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STAGE 2
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パソコンのモニターにはCGで作られた人の顔が映し出されている。
「嵐山センセにはまず、自身のアバターを作って戴きます。これはセンセがご自分で操作するキャラクターになります。お好きなように作って戴いて構いません」
馬場がボイスチャットでゲームの内容を説明している。
アバターは髪型から目の大きさ、体形、ほくろの位置までかなり細かい設定が作れるようだ。だが、正直勝負とあまり関係のない、どうでもいい要素である。
わたしはデフォルト(短髪、中肉中背の成人男性)のまま自分のアバターを設定する。
馬場が今回の勝負の為に用意したのは『本格ミステリーツクール』というゲームソフトだ。まだ試作品の段階らしく、企業からテストプレイを依頼されていたとのこと。要は案件である。
それならそうと普通に話せばいいのに、いちいち喧嘩をふっかけてくるところが実に馬場らしい。
「次に被害者のアバターを作ってください。こちらはトリックに関係してくる可能性がありますので、何時でも設定を変更することが可能です」
「……どうでもいいですけど、妙にリアルな造形ですね」
アバターは気持ち悪いくらい実際の人間に近い造形だった。まつ毛の一本一本まで緻密に作り込まれている。
「アバターから死亡推定時刻や傷口の生活反応なんかを調べられるよう配慮した結果です。死斑や死後硬直なんかも再現されます」
何だか気味の悪い話だ。
まだトリックが決まったわけではないので、こちらもデフォルトのまま設定する。
「それでは自分のアバターを動かして、館の中を探索してみましょう」
わたしはコントローラーを操作して、館の中を移動する。玄関の隣にトイレ。ホールを抜けて突き当りには書斎がある。その他、厨房、食堂、浴室と順に見ていく。二階には和室と洋室が一部屋ずつ配置されていた。
「洋館というより、ただの二階建ての一軒家って感じですね」
「あんまり広い館を用意しても仕方ないですから。今回はサンプルにあった家をそのまま使用しています」
「わたしの館は馬場さんの館と同じなんですか?」
「ええ。公正を期す為、全く同じ構造になっています。ちなみに二つの館の位置関係は地図を開けば見ることが出来ます」
わたしは馬場に言われるまま、アイテムの項目から地図を選択する。
地図によると周囲は森になっていて、二つの館の間には1kmの間隔が開いている。
「何でこんなに距離が離れてるんです? すぐ隣に建てればいいのに」
「トリックによっては大きな音が出て、それが相手にとってヒントになってしまう可能性がありますので。それに館から館への移動時間が短いと、ゲームが成立しづらくなる為です」
ゲームが成立しづらくなる?
「どういうことですか?」
「プレイヤーは最初に自分の館で殺人事件を起こさなくてはなりません。相手の館へ向かうのは、殺害現場を密室状況に作り終えた後ということになります。しかし、もし僕が密室を作らずいきなり嵐山センセの館へ向かい、センセがトリックを用意している途中だったらどうでしょうか?」
「……トリックを破られた、わたしの負けになりますね」
「僕としても、そんなつまらない勝ち方は望みません。移動時間はそのままトリックを用意する制限時間になります」
なるほど。となると、あまり時間がかかる凝ったトリックは、このゲームでは避けるべきかもしれない。
「密室殺人を終えたら、わたしは真っすぐ馬場さんの館へ向かえばいいんですね?」
「それはあまりお勧めしません」
馬場はそこで気味の悪い声で笑った。
「ここからは嵐山センセの館を『A館』、僕の館を『B館』と呼ぶことにしましょう。A館とB館を結ぶ周辺一帯は地雷原になっています」
「何だそりゃ!」
わたしは思わず握っていたコントローラーを落としそうになる。
「これは言わばギャンブルの要素です。運よく埋められた地雷を回避出来れば移動時間を大幅に短縮出来ますが、もし地雷を踏んでしまえばアバターは確実に死亡します。地雷の位置はランダムで配置され、僕にもわかりません」
「死亡するとどうなるんです?」
「死亡した地点から移動することが出来なくなります。相手の密室トリックが解けるなら、回答すること自体は可能ですが」
たとえ即失格ではなくても、それは事実上のゲームオーバーだ。
地雷を避けて安全にA館からB館に移動するには、A館から南に1km、東に1km、北に1km、の合計3km歩く必要がある。
「館の外は森になっていて、目印になるようなものは一切ありませんので、移動時にはきちんと方角を確認することをお勧めします」
やれやれ。とんだ特殊設定ミステリである。
「他にはどんなトンデモ設定があるんですか?」
わたしは呆れながら質問する。
「この仮想空間は地球に似た、別の星です。しかし地球と同じ重力で、空気も水も存在します」
「まさか大地が平面の世界だなんてことはないですよね?」
「それはありません。地球と同様、ちゃんと球形の星ですよ。自転と公転もします。ゲーム開始地点の気温は摂氏20度で湿度は60パーセント。ゲーム開始時刻は日本時間と同じく明日の21時です」
「…………」
地球ではないが、地球とほぼ同じ条件の星。
あまり意味のある設定とも思えないが、あくまで仮想空間、現実ではないクローズド・サークルであることを強調したい意図だろうか?
「トリックについては、現実に存在するものなら何を使っても結構です。アイテムのカタログの中から好きなものを選んで購入できます。使える金額は1000ドル(約十万円)まで。物価は現実世界とほぼ同じなのでご安心を」
1000ドルあれば、ある程度の道具は揃えられる。しかし館を改築したり、大掛かりな機械を使ったトリックは不可能だろう。
「それでは明日の21時にまたお会いしましょう。それまでに僕に勝てる密室トリックを考えておいてくださいね、嵐山センセ」
「嵐山センセにはまず、自身のアバターを作って戴きます。これはセンセがご自分で操作するキャラクターになります。お好きなように作って戴いて構いません」
馬場がボイスチャットでゲームの内容を説明している。
アバターは髪型から目の大きさ、体形、ほくろの位置までかなり細かい設定が作れるようだ。だが、正直勝負とあまり関係のない、どうでもいい要素である。
わたしはデフォルト(短髪、中肉中背の成人男性)のまま自分のアバターを設定する。
馬場が今回の勝負の為に用意したのは『本格ミステリーツクール』というゲームソフトだ。まだ試作品の段階らしく、企業からテストプレイを依頼されていたとのこと。要は案件である。
それならそうと普通に話せばいいのに、いちいち喧嘩をふっかけてくるところが実に馬場らしい。
「次に被害者のアバターを作ってください。こちらはトリックに関係してくる可能性がありますので、何時でも設定を変更することが可能です」
「……どうでもいいですけど、妙にリアルな造形ですね」
アバターは気持ち悪いくらい実際の人間に近い造形だった。まつ毛の一本一本まで緻密に作り込まれている。
「アバターから死亡推定時刻や傷口の生活反応なんかを調べられるよう配慮した結果です。死斑や死後硬直なんかも再現されます」
何だか気味の悪い話だ。
まだトリックが決まったわけではないので、こちらもデフォルトのまま設定する。
「それでは自分のアバターを動かして、館の中を探索してみましょう」
わたしはコントローラーを操作して、館の中を移動する。玄関の隣にトイレ。ホールを抜けて突き当りには書斎がある。その他、厨房、食堂、浴室と順に見ていく。二階には和室と洋室が一部屋ずつ配置されていた。
「洋館というより、ただの二階建ての一軒家って感じですね」
「あんまり広い館を用意しても仕方ないですから。今回はサンプルにあった家をそのまま使用しています」
「わたしの館は馬場さんの館と同じなんですか?」
「ええ。公正を期す為、全く同じ構造になっています。ちなみに二つの館の位置関係は地図を開けば見ることが出来ます」
わたしは馬場に言われるまま、アイテムの項目から地図を選択する。
地図によると周囲は森になっていて、二つの館の間には1kmの間隔が開いている。
「何でこんなに距離が離れてるんです? すぐ隣に建てればいいのに」
「トリックによっては大きな音が出て、それが相手にとってヒントになってしまう可能性がありますので。それに館から館への移動時間が短いと、ゲームが成立しづらくなる為です」
ゲームが成立しづらくなる?
「どういうことですか?」
「プレイヤーは最初に自分の館で殺人事件を起こさなくてはなりません。相手の館へ向かうのは、殺害現場を密室状況に作り終えた後ということになります。しかし、もし僕が密室を作らずいきなり嵐山センセの館へ向かい、センセがトリックを用意している途中だったらどうでしょうか?」
「……トリックを破られた、わたしの負けになりますね」
「僕としても、そんなつまらない勝ち方は望みません。移動時間はそのままトリックを用意する制限時間になります」
なるほど。となると、あまり時間がかかる凝ったトリックは、このゲームでは避けるべきかもしれない。
「密室殺人を終えたら、わたしは真っすぐ馬場さんの館へ向かえばいいんですね?」
「それはあまりお勧めしません」
馬場はそこで気味の悪い声で笑った。
「ここからは嵐山センセの館を『A館』、僕の館を『B館』と呼ぶことにしましょう。A館とB館を結ぶ周辺一帯は地雷原になっています」
「何だそりゃ!」
わたしは思わず握っていたコントローラーを落としそうになる。
「これは言わばギャンブルの要素です。運よく埋められた地雷を回避出来れば移動時間を大幅に短縮出来ますが、もし地雷を踏んでしまえばアバターは確実に死亡します。地雷の位置はランダムで配置され、僕にもわかりません」
「死亡するとどうなるんです?」
「死亡した地点から移動することが出来なくなります。相手の密室トリックが解けるなら、回答すること自体は可能ですが」
たとえ即失格ではなくても、それは事実上のゲームオーバーだ。
地雷を避けて安全にA館からB館に移動するには、A館から南に1km、東に1km、北に1km、の合計3km歩く必要がある。
「館の外は森になっていて、目印になるようなものは一切ありませんので、移動時にはきちんと方角を確認することをお勧めします」
やれやれ。とんだ特殊設定ミステリである。
「他にはどんなトンデモ設定があるんですか?」
わたしは呆れながら質問する。
「この仮想空間は地球に似た、別の星です。しかし地球と同じ重力で、空気も水も存在します」
「まさか大地が平面の世界だなんてことはないですよね?」
「それはありません。地球と同様、ちゃんと球形の星ですよ。自転と公転もします。ゲーム開始地点の気温は摂氏20度で湿度は60パーセント。ゲーム開始時刻は日本時間と同じく明日の21時です」
「…………」
地球ではないが、地球とほぼ同じ条件の星。
あまり意味のある設定とも思えないが、あくまで仮想空間、現実ではないクローズド・サークルであることを強調したい意図だろうか?
「トリックについては、現実に存在するものなら何を使っても結構です。アイテムのカタログの中から好きなものを選んで購入できます。使える金額は1000ドル(約十万円)まで。物価は現実世界とほぼ同じなのでご安心を」
1000ドルあれば、ある程度の道具は揃えられる。しかし館を改築したり、大掛かりな機械を使ったトリックは不可能だろう。
「それでは明日の21時にまたお会いしましょう。それまでに僕に勝てる密室トリックを考えておいてくださいね、嵐山センセ」
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