のんきな男爵令嬢

神無ノア

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調合師教育計画

ダニエルの豪語

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「お名前がアヌだと伺っていたから、もしかしたらと思っていたけどね」
「お父様のお知り合いでしたの?」
「……マイヤはずっと領地にいたから知らないか。彼女の母上はリーディアが帝国から連れてきた侍女の一人だよ」
「存じ上げませんでしたわ」
「だろうね。ずっと王都にいたし。マイヤとは直接会ったことはない」
 そのあたりの話はあとで聞こうと思ったマイヤだった。
「旦那様、隠す必要はないでしょう。私の母は、とある貴族の愛人になって、リーディア様に引っ叩かれた上、暇を出された人ですから。父は小さな家を与えてくれましたけど、そこに本妻が乗り込んできて大変でした。男にとって愛人が何人いるかは甲斐性だと聞いたのですが」
「うん……通常は間違いないかな。ただ、あの方婿養子だからね」
 アヌの父親は恋仲になっていたという母親。ただ、アヌの父親が誰なのか知らないほうがいい。そう結論付けた。
「それはさておき、本妻は母を弄って喜ぶような女で、父は庇ってくれるものの、毎回いるわけじゃない。いつの間にか父が『絶対にいない』と分かる時にしか来なくなりましたね。
 そんな最中、帝国との二度目の戦。父は反対派だったそうで、処刑されました。戦後、逃げるように母はこちらに来ましたけど、こちらでも針の筵。一応、娘が帰ってきたのは嬉しいものの私は厄介。母の死後、家を出ました」
 公爵が家名を聞いたのに対して、アヌはあっさり答えた。「サデニエミ」だと。
「あそこは色々厄介だからね」
 そんなことを公爵が言うが、マイヤからしてみれば関係ない。
「マイヤ、言いたいことは分かるけど、出来ないのが貴族だ。アベスカ家我が家のように出来るところが少ない」
「存じ上げてますわ。だから頭に来ていますの。本当に娘たちが可愛いのなら陰で少しばかりの援助位できたのではありませんの?」
 何も表立って援助する必要はない。雨風がしのげる住家と、手に職さえつけられれば良かったはずである。
「多分だけど、アヌ嬢が調教師だったからというのもあると思う。下手に動いて、アヌ嬢の能力が分かったら、冒険者の盾にされてしまう可能性だってあった」

 さすがにそれは考えもつかなかった。アヌの能力隠したのは、アヌの両親だという。どうしてそれを知っている、ダニエルよ。そうマイヤは突っ込みを入れたくなった。
「いやさぁ、何度かリーディアに内緒で診察に行った時、『ヤバいな』と思ったんだよね。で、アヌ嬢のお父上に言って能力を鑑定したらお見事! というやつだよ。で、私も協力しただけだよ」
 それは「だけ」で済む問題なのだろうか。
「済ませておいて。で、何かあったら当家でお二人とも預かるって言ったんだけどね」
「流石に母が、『これ以上アベスカ男爵家のご厚意に甘えるわけには』と」
「甘えてよかったんだよ。あなた方は、戦とリーディアの被害者なんだから」
 保護して、独り立ちさせるのは当然だとダニエルは豪語した。
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