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BROTHRFOOD
BROTHRFOOD・Killer
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汚水の匂いがする。血の匂いもこれでかき消されるはずだ。
「……もっと骨のある仕事かと思ったけど、あたしの期待外れだったか」
女は懐からマールヴォロを取り出し、一本を銜える。ジッポで火をつければ、汚水に半分身体を突っ込んだ標的がうっすらと見えた。
肺を汚すように深く吸い込み、紫煙を吐き出す。仕事の後の一服が、こんなにも味気ないのは久しぶりの感覚だった。
もう一口――吸い込んだ瞬間、殺気を感じて腰のホルスターから愛銃のコルト・パイソンを抜いた。時代はオートマチックに変わっていくが、女―― レイア・ロイヴァスは時代遅れだと言われようともリボルバー式の愛銃を離さず、黒いトレンチコートを靡かせて、路地の奥に入る。
「ふん、あたしまで消そうなんて甘い考えは―― ドブに捨てな!!」
ひたりと感じた革靴の音に、壁から飛び出したレイアに握られたパイソンが二度火を吐いた。 一発はサングラスをかけた男の眉間に、もう一発はサングラスの横で左腿を撃ち抜かれて呻いていた。死体も、痛みに悶えている男も、レイアと同じ銀髪、薄い月明かりの下でも解る暗青色の瞳に白い肌――レイアと同じ北欧系のマフィアだ。
「……う、ひっ……うう……」
「なあ、お兄さん。すこおしだけ、話をしようか ?」
レイアは、煙草をくゆらせながら犬歯が見えるほど、にいっと笑った。
「……『BROTHERFOOD・Killer』……レイア・ロイヴァス…… !!」
「ああ、そうとも。標的は間違えていないよ。あんたは運がいい」
レイアはしゃがみ込んで、怯える男の側頭部にパイソンの銃口を擦りつける。
「あんた達のバックを教えてくれないか ? 『同族殺し』のレイア様が、同族に殺されたなんて笑えないんだよ」
低い猫なで声は、妖艶な香水のように絡みつく。だが、男の震えは大きくなる一方だ。レイアは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている男の顔は見るに堪えない。
煙草の匂いに混じってアンモニア臭がした。レイアは喉でくっと笑った。
「おやおや、いい歳こいてお漏らしかい。その程度の覚悟で、よくあたしを殺せると思ったもんだ」
レイアは瞳孔を開いて、ガチリと撃鉄を起こした。途端に男は「アウグストだ !!」と叫んだ。「……あ、あんたを、ね、狙っているのは、ブルーノ……アウグストだ…… !!」
「ふふっ、アウグスト・ファミリーね。このサングラスも、あんたもアウグスト・ファミリー?」
「違う、俺は―― !!」
「ああ、そう」
パイソンが吼えた。レイアは緩やかに倒れる男の頭を黒のパンプスで蹴って「ありがと」と煙を吐くパイソンの空薬莢を、目を開いたまま絶命している男の顔に降りかけた。
くるりと踵を返す。パンツの腰のホルスターにパイソンを仕舞う――蒼白い月明かりに呼び寄せられるようにレイアはヒールを鳴らしながら路地裏に消えて行った。
◇
――二日後の夕方、街には号外が飛び交った。見出しは大きく「ブルーノ・アウグスト・殺害さる」
「また出たぞ !! 『同族殺し』だ !!」
「眉間と口の中に銃弾をぶちこまれたらしいぜ」
「ひえ、おっかねえ」
黒いトレンチコートを着た女は、雑踏の声を聞きながら手に持っていた新聞を宙に投げた。
銀の髪と、北の荒れ狂う海の色をしたダークブルーアイズ――三日月が明るい夜に現れると言う
『BROTHERFOOD・Killer』レイア・ロイヴァス。
彼女の正体を見て生き残った者は、未だ誰もいない。
end...
「……もっと骨のある仕事かと思ったけど、あたしの期待外れだったか」
女は懐からマールヴォロを取り出し、一本を銜える。ジッポで火をつければ、汚水に半分身体を突っ込んだ標的がうっすらと見えた。
肺を汚すように深く吸い込み、紫煙を吐き出す。仕事の後の一服が、こんなにも味気ないのは久しぶりの感覚だった。
もう一口――吸い込んだ瞬間、殺気を感じて腰のホルスターから愛銃のコルト・パイソンを抜いた。時代はオートマチックに変わっていくが、女―― レイア・ロイヴァスは時代遅れだと言われようともリボルバー式の愛銃を離さず、黒いトレンチコートを靡かせて、路地の奥に入る。
「ふん、あたしまで消そうなんて甘い考えは―― ドブに捨てな!!」
ひたりと感じた革靴の音に、壁から飛び出したレイアに握られたパイソンが二度火を吐いた。 一発はサングラスをかけた男の眉間に、もう一発はサングラスの横で左腿を撃ち抜かれて呻いていた。死体も、痛みに悶えている男も、レイアと同じ銀髪、薄い月明かりの下でも解る暗青色の瞳に白い肌――レイアと同じ北欧系のマフィアだ。
「……う、ひっ……うう……」
「なあ、お兄さん。すこおしだけ、話をしようか ?」
レイアは、煙草をくゆらせながら犬歯が見えるほど、にいっと笑った。
「……『BROTHERFOOD・Killer』……レイア・ロイヴァス…… !!」
「ああ、そうとも。標的は間違えていないよ。あんたは運がいい」
レイアはしゃがみ込んで、怯える男の側頭部にパイソンの銃口を擦りつける。
「あんた達のバックを教えてくれないか ? 『同族殺し』のレイア様が、同族に殺されたなんて笑えないんだよ」
低い猫なで声は、妖艶な香水のように絡みつく。だが、男の震えは大きくなる一方だ。レイアは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている男の顔は見るに堪えない。
煙草の匂いに混じってアンモニア臭がした。レイアは喉でくっと笑った。
「おやおや、いい歳こいてお漏らしかい。その程度の覚悟で、よくあたしを殺せると思ったもんだ」
レイアは瞳孔を開いて、ガチリと撃鉄を起こした。途端に男は「アウグストだ !!」と叫んだ。「……あ、あんたを、ね、狙っているのは、ブルーノ……アウグストだ…… !!」
「ふふっ、アウグスト・ファミリーね。このサングラスも、あんたもアウグスト・ファミリー?」
「違う、俺は―― !!」
「ああ、そう」
パイソンが吼えた。レイアは緩やかに倒れる男の頭を黒のパンプスで蹴って「ありがと」と煙を吐くパイソンの空薬莢を、目を開いたまま絶命している男の顔に降りかけた。
くるりと踵を返す。パンツの腰のホルスターにパイソンを仕舞う――蒼白い月明かりに呼び寄せられるようにレイアはヒールを鳴らしながら路地裏に消えて行った。
◇
――二日後の夕方、街には号外が飛び交った。見出しは大きく「ブルーノ・アウグスト・殺害さる」
「また出たぞ !! 『同族殺し』だ !!」
「眉間と口の中に銃弾をぶちこまれたらしいぜ」
「ひえ、おっかねえ」
黒いトレンチコートを着た女は、雑踏の声を聞きながら手に持っていた新聞を宙に投げた。
銀の髪と、北の荒れ狂う海の色をしたダークブルーアイズ――三日月が明るい夜に現れると言う
『BROTHERFOOD・Killer』レイア・ロイヴァス。
彼女の正体を見て生き残った者は、未だ誰もいない。
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