人狼ゲーム『Selfishly -エリカの礎-』

半沢柚々

文字の大きさ
上 下
282 / 389
『腸』――2日目

092.『夜の時間(9)』

しおりを挟む
 私はサイラスの後ろを冷や汗を流しながら付いて歩いている。

「サイ様、もうこれ以上は困るよ。家狭いのにこんなの入んないよ」

「だって、ミウは僕の妹になったんだから。不自由な生活はさせられないよ」

「今も不自由じゃないよ。ちょこっとお金がないだけでさ、自由気ままに生活出来てるよ」

 私はサイラスに溢れんばかりの貢ぎ物を頂いている。

『サイ様は、もう一人のお兄ちゃんだね!』

 私がこの言葉を言った瞬間、サイラスは翠の瞳をこれでもかと言わんばかりに輝かせて、私の手を取った。串焼きと一緒に。

『お兄ちゃん……良いね! 良い響きだ』

『サイ様……どうしたの?』

『僕はミウの事が気になってしょうがなかったんだ。パーティーで膝を付いて僕に謝罪した時に、ミウ言ったでしょ。僕の前には二度と現れないって。正直悲しかった。もっと話したいって思ってたから』

『そ、そうなんだ』

『これは恋愛感情なのだとばかり思っていたけれど、今はっきり分かったよ。ミウは僕の妹だ。妹になって欲しい』

 サイラスの圧が半端ない。ひとりっ子は兄弟姉妹に憧れると言うがここまでとは。同い年で兄妹と言うのも変な話だが、私自身、恋愛のいざこざに巻き込まれるよりは兄妹ごっこを楽しむ方が気が楽だ。私は軽い気持ちで返事をした。

『良いよ。おにいちゃん』

 これが間違いだった。サイラスは私を串焼きも買えないほどに貧乏だと思っているようで、お金を渡してきた。流石にそれは駄目だ。全拒否しているとサイラスが言った。

『だったらせめて、兄としてプレゼントをさせてくれ。それなら良いでしょ?』

『まぁ、物で貰った方が現金よりはマシかな』

 ——そして、今現在家具やら衣服を大量にプレゼントされているところだ。

「家に荷物を送ろうと思うんだけど、どこに届けたら良い?」

「あー、どこかな……」

 自宅の住所を言っても届かないし、やはり魔王に持って帰ってもらうしかないか。私が悩んでいると、サイラスが言った。

「とりあえず城に送っとこっか。部屋狭いなら僕の部屋にドレスとか置いといてさ、着替えたい時においでよ」

「あー、うん。そうだね」

 それならそのままサイラスに返品という形を取れる。良いかもしれない。

 サイラスが使用人らしき人に耳打ちすると、荷物は次々と店から運び出された。そして、サイラスは私の方に向き直ってにっこり笑顔で手を出してきた。

「ん? 握手?」

「手繋いで帰ろう」

「え……? 私たち恋人とかじゃないよね?」

「うん、兄妹。だから手繋いで帰ろう」

 サイラスの頭の中の兄妹像はどうなっているのだろうか。兄妹で手を繋ぐのは小さい頃くらいだ。呆気に取られていると、サイラスは眉を下げて言った。

「ごめん、抱っこだった? それともおんぶ?」
 
 何だろう。普通に兄に見えてきた。言っている事ややっている事が日本にいる兄と変わらない。私はそれが可笑しく思えて、ふっと笑った。

「良いよ。手繋いで帰ろう」

「母上と父上にも紹介しなくちゃね」

「それはやめといた方が……」

 私はサイラスと手を繋いで仲良く城へと戻っていった。

◇◇◇◇

「ねぇ、サイ様?」

「おにいちゃん!」

「ねぇ、おにいちゃん。どうして私の部屋が出来てるの? しかも、おにいちゃんの隣の部屋に」

 城へ戻ると、客間で魔王の迎えを待つのかと思いきやサイラスの部屋に通された。そして、そのまま繋がっている隣の部屋に。

 そこには先程購入した品の数々が並んでおり、今にも住める状態になっていた。

「大事な妹だから。僕の目の届く部屋じゃないと不安でしょ」

「いや、そうかもしれないけどさ、ここって将来のお妃様の部屋だよね? せめて別の部屋にしてよ」

「細かいことは気にしなくて良いよ。もう一人のお兄さんが来るまでまだ時間あるからさ、少し休んでなよ」

 もう一人の兄とは本物の兄ではなく魔王のことだ。この世界では私の兄と言う設定でいくらしい。

「こっちの部屋が気になって使えないなら僕の部屋使いなよ。さっきからミウ眠たそうだし」

 サイラスの言うように私は眠い。昨日の睡眠時間は三時間。そして、半日サイラスに付き合って動き回っているので、今にも寝落ちしそうな程に眠たいのだ。

 時計を確認すると、魔王が迎えに来るまで後一時間。そして、そこにはふかふかのベッドが……。

 セドリックの時に異性の部屋に二人きりで入るのはやめようと決めていた。しかし、サイラスは私に対して恋愛感情がないとはっきり言った。

「お言葉に甘えて、少し寝るね」

「どうぞ」

 サイラスに誘導され、サイラスのベッドの中に入った。

「気持ち良い……」

 私はサイラスに布団をポンポン叩かれながら船を漕いだ。

◇◇◇◇

 五十分後。

「——ミウ、ミウ」

 耳元で声がする。何だかくすぐったい。

「ミウ? そろそろ時間だよ」

「うん。お兄ちゃん、後五分」

 私はいつものように抱き枕をギュッと抱きしめながら二度寝した——。

 五分後私はパチッと目を覚ました。いつものことだが、この五分はアラームが無くても起きられる。不思議だ。

「はー、二度寝って最高だよね。お兄ちゃん」

「そうだね」

 兄の声が下から聞こえるのは気のせいか? 恐る恐る下に目線をずらした。

「お兄ちゃん? え、わっ! 誰?」

「おにいちゃんで合ってるよ」

「え、な、なんで? なんでそんな所にいるの?」

 私の腕の中にサイラスがいたのだ。しかも、私は思い切りサイラスの頭を抱きしめている。

「ご、ごめん」

 パッとサイラスを解放すると、サイラスは至極嬉しそうに言った。

「五分前に起こしたんだけどさ、ミウがおにいちゃんって言いながら僕を抱きしめてくれたんだよ。そんなに僕を慕ってくれて嬉しいよ」

「あー……」

 もしかしなくとも私は抱き枕と間違えてサイラスを抱きしめて寝ていたようだ。

 私がしていたように今度はサイラスが私を頭からしっかりと包み込んだ。自分からサイラスを抱きしめていた手前、サイラスを拒絶できない。

「今度からは初めから一緒に寝ようね。兄妹なんだから」

「はは、そうだね。おにいちゃん……」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 王室スキャンダル 巻き込まれた伯爵令嬢は推理するし恋もする!

音爽(ネソウ)
ミステリー
王家主催の夜会にて宴もたけなわとなった頃、一騒動が起きた。「ボニート王女が倒られた」と大騒ぎになった。控室は騒ぎを聞きつけた貴族達が群がり、騎士達と犇めきあう。現場を荒らされた騎士隊長は激怒する。 ところが肝心の姫がいないことに気が付く…… 一体王女は何処へ消えたのか。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

処理中です...