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調合師教育計画
マイヤの激励
しおりを挟む余談だが、この大陸において一年は十二か月である。一月は三十日。
そして、この集落を作って早半年経過していた。
その間病気やけがで亡くなった住民は少ない。帝都にいた頃は毎日のように誰かが死んでいるのが当たり前だった。マイヤが来て、保護することを打ち出してあっという間に変わった。
それを複雑な思いで見ているものも多いのが実情である。
もっと早くにマイヤが来ていてくれたら。もっと早くに保護してもらえたら。
「お嬢の年齢考えろや。しゃあないだろうに。それを言うなら、近衛騎士の貴族様だろ。もっと早くにお嬢と会っていていればって思えや」
料理人が愚痴をこぼす客に、そう諭していた。
「それも違うだろうが。せめて、帝都の医者があいつらを診ていてくれた違っただろうよ」
金がないため無理なのは分かりきっていても、店主すらそう思ってしまう。
「それを言ってしまえば、堂々巡りです。王命に感謝するしかありません」
アヌはそう言うが、誰一人納得できないのは当たり前だ。
ヘイノは野菜を持っていけば診てくれる。薬草、魔石、魔獣の肉。なんでもいい。だが、帝都の医者は違う。金を持っていったとしても「混血児」を診てはくれない。それが現実なのだ。店主にも妻と子供がいたが、妻は病気で、子供は貴族の馬車に轢かれて他界した。金を持って医者に行ったものの、妻の時は金だけ取って薬どころか問診すらせずに追い出し、子供はその場で見世物と言わんばかりに弄り殺された。
皆、ここにいる者たちは似たような境遇である。身内を失わなくて済んだかもしれない、その可能性が目の前にあるのだから。
「皆平等というのは絵にかいたパンのようなものですわ。這い上がるきっかけがあるのですから、それを逃さないことですわよ」
食堂の隅でゆったりと食事を摂るマイヤたちに、いつからいた! という突っ込みが方々から上がった。
「結構前からですわ。皆さまの愚痴を吟味しておりましたの。
いわれなき差別に嘆くのは分かります。ですが、その者たちと同じようになってはいけません。わたくしたちがあなた方にどこでも生きていける術をこれからも伝授します。それで立ち上がり、見下してきた者たちを見返しておやりなさい。ただし、誇りは失わないように」
どこでも生きていける術。それを実感していない者はいない。
そこにいた者たちは、絶対にマイヤに恥じぬ生き方をしようと決意していた。
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