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第四部 血染めの十字架篇
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四、
刹那たちが早朝からマフィアと交戦していた時、隠れ家には一人の招かれざる客が窓枠に座っていた。この部屋にはルィアン自らが施した高等な目くらましの呪術がはられているというのに、どうやって侵入したのか、全員に緊張が走る。
「あんた、マデリカの者? 窓には術が施されているはずよ。どうやって見破ったの?」
睨みつけながら質問を連投するアーヤを無視して、その少年とも少女とも取れる外見の剣士は目をしばたたかせて部屋を見渡す。
「あれ、刹那さんはいない。ちぇっ、ハズレですか……」
剣士――高科葵は肩を落とすと「質問に答えなさい!!」と吠えるアーヤの背後に、いつの間にか回り込んで、その背を抜刀と同時に腰から肩へと対角に斬りあげる。
「アーヤ!!」
ルイーズの叫びも、アンリの遠隔分解も、誰の攻撃も防御も間に合わない。
「……耳障りですね」
仄暗い眼をした高科は刹那が得意とする技の一つである全方位の『縮地』にも似た目にも止まらぬ速さで白刃を煌かせる。
まだ息がある全員にトドメを刺そうと地を蹴った。
――不意に高い音が鳴り響く。
弾かれた刀から手へと伝わる痺れに高科は、瞬きの間、呆ける。
「どういうつもりか尋ねる気はない。――ただ許せぬ」
「刹那さん!!」
アンリの前に立って、不可視の刀と殺気を向ける刹那を認めると高科葵は、嬉々とした声音で刹那の名を呼んだ。後方では左文字がリチャードを下して、深手を負っているアーヤの応急処置をしている。
「あの、ごめんなさい。私は――」
「問答無用」
刹那は、片手で持っていた刀を下段に構え、狭い部屋を一歩で高科までの距離を詰める。
その間に刀を横薙ぎにまで持ち上げて、高科の顔の横を薙ぎ払う。
しかし、これは相手の刃に塞がれて鋼の弾ける音と小さな火花が見えた。
「あの、刹那さん。奇襲をかけてお仲間を斬ったことは謝ります。私の話を聞いてください……!!」
厳しい表情の刹那は「許さぬ、と申した。話をしたいのなら、なぜ仲間を斬る必要があったのだ」と正眼に構え直して、高科との間合いを読む。
「それは――っ!!」
再び正面から斬り込んでくる刹那に、高科は顔を歪めながらも懸命に応戦する。
もう十合は打ち合っているはずだ。高科にはじわりと汗が浮いているが、刹那は汗どころか、呼吸の乱れすら皆無だ。
刹那も同時に違和感を覚えていた。力量としては同等だろう。だが、決定打がないのはひとえに体格の差に他ならない。加えて、高科は「話を聞いてくれ」と再三訴えて本気を出してはいないのは明白。
ここいらで終わらせるか、と刹那は片手持ちに変えた。
それを訝しんだ高科の一瞬の戸惑いを見逃さず、袈裟斬りに振り下ろす。
当然ながら高科は柄を上にして防御に入る。
空いた脚を刹那は反対の手で持っていた見えない鞘で脚払いをかけた。
「う、わあ!!」
バランスを崩して、身体の右側面から倒れた高科の鼻先に、刹那は刀の切っ先を突き付けた。
「勝負あったな。貴殿が本気になっていないからだが……。それで? 話とはなんだ?」
倒れた拍子に刀も手放してしまったので、高科は観念してそろそろと起き上がって正座をする。
居住まいを正して「……あの」と口を開きかけた高科を刹那は「ひとまず仲間の手当てをしたい。質問をしておいてすまぬが待ってくれ」と左文字や比較的軽傷のアンリの手伝いに行ってしまった。
◇
おそらく部屋の異変を察知したルィアンからの命令だろう。すぐに駆けつけてくれたZEROが全員の処置を素早く行ってくれたので、三十分もかからずに全員元通りに動けるようになった。
そしてZEROも参加してソファの上で縮こまる高科の話を聞く。
「……本当に、ごめんなさい。私がヴァチカンに雇われた高科葵です」
会釈する高科に「嘘こけ」と言ったのはZEROだった。
「お前の本名は相馬葵。新撰組最後の局長・相馬主計の縁者だろうが」
「お調べ済みでしたか。はい、おっしゃる通りです……」
「で、うちのボスの術をどうやって破ったんだ?」
刹那では無く、次々と詰問するZEROを「まあまあ」と刹那が諭す。
「こういう場で性別を出すのは好かぬが、仮にもまだ少女だ。そう怒涛のように尋ねられるのは不憫だろう」
「はあ!? 女あ!?」
「お?」と刹那は気づいていなかった面々を見る。高科――改め、相馬葵は顔を赤らめて「そこまでお見通しでしたか」ともじもじとしだした。
気づいていたのは刹那、デューク、ZEROの三人だけのようで、他の者達は開いた口が塞がらない。
「いつからお気づきで?」
「最初に出逢った時から。斬撃が軽すぎたゆえなあ。技量としては申し分ないのに、体格だけでは埋めようのない差があった」
葵はますます赤くなって項垂れた。眉尻を下げた刹那が正面から見られない。苦し紛れに出された紅茶をソーサーごと持ち上げるが、カチャカチャと危うく鳴らす。
「それで、君はなぜこの部屋の術を見破れたのだ? 私に対する話も同時に聞かせてくれるか?」
「えっと、ここを発見できたのは……私の眼が異能の眼力のせいです。異能力は見破れませんが、呪術や隠された仕掛けの類なら透視できるせいかと。そ、それと……刹那さんを訪ねてきたのは、ひ、一目惚れなのです!! ヴァチカンを裏切ってでも、お傍に置いて頂けないかと思いまして!!」
まさしく衝撃の告白に、一同は顎が外れそうなくらいに口が塞がらないまま、立ち尽くしている。
当の刹那は頬をぽりぽりと掻く。
「……おい、刹那。油断すんなよ!! 色仕掛けに決まってんだろ」
「左文字に同感だな。色仕掛けであって欲しいと切実に願っているが、断じて僻んでいる訳じゃなく、友人としての注意だ!!」
力説する左文字とZEROを刹那や他の面々は冷めた目で見ていた。そこへ爆弾を打ち込むのはやはりこの子供であった。
「アオイさんって、いくつ? 刹那の傍に、って付き合うとかじゃなくてお世話係みたいなのになりたいの?」
「アンリ、ちょっと黙っていなさい……!!」
もご、とアーヤがアンリの口を手で塞いだ。率直すぎる質問をされた葵はあわあわと紅茶のカップを取り落としそうになりながらも小さく何事かを話していた。
「十七です。そ、そりゃあ……お付き合いとかできればいいなーって思いますけど……まずは刺客からだったので信用を勝ち得ることからかなーとか……」
「暗殺者だった自覚はあるんだな……」
左文字がそう呟けば「も、勿論です!!」と葵は頬を染めながらも拳を作って力説する。だが、困ったのは刹那であった。
「葵殿、君の気持ちは嬉しいが私は君の気持には永劫応えられぬ――この通りだ」
刹那は頭を下げた。これに葵は「あの、時間なら……努力します」と食い下がったが、頭を上げた刹那があまりにも哀しい眼と笑みで彼女を見据えるので、口を噤む他無かった。
「ヴァチカンを裏切ったとあれば、君にも危険が迫る。皆は不本意かもしれぬが、ここに身を置くといい」
「あ……」と名残を惜しむ葵の視線を振り切って、刹那は立ち上がった。
「アーヤ、これは今朝のマフィアから拝借したものだ。ルイーズと共に葵殿の世話を頼む」
「あ、え、ええ……」
アーヤに袖から出した金を渡すと左文字が「久しぶりにお前の掏摸技が役に立ったな」と肩に手を置いてくる。二人はそのまま着替えに寝室へと向かってしまった。
俯く葵にルイーズが「あの、着物だけでも着替えない?」と声を掛ける。
葵は小さく洟を啜って「お世話になります。今朝は本当にごめんなさい」と頭を下げた。
刹那の事情を詳しく知るZEROだけが「初恋は実らない、ってか?」と独りごちた。
◇
「頑なすぎるんじゃねえの? さすがに俺ですら、あの娘に同情したぜ」
「ではお主は心に生涯の一人を抱いたまま、好いてくれる女性を幸せにできるのか?」
道場袴を脱いで、若草色と白が複雑に混じる木綿の長着と柿色の帯を締めた刹那の問いに左文字は答えに窮する。
「要はそういうことだ。悪い子ではない。裏があるようにも見えぬゆえ、サンクと違って仲良くしてやってくれ」
いつもの穏やかな笑みを浮かべる刹那にはこれ以上の言及はできない。左文字は叩き返された肩に触れて先に寝室を出た刹那がドアを閉めてから、視線だけを下げる。
「……お前の恋愛は痛々しいんだ。死にたがっているのが目に見えてんだよ!!」
左文字はぎりっと歯ぎしりをする。誰でも良いとは言わない。左文字でさえ拗らせた十年の感情を持て余している。それを逐一案じてくれるのはたった一人の相方だ。
「俺にも……きっとお前みたいな愛し方ができる男なんて、そういないんだろうな……」
左文字の哀愁を聞いている者はいない。
あんなふうに愛された女は幸せなのだろうか、と考えた。
結論はすぐに出た。
――刹那が愛したたった一人の女性は、天上で刹那が抱き止めてくれるのを心待ちにしているのだろう、と。
それからも葵は様子を窺いながら刹那に話しかけていた。傍で少しでも好感を持ってもらおうと話しかけてみたり、常に視線だけで刹那を追ってみたりする姿があまりにも健気で、なぜか左文字が胸に痛みを感じていた。
ベランダには真っ赤なゼラニウムが根腐りせずに咲き誇っていた。
青い花はどこを探しても見当たらない――。
★続...
刹那たちが早朝からマフィアと交戦していた時、隠れ家には一人の招かれざる客が窓枠に座っていた。この部屋にはルィアン自らが施した高等な目くらましの呪術がはられているというのに、どうやって侵入したのか、全員に緊張が走る。
「あんた、マデリカの者? 窓には術が施されているはずよ。どうやって見破ったの?」
睨みつけながら質問を連投するアーヤを無視して、その少年とも少女とも取れる外見の剣士は目をしばたたかせて部屋を見渡す。
「あれ、刹那さんはいない。ちぇっ、ハズレですか……」
剣士――高科葵は肩を落とすと「質問に答えなさい!!」と吠えるアーヤの背後に、いつの間にか回り込んで、その背を抜刀と同時に腰から肩へと対角に斬りあげる。
「アーヤ!!」
ルイーズの叫びも、アンリの遠隔分解も、誰の攻撃も防御も間に合わない。
「……耳障りですね」
仄暗い眼をした高科は刹那が得意とする技の一つである全方位の『縮地』にも似た目にも止まらぬ速さで白刃を煌かせる。
まだ息がある全員にトドメを刺そうと地を蹴った。
――不意に高い音が鳴り響く。
弾かれた刀から手へと伝わる痺れに高科は、瞬きの間、呆ける。
「どういうつもりか尋ねる気はない。――ただ許せぬ」
「刹那さん!!」
アンリの前に立って、不可視の刀と殺気を向ける刹那を認めると高科葵は、嬉々とした声音で刹那の名を呼んだ。後方では左文字がリチャードを下して、深手を負っているアーヤの応急処置をしている。
「あの、ごめんなさい。私は――」
「問答無用」
刹那は、片手で持っていた刀を下段に構え、狭い部屋を一歩で高科までの距離を詰める。
その間に刀を横薙ぎにまで持ち上げて、高科の顔の横を薙ぎ払う。
しかし、これは相手の刃に塞がれて鋼の弾ける音と小さな火花が見えた。
「あの、刹那さん。奇襲をかけてお仲間を斬ったことは謝ります。私の話を聞いてください……!!」
厳しい表情の刹那は「許さぬ、と申した。話をしたいのなら、なぜ仲間を斬る必要があったのだ」と正眼に構え直して、高科との間合いを読む。
「それは――っ!!」
再び正面から斬り込んでくる刹那に、高科は顔を歪めながらも懸命に応戦する。
もう十合は打ち合っているはずだ。高科にはじわりと汗が浮いているが、刹那は汗どころか、呼吸の乱れすら皆無だ。
刹那も同時に違和感を覚えていた。力量としては同等だろう。だが、決定打がないのはひとえに体格の差に他ならない。加えて、高科は「話を聞いてくれ」と再三訴えて本気を出してはいないのは明白。
ここいらで終わらせるか、と刹那は片手持ちに変えた。
それを訝しんだ高科の一瞬の戸惑いを見逃さず、袈裟斬りに振り下ろす。
当然ながら高科は柄を上にして防御に入る。
空いた脚を刹那は反対の手で持っていた見えない鞘で脚払いをかけた。
「う、わあ!!」
バランスを崩して、身体の右側面から倒れた高科の鼻先に、刹那は刀の切っ先を突き付けた。
「勝負あったな。貴殿が本気になっていないからだが……。それで? 話とはなんだ?」
倒れた拍子に刀も手放してしまったので、高科は観念してそろそろと起き上がって正座をする。
居住まいを正して「……あの」と口を開きかけた高科を刹那は「ひとまず仲間の手当てをしたい。質問をしておいてすまぬが待ってくれ」と左文字や比較的軽傷のアンリの手伝いに行ってしまった。
◇
おそらく部屋の異変を察知したルィアンからの命令だろう。すぐに駆けつけてくれたZEROが全員の処置を素早く行ってくれたので、三十分もかからずに全員元通りに動けるようになった。
そしてZEROも参加してソファの上で縮こまる高科の話を聞く。
「……本当に、ごめんなさい。私がヴァチカンに雇われた高科葵です」
会釈する高科に「嘘こけ」と言ったのはZEROだった。
「お前の本名は相馬葵。新撰組最後の局長・相馬主計の縁者だろうが」
「お調べ済みでしたか。はい、おっしゃる通りです……」
「で、うちのボスの術をどうやって破ったんだ?」
刹那では無く、次々と詰問するZEROを「まあまあ」と刹那が諭す。
「こういう場で性別を出すのは好かぬが、仮にもまだ少女だ。そう怒涛のように尋ねられるのは不憫だろう」
「はあ!? 女あ!?」
「お?」と刹那は気づいていなかった面々を見る。高科――改め、相馬葵は顔を赤らめて「そこまでお見通しでしたか」ともじもじとしだした。
気づいていたのは刹那、デューク、ZEROの三人だけのようで、他の者達は開いた口が塞がらない。
「いつからお気づきで?」
「最初に出逢った時から。斬撃が軽すぎたゆえなあ。技量としては申し分ないのに、体格だけでは埋めようのない差があった」
葵はますます赤くなって項垂れた。眉尻を下げた刹那が正面から見られない。苦し紛れに出された紅茶をソーサーごと持ち上げるが、カチャカチャと危うく鳴らす。
「それで、君はなぜこの部屋の術を見破れたのだ? 私に対する話も同時に聞かせてくれるか?」
「えっと、ここを発見できたのは……私の眼が異能の眼力のせいです。異能力は見破れませんが、呪術や隠された仕掛けの類なら透視できるせいかと。そ、それと……刹那さんを訪ねてきたのは、ひ、一目惚れなのです!! ヴァチカンを裏切ってでも、お傍に置いて頂けないかと思いまして!!」
まさしく衝撃の告白に、一同は顎が外れそうなくらいに口が塞がらないまま、立ち尽くしている。
当の刹那は頬をぽりぽりと掻く。
「……おい、刹那。油断すんなよ!! 色仕掛けに決まってんだろ」
「左文字に同感だな。色仕掛けであって欲しいと切実に願っているが、断じて僻んでいる訳じゃなく、友人としての注意だ!!」
力説する左文字とZEROを刹那や他の面々は冷めた目で見ていた。そこへ爆弾を打ち込むのはやはりこの子供であった。
「アオイさんって、いくつ? 刹那の傍に、って付き合うとかじゃなくてお世話係みたいなのになりたいの?」
「アンリ、ちょっと黙っていなさい……!!」
もご、とアーヤがアンリの口を手で塞いだ。率直すぎる質問をされた葵はあわあわと紅茶のカップを取り落としそうになりながらも小さく何事かを話していた。
「十七です。そ、そりゃあ……お付き合いとかできればいいなーって思いますけど……まずは刺客からだったので信用を勝ち得ることからかなーとか……」
「暗殺者だった自覚はあるんだな……」
左文字がそう呟けば「も、勿論です!!」と葵は頬を染めながらも拳を作って力説する。だが、困ったのは刹那であった。
「葵殿、君の気持ちは嬉しいが私は君の気持には永劫応えられぬ――この通りだ」
刹那は頭を下げた。これに葵は「あの、時間なら……努力します」と食い下がったが、頭を上げた刹那があまりにも哀しい眼と笑みで彼女を見据えるので、口を噤む他無かった。
「ヴァチカンを裏切ったとあれば、君にも危険が迫る。皆は不本意かもしれぬが、ここに身を置くといい」
「あ……」と名残を惜しむ葵の視線を振り切って、刹那は立ち上がった。
「アーヤ、これは今朝のマフィアから拝借したものだ。ルイーズと共に葵殿の世話を頼む」
「あ、え、ええ……」
アーヤに袖から出した金を渡すと左文字が「久しぶりにお前の掏摸技が役に立ったな」と肩に手を置いてくる。二人はそのまま着替えに寝室へと向かってしまった。
俯く葵にルイーズが「あの、着物だけでも着替えない?」と声を掛ける。
葵は小さく洟を啜って「お世話になります。今朝は本当にごめんなさい」と頭を下げた。
刹那の事情を詳しく知るZEROだけが「初恋は実らない、ってか?」と独りごちた。
◇
「頑なすぎるんじゃねえの? さすがに俺ですら、あの娘に同情したぜ」
「ではお主は心に生涯の一人を抱いたまま、好いてくれる女性を幸せにできるのか?」
道場袴を脱いで、若草色と白が複雑に混じる木綿の長着と柿色の帯を締めた刹那の問いに左文字は答えに窮する。
「要はそういうことだ。悪い子ではない。裏があるようにも見えぬゆえ、サンクと違って仲良くしてやってくれ」
いつもの穏やかな笑みを浮かべる刹那にはこれ以上の言及はできない。左文字は叩き返された肩に触れて先に寝室を出た刹那がドアを閉めてから、視線だけを下げる。
「……お前の恋愛は痛々しいんだ。死にたがっているのが目に見えてんだよ!!」
左文字はぎりっと歯ぎしりをする。誰でも良いとは言わない。左文字でさえ拗らせた十年の感情を持て余している。それを逐一案じてくれるのはたった一人の相方だ。
「俺にも……きっとお前みたいな愛し方ができる男なんて、そういないんだろうな……」
左文字の哀愁を聞いている者はいない。
あんなふうに愛された女は幸せなのだろうか、と考えた。
結論はすぐに出た。
――刹那が愛したたった一人の女性は、天上で刹那が抱き止めてくれるのを心待ちにしているのだろう、と。
それからも葵は様子を窺いながら刹那に話しかけていた。傍で少しでも好感を持ってもらおうと話しかけてみたり、常に視線だけで刹那を追ってみたりする姿があまりにも健気で、なぜか左文字が胸に痛みを感じていた。
ベランダには真っ赤なゼラニウムが根腐りせずに咲き誇っていた。
青い花はどこを探しても見当たらない――。
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