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調合師教育計画
浄化装置
しおりを挟む「マイヤ――! お帰りーー。あとはずっと家にいていいからね」
久方ぶりに移転魔法で帰ってきたマイヤに、ダニエルが抱きつきながらそんなことをのたまった。そんな男爵を引き離し、あっさりと制裁をするゾルターン。
それでいいのか、男爵家。
ヴァルッテリが心の中で突っ込みを入れるが、マイヤは「毎度のこと」とさらりとスルーしていた。
「ゾルターン。浄化装置担当の技術者に会いたいのだけれど」
「お嬢様にしては遅かったですね。いつでも話し合いが出来るよう時間は取ってあります」
さすが! と嬉しがるマイヤを横目で観察しつつ、ヴァルッテリは金の話をゾルターンに切り出していた。
「派遣してみないことには申し上げられませんね。派遣料はいつもと同じでよろしくお願いしたします」
「勿論だ。集落がより良い方向に行くのだ、金は出し惜しみしない」
それでオヤヤルヴィ公爵領もより良い方向に行くのだから、公爵領に本当の意味で関わっている文官たちは諸手をあげて歓迎している。これで金をケチって駄目になったなどと知れたら、ヴァルッテリがつるし上げられる。もっとも、アベスカ男爵領の提示する金はいつも、良心的すぎるのだが。
「金を出し惜しみせず、その上でこちらの技術者を移転魔法であっさりと連れて行ってくださる方に吹っ掛けるほど、落ちぶれておりませんよ」
下心ありの行動もよかったようである。
あっという間に集められた技術者たちに事の次第を話せば、物凄く呆れていた。
「お嬢様らしくない」
「だって、美味しかったんですもの」
それにやるべきことが数多あり、そちらをメインでやっていたというのもあるが。
「そこまで水がうまいとなると、シグ村で使用中の浄化装置と一緒でいいな。それの設計図は協会で管理しているから問題はない」
「あら、頼もしい限りですわ」
「マイヤ」
「あら、ヴァルッテリ様、如何なさいました?」
「場所によって使っている浄化装置は違うの?」
「えぇ。若干仕様に違いがあります」
同じ領地内とはいえ、水質に違いがある。違いに合わせて装置をいじくっており、そこで出たデータをもとに新しい浄化装置を作る。以前作っていたものは部品と一、二体の機体を除き新しい装置へと生まれ変わっている。
「……なるほど」
難しそうな顔で納得するヴァルッテリを放っておいて、マイヤは技師たちと話を進めていく。
「あまり装置は持っていかない。多少は公爵領に金を落とした方が後々のことを考えるとな」
「あら、他地域の水質までわたくし知らなくてよ」
「お嬢様の婚約者が知っているだろうが。その都度俺らを呼び寄せるって考えると、なおさら印象をよくしておいた方がいい」
「それもそうですわね」
マイヤの婚約者! その言葉に喜んでいたヴァルッテリは、使用人やら技師たちが寄越す憐みの視線に気づかなかったという。
そして、「あの婚約者様ならお嬢様を大事にするだろ」と色んなところでお墨付きを貰っていたことも知らない。
あっという間に浄化装置が設置され、それを見た公爵が「領都にもさっさと導入する!」と新しい依頼を入れてきたということで、アベスカ男爵領は嬉しい悲鳴を上げることになる。
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