のんきな男爵令嬢

神無ノア

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調合師教育計画

ヴァルッテリ、同僚にまで憐れまれる

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 ヴァルッテリは未だ近衛騎士団に所属中である。

 半年前の婚約お披露目以降、マイヤを連れて夜会等に出席していない。そして、マイヤはある意味引きこもりライフを満喫しているため、女性陣の茶会にすら出席していない。
「……ヴァル、お前婚約していたよな」
 伯爵家次男の同僚、ニーロが食事中にこっそりと訊ねてきた。いや、普通に聞いてもらっても構わないのだが。
「しているよ」
「お前の婚約者ほとんど見かけないんだけど」
「見かけたいたら怖いな」
 移転魔法も使えない女性が、帝都にいたら大問題である。実母あたりが連れてくるということも考えられるが、マイヤ本人が集落発展に力を注いでいる。出てくるわけがない。
 アベスカ男爵領からついてきた、マイヤの専属お針子たちは現在、オヤヤルヴィ公爵家御用達の店で絶賛修行中である。そして、お針子たちもマイヤが戻ってこないのを気にしていない。

 毎度のことながら、それでいいのかと思ってしまう。

「つか、婚約してから半年経過したよな? 結婚どうすんだよ」
「……あーー」
 ヴァルッテリも毒されたもので、きれいさっぱり忘れ去っていた。
「おい!」
「いやさぁ、マイヤのペースに合わせていた。……このままだとまずいな」
「まだ、破棄したとかじゃないわけな」
「するわけがない。俺も両親どころか、祖父上まで気に入っている。破棄なぞしようものなら、俺が追い出される」
「お前、一人息子な上に嫡男、しかも白亜色の髪、紫紺の瞳持ちだよな? それを追い出すって」
「当家はやる」
 家と領民に迷惑をかけるような者は一族にあらず。それを実行し続けたオヤヤルヴィ公爵家。実際ヴァルッテリの叔父も家系図から切り離されている。
「でぇも、お前が公爵家に迷惑かけたり、領民に迷惑なぞ……」
「王女殿下と婚約中はかけていたよ」
「それは例外だろ、阿呆」
 この男も言いたい放題である。だから結婚できないのだと言いたくなるが、ヴァルッテリにあっさり返ってくる言葉のため、言わないでおく。
「……マイヤのことは一言で言い表せない」
「どんな女性だよ」
「取りあえず、俺が冒険者稼業をやるといっても止めない女性」
「本当に男爵令嬢か?」
 聞き耳を立てていた他の同僚たちもニーロの言葉に頷いている。
「宰相閣下の理不尽な拷問にも耐える女性」
「屈強な男ですら偽りの自白をするというあの拷問に耐えるだと!? 本当に女性なのか?」
「気が付くと移転魔法を使っていないのに、どこにいるか分からなくなる女性」
「人間か?」
「きちんとした男爵令嬢、つまりれっきとした女性で人間だよ」
「規格外すぎるわ!!」
 一部分だけを言ったはずなのに、方々から同情と憐み、そして突っ込みが入った。
「俺、憐みも同情も要らないから、マイヤの心が欲しい」
「どこの詩人だよ!!」
「俺の偽ざる本心です」
「……そのうち、公爵邸に遊び行っていいか?」
「いいけど、マイヤいないし、俺も帰ってない」
 一応最近は公爵領から移転魔法で通ってきていることになっている。
「言い方悪かった。お前の婚約者に会いに行っていいか?」
「駄目。マイヤに惚れると困る」
「安心しろ。そこまで規格外の女性、俺どころか俺の実家でも扱いきれん」
 そんなこんなで、後日ニーロが来ることになった。
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