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破
Ⅳ, B3
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Ⅳ、「B3」
ユーリと同じ『BLUE ROSE』――NORA
雪とノラを中心に人垣が割れる。
血糊。
警察を呼ぶ声。
雪は喧騒の中、刺されたはずの背に痛みがないことを不思議に感じていた。
「やれやれ、王様もメフィスト様も人遣いが荒いからヤなんだ」
背後から聞こえるのは知らない少年の声だった。
「お前……邪魔するな!!」
「邪魔するよ。お前のせいで俺まで働かせられてんだよ? しかも刺されたし。もう治ったけど一張羅が破れた。謝れよ」
雪はどうやらこの少年のおかげで助かったらしい。触角のような髪がぴょこぴょこと揺れる、ぶかぶかの迷彩柄のパーカーを着た少年だ。
「君は……?」
「俺? ベルフェゴール。面倒だからB3でいいよ。王様の命令でお兄さんを護るように言われて影に入っていた魔族」
「エル達はノラの襲撃を予見していたってこと?」
「うん。魔眼のバロールで『異界』を覗いていたら、この単純な『BLUE ROSE』が犬神に踊らされたみたい」
緊張感が皆無で気だるい雰囲気の魔族は、パーカーの背が破れていた。さっきの血糊はB3のもののようだが、もう傷は無い。
怠惰を装っているが、素早い反射神経と驚異の回復力――。
(……こいつ、戦闘特化型か……!!)
怒りに支配されていた頭も、B3の態度で冷静になっていく。
戦闘特化型だと言う以外、この魔族の実力が読めない。ここにユーリと魔王、四将まで加わったら厄介だと判断したノラは、大きな舌打ちを漏らす。
手に持っていたナイフを捨て、その場を離脱しようとしたら、ノラの足元に青い魔法陣が浮かび上がって――消えた。
「おー、さすがメフィスト様。うまく釣れた」
空を仰いだB3は感嘆の声を上げるが、まったく感動が伝わってこない。雪も空を見上げると、ノラを連れ去った魔法陣と同じ青い光が雲にいくつも映っている。なにが起こっているのかよく解らないが、雪はとりあえず助けられたらしい。
「命令とは言え、僕を助けてくれたんだよね? ありがとう」
「気にしないでよ。どうせ、俺、これからもお兄さんの護衛役にされそうだし」
どういう意味かと、雪がB3に尋ねようとしたら「雪くん!!」とユーリが汗だくになりながら駆け寄ってきた。
「何とも無い!?」
「うん。ノラが来たけど、彼が助けてくれたから平気」
「……よか、った……!! 雪くんを護ってくれてありがとう。えっと……」
「ベルフェゴール。はじめまして、お嬢さん」
雪に紹介されたユーリよりも十センチほど身長の低いパーカーとだぼついたズボンの少年は、半分閉じかけた眠そうな眼をして、ユーリに挨拶をした。
「ご苦労、ベルフェゴール」
「王様、隔離は成功したみたいだね」
「ああ、ユーリ、状況を説明するから耳を貸せ」
ユーリにも何が起こっているのか、さっぱり解らなかったので、エルの説明があるのはありがたい。しかし、なにも情報共有されていなかった点については文句が先に出た。
「私に無断でなにをしたのよ」
「お前に話したら雪を狙っていたノラが釣れなかった。だから黙っていただけだ」
「……ったく、雪くんに怪我が無かったからよしとするけど、ベルフェゴールの存在すら知らされていなくて肝が冷えたわよ」
「ベルフェゴールは戦闘特化型の魔族だ。本来なら四将に加えてもおかしくない実力を有しているんだが……」
「B3でいいよ。俺、できるだけ働きたくないんだよね」
「この通り、怠惰と睡眠にしか興味がない。だから、これからも雪の護衛にしておく」
「だからそういう話を私抜きでしないでって言ってるの!!」
『魔界』の連中は一癖も二癖もあるが、B3は最たるものだ。ともあれ、エルとメフィストの企みが解らない今は雪の護衛の存在はありがたい。
「護衛くらいなら働いてあげる。その代わり、お役御免になったら十年は眠らせてもらうよ」
どこまでも我が道を行くB3の行動予測は不可能だが、実力は折り紙付きだとユーリは安堵する。
「それにしても、『魔界』の主戦力をこんなにも『異界侵攻』に割いて大丈夫なの?」
魔王であるエルことルシファー、宰相メフィストをくわえた四将、そしてベルフェゴール――これでは『魔界』に目標を変更されてもおかしくはない。そう考えたユーリの思考を読んだのか、エルは「だからノラを隔離したんだ」と平然と答えた。
「一度来たお前ならわかるだろう。『魔界』は環境自体が特殊だ。本来なら、『魔界』は門をくぐることすら敵わん。メフィストが趣味であちこちに自発的に発動する術や呪詛が数え切れないほどある」
ゆえに、ノラを除いた『異界』勢が襲ってこようが痛くもかゆくもない。エルは暗にそうほのめかす。
確かに『魔界』の環境は厳しい。酸の雨、入れない門、地雷原のような術と呪詛に覆われた世界。つくづくユーリはエルに「導かれた」のだと実感する。
「『異界』の主戦力はノラに依存している。私が『聖騎士』となったように」
「そういうことだ。で、本題だが、ノラと同時にニューヨークから半径五十キロメートル以内に身を隠していた『異界』の連中をメフィストが作り出した即席の亜空間に閉じ込めてある」
「つまり――今度こそ犬神に邪魔はさせん。血祭りの開催だ」
エルの目が爛々と輝く。その場にいる全員がぞくりと鳥肌を立てた。だが、これは魔王ルシファーの本性の一端でしかないのだろう。
◇
ノヴォシビルスクの雪原よりも真白の世界には果てが無かった。怒りに目がくらんで、まんまとルシファーの罠にかかってしまった浅はかな自身が愚かだ。結局はユーリの婚約者も仕留め損ねた。
「くそっ……!! これじゃあまるで」
そこまで言いかけて、ノラははっとした。
――まるで魔王と父さんの掌の上で踊らされているようだ。
「そもそも、父さんはなぜあんな話をボクにしたんだ……?」
ノラがユーリに固執するのは、もしかしたらただ一人の理解者になってくれるかもしれない。あわよくば、ボクを愛してくれるかもしれない。そう想っていたからだ。
「ま、さか……いや、そんな馬鹿な……だってボクは『異界』の主戦力だ。父さんにとっても、貴重な駒のはず……」
ノラと同様にここに連れてこられた『異界』の者達は気を失って倒れている。
「そうだ……こんな惰弱な連中とボクは違う……」
ひたすら自身にそう言い聞かせるノラをくつくつと笑う声があった。
「誰だ!!」
「実に滑稽だな、ノラ」
「――ルシファー!!」
髪も、衣装も、存在すら漆黒の男は愉快そうに歩み寄ってくる。ノラはルシファーと、彼に護られながら歩いてくるユーリに視線を移す。
「ユーリ……」
「そろそろ考えがまとまった頃かと思って来てみれば、同じ『BLUE ROSE』でもお前はユーリよりも単純だな。こちらとしては扱いやすくてありがたい」
「……なにが言いたい」
「気づきかけている真実を俺に委ねるのか? まあ、祭の開始合図にはもってこいだな。少々悪趣味なのが玉にキズだが」
エルがわざとノラを煽っているとは、ノラ以外の全員が気づいている。気づいていながら真実を口にしないのは同情からだ。
少なくともユーリは『そう』だ。しかし、エルを始めとする『魔界』勢はおそらくノラに一片も同情すらない。エルは今から行われるのは祭だと言った。
ならば、さしずめノラは祭に差し出される生贄と言える。
「おそらく犬神の思考回路に最も近いのは俺だ。外道を極めている。だから『魔界』と『異界』の交渉は決裂した。神界と人界を壊した後で、どちらが生き残るかの戦争が始まるのが予見できたからだ。予見できるようなつまらない未来を俺は欲していない――いいか、ノラ。今回、お前は利用された。父親である犬神にな」
「やめろ!! 聞きたくない!! ボクは、ボクこそが『異界』の尖兵筆頭であり、父さんの手足だ!!」
薙刀をエルに振り下ろしたノラの叫びは痛々しいほどに震えていた。だが、手甲剣でノラの一撃をあっさりと受け止めたエルは白い歯を覗かせる。
「めでたい頭だ。ノヴォシビルスクから三日しか経っていないのに、なぜこの地に行くように仕向けられたのかもわからんのか? 言っておくが、ユーリは『あの娘』とは違うぞ」
ニューヨーク、ユーリ、『あの娘』――すべてが繋がったノラは息をのんだ。
その隙をついて、エルは受け止めていた薙刀ごとノラを吹き飛ばした。
「……なぜ、お前が知っている……?」
「うちの宰相と使い魔は優秀だからな。過去を探るなど息をするように容易い。わざわざ犬神がノヴォシビルスクで意味深な言葉を残して行ったし、奴の計画に乗ってやったのさ」
エルとノラの話についていけないユーリは、こっそりとメフィストのカソックを引っ張った。
「どういうこと? 話がさっぱり解らない」
「なぜノラがたった三日で攻めてきたか……すべては犬神の思惑であり、ノラは利用されたにすぎません。お嬢様はノラがなぜあなたに固執するのか、ご存知ですか?」
メフィストの今更すぎる質問にユーリは怪訝な顔をする。
「私が『BLUE ROSE』だからじゃないの? 同胞が私しかいないから……」
「当たらずとも遠からず、と申しておきましょう。しかし、あなたも鈍いですね。婚約者殿しか目に入っていないせいでしょうか」
メフィストの呆れ交じりの言に、カチンときたユーリは「あんたは一言多いわよ」と返す。
「まあいい。王とノラも膠着状態です――長い話になりますが、今のうちにノラの過去について話しておくとしましょうか」
――メフィストは「始まりは十七年前です」と昔語りを始めた。
to be continued...
ユーリと同じ『BLUE ROSE』――NORA
雪とノラを中心に人垣が割れる。
血糊。
警察を呼ぶ声。
雪は喧騒の中、刺されたはずの背に痛みがないことを不思議に感じていた。
「やれやれ、王様もメフィスト様も人遣いが荒いからヤなんだ」
背後から聞こえるのは知らない少年の声だった。
「お前……邪魔するな!!」
「邪魔するよ。お前のせいで俺まで働かせられてんだよ? しかも刺されたし。もう治ったけど一張羅が破れた。謝れよ」
雪はどうやらこの少年のおかげで助かったらしい。触角のような髪がぴょこぴょこと揺れる、ぶかぶかの迷彩柄のパーカーを着た少年だ。
「君は……?」
「俺? ベルフェゴール。面倒だからB3でいいよ。王様の命令でお兄さんを護るように言われて影に入っていた魔族」
「エル達はノラの襲撃を予見していたってこと?」
「うん。魔眼のバロールで『異界』を覗いていたら、この単純な『BLUE ROSE』が犬神に踊らされたみたい」
緊張感が皆無で気だるい雰囲気の魔族は、パーカーの背が破れていた。さっきの血糊はB3のもののようだが、もう傷は無い。
怠惰を装っているが、素早い反射神経と驚異の回復力――。
(……こいつ、戦闘特化型か……!!)
怒りに支配されていた頭も、B3の態度で冷静になっていく。
戦闘特化型だと言う以外、この魔族の実力が読めない。ここにユーリと魔王、四将まで加わったら厄介だと判断したノラは、大きな舌打ちを漏らす。
手に持っていたナイフを捨て、その場を離脱しようとしたら、ノラの足元に青い魔法陣が浮かび上がって――消えた。
「おー、さすがメフィスト様。うまく釣れた」
空を仰いだB3は感嘆の声を上げるが、まったく感動が伝わってこない。雪も空を見上げると、ノラを連れ去った魔法陣と同じ青い光が雲にいくつも映っている。なにが起こっているのかよく解らないが、雪はとりあえず助けられたらしい。
「命令とは言え、僕を助けてくれたんだよね? ありがとう」
「気にしないでよ。どうせ、俺、これからもお兄さんの護衛役にされそうだし」
どういう意味かと、雪がB3に尋ねようとしたら「雪くん!!」とユーリが汗だくになりながら駆け寄ってきた。
「何とも無い!?」
「うん。ノラが来たけど、彼が助けてくれたから平気」
「……よか、った……!! 雪くんを護ってくれてありがとう。えっと……」
「ベルフェゴール。はじめまして、お嬢さん」
雪に紹介されたユーリよりも十センチほど身長の低いパーカーとだぼついたズボンの少年は、半分閉じかけた眠そうな眼をして、ユーリに挨拶をした。
「ご苦労、ベルフェゴール」
「王様、隔離は成功したみたいだね」
「ああ、ユーリ、状況を説明するから耳を貸せ」
ユーリにも何が起こっているのか、さっぱり解らなかったので、エルの説明があるのはありがたい。しかし、なにも情報共有されていなかった点については文句が先に出た。
「私に無断でなにをしたのよ」
「お前に話したら雪を狙っていたノラが釣れなかった。だから黙っていただけだ」
「……ったく、雪くんに怪我が無かったからよしとするけど、ベルフェゴールの存在すら知らされていなくて肝が冷えたわよ」
「ベルフェゴールは戦闘特化型の魔族だ。本来なら四将に加えてもおかしくない実力を有しているんだが……」
「B3でいいよ。俺、できるだけ働きたくないんだよね」
「この通り、怠惰と睡眠にしか興味がない。だから、これからも雪の護衛にしておく」
「だからそういう話を私抜きでしないでって言ってるの!!」
『魔界』の連中は一癖も二癖もあるが、B3は最たるものだ。ともあれ、エルとメフィストの企みが解らない今は雪の護衛の存在はありがたい。
「護衛くらいなら働いてあげる。その代わり、お役御免になったら十年は眠らせてもらうよ」
どこまでも我が道を行くB3の行動予測は不可能だが、実力は折り紙付きだとユーリは安堵する。
「それにしても、『魔界』の主戦力をこんなにも『異界侵攻』に割いて大丈夫なの?」
魔王であるエルことルシファー、宰相メフィストをくわえた四将、そしてベルフェゴール――これでは『魔界』に目標を変更されてもおかしくはない。そう考えたユーリの思考を読んだのか、エルは「だからノラを隔離したんだ」と平然と答えた。
「一度来たお前ならわかるだろう。『魔界』は環境自体が特殊だ。本来なら、『魔界』は門をくぐることすら敵わん。メフィストが趣味であちこちに自発的に発動する術や呪詛が数え切れないほどある」
ゆえに、ノラを除いた『異界』勢が襲ってこようが痛くもかゆくもない。エルは暗にそうほのめかす。
確かに『魔界』の環境は厳しい。酸の雨、入れない門、地雷原のような術と呪詛に覆われた世界。つくづくユーリはエルに「導かれた」のだと実感する。
「『異界』の主戦力はノラに依存している。私が『聖騎士』となったように」
「そういうことだ。で、本題だが、ノラと同時にニューヨークから半径五十キロメートル以内に身を隠していた『異界』の連中をメフィストが作り出した即席の亜空間に閉じ込めてある」
「つまり――今度こそ犬神に邪魔はさせん。血祭りの開催だ」
エルの目が爛々と輝く。その場にいる全員がぞくりと鳥肌を立てた。だが、これは魔王ルシファーの本性の一端でしかないのだろう。
◇
ノヴォシビルスクの雪原よりも真白の世界には果てが無かった。怒りに目がくらんで、まんまとルシファーの罠にかかってしまった浅はかな自身が愚かだ。結局はユーリの婚約者も仕留め損ねた。
「くそっ……!! これじゃあまるで」
そこまで言いかけて、ノラははっとした。
――まるで魔王と父さんの掌の上で踊らされているようだ。
「そもそも、父さんはなぜあんな話をボクにしたんだ……?」
ノラがユーリに固執するのは、もしかしたらただ一人の理解者になってくれるかもしれない。あわよくば、ボクを愛してくれるかもしれない。そう想っていたからだ。
「ま、さか……いや、そんな馬鹿な……だってボクは『異界』の主戦力だ。父さんにとっても、貴重な駒のはず……」
ノラと同様にここに連れてこられた『異界』の者達は気を失って倒れている。
「そうだ……こんな惰弱な連中とボクは違う……」
ひたすら自身にそう言い聞かせるノラをくつくつと笑う声があった。
「誰だ!!」
「実に滑稽だな、ノラ」
「――ルシファー!!」
髪も、衣装も、存在すら漆黒の男は愉快そうに歩み寄ってくる。ノラはルシファーと、彼に護られながら歩いてくるユーリに視線を移す。
「ユーリ……」
「そろそろ考えがまとまった頃かと思って来てみれば、同じ『BLUE ROSE』でもお前はユーリよりも単純だな。こちらとしては扱いやすくてありがたい」
「……なにが言いたい」
「気づきかけている真実を俺に委ねるのか? まあ、祭の開始合図にはもってこいだな。少々悪趣味なのが玉にキズだが」
エルがわざとノラを煽っているとは、ノラ以外の全員が気づいている。気づいていながら真実を口にしないのは同情からだ。
少なくともユーリは『そう』だ。しかし、エルを始めとする『魔界』勢はおそらくノラに一片も同情すらない。エルは今から行われるのは祭だと言った。
ならば、さしずめノラは祭に差し出される生贄と言える。
「おそらく犬神の思考回路に最も近いのは俺だ。外道を極めている。だから『魔界』と『異界』の交渉は決裂した。神界と人界を壊した後で、どちらが生き残るかの戦争が始まるのが予見できたからだ。予見できるようなつまらない未来を俺は欲していない――いいか、ノラ。今回、お前は利用された。父親である犬神にな」
「やめろ!! 聞きたくない!! ボクは、ボクこそが『異界』の尖兵筆頭であり、父さんの手足だ!!」
薙刀をエルに振り下ろしたノラの叫びは痛々しいほどに震えていた。だが、手甲剣でノラの一撃をあっさりと受け止めたエルは白い歯を覗かせる。
「めでたい頭だ。ノヴォシビルスクから三日しか経っていないのに、なぜこの地に行くように仕向けられたのかもわからんのか? 言っておくが、ユーリは『あの娘』とは違うぞ」
ニューヨーク、ユーリ、『あの娘』――すべてが繋がったノラは息をのんだ。
その隙をついて、エルは受け止めていた薙刀ごとノラを吹き飛ばした。
「……なぜ、お前が知っている……?」
「うちの宰相と使い魔は優秀だからな。過去を探るなど息をするように容易い。わざわざ犬神がノヴォシビルスクで意味深な言葉を残して行ったし、奴の計画に乗ってやったのさ」
エルとノラの話についていけないユーリは、こっそりとメフィストのカソックを引っ張った。
「どういうこと? 話がさっぱり解らない」
「なぜノラがたった三日で攻めてきたか……すべては犬神の思惑であり、ノラは利用されたにすぎません。お嬢様はノラがなぜあなたに固執するのか、ご存知ですか?」
メフィストの今更すぎる質問にユーリは怪訝な顔をする。
「私が『BLUE ROSE』だからじゃないの? 同胞が私しかいないから……」
「当たらずとも遠からず、と申しておきましょう。しかし、あなたも鈍いですね。婚約者殿しか目に入っていないせいでしょうか」
メフィストの呆れ交じりの言に、カチンときたユーリは「あんたは一言多いわよ」と返す。
「まあいい。王とノラも膠着状態です――長い話になりますが、今のうちにノラの過去について話しておくとしましょうか」
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