいかなくても、私自身も何かを失わなければ、探偵として他人の秘密を暴く資格はない」

 ――そうか。

 小林としても、折角仲良くなれた同級生から恨まれるのは辛いことだったのだ。
 俺は自分の無神経さを恥じた。

「そして鏑木、お前は少々物事を深刻に捉えすぎるきらいがある」

 カランコロンと鈴の音がした。
 事務所のドアが開いたのだ。

 そこには、大崎美和みわが照れくさそうな顔で西瓜を一玉抱えて立っていた。
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