のんきな男爵令嬢

神無ノア

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調合師教育計画

ニーロが来た理由

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「えっと、それは俺に調べて欲しいってこと?」
 ニーロがヴァルッテリを睨んだ。
「祖父上までマイヤに毒されないでください。ニーロを巻き込む気はありませんよ」
「残念じゃ」
「え?」
「こちらもただで頼むというわけではなかったのじゃがな。そちらで欲しがっておるであろう薬と、それを処方するための医師。それをこちらで用意しようと思ったのじゃが」
「やはりあなたたちがっ」
「強いて申し上げるのならば、違いますわ。あなたが必要としている薬、それを製造しているのがアベスカ領だということですわ」
 アベスカ領で作る薬と言えば、性病に関するものだ。つまり、ニーロはそれを欲しているのだと、ヴァルッテリも悟った。そして、そのために近づいてきたということも。
「少し調べればわかることです。ですが、何故あなたはあちらの甘言に乗ってしまったのですか?」
 マイヤの言う少しは、他者にとっても少しだとは限らない。
「マイヤ、色々聞きたいんだけど」
「お応えできる範囲でしたら」
 マイヤはにこりと微笑んだ。

 マイヤ側から見れば、お粗末すぎた。スヴェント家の者が来る、そうなれば調べるのは当然のことだ。
 そして、アベスカ領で培われた隠密スキルは、どこまでも役立った。
 本来なら、帝都図書館で調べものをするのに使う予定だったが、「公爵家にもあの態度だ。万が一見つかると大変だ」という理由で、正面から行ったのだが、拒否された。ついでなので色々と調べていたら、近衛騎士の身内に性病に感染した者がいる、という情報を掴んでしまったのだ。
 しかも、粗悪品の薬を掴まされ、悪化の一途を辿っていると。

 そしてここに来て、ヴァルッテリが同僚を連れてくる。疑ってくれと言わんばかりだった。

 何故ここまで粗悪品が出回っているのか、そちらを調べてマイヤたちはため息をついた。
 アベスカ男爵領で作られた薬の空き瓶に粗悪品を入れているのだ。しかも王族の命令で。国を滅ぼす気か、と問い詰めたくなるのを必死に堪えた瞬間でもあった。
「……え?」
「強いて申し上げるのなら、一度開封して時間経過してしまった物は、品質保証対象外ですわ。これはアベスカ領で作られているすべての薬に言えますけども。ですから医師側にも取り扱い説明をし、了承した方にしか販売しておりませんわ。性病関連だけは優先的に娼館を診るところへ卸しておりますけど。その際にも、この規約だけは守っていただいておりますの。ですから、開封して医師が持ってくるというのがあり得ませんし、やったとしたら取引が中止になりますわよ」
 マイヤたちを恨むのがお門違いなのだ。そしてこの集落で作られた薬も、一度アベスカ領を通して販売している。ここから持っていくというのは無理なのである。
「そこまで品質管理していたんだ」
「当り前ですわ。薬の扱いを誤れば命に関わりますのよ。生半可な気持ちで扱うわけにはいきませんもの。安価な傷薬とて、同じことですわ」
 数十年、最前線で調合師を引っ張ってきていない。

 その上で、マイヤはニーロに提案する。このまま帝都の医師にかかるか、この集落に病人を連れてくるか。
 連れてきた場合は、ヘイノが診て必要な薬を判断してくれる。

 結局ニーロは「考えさせてください」とだけ呟き、帰っていった。


 そして三日後、患者と共に再度この集落を訪れるのだった。
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