BLUE BLOOD BLOOM

紺坂紫乃

文字の大きさ
上 下
1 / 34

0

しおりを挟む
【BLUE BLOOD BLOOM】


0,

BLUE ROSE (英) 一、奇跡。 二、この世に存在し得ないものの総称。

 

 濁った緑の曇天から降るのは酸の雨。酸に溶かされて、侵入者の少年が築き上げた魔界の兵士らの死体が湯気と腐臭を放つ。淀んだ空気を気にもせず相対する少年と少女は得物を構えたまま、睨み合う。
 少年はボロ布を適当に継ぎ合わせたような生成きなりの上着と黒い袴姿。ざっくりと適当に切られた白髪、海のように青い瞳には憂いが浮かぶ。
 対する少女はオレンジ色に金の飾りが付いたエキゾチックな踊り子の如き衣装とゆったりとしたシルクのパンツだ。ショートボブの栗毛は緩やかに波打ち、少年とは対照的に青い瞳は氷のように冷めきっていた。どちらも幼さを残した風貌のまま、酸雨に服が焼けるのを気にもかけずに脇差を少年に突きつける。
先に口を開いたのは少年だった。

「……どうして何も訊かないの? ユーリ」

「話など必要などないからに決まっているじゃない。それとも大義名分が欲しいの? たった一人の同胞を斬る為に――ノラ?」

 少年は細身の体躯にはおおよそ似つかわしくない大薙刀を握り直す。くつりと笑ったのは口だけ。透き通った青の双眸は哀しく揺れていた。

「そう、だったね……」

 中途半端に伸びた前髪が悲しく揺れる瑠璃色に近い青の双眸を覆い隠してしまう。

 自嘲の笑みが消えると同時にノラは地を蹴った。
 瞬時にゼロになる二人の物理的な距離――なのに心は曇天の空よりも遠い。
 ユーリと呼ばれた少女は、手にしていた脇差でノラの刃を滑らせて勢いを殺す。
 まともに受けたらユーリの脇差など一撃で真っ二つになってしまうほどに、ノラの一閃が重い。
 
 ぬかるんだ地面に手をついたせいで左手の皮膚が酸に焼かれて痛みを放った。

「――……っ!!」

「どうした、命じろ」

 武器と性別のハンデはやはり大きい。ノラの疾風怒濤しっぷうどとうの追撃を弾くだけで精一杯のユーリの影からよく通るバリトンの声が聞こえてきた。

「駄目!! 全員待機よ……これは私達二人の戦いなんだから!!」

でしょ? 呼びなよ。ボクは全員相手でも構わない」

 影に声を荒げるユーリに薙刀の刃と同じ視線をしたノラがぽつりと呟いた。

「嫌」

「強情だな……後悔しても、知らないから」

 酸の雲よりも濁った瑠璃の双眸が、同じ色の瞳を圧倒する。風切り音を立てて振りかぶった薙刀は、一切の容赦なくユーリに振り下ろされた。
 

to be continued...
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...