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Ⅱ, 戒めの指輪――再会
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Ⅱ、「戒めの指輪――再会」
ノヴォシビルスクのホテルを出たのが午後一時。来た道を逆走して、ノヴォシビルスク郊外にあるトリマチョーヴォ空港からニューヨークのマンハッタンに向けて、空へと舞い上がったのが午後六時半だった。
ユーリは飛行機の中でもひたすら眠っていた。やはり前日の疲れが残っていたのだろう。傷はMがすぐに消したとはいえ、さすがに失血までは治せない。現に眠っている顔色も悪い。
「両親に会う気鬱で眠れぬよりはマシか……」
エルはすうすうと眠るユーリの蒼白い頬を指で摘まむ。この程度で起きる様子は無いが、むずがって顔を窓側に背けられた。幼さの残る横顔が、まだ十四の子供であることをありありと物語っていた。
◇
深夜に中継地で飛行機を乗り換え、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に到着したのは午後の一時だった。
「対策本部はマンハッタンだったな」
「うん。到着時間をママにメールしてあるから、迎えが来ているはずなんだけ、ど……」
ユーリはロビーでにこやかに手を振る人間を見つけてしまい、口を開けたまま唖然とする。
「ユーリ、こっち!!」
「……ママ……」
「あ? じゃあ、あれが迎えか」
ポニーテールにした長いハニーブロンドを揺らしながら駆けてくる女性は、さながら宗教画から抜け出たように美しく儚げな姿をしていた。目元や小鼻など顔の造形はユーリそっくりである。
第一印象だけではとても『神殺しの聖女』と畏怖される人間だとは到底思えない。ユーリとは違う碧い瞳を細めて、エルに右手を差し出した。その手の甲には確かに『神殺し』の証である白百合のタトゥーがあった。
「日本ではご挨拶できなくてごめんなさい。エル。ユリアの母リリィ=アンジェと申します。娘を護ってくれてありがとうございます」
初対面の挨拶で礼を述べるとは、エルも表情には出さないが呆気にとられる。日本では夫に縋ってただ泣いているだけのかよわい女という印象しかなかったが、どうやら想像以上に厄介な相手だとエルは差し出された右手を握った。
「ねえ、暢気に挨拶しているけどパパかジャンヌはどこ? まさかママの運転で本部まで行くなんて言わないわよね……?」
「そのまさかよ。さ、行きましょ?」
「絶対に嫌!! ママの運転する車に乗るならタクシーで行く!!」
「お前、そんなに我が儘だったか?」
「……ママの運転を知らないから、そんなことが言えるのよ……!! 私はまだ死にたくない!!」
「本当に大丈夫よ。私は絶対に事故はしない身だし、ここまでもちゃんと来られたもの」
「嫌ったら嫌!!」
往生際が悪いユーリを、エルが俵のようにひょいと抱え上げてリリィに「車はどこだ?」と尋ねる。
「助かるわ。この子、昔から私の隣に乗るとなると愚図るのよ。あ、駐車場までは距離があるの。こっちよ」
衆目の目も気にせず、エルの肩の上で「下ろせ」だの「死にたくない」だのとわめくユーリを無視して、リリィとエルは駐車場に停まっていたセダンに乗り込んだ。
◇
控えめに言って、リリィの運転は絶叫マシンよりもスリリングだった。ユーリは後部座席で早々に気絶してしまうほどに。起きた時は「もうやだ」と幼児退行を起こして泣いている。
「もー、大袈裟ねえ」
「ママの神経、本当に信じられない……。一般道でドリフトなんて聞いたことないわよ。急停車・急発進が多すぎて車体が浮くし、カーブの度にハリウッド映画みたいに片側走行になるし、車庫入れは縁石に乗り上げるまで気づかないし……免許を発行した奴、目が節穴じゃないの……!?」
「あれで事故をしないのは、あんたの守護神のおかげか。さすがの俺も今回ばかりはユーリに同情するぞ」
エルはけろっとしているリリィを直視できず、後部座席で泣き濡れているユーリを引っ張り出した。まだしゃくりあげているユーリをリリィがなだめようとしたところに厳しい声が飛んできた。
「リリィ、甘やかすな。ガキの我が儘に付き合っている時間は無い。もう役員は集まってんだぞ」
「ヴィンセント……でも、ユーリは」
「いいから着替えて来い。そいつは自分から親の手を振り払ったんだから構う必要はない。泣き腫らした目のガキに、どういう評価をされるのかも考えていない。果たしてじじい共の目にお前の姿はどう映るのか、よく考えるんだな――ユリア」
「ヴィンセント!!」
もう愛称ですら呼んでくれない父。ユーリはまた別の哀しさがこみあげてくるのを必死に耐えた。
「ママ、行って。準備があるんでしょ?」
「ユーリ」
「いいから行って!! ……ごめん、私もすぐ行く。パパが怒っているのも……自業自得だもの」
まだなにか言いたげなリリィはしばし逡巡したが「じゃあ最上階の会議室で待っているわね」とユーリの頬にキスをすると去って行った。
「……泣こうが喚こうが、俺は気にしないが?」
「言ったでしょ、自業自得だって。悪いけど、M、目だけどうにかしてくれない?」
「やれやれ、強情なところは父親似ですか」
車の影から出てきたメフィストに充血した目だけ治してもらい、ユーリはエルを従えて大理石のエントランスを抜けて最上階へ向かうエレベーターに乗った。
リリィが言っていた最奥の会議室の扉をノックする。
「ユリア=ロゼッタ、入室します」
心は血を流しているのに、そんな様子はおくびにも出さない。エルにはその気丈に振る舞う姿が、逆に危うく見えた。
◇
「言いすぎ。あの台詞は僕が怒るよ?」
ユーリが会議室に入ったのを確認してから、外で様子を見守っていた雪がヴィンセントに怒りを露わにする。
「そうやって甘やかしてきた結果が今のあいつだろ。俺達の監督不行届きもあるが、もう十四――来週には十五になる。充分、責任能力のある年齢だ」
ヴィンセントの言葉に、雪が片手で胸倉を掴みあげた。
「……長い付き合いだが、お前のそんな表情は初めて見るな」
「――娘が可愛くないのか……!? ユーリはノラから貴方をかばったのに!!」
「もう亭主面か? 俺はお前との婚約も認めてねえぞ」
力にはそれなりに自信がある雪の腕を、ヴィンセントは片手で容易く剥ぎ取る。
鬱血痕が残る左手を見て、雪は死神の力を思い知る。だが、これではユーリがあまりにも不憫だ。
「覚えておけよ、雪。これからのあいつは――お前の手が届かないところに悪魔の翼で羽ばたいていく。お前がいつまで『可愛いユーリ』を一途に想い、待っていられるか。見物だな――」
ヴィンセントはそう言い残すと、足早に隣の会議室に入って行った。ぱたりと閉められた扉の中はマジックミラーが在って、会議室の様子を観察できる部屋だ。
雪はその扉には入らず、冷たい廊下に背を預けてずるずるとその場に座り込んでしまった。
「……わかってるよ。僕みたいな有象無象の『人間』じゃあ、戦う彼女に寄り添えないことくらい。でも仕方ないじゃないか……そんなユーリが僕を慕ってくれる姿が愛しくて、僕も一回り以上も違う彼女が恋しくて狂いそうなんだから……」
「雪くん!!」と無邪気な声が聞こえる。雪も飛びついてくる少女を抱き止める。たった半年前の出来事だったのに、青葉についた水滴が陽光で輝く日々が恋しくてたまらない。
なによりも苦しいのは、ユーリが雪と一緒にいるだけで、自身の存在意義を見出してくれなかったことだ。
◇
会議室の中は紛糾していた。
「まだ若すぎる。精神面も未熟だ」
「しかし、あの『魔界』の連中を御して、犬神を退けた功績は前例がない。最大級の評価を与えるべきだ」
概ね意見はこの二つに割れている。ユーリは「これ、いつ終わるんだろう」とコの字型に配置された机のど真ん中に座らされて、退屈そうに結論を待っている。
もう二十分以上、同じ論争が続いていて部屋の端で記録を取っている二名の書記官も焦るばかりだ。
「意見を、よろしいでしょうか?」
そろりと挙手をしたのは、母リリィ=アンジェだった。隣には補佐としてジャンヌが座っている。
「今だけは母娘という関係はなく、客観的な事実を述べさせて頂きたく存じます」
議長であるアーノルド・レイギスという鷲にそっくりな老人がリリィの発言を認めた。喧々囂々としていた場が水を打ったように静まり返る。
「ノヴォシビルスクに於けるユリア=ロゼッタと魔王ルシファー及び魔界四将の働きは、確かに大きな成果を得られました。同じ『BLUE ROSE』であるNORAには暴走反応が見られましたが、ユリアは魔界勢の助力もあって暴走にも至らなかった。これも一つ――皆様がおっしゃるようにまだ年齢は若く、戦闘経験も数値だけ見れば少ない。そして、魔王との契約により若干二十歳までしか生きられぬ身です」
ゆったりと真剣な表情で話すリリィに口を挟む者はいない。
ゆえにリリィ=アンジェは滔々と続ける。
「――しかし、最も重視すべきは、ユリアの存在によって、孤高の世界であった『魔界』との橋渡しができた事実だと私は考えます。神、人、魔の三つの世界が犬神率いる『異界』討伐に意見を同じくするのならば、これよりはユリア率いる魔界勢の助力は必要不可欠と言っても過言ではないでしょう。特に『異界』に対する対抗手段を持たない人界は――いかがでしょうか?」
否とは言わせない理論武装で、リリィはその場を看破した。まだ口ごもる者も居たが、レイギス議長の隣に座っていた眼鏡の紳士が「確かにミセス・ファロアがおっしゃるとおり、我ら『人間』は『異界』の者に対抗するにしても、連中を見ることすらできない」と臆することなく発言した。
「神界は戦神を有している。だが、人界は自衛の方法が無いに等しい。現に一昨日前にノヴォシビルスクで三十人以上の犠牲を出してしまった。そして『異界侵攻』の最終目的地は日本の四国・山陰地方だと聞く。ならば、こちらはユリア=ロゼッタの戦力を評価し、ぜひとも力を貸して頂きたい」
「たった六年しか生きられない小娘をかね?」
これは誰の発言かわからない。だが、カチンと来たのか、ユーリ自身が直々に答えた。
「では六年の間に犬神を殺し、『異界侵攻』を止めればいいだけですね」
「な、大口を叩くな!! そんな事は不可能に決まっているだろう!!」
顔を真っ赤にして声を荒げたのは、頭頂部だけ禿げた熊と豚を合わせたような男だった。左側に座っているので、人界の役員だということは察しがついた。
「不可能に決まっている――その根拠をご提示願います」
「そ、それは……!!」
こちらが平常心を保っていれば、相手は目に見えて動揺する。こういう者に限って根拠はない。最初の議論でユーリの年齢問題を執拗に叫んでいたのもこの声だった。
「犬神どころか、『魔界』に属する者を見たことも無い人間が、我が主が選ばれたお嬢様を愚弄するのはいささか耐えがたいですね」
パイプ椅子に座っていたユーリの影が人の形となって現れた。
「ひっ!!」
「呼んでいないわよ、メフィスト」
「失敬。ですが、王自らがお選びになったユーリ様を侮られるのは、我が王への侮辱と同義だと捉えてしまいまして。ああ、あくまで私個人の意見です――して、如何に?」
こざっぱりと整えられた黒髪、糸目に眼鏡、アイボリーのカソックを着たインテリジェンスを感じるこの男――魔界四将の一人にして、魔界の宰相メフィスト・フェレスこそ、四将の中で最も王を崇拝し、気が短いと知っているのはユーリくらいだろう。
このタイミングでメフィストが出てきたのもエルの演出だ。その証拠に騒めく役員たちの中にあって、母とジャンヌは驚きもしない。
「わ、わかった……!! 六年で犬神を仕留められると言うのならば、やってみるといい!!」
「お話しが早くて助かります。では、ユーリ様、外でお待ちしております」
「はいはい」
ユーリが呆れ交じりに答えると、メフィストはまた影の中へと沈んでいった。
「話が中座してしまった――結論を言い渡す。ユリア=ロゼッタ、引き続き魔界の将を率い、六年後の二月十四日までに犬神及び『異界』の殲滅を命ずる」
「謹んでお受けいたします」
椅子から立ち上がり、そう答えたユーリは粛々と退室する。
◇
「やっと……手に入れた。私の存在意義を」
天に大きく息を吐きだす。全身から力が抜けていくようにふわふわとしている。
苦節十四年――空っぽだったユーリが心から望んだアイデンティティを手にした。
感慨に耽っていると、ほとんどの役員が退室した会議室から、ひょっこりとリリィが顔を出して手招く。
「ママ」
「ユーリ、来て。レイギス議長とアーデルハイト卿からあなたに渡したいものがあるの」
「渡したいもの?」
訝しく思いながら再度入室すると、がらんとした会議室の最奥で、まだ座っていたレイギス議長と百八十センチはゆうに超す長身の男がユーリを待っていた。
「お呼びでしょうか?」
「君の評価と今後の在り方は先ほど結論を言い渡した。これ以上は言及すまい。しかし、あの場に居た者達で、『異界侵攻』の根深さと真の恐ろしさを理解している者は多くはないのも遺憾ながら事実だ」
「でしょうね。メフィストが出てきただけで顔色を変えるような方々でしたもの」
ユーリの歯に衣着せぬ物言いに、アーデルハイト卿とリリィはぷっと吹き出した。
「なるほど。さすが貴女とヴィンセント様の御子だ。肝が据わっている」
長身の男は屈託なく笑う。見た目の固さに反してフランクな人物のようだ。
「……あの?」
「ああ、紹介が遅れてすまない。私は情報シンジケート『クラン』の北米支部長のヨハネス・アーデルハイト――神界で『異界侵攻』対策室の責任者をしている」
「はじめまして」
ユーリが事務的に挨拶を述べるとアーデルハイトは「よろしく頼むよ」と返して来た。
「紹介が終わったところで本題に入ろう。話を戻すが、敵の脅威を理解していない者は、今後も君に心ない言葉を吐き捨てる連中も出てくるはずだ。そこで対策として、君には『聖騎士』という称号を与えたい」
「『聖騎士』……ですか。でも、それって本来は魔法も使える騎士を意味する神格保持者にのみ与えられると文献で読んだことがあるのですが……。しかも私が率いているのは魔王と魔界四将ですよ?」
「内実など構わない。事実、『聖騎士』は長く空位だった。それは脅威が無かったからだ。しかし今は違う。『異界侵攻』が神、人、魔の三つの世界のバランスを崩しにかかっている以上、特例もやむを得ない、というのが我らの意見だ」
レイギスが語り終えると、アーデルハイトが紅いベルベットが張られた蓋の無い箱を差し出した。箱の上には山吹色の柄と黒い鞘で拵えられた脇差と、大粒のエメラルドが嵌った純金のアーマーリングが乗せられている。
「脇差には君の母上――リリィ=アンジェの守護神の羽根が刀身に埋め込まれている。これならば、『神殺し』の権利が無くとも、『異界』に属する悪神も斬れる。アーマーリングは代々の『聖騎士』に贈られる一品だ。中央のエメラルドが人界に入り込んだ『異界』の者に反応するようになっている。どちらも君を我らの側に縛る物――拒む権利も君にはある。選びなさい」
――レイギスの言葉は非常に矛盾している。
ユーリはそう内心で悪態を吐きながらも、戒めの指輪を左手の中指に通した。サイズ調整もしていないのに、恐ろしいほどしっくりとユーリの手に馴染んだ。
続いて脇差も慎重に鞘をはらった。光の加減で黄金に見える刀身は一点の曇りもなく、神々しい。
「ありがたく、拝領致します」
「ためらいはないのだな」
「あれだけ大勢の前で『異界』討伐の命令を受けたのですから、拒む理由がありません」
「……そうか」
なぜか疲れたように嘆息するレイギスに「同情なら不要です」と言い残し、ユーリは三人に一礼をして踵を返した。
部屋に残された三人は複雑な顔をする。
「リリィ……君が初めて『神殺し』の任務を達成したのは八つだったな」
「ええ。鹵獲され、合成獣に変えられた養父が、私が初めて殺した神格保持者です」
「なんの因果か……君の娘も若くして戦いに身を投じるとは。ヴィンセントの心痛が解るようだ……」
レイギスはとうとう頭を抱えてしまった。リリィも淡々と『聖騎士』の地位を受け入れた娘の未発達の背が痛々しく感じる。
「ですが、『魔界』が彼女を選んでしまった以上は、我らにできるのは情報提供くらいですね」
「はい。親として、妻として、頭の痛いことです……」
ユーリはマジックミラー越しに感じる夫の視線に目で合図をした。きっとヴィンセントは快く思ってはいない。あの二人の溝もどうしたら埋まることやら、とリリィは俯く。
(せめて……どんな短時間でも『彼』の腕の中で泣ければいいのだけれど……)
口にすればヴィンセントがまたユーリにつらく当たるだろう。だが、ユーリが地位も『BLUE ROSE』の呼称を捨てて、ただの『ユリア=ロゼッタ』に慣れる場所はひとつだった。
◇
「ユーリ」
優しい声が鼓膜を震わせる。
夢だろうかと、エレベーターから降りたユーリは、ぎこちない歩みで『彼』に近づく。
嬉しさと、哀しさと、寂しさから涙が滂沱と流れた。
「ゆ、き、く……雪、くん……雪くん!!」
「ユーリ、ユーリ……おかえり。逢いたかった。壊れそうなくらい、逢いたかったよ」
「うん、うん……!!」
エントランスは人払いをされたように誰もいなかった。ユーリは大声を上げて泣く。雪は壊さないように、ユーリをただ抱きすくめた――何度も名を呼びながら。
薔薇の棘に傷だらけにされようとも、雪は痛みなど感じない。
青薔薇自身が、こんなにも心体共にずたずたに傷ついているせいだ――。
to be continued...
ノヴォシビルスクのホテルを出たのが午後一時。来た道を逆走して、ノヴォシビルスク郊外にあるトリマチョーヴォ空港からニューヨークのマンハッタンに向けて、空へと舞い上がったのが午後六時半だった。
ユーリは飛行機の中でもひたすら眠っていた。やはり前日の疲れが残っていたのだろう。傷はMがすぐに消したとはいえ、さすがに失血までは治せない。現に眠っている顔色も悪い。
「両親に会う気鬱で眠れぬよりはマシか……」
エルはすうすうと眠るユーリの蒼白い頬を指で摘まむ。この程度で起きる様子は無いが、むずがって顔を窓側に背けられた。幼さの残る横顔が、まだ十四の子供であることをありありと物語っていた。
◇
深夜に中継地で飛行機を乗り換え、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に到着したのは午後の一時だった。
「対策本部はマンハッタンだったな」
「うん。到着時間をママにメールしてあるから、迎えが来ているはずなんだけ、ど……」
ユーリはロビーでにこやかに手を振る人間を見つけてしまい、口を開けたまま唖然とする。
「ユーリ、こっち!!」
「……ママ……」
「あ? じゃあ、あれが迎えか」
ポニーテールにした長いハニーブロンドを揺らしながら駆けてくる女性は、さながら宗教画から抜け出たように美しく儚げな姿をしていた。目元や小鼻など顔の造形はユーリそっくりである。
第一印象だけではとても『神殺しの聖女』と畏怖される人間だとは到底思えない。ユーリとは違う碧い瞳を細めて、エルに右手を差し出した。その手の甲には確かに『神殺し』の証である白百合のタトゥーがあった。
「日本ではご挨拶できなくてごめんなさい。エル。ユリアの母リリィ=アンジェと申します。娘を護ってくれてありがとうございます」
初対面の挨拶で礼を述べるとは、エルも表情には出さないが呆気にとられる。日本では夫に縋ってただ泣いているだけのかよわい女という印象しかなかったが、どうやら想像以上に厄介な相手だとエルは差し出された右手を握った。
「ねえ、暢気に挨拶しているけどパパかジャンヌはどこ? まさかママの運転で本部まで行くなんて言わないわよね……?」
「そのまさかよ。さ、行きましょ?」
「絶対に嫌!! ママの運転する車に乗るならタクシーで行く!!」
「お前、そんなに我が儘だったか?」
「……ママの運転を知らないから、そんなことが言えるのよ……!! 私はまだ死にたくない!!」
「本当に大丈夫よ。私は絶対に事故はしない身だし、ここまでもちゃんと来られたもの」
「嫌ったら嫌!!」
往生際が悪いユーリを、エルが俵のようにひょいと抱え上げてリリィに「車はどこだ?」と尋ねる。
「助かるわ。この子、昔から私の隣に乗るとなると愚図るのよ。あ、駐車場までは距離があるの。こっちよ」
衆目の目も気にせず、エルの肩の上で「下ろせ」だの「死にたくない」だのとわめくユーリを無視して、リリィとエルは駐車場に停まっていたセダンに乗り込んだ。
◇
控えめに言って、リリィの運転は絶叫マシンよりもスリリングだった。ユーリは後部座席で早々に気絶してしまうほどに。起きた時は「もうやだ」と幼児退行を起こして泣いている。
「もー、大袈裟ねえ」
「ママの神経、本当に信じられない……。一般道でドリフトなんて聞いたことないわよ。急停車・急発進が多すぎて車体が浮くし、カーブの度にハリウッド映画みたいに片側走行になるし、車庫入れは縁石に乗り上げるまで気づかないし……免許を発行した奴、目が節穴じゃないの……!?」
「あれで事故をしないのは、あんたの守護神のおかげか。さすがの俺も今回ばかりはユーリに同情するぞ」
エルはけろっとしているリリィを直視できず、後部座席で泣き濡れているユーリを引っ張り出した。まだしゃくりあげているユーリをリリィがなだめようとしたところに厳しい声が飛んできた。
「リリィ、甘やかすな。ガキの我が儘に付き合っている時間は無い。もう役員は集まってんだぞ」
「ヴィンセント……でも、ユーリは」
「いいから着替えて来い。そいつは自分から親の手を振り払ったんだから構う必要はない。泣き腫らした目のガキに、どういう評価をされるのかも考えていない。果たしてじじい共の目にお前の姿はどう映るのか、よく考えるんだな――ユリア」
「ヴィンセント!!」
もう愛称ですら呼んでくれない父。ユーリはまた別の哀しさがこみあげてくるのを必死に耐えた。
「ママ、行って。準備があるんでしょ?」
「ユーリ」
「いいから行って!! ……ごめん、私もすぐ行く。パパが怒っているのも……自業自得だもの」
まだなにか言いたげなリリィはしばし逡巡したが「じゃあ最上階の会議室で待っているわね」とユーリの頬にキスをすると去って行った。
「……泣こうが喚こうが、俺は気にしないが?」
「言ったでしょ、自業自得だって。悪いけど、M、目だけどうにかしてくれない?」
「やれやれ、強情なところは父親似ですか」
車の影から出てきたメフィストに充血した目だけ治してもらい、ユーリはエルを従えて大理石のエントランスを抜けて最上階へ向かうエレベーターに乗った。
リリィが言っていた最奥の会議室の扉をノックする。
「ユリア=ロゼッタ、入室します」
心は血を流しているのに、そんな様子はおくびにも出さない。エルにはその気丈に振る舞う姿が、逆に危うく見えた。
◇
「言いすぎ。あの台詞は僕が怒るよ?」
ユーリが会議室に入ったのを確認してから、外で様子を見守っていた雪がヴィンセントに怒りを露わにする。
「そうやって甘やかしてきた結果が今のあいつだろ。俺達の監督不行届きもあるが、もう十四――来週には十五になる。充分、責任能力のある年齢だ」
ヴィンセントの言葉に、雪が片手で胸倉を掴みあげた。
「……長い付き合いだが、お前のそんな表情は初めて見るな」
「――娘が可愛くないのか……!? ユーリはノラから貴方をかばったのに!!」
「もう亭主面か? 俺はお前との婚約も認めてねえぞ」
力にはそれなりに自信がある雪の腕を、ヴィンセントは片手で容易く剥ぎ取る。
鬱血痕が残る左手を見て、雪は死神の力を思い知る。だが、これではユーリがあまりにも不憫だ。
「覚えておけよ、雪。これからのあいつは――お前の手が届かないところに悪魔の翼で羽ばたいていく。お前がいつまで『可愛いユーリ』を一途に想い、待っていられるか。見物だな――」
ヴィンセントはそう言い残すと、足早に隣の会議室に入って行った。ぱたりと閉められた扉の中はマジックミラーが在って、会議室の様子を観察できる部屋だ。
雪はその扉には入らず、冷たい廊下に背を預けてずるずるとその場に座り込んでしまった。
「……わかってるよ。僕みたいな有象無象の『人間』じゃあ、戦う彼女に寄り添えないことくらい。でも仕方ないじゃないか……そんなユーリが僕を慕ってくれる姿が愛しくて、僕も一回り以上も違う彼女が恋しくて狂いそうなんだから……」
「雪くん!!」と無邪気な声が聞こえる。雪も飛びついてくる少女を抱き止める。たった半年前の出来事だったのに、青葉についた水滴が陽光で輝く日々が恋しくてたまらない。
なによりも苦しいのは、ユーリが雪と一緒にいるだけで、自身の存在意義を見出してくれなかったことだ。
◇
会議室の中は紛糾していた。
「まだ若すぎる。精神面も未熟だ」
「しかし、あの『魔界』の連中を御して、犬神を退けた功績は前例がない。最大級の評価を与えるべきだ」
概ね意見はこの二つに割れている。ユーリは「これ、いつ終わるんだろう」とコの字型に配置された机のど真ん中に座らされて、退屈そうに結論を待っている。
もう二十分以上、同じ論争が続いていて部屋の端で記録を取っている二名の書記官も焦るばかりだ。
「意見を、よろしいでしょうか?」
そろりと挙手をしたのは、母リリィ=アンジェだった。隣には補佐としてジャンヌが座っている。
「今だけは母娘という関係はなく、客観的な事実を述べさせて頂きたく存じます」
議長であるアーノルド・レイギスという鷲にそっくりな老人がリリィの発言を認めた。喧々囂々としていた場が水を打ったように静まり返る。
「ノヴォシビルスクに於けるユリア=ロゼッタと魔王ルシファー及び魔界四将の働きは、確かに大きな成果を得られました。同じ『BLUE ROSE』であるNORAには暴走反応が見られましたが、ユリアは魔界勢の助力もあって暴走にも至らなかった。これも一つ――皆様がおっしゃるようにまだ年齢は若く、戦闘経験も数値だけ見れば少ない。そして、魔王との契約により若干二十歳までしか生きられぬ身です」
ゆったりと真剣な表情で話すリリィに口を挟む者はいない。
ゆえにリリィ=アンジェは滔々と続ける。
「――しかし、最も重視すべきは、ユリアの存在によって、孤高の世界であった『魔界』との橋渡しができた事実だと私は考えます。神、人、魔の三つの世界が犬神率いる『異界』討伐に意見を同じくするのならば、これよりはユリア率いる魔界勢の助力は必要不可欠と言っても過言ではないでしょう。特に『異界』に対する対抗手段を持たない人界は――いかがでしょうか?」
否とは言わせない理論武装で、リリィはその場を看破した。まだ口ごもる者も居たが、レイギス議長の隣に座っていた眼鏡の紳士が「確かにミセス・ファロアがおっしゃるとおり、我ら『人間』は『異界』の者に対抗するにしても、連中を見ることすらできない」と臆することなく発言した。
「神界は戦神を有している。だが、人界は自衛の方法が無いに等しい。現に一昨日前にノヴォシビルスクで三十人以上の犠牲を出してしまった。そして『異界侵攻』の最終目的地は日本の四国・山陰地方だと聞く。ならば、こちらはユリア=ロゼッタの戦力を評価し、ぜひとも力を貸して頂きたい」
「たった六年しか生きられない小娘をかね?」
これは誰の発言かわからない。だが、カチンと来たのか、ユーリ自身が直々に答えた。
「では六年の間に犬神を殺し、『異界侵攻』を止めればいいだけですね」
「な、大口を叩くな!! そんな事は不可能に決まっているだろう!!」
顔を真っ赤にして声を荒げたのは、頭頂部だけ禿げた熊と豚を合わせたような男だった。左側に座っているので、人界の役員だということは察しがついた。
「不可能に決まっている――その根拠をご提示願います」
「そ、それは……!!」
こちらが平常心を保っていれば、相手は目に見えて動揺する。こういう者に限って根拠はない。最初の議論でユーリの年齢問題を執拗に叫んでいたのもこの声だった。
「犬神どころか、『魔界』に属する者を見たことも無い人間が、我が主が選ばれたお嬢様を愚弄するのはいささか耐えがたいですね」
パイプ椅子に座っていたユーリの影が人の形となって現れた。
「ひっ!!」
「呼んでいないわよ、メフィスト」
「失敬。ですが、王自らがお選びになったユーリ様を侮られるのは、我が王への侮辱と同義だと捉えてしまいまして。ああ、あくまで私個人の意見です――して、如何に?」
こざっぱりと整えられた黒髪、糸目に眼鏡、アイボリーのカソックを着たインテリジェンスを感じるこの男――魔界四将の一人にして、魔界の宰相メフィスト・フェレスこそ、四将の中で最も王を崇拝し、気が短いと知っているのはユーリくらいだろう。
このタイミングでメフィストが出てきたのもエルの演出だ。その証拠に騒めく役員たちの中にあって、母とジャンヌは驚きもしない。
「わ、わかった……!! 六年で犬神を仕留められると言うのならば、やってみるといい!!」
「お話しが早くて助かります。では、ユーリ様、外でお待ちしております」
「はいはい」
ユーリが呆れ交じりに答えると、メフィストはまた影の中へと沈んでいった。
「話が中座してしまった――結論を言い渡す。ユリア=ロゼッタ、引き続き魔界の将を率い、六年後の二月十四日までに犬神及び『異界』の殲滅を命ずる」
「謹んでお受けいたします」
椅子から立ち上がり、そう答えたユーリは粛々と退室する。
◇
「やっと……手に入れた。私の存在意義を」
天に大きく息を吐きだす。全身から力が抜けていくようにふわふわとしている。
苦節十四年――空っぽだったユーリが心から望んだアイデンティティを手にした。
感慨に耽っていると、ほとんどの役員が退室した会議室から、ひょっこりとリリィが顔を出して手招く。
「ママ」
「ユーリ、来て。レイギス議長とアーデルハイト卿からあなたに渡したいものがあるの」
「渡したいもの?」
訝しく思いながら再度入室すると、がらんとした会議室の最奥で、まだ座っていたレイギス議長と百八十センチはゆうに超す長身の男がユーリを待っていた。
「お呼びでしょうか?」
「君の評価と今後の在り方は先ほど結論を言い渡した。これ以上は言及すまい。しかし、あの場に居た者達で、『異界侵攻』の根深さと真の恐ろしさを理解している者は多くはないのも遺憾ながら事実だ」
「でしょうね。メフィストが出てきただけで顔色を変えるような方々でしたもの」
ユーリの歯に衣着せぬ物言いに、アーデルハイト卿とリリィはぷっと吹き出した。
「なるほど。さすが貴女とヴィンセント様の御子だ。肝が据わっている」
長身の男は屈託なく笑う。見た目の固さに反してフランクな人物のようだ。
「……あの?」
「ああ、紹介が遅れてすまない。私は情報シンジケート『クラン』の北米支部長のヨハネス・アーデルハイト――神界で『異界侵攻』対策室の責任者をしている」
「はじめまして」
ユーリが事務的に挨拶を述べるとアーデルハイトは「よろしく頼むよ」と返して来た。
「紹介が終わったところで本題に入ろう。話を戻すが、敵の脅威を理解していない者は、今後も君に心ない言葉を吐き捨てる連中も出てくるはずだ。そこで対策として、君には『聖騎士』という称号を与えたい」
「『聖騎士』……ですか。でも、それって本来は魔法も使える騎士を意味する神格保持者にのみ与えられると文献で読んだことがあるのですが……。しかも私が率いているのは魔王と魔界四将ですよ?」
「内実など構わない。事実、『聖騎士』は長く空位だった。それは脅威が無かったからだ。しかし今は違う。『異界侵攻』が神、人、魔の三つの世界のバランスを崩しにかかっている以上、特例もやむを得ない、というのが我らの意見だ」
レイギスが語り終えると、アーデルハイトが紅いベルベットが張られた蓋の無い箱を差し出した。箱の上には山吹色の柄と黒い鞘で拵えられた脇差と、大粒のエメラルドが嵌った純金のアーマーリングが乗せられている。
「脇差には君の母上――リリィ=アンジェの守護神の羽根が刀身に埋め込まれている。これならば、『神殺し』の権利が無くとも、『異界』に属する悪神も斬れる。アーマーリングは代々の『聖騎士』に贈られる一品だ。中央のエメラルドが人界に入り込んだ『異界』の者に反応するようになっている。どちらも君を我らの側に縛る物――拒む権利も君にはある。選びなさい」
――レイギスの言葉は非常に矛盾している。
ユーリはそう内心で悪態を吐きながらも、戒めの指輪を左手の中指に通した。サイズ調整もしていないのに、恐ろしいほどしっくりとユーリの手に馴染んだ。
続いて脇差も慎重に鞘をはらった。光の加減で黄金に見える刀身は一点の曇りもなく、神々しい。
「ありがたく、拝領致します」
「ためらいはないのだな」
「あれだけ大勢の前で『異界』討伐の命令を受けたのですから、拒む理由がありません」
「……そうか」
なぜか疲れたように嘆息するレイギスに「同情なら不要です」と言い残し、ユーリは三人に一礼をして踵を返した。
部屋に残された三人は複雑な顔をする。
「リリィ……君が初めて『神殺し』の任務を達成したのは八つだったな」
「ええ。鹵獲され、合成獣に変えられた養父が、私が初めて殺した神格保持者です」
「なんの因果か……君の娘も若くして戦いに身を投じるとは。ヴィンセントの心痛が解るようだ……」
レイギスはとうとう頭を抱えてしまった。リリィも淡々と『聖騎士』の地位を受け入れた娘の未発達の背が痛々しく感じる。
「ですが、『魔界』が彼女を選んでしまった以上は、我らにできるのは情報提供くらいですね」
「はい。親として、妻として、頭の痛いことです……」
ユーリはマジックミラー越しに感じる夫の視線に目で合図をした。きっとヴィンセントは快く思ってはいない。あの二人の溝もどうしたら埋まることやら、とリリィは俯く。
(せめて……どんな短時間でも『彼』の腕の中で泣ければいいのだけれど……)
口にすればヴィンセントがまたユーリにつらく当たるだろう。だが、ユーリが地位も『BLUE ROSE』の呼称を捨てて、ただの『ユリア=ロゼッタ』に慣れる場所はひとつだった。
◇
「ユーリ」
優しい声が鼓膜を震わせる。
夢だろうかと、エレベーターから降りたユーリは、ぎこちない歩みで『彼』に近づく。
嬉しさと、哀しさと、寂しさから涙が滂沱と流れた。
「ゆ、き、く……雪、くん……雪くん!!」
「ユーリ、ユーリ……おかえり。逢いたかった。壊れそうなくらい、逢いたかったよ」
「うん、うん……!!」
エントランスは人払いをされたように誰もいなかった。ユーリは大声を上げて泣く。雪は壊さないように、ユーリをただ抱きすくめた――何度も名を呼びながら。
薔薇の棘に傷だらけにされようとも、雪は痛みなど感じない。
青薔薇自身が、こんなにも心体共にずたずたに傷ついているせいだ――。
to be continued...
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