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西瓜割り

第15話

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 私と小林こばやしさんが渡り廊下を通る途中で、音無おとなし先輩と遭遇する。

「音無先輩」
「おー、大崎おおさきに小林じゃん。二人揃ってるなんて珍しいね。今日は二人とも、図書委員の当番ではないだろう?」

 音無可奈かなは本当は生徒ではなく、図書室の司書をしている。若くて私たちと歳が近いことから、親しみを込めて「音無先輩」と呼ばれていた。特に女子生徒からの人気は絶大で、かく言う私も音無先輩に憧れるうちの一人だ。
 セミロングの栗色の柔らかそうな髪と、黒縁眼鏡が優しい印象を際立てている。

「今日は数学の補習で登校してたんです」
「そうか。それは大変だったな」

「音無先輩、西瓜スイカ畑の様子はご覧になりましたか?」
 そう言ったのは小林さんだ。

「……ああ、見たよ。あそこは図書室の窓の真下だからね。誰がやったかは知らないが、酷いことをする」
「同感です」
 そう言う小林さんの声には少しも感情がこもっていないように聞こえた。

「ところで二人はもう帰るところか? もし17時まで学校にいるなら、どっちか片づけを手伝って欲しいんだけど」

「私、やります!」
 私は間髪入れずに答える。音無先輩と二人きりになれるチャンスをみすみす逃す手はない。

「悪いな、急に今日の当番が来れなくなってしまって。それじゃあ大崎、17時に図書室で」
「はい」
 私と音無先輩はそう言って別れる。

 小林さんが無表情でじっと私の顔を見ていた。

「……な、何?」
「……別に」

 小林さんは何事もなかったように再び歩き始める。

「…………」
 小林さんは音無先輩のことをどう思っているのだろう?
 もしかしたら、私たちは恋のライバルなのかもしれない。

 そんなことを考えていたら、反対側から歩いて来ていた男子生徒と肩がぶつかる。
「きゃッ!」

 男子生徒は私には目もくれず、ブツブツと何かを呟きながら猛然と廊下を歩いていった。

「大丈夫か、大崎?」
「……うん」
 小林さんが尻もちをついた私の腕を取って、起き上がらせてくれる。
「何なんだ今のは。緑色の上履きだから、二年生か?」

「……吉岡よしおか常生つねお。剣道部の部長だよ」

 私がそう言うと小林さんは驚いたように目を丸くした。
「有名人なのか?」
「音無先輩に付きまとって嫌がらせをしてるって女子の間で噂になってる。まさか夏休みの間もとは思わなかったけど……」

「……人気者も大変だな」
 小林さんの言い方はどこか冷ややかだった。

 そうこうしているうちに、私たちは西瓜畑に到着する。
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