78 / 99
調合師教育計画
ニーロが来た理由
しおりを挟む「えっと、それは俺に調べて欲しいってこと?」
ニーロがヴァルッテリを睨んだ。
「祖父上までマイヤに毒されないでください。ニーロを巻き込む気はありませんよ」
「残念じゃ」
「え?」
「こちらもただで頼むというわけではなかったのじゃがな。そちらで欲しがっておるであろう薬と、それを処方するための医師。それをこちらで用意しようと思ったのじゃが」
「やはりあなたたちがっ」
「強いて申し上げるのならば、違いますわ。あなたが必要としている薬、それを製造しているのがアベスカ領だということですわ」
アベスカ領で作る薬と言えば、性病に関するものだ。つまり、ニーロはそれを欲しているのだと、ヴァルッテリも悟った。そして、そのために近づいてきたということも。
「少し調べればわかることです。ですが、何故あなたはあちらの甘言に乗ってしまったのですか?」
マイヤの言う少しは、他者にとっても少しだとは限らない。
「マイヤ、色々聞きたいんだけど」
「お応えできる範囲でしたら」
マイヤはにこりと微笑んだ。
マイヤ側から見れば、お粗末すぎた。スヴェント家の者が来る、そうなれば調べるのは当然のことだ。
そして、アベスカ領で培われた隠密スキルは、どこまでも役立った。
本来なら、帝都図書館で調べものをするのに使う予定だったが、「公爵家にもあの態度だ。万が一見つかると大変だ」という理由で、正面から行ったのだが、拒否された。ついでなので色々と調べていたら、近衛騎士の身内に性病に感染した者がいる、という情報を掴んでしまったのだ。
しかも、粗悪品の薬を掴まされ、悪化の一途を辿っていると。
そしてここに来て、ヴァルッテリが同僚を連れてくる。疑ってくれと言わんばかりだった。
何故ここまで粗悪品が出回っているのか、そちらを調べてマイヤたちはため息をついた。
アベスカ男爵領で作られた薬の空き瓶に粗悪品を入れているのだ。しかも王族の命令で。国を滅ぼす気か、と問い詰めたくなるのを必死に堪えた瞬間でもあった。
「……え?」
「強いて申し上げるのなら、一度開封して時間経過してしまった物は、品質保証対象外ですわ。これはアベスカ領で作られているすべての薬に言えますけども。ですから医師側にも取り扱い説明をし、了承した方にしか販売しておりませんわ。性病関連だけは優先的に娼館を診るところへ卸しておりますけど。その際にも、この規約だけは守っていただいておりますの。ですから、開封して医師が持ってくるというのがあり得ませんし、やったとしたら取引が中止になりますわよ」
マイヤたちを恨むのがお門違いなのだ。そしてこの集落で作られた薬も、一度アベスカ領を通して販売している。ここから持っていくというのは無理なのである。
「そこまで品質管理していたんだ」
「当り前ですわ。薬の扱いを誤れば命に関わりますのよ。生半可な気持ちで扱うわけにはいきませんもの。安価な傷薬とて、同じことですわ」
数十年、最前線で調合師を引っ張ってきていない。
その上で、マイヤはニーロに提案する。このまま帝都の医師にかかるか、この集落に病人を連れてくるか。
連れてきた場合は、ヘイノが診て必要な薬を判断してくれる。
結局ニーロは「考えさせてください」とだけ呟き、帰っていった。
そして三日後、患者と共に再度この集落を訪れるのだった。
0
お気に入りに追加
914
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ハイスペな車と廃番勇者の少年との気長な旅をするメガネのおっさん
夕刻の灯
ファンタジー
ある日…神は、こう神託を人々に伝えました。
『勇者によって、平和になったこの世界には、勇者はもう必要ありません。なので、勇者が産まれる事はないでしょう…』
その神託から時が流れた。
勇者が産まれるはずが無い世界の片隅に
1人の少年が勇者の称号を持って産まれた。
そこからこの世界の歯車があちらこちらで狂い回り始める。
買ったばかりの新車の車を事故らせた。
アラサーのメガネのおっさん
崖下に落ちた〜‼︎
っと思ったら、異世界の森の中でした。
買ったばかりの新車の車は、いろんな意味で
ハイスペな車に変わってました。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
夫の心がわからない
キムラましゅろう
恋愛
マリー・ルゥにはわからない。
夫の心がわからない。
初夜で意識を失い、当日の記憶も失っている自分を、体調がまだ万全ではないからと別邸に押しとどめる夫の心がわからない。
本邸には昔から側に置く女性と住んでいるらしいのに、マリー・ルゥに愛を告げる夫の心がサッパリわからない。
というかまず、昼夜逆転してしまっている自分の自堕落な(翻訳業のせいだけど)生活リズムを改善したいマリー・ルゥ18歳の春。
※性描写はありませんが、ヒロインが職業柄とポンコツさ故にエチィワードを口にします。
下品が苦手な方はそっ閉じを推奨いたします。
いつもながらのご都合主義、誤字脱字パラダイスでございます。
(許してチョンマゲ←)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる