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『腸』――2日目
094.『夜の時間(11)』
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――――PM23:10、朔也の部屋
乃木坂 朔也
「……………………」
(俺は、美海と菫谷の写真を眺めていた。
新聞を探る内、加害者である美海の兄の写真もでてきた。どうやら事件があまりにも凄惨だったせいで、一部は実名報道していたようだ。
少年Aの名前は…………『閖白 仁(ゆりしろ ひとし)』。
どことなく、元クラスメイトだった如月仁と似ている。
…………そういえば、美海と如月の関係を疑ったことがあった。
俺も如月とは仲が良かったけど、美海が一匹狼だった如月に人一倍熱心に接してたからだ。
…………ダメだ。俺ひとりじゃ抱えきれない。
…………アキラ……、アキラに打ち明けてみようか。
アキラは…………アキラなら…………)
乃木坂 朔也
「…………でも」
(美海の幸せを壊すかもしれない。
…………そのとき俺はどうすればいいんだ?
…………アキラの変わりに、支えてやれるのか?)
――――プルルルルルル
乃木坂 朔也
「……………………」
(電話がかかってきた。…………佐倉だ。
今日、泉沢千恵梨の話が出たが、自分で言うのも難だが正直、…………佐倉も、泉沢と同じだ。
今は昔ほどではないが…………まだ俺にそう言う気持ちは抱いているんだろうか。
俺は通話のボタンをクリックした)
乃木坂 朔也
「もしもし…………」
佐倉 小桃
「≪あ、…………乃木坂、くん?≫」
乃木坂 朔也
「ああ、俺だよ」
佐倉 小桃
「≪…………疲れてるところごめんなさい。
今、平気かしら?≫」
乃木坂 朔也
「ああ、大丈夫だよ」
佐倉 小桃
「≪よかった…………。
…………今日、元気なかったでしょ?
心配したのよ≫」
乃木坂 朔也
「ああ、空太から聞いたよ。
佐倉が心配してるって…………ごめんな」
佐倉 小桃
「≪ううん、謝らないで…………≫」
乃木坂 朔也
「……………………」
(…………気になる。佐倉の気持ちが。
…………佐倉、もし、佐倉が俺に好意があるとして…………俺が、美海と同じ状況だとしたら…………)
乃木坂 朔也
「…………佐倉」
佐倉 小桃
「≪うん?≫」
乃木坂 朔也
「…………ずっと、気になってたんだけど」
佐倉 小桃
「≪…………なに?≫」
乃木坂 朔也
「佐倉はさ…………その…………」
佐倉 小桃
「≪うん≫」
乃木坂 朔也
「…………俺のことが、好き、なのか?」
佐倉 小桃
「≪…………好きよ≫」
乃木坂 朔也
「………………………………。
…………そうか」
(…………嬉しいんだが、複雑だな)
佐倉 小桃
「≪ええ≫」
乃木坂 朔也
「……………………ごめん。
ならひとつ、聞きたいんだけど」
佐倉 小桃
「≪うん≫」
乃木坂 朔也
「例えば、俺が犯罪者だとして」
佐倉 小桃
「≪……………………≫」
乃木坂 朔也
「いや…………俺が犯罪者の身内だとして」
佐倉 小桃
「≪…………うん≫」
乃木坂 朔也
「…………それでも、俺のことが好きって言えるか?」
佐倉 小桃
「≪……………………乃木坂くん、
それを聞いてどうしたいの?≫」
乃木坂 朔也
「え?」
佐倉 小桃
「≪乃木坂くんは乃木坂くんなんじゃないの?≫」
乃木坂 朔也
(俺ははっと目を見開いた。
…………佐倉も、そう思うのか。そうか。
…………美海は、美海だ。美海が犯罪を犯したわけじゃないんだ。
他人に肯定されたようで、不思議と気持ちが落ち着いてきた。)
乃木坂 朔也
「…………佐倉」
佐倉 小桃
「≪うん?≫」
乃木坂 朔也
「…………ありがとうな」
佐倉 小桃
「≪うん…………いいのよ≫」
乃木坂 朔也
「…………それと、ごめん。
今、気持ちを決めることはできないけど、嬉しかったよ」
佐倉 小桃
「≪うん、わかってるわ。
あなたのことは…………ずっと見てきたから≫」
乃木坂 朔也
「…………ありがとう、…………ごめんな」
佐倉 小桃
「≪そんな、…………何度も謝らないで≫」
乃木坂 朔也
「うん、ごめん。…………あ、ごめん」
佐倉 小桃
「≪うん≫」
乃木坂 朔也
「……………………」
(……今まで美海以外の女の子なんて、何度も無理だと思ったけど。
…………佐倉なら…………佐倉なら好きになれるかもな……)
乃木坂 朔也
「佐倉…………。
…………それじゃ、今日はそろそろ」
佐倉 小桃
「≪ええ。
…………襲撃、うまくいくといいわね≫」
乃木坂 朔也
「そうだな…………それじゃ」
――――PM23:14、小桃の部屋
佐倉 小桃
「うん。おやすみなさい」
(乃木坂くんとの電話を切ったあたしは、昨日よりも浮かれていた。
…………ついに、ついに気持ちを伝えてしまった。
…………結果はいまいちだったけど、それでも今はって言ってくれた。
…………こんな状況だもの、それは仕方ないわ。
昔からずっと好きだった男の子。
可能性なんてほんの一握りだったけど…………今もそうなのかもしれないけど、けど、昨日よりは側に近付けたんだわ。嬉しい。
……………………。
…………また、あたしは。
…………ごめんなさい、弥重)
**
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