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調合師教育計画
鑑定士は外に頼むことになりました
しおりを挟む研究でスキルがあがる、そう聞いて喜ぶのはこの集落の人間だけではない。当然、アベスカ領で従事している者たちにも歓迎された。
「よっしゃぁ! これであの嫌な毎度の作業が楽になる!!」
「欲を言えば儂らがスキル上げをしている時にしりたかったのぅ」
「分かっただけでも良しとしましょう。私らの孫はそこまで苦労しないと思えばねぇ」
などという会話はどこの家でもなされていたという。
「僕が気づけばよかったんだけどねぇ」
などと領主間でもダニエルがいじけている。
「旦那様、お嬢様とてあの地域に行かなければ分からなかった出来事ですが」
「知っているけどさぁ、ちょっと拗ねたくなる。猶更向こうの家で手離さない……ゾルターン?」
「だ・ん・な・様。あれほど私も申し上げたはずですが。……未だお分かりいただけないとは」
「言っただけじゃないか!!」
「旦那様の場合、半分以上は本気ですから」
にこりと微笑んでゾルターンが言う。
それを見かけたメイド(転生者)は、「ゾルターンの後ろに修羅を見た」と呟いたという。
そんな話を聞かされたからといって、ヴァルッテリとて何かできるわけでもないのだが。
「何というか……」
館内の人間が仲がいい、それで済ませられる問題でもない、というのだけは分かる。
「お父様も失言が減ればいいのですけど」
「そう言う問題なのかな」
にこりとマイヤが微笑んだ。マイヤの中では「そう言う問題」らしい。はやりずれていると思ってしまうが、ところも可愛いと思えるのは惚れた弱みという奴だろう。
「ヴァル、お前の場合感化されただけな」
呆れた呟いたのはアハトで。その後ろで頷いていたのがウルヤナだ。
ウルヤナが以前ほど己に妄信的でなくなったのは嬉しい限りだが、解せぬと思ってしまう。
「さて、研究はいかほど進んでいるのかな?」
とりあえず話を進めないことにはどうしようもない。
「研究の方は順調ですわね。あとアベスカ男爵領からも、研究員を派遣したいととのことですわ」
「理由」
「あちらにはレムリオ草は生えておりませんし、基本見知った薬草ばかりを使っておりますから」
「新しい薬草は使わないの?」
「それが……そこまで高い鑑定士はおりませんし」
「え!?」
「新しい薬を鑑定するには、鑑定スキルがかなり高くないと難しいですわよ。曾祖母が高名な鑑定士だったおかげであの薬が出来たそうですし」
マイヤが少しばかり遠い目をしている。とするならば、どこからかスキルの高い鑑定士を招致するしかないのだが。
「アハト」
「ん?」
「他国でもいい。秘密厳守の鑑定士に声をかけてくれ」
「それしかないよなぁ」
ローゼンダール帝国の冒険者ギルドに毎度依頼を潰されている側としては、これ以上待てない。
「承りました。しばらく従者の仕事は休ませていただきます」
「構わない。……あと従者が出来そうな者と護衛が出来そうな盗賊も見繕ってもらえると……」
次の瞬間、アハトの怒りが炸裂した。
「阿呆か!! 従者が出来そうな奴というだけで難易度が高いっつうのに、『裏切らない』と確約できる盗賊なんぞ知り合いにいねぇわ!!
それくらいなら盗賊が持ってるスキルをこちらで育てた方が楽だ!」
「やはりか。従者は父上に声をかけてみるが、一応そちらでも見繕ってくれ。マイヤにももう少しつけたい」
「……なるほどな」
通常の従者や侍女ではマイヤのやることについていけるわけがない。それゆえ、冒険者から登用したほうがいい。それがアハトにも伝わったようで何よりだ。
その間も研究は進められていく。それを書き留める係の先代公爵が根をあげたことにより、文盲を無くそうと躍起になるのだった。
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