50 / 76
第四部 血染めの十字架篇
4-1
しおりを挟む
【第四部】 『血染めの十字架』
一、
パリの冬は寒い。日本の最北端である稚内よりも緯度が高いのだから、当然とも言える。プラタナスの葉も落ち、代わりに地面には栗の毬に似たマロニエの実が地面に転がる。これはクリスマスリースの飾りとしても使われるパリの名物だ。
花は真っ赤なゼラニウムがそこかしこのベランダから街を彩っていた。
空にはあいにくの鈍色の雲だ。今夜は残念ながら月が拝めない。
「もう冬の装いか」
時刻はまだ六時を過ぎてもいない。刹那は白い絣の中に毛織の長襦袢を着てきたことを幸いに思いながら、ぶるりと身を震わせた。
今日はモンマルトルに新しくオープンする「ムーランルージュ」と名付けられたキャバレーの人足として駆り出されていた。
古い馴染みのオーナーには「荷運びなら左文字の方が適任であろう」と言ったのだが、うまいこと逃げられたのだという。仕方なく、刹那が代役として右へ左へとコマネズミのように走り回らされた。
まるでパリに来たばかりの頃を想起させる。あの頃は言葉も何も解らず、ただ力仕事だの喧嘩の仲裁、地元のマフィアとの諍いと日銭を稼ぐことに奔走していた。
月のない道を街灯だけを頼りに歩いていると、脚にマロニエの実が当たった。しゃがみこんで、手に取り、まじまじと見たがまだリースを作るには早すぎるかと薄笑いを浮かべて立ち上がろうとした時だ。
「笠木刹那さん?」
がに股でしゃがみ込んでいた刹那の行く手を阻んだのは一振りの日本刀だった。街灯の明かりを受けて青白く輝くそれを辿って、持ち手の顔を見れば左文字よりも小さな少年剣士が立っていた。
「如何にも。笠木刹那は私だが、貴殿は?」
刹那の名を聞いて、少年は「ああ、良かった」と刃を刹那に向けたまま、月の代わりのようにぱあっと笑った。
江戸の時代からそのまま抜け出てきたような剣士だった。髪こそ頭頂部で一纏めにしただけの長い馬の尾、まだ変声期を迎えていない高い声、袖にだけ青海波が白抜きされた藍の着物と憲法黒の道場袴、若木のように精悍な――というよりは、中性的な印象を受ける青年だった。
「私は高科葵と申す者。笠木さん、貴方の暗殺命令をとある方から命じられて参りました」
「それはまた物騒なことだ。さて、命を狙われることに恐怖はないが、貴殿のような子供が刺客とは……また酔狂な御仁だ」
よっこいしょと立ちあがった刹那に、青年は笑みを絶やさず緩やかな殺気を放ち続けていた。相当の使い手なのは確かだと刹那は不可視となっている腰の物に手を添える。
最初に仕掛けたのは高科だった。
刹那の目に向かって突きを一閃。
刹那は身を逸らして、突きを回避し、高科が振るう逆袈裟、横薙ぎ、下段の払いを体捌きだけで避ける。
「抜かないんですか?」
「抜かせて見せよう、という気概が感じられたら抜くやもしれぬなあ」
にっこりと笑い返す刹那に、青年の両の目がギラリと光った。まだ空振りとは言え、これだけ剣を振るっても息を乱すようすもなく、剣先が鈍る様子も無い。それどころか、振るうほどにその鋭さと正確さは増して行く。
異能者かとも思ったが、どうやらそうではないらしい。未だに刹那が抜刀の気配がないことにも動じず、アンリのような純粋さで首を傾げる。
「ふうん……やはり御一新を生きぬいた方は違うなあ。故国ならもう屍になっているだろうに」
冷静に現状を把握しつつ、ふう、と一度嘆息すると高科は刀を鞘に納めた。だが、眼の光が鈍っていないので、刹那は「居合か」と身構える。
――途端、刹那に身震いさせるような気を放ったかと思うと、鋼のぶつかる音が夜のしじまに余韻を残しながら響いた。
「あは、抜きましたね」
さも嬉しそうに高科は微笑む。刹那も「恐ろしい剣速ゆえ」と眉尻を下げた。
「ふむ、してやられた。私への刺客として人選されただけのことはある、が――」
刹那は刃を交わらせたまま、高科に突進し、火花すら見えた。そして右手は刀を交わらせたまま、鞘を押さえていた左手拳で腹に拳打を打ち込む。
「ぐっ!!」
鳩尾に強烈な一撃を受けた高科は眼の前が明滅する。
「本物の殺し合いは初めてと見た。敵前逃亡は好まぬのだが、今日のところは許せ――さらば」
「な!! ま、て……!! くそっ!!」
痛む鳩尾を押さえている間に刹那はひらりと身を返して闇の中に走り去ってしまった。
◇
追手の気配がないことを確認して、刹那は隠れ家に入ろうとするが、そこでもまた違和感を覚えた。
静かすぎるのだ。ドアの向こうにも生き物の気配が感じられない。それを不審に思いながらも、ドアノブに手を掛けると、天井から一匹の黒い蛇が姿を現した。
「ZEROの『黒蛇神』ではないか。皆はどこへ行った?」
『黒蛇神』というこの蛇はZEROが使う異能と呪術の集大成である能力『白蛇神』の派生形である。主に空間同士を繫げる際に用いられるので、ルィアンの突然の登場はおおむねこの『黒蛇神』が使用されている。
「ボスの命令により総員緊急避難なされた。貴方も帰宅され次第、お連れせよと仰せつかっております」
「そうか。ルィアン殿の命ならば信じよう。頼む」
刹那は真っ赤な口を大きく開けた蛇の口の中に入った。二、三歩だけ歩くと不思議なことに、口から入ったのに、更に口から吐き出された。
「刹那!!」
モンマルトルの隠れ家によく似た内装のその部屋を見回すと、ルィアンを最奥に『KARMA』のメンバーが集っていた。
「遅かったな」
「帰り道に辻斬りにあってな。ルィアン殿、待たせて申し訳ない。事態の説明を願う」
左文字の質問に、端的に返答して刹那は最奥で玉座にでも腰掛けているようなルィアン現在地の説明と、緊急事態とやらの説明を乞うた。
ルィアンは『黒蛇神』を労うと、刹那達に向き直り、黒いステッキをついて重い口を開いた。
「ここは十六区にある『インフィニ』の所有物件の一つだ。ブローニュの森とセーヌ河のちょうど中間にあたる」
「それはまた……随分な大移動だ。して、緊急事態とは? 先刻、私の暗殺命令がどこぞから発せられたと刺客である『高科葵』という日本人剣士は申した」
「日本人剣士、高科葵か。ZERO、至急身元を調べさせろ。おそらく偽名だろうがな」とルィアンは後ろに控えていたZEROに命じると「厄介事ばかりだ」と珍しく疲れた表情を見せた。
「日本人剣士の一人が動こうが、意にも介さぬのだが……此度ばかりは慎重にならざるを得ない――ヴァチカンが動いたのだよ」
射貫くような眼でルィアンは双頭の蛇を象った瞳孔の碧い隻眼を刹那に向けた。刹那も顔をしかめる。
「ヴァチカン? あそこは今、イタリア政府と対立の真っ最中ではござらぬか。『クルセイダーズ』のクライスト絡みしか思い当たる節が見当たらぬ」
「第一の問題はクライストだな」と、ルィアンは刹那に返した。
「イタリア政府との対立の渦中に国際テロ組織の首領が枢機卿候補であったとは醜聞もいいところだ。揉み消しにかかりたいところに『夢幻泡影』の解体。裏から『クルセイダーズ』の残党を殲滅したかったが、君達により葬られてしまった。『クルセイダーズ』、『夢幻泡影』と地下組織の武闘派でも二強と称せる組織を倒したのは何者かとなった。そこに君達の名が挙がった」
汚点を取り除く為の頼みの綱が消えてしまった。ゆえにヴァチカンが血眼で刹那達を探すのは理解できるが、それでは高科葵の存在は本末転倒だ。刹那が口を開きかけると、先に意を察したルィアンが「第二に」と刹那の言葉を遮った。
「第三カルマ『マグダラのマリア』の『業』を負うルイーズ嬢の存在だ。おそらく『クルセイダーズ』の残党から名が流れたのだろう。カトリックの総本山であるヴァチカンは『マグダラのマリア』の存在を聖女として容認していない。君達を取り込むつもりがルイーズ嬢の存在によって、抹殺に切り替えたのだ」
話を聞き終えたルイーズは俯き、赤いストライプのスカートを握り込んだ。その手が震えるのは怒りからか、または哀しみからは判じかねる。
「……なるほど。クライストが遺した言葉通り、欲と権力の前に清貧を誓った神の使徒はこうも傲慢で身勝手なものなのか」
刹那の目に仄暗い怒りが宿る。
「君の意見はもっともだ。ゆえに、君達をモンマルトルから離した――イギリスの部下の報告によると、ルイーズが仕えていたリチャードの実家は使用人や庭師を含めて全員殺されたようなのでな」
今度こそ刹那の体内に燃え上がる焔が火柱を立てる。
眼の前が真っ赤になった。
これは間違いなく内臓から身を焦がす憤怒だったが、ルィアンは刹那に「だが、動けぬ」と言い放った。
「我々でさえ、ヴァチカンには対抗できぬのだ。その感情のままにヴァチカンに挑めば、血を見るのは君じゃない――」
「聡い君ならば想像はたやすかろう」と無情にも刹那をルィアンは正面から見据えた。
いつもなら啖呵を切る左文字でさえ黙り込んでいる。
刹那はじっとなにかに耐え忍ぶリチャードとルイーズを見て、脚が棒になったようにただ亡羊と立ち尽くした。
外からは冷たい雨が窓を打つ音がだんだんと大きく聞こえている。
★続...
一、
パリの冬は寒い。日本の最北端である稚内よりも緯度が高いのだから、当然とも言える。プラタナスの葉も落ち、代わりに地面には栗の毬に似たマロニエの実が地面に転がる。これはクリスマスリースの飾りとしても使われるパリの名物だ。
花は真っ赤なゼラニウムがそこかしこのベランダから街を彩っていた。
空にはあいにくの鈍色の雲だ。今夜は残念ながら月が拝めない。
「もう冬の装いか」
時刻はまだ六時を過ぎてもいない。刹那は白い絣の中に毛織の長襦袢を着てきたことを幸いに思いながら、ぶるりと身を震わせた。
今日はモンマルトルに新しくオープンする「ムーランルージュ」と名付けられたキャバレーの人足として駆り出されていた。
古い馴染みのオーナーには「荷運びなら左文字の方が適任であろう」と言ったのだが、うまいこと逃げられたのだという。仕方なく、刹那が代役として右へ左へとコマネズミのように走り回らされた。
まるでパリに来たばかりの頃を想起させる。あの頃は言葉も何も解らず、ただ力仕事だの喧嘩の仲裁、地元のマフィアとの諍いと日銭を稼ぐことに奔走していた。
月のない道を街灯だけを頼りに歩いていると、脚にマロニエの実が当たった。しゃがみこんで、手に取り、まじまじと見たがまだリースを作るには早すぎるかと薄笑いを浮かべて立ち上がろうとした時だ。
「笠木刹那さん?」
がに股でしゃがみ込んでいた刹那の行く手を阻んだのは一振りの日本刀だった。街灯の明かりを受けて青白く輝くそれを辿って、持ち手の顔を見れば左文字よりも小さな少年剣士が立っていた。
「如何にも。笠木刹那は私だが、貴殿は?」
刹那の名を聞いて、少年は「ああ、良かった」と刃を刹那に向けたまま、月の代わりのようにぱあっと笑った。
江戸の時代からそのまま抜け出てきたような剣士だった。髪こそ頭頂部で一纏めにしただけの長い馬の尾、まだ変声期を迎えていない高い声、袖にだけ青海波が白抜きされた藍の着物と憲法黒の道場袴、若木のように精悍な――というよりは、中性的な印象を受ける青年だった。
「私は高科葵と申す者。笠木さん、貴方の暗殺命令をとある方から命じられて参りました」
「それはまた物騒なことだ。さて、命を狙われることに恐怖はないが、貴殿のような子供が刺客とは……また酔狂な御仁だ」
よっこいしょと立ちあがった刹那に、青年は笑みを絶やさず緩やかな殺気を放ち続けていた。相当の使い手なのは確かだと刹那は不可視となっている腰の物に手を添える。
最初に仕掛けたのは高科だった。
刹那の目に向かって突きを一閃。
刹那は身を逸らして、突きを回避し、高科が振るう逆袈裟、横薙ぎ、下段の払いを体捌きだけで避ける。
「抜かないんですか?」
「抜かせて見せよう、という気概が感じられたら抜くやもしれぬなあ」
にっこりと笑い返す刹那に、青年の両の目がギラリと光った。まだ空振りとは言え、これだけ剣を振るっても息を乱すようすもなく、剣先が鈍る様子も無い。それどころか、振るうほどにその鋭さと正確さは増して行く。
異能者かとも思ったが、どうやらそうではないらしい。未だに刹那が抜刀の気配がないことにも動じず、アンリのような純粋さで首を傾げる。
「ふうん……やはり御一新を生きぬいた方は違うなあ。故国ならもう屍になっているだろうに」
冷静に現状を把握しつつ、ふう、と一度嘆息すると高科は刀を鞘に納めた。だが、眼の光が鈍っていないので、刹那は「居合か」と身構える。
――途端、刹那に身震いさせるような気を放ったかと思うと、鋼のぶつかる音が夜のしじまに余韻を残しながら響いた。
「あは、抜きましたね」
さも嬉しそうに高科は微笑む。刹那も「恐ろしい剣速ゆえ」と眉尻を下げた。
「ふむ、してやられた。私への刺客として人選されただけのことはある、が――」
刹那は刃を交わらせたまま、高科に突進し、火花すら見えた。そして右手は刀を交わらせたまま、鞘を押さえていた左手拳で腹に拳打を打ち込む。
「ぐっ!!」
鳩尾に強烈な一撃を受けた高科は眼の前が明滅する。
「本物の殺し合いは初めてと見た。敵前逃亡は好まぬのだが、今日のところは許せ――さらば」
「な!! ま、て……!! くそっ!!」
痛む鳩尾を押さえている間に刹那はひらりと身を返して闇の中に走り去ってしまった。
◇
追手の気配がないことを確認して、刹那は隠れ家に入ろうとするが、そこでもまた違和感を覚えた。
静かすぎるのだ。ドアの向こうにも生き物の気配が感じられない。それを不審に思いながらも、ドアノブに手を掛けると、天井から一匹の黒い蛇が姿を現した。
「ZEROの『黒蛇神』ではないか。皆はどこへ行った?」
『黒蛇神』というこの蛇はZEROが使う異能と呪術の集大成である能力『白蛇神』の派生形である。主に空間同士を繫げる際に用いられるので、ルィアンの突然の登場はおおむねこの『黒蛇神』が使用されている。
「ボスの命令により総員緊急避難なされた。貴方も帰宅され次第、お連れせよと仰せつかっております」
「そうか。ルィアン殿の命ならば信じよう。頼む」
刹那は真っ赤な口を大きく開けた蛇の口の中に入った。二、三歩だけ歩くと不思議なことに、口から入ったのに、更に口から吐き出された。
「刹那!!」
モンマルトルの隠れ家によく似た内装のその部屋を見回すと、ルィアンを最奥に『KARMA』のメンバーが集っていた。
「遅かったな」
「帰り道に辻斬りにあってな。ルィアン殿、待たせて申し訳ない。事態の説明を願う」
左文字の質問に、端的に返答して刹那は最奥で玉座にでも腰掛けているようなルィアン現在地の説明と、緊急事態とやらの説明を乞うた。
ルィアンは『黒蛇神』を労うと、刹那達に向き直り、黒いステッキをついて重い口を開いた。
「ここは十六区にある『インフィニ』の所有物件の一つだ。ブローニュの森とセーヌ河のちょうど中間にあたる」
「それはまた……随分な大移動だ。して、緊急事態とは? 先刻、私の暗殺命令がどこぞから発せられたと刺客である『高科葵』という日本人剣士は申した」
「日本人剣士、高科葵か。ZERO、至急身元を調べさせろ。おそらく偽名だろうがな」とルィアンは後ろに控えていたZEROに命じると「厄介事ばかりだ」と珍しく疲れた表情を見せた。
「日本人剣士の一人が動こうが、意にも介さぬのだが……此度ばかりは慎重にならざるを得ない――ヴァチカンが動いたのだよ」
射貫くような眼でルィアンは双頭の蛇を象った瞳孔の碧い隻眼を刹那に向けた。刹那も顔をしかめる。
「ヴァチカン? あそこは今、イタリア政府と対立の真っ最中ではござらぬか。『クルセイダーズ』のクライスト絡みしか思い当たる節が見当たらぬ」
「第一の問題はクライストだな」と、ルィアンは刹那に返した。
「イタリア政府との対立の渦中に国際テロ組織の首領が枢機卿候補であったとは醜聞もいいところだ。揉み消しにかかりたいところに『夢幻泡影』の解体。裏から『クルセイダーズ』の残党を殲滅したかったが、君達により葬られてしまった。『クルセイダーズ』、『夢幻泡影』と地下組織の武闘派でも二強と称せる組織を倒したのは何者かとなった。そこに君達の名が挙がった」
汚点を取り除く為の頼みの綱が消えてしまった。ゆえにヴァチカンが血眼で刹那達を探すのは理解できるが、それでは高科葵の存在は本末転倒だ。刹那が口を開きかけると、先に意を察したルィアンが「第二に」と刹那の言葉を遮った。
「第三カルマ『マグダラのマリア』の『業』を負うルイーズ嬢の存在だ。おそらく『クルセイダーズ』の残党から名が流れたのだろう。カトリックの総本山であるヴァチカンは『マグダラのマリア』の存在を聖女として容認していない。君達を取り込むつもりがルイーズ嬢の存在によって、抹殺に切り替えたのだ」
話を聞き終えたルイーズは俯き、赤いストライプのスカートを握り込んだ。その手が震えるのは怒りからか、または哀しみからは判じかねる。
「……なるほど。クライストが遺した言葉通り、欲と権力の前に清貧を誓った神の使徒はこうも傲慢で身勝手なものなのか」
刹那の目に仄暗い怒りが宿る。
「君の意見はもっともだ。ゆえに、君達をモンマルトルから離した――イギリスの部下の報告によると、ルイーズが仕えていたリチャードの実家は使用人や庭師を含めて全員殺されたようなのでな」
今度こそ刹那の体内に燃え上がる焔が火柱を立てる。
眼の前が真っ赤になった。
これは間違いなく内臓から身を焦がす憤怒だったが、ルィアンは刹那に「だが、動けぬ」と言い放った。
「我々でさえ、ヴァチカンには対抗できぬのだ。その感情のままにヴァチカンに挑めば、血を見るのは君じゃない――」
「聡い君ならば想像はたやすかろう」と無情にも刹那をルィアンは正面から見据えた。
いつもなら啖呵を切る左文字でさえ黙り込んでいる。
刹那はじっとなにかに耐え忍ぶリチャードとルイーズを見て、脚が棒になったようにただ亡羊と立ち尽くした。
外からは冷たい雨が窓を打つ音がだんだんと大きく聞こえている。
★続...
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

狼神様と生贄の唄巫女 虐げられた盲目の少女は、獣の神に愛される
茶柱まちこ
キャラ文芸
雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。
ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。
呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。
神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚。
(旧題:『大神様のお気に入り』)
お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~
保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。
迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。
ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。
昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!?
夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。
ハートフルサイコダイブコメディです。
浅葱色の桜
初音
歴史・時代
新選組の局長、近藤勇がその剣術の腕を磨いた道場・試衛館。
近藤勇は、子宝にめぐまれなかった道場主・周助によって養子に迎えられる…というのが史実ですが、もしその周助に娘がいたら?というIfから始まる物語。
「女のくせに」そんな呪いのような言葉と向き合いながら、剣術の鍛錬に励む主人公・さくらの成長記です。
時代小説の雰囲気を味わっていただくため、縦書読みを推奨しています。縦書きで読みやすいよう、行間を詰めています。
小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも載せてます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる