のんきな男爵令嬢

神無ノア

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元は不憫枠だったヴァルッテリ。現在は「モブ」扱いだったり、信用されていなかったり。初期設定で王女と婚約しており、マイヤの髪色のせいで婚約破棄というのは変わっていないのですが、実は少なからず王女を想っていたというのが付け足されていました。その時点では、ローゼンダール帝国まともだったんですけどねぇ…( = =) トオイメ目

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「……え? 婚約破棄ですか?」
 いきなりの話が来て、ヴァルッテリは驚いた。確か、王命での婚約話だったはずだ。
「うむ。戻ってきたリーディア嬢の子供が白亜色の髪をしたいたらしくてな」
 国王陛下が厳かなまま言う。確かにヴァルッテリの髪色も白亜で、近しい歳に白亜色の異性が揃った場合は問答無用で婚姻を結ばせていた。
「かしこまりました。陛下の御心のままに」
 恭しく臣下の礼を取れば、陛下は安心したようにため息をついた。
「これで我が子に王位をまわせ……」
 はっとして国王が口を閉ざしたが、隣にいる父・キュヨスティが呆れ果てていた。

 初期の王命自体、王家にある不平不満を解消するとともに、第一王女殿下の我侭を叶えるという思惑があった。つまり、ヴァルッテリに押し付けられたのは子守だったわけで。
「あ、かのリーディア嬢の息女だが、歳は五つだそうだ」
 また子守か。その一言に尽きた。

 ヴァルッテリはリーディア嬢と呼ばれる女性をよく知らない。キュヨスティ曰く、「どこにでもいる、、、、、、、侯爵令嬢だったよ」とのことだ。そして、キュヨスティの二番目の弟の婚約者だったという。
「それで?」
「弟がリーディア嬢に嫌気がさしていたというのもあって、罠にはめる形で負け戦の旗印にした。……それが理由でグラーマル王国へ差し出したわけだ。あの様子を見るに慰み者になっていたようだね」
「知りませんよ、そんな事」
 現在、その叔父は他国へ婿に行っている。リーディアと婚約を破棄するのが狙いだったとキュヨスティが言った。
「特権階級の腐敗が気になり、義憤に駆られていたというのと、リーディア嬢に嫌気がさしていたというのが理由だ。確かにリーディア嬢があちらに人質として取られたことで、国はまとまるようになったが、腐敗がなくなったわけではないからな」
「新たな腐敗を招いただけですしね」
 現在は王族付近の腐敗が目立つ。貴族の一部がまともなため国が回っており、腐敗がなくならなかったことに嫌気がさして、叔父は国を出た。
「私としても知ったことではないですが、今度は本当に子守ですね」
「……そう言ってやるな」
 それよりも気になるのは、どうして子供を連れて帰ってこなかったかということだ。

「だって、あの人がわたくしの病気治療をする約束に、子供を産んでくれというのがあったんですもの」
 聞きに行ったオヤヤルヴィ親子に対して、リーディアはそう言い放った。
「病気はよくなっていないようですが」
「し……仕方ないじゃない! わたくしは早く国に戻りたかったんですもの。だから出来ることをしたまでですわ」
 つまり、身体で篭絡して、情報を帝国密偵に渡したということだ。
「それにあの男、わたくしの望みを叶えるとか言いながら、離縁はしてくださらない! そのせいでわたくしは殿下と婚姻が……」
「出来ない。既に我が弟は婿に行っている」
「!! 嘘です! だって……」
 王国に行く際、涙を流して別れを惜しんでくれたと言い募っていた。
「それが演技だと気づかないほどに、あなたは愚かだったということだ」
「嘘です!」
「ならば神殿で訊ねるがいい」
 キュヨスティは冷たく突き放していた。

 その後、リーディアに会うことはなかった。
「ある意味哀れといえば、哀れだな」
 葬儀でキュヨスティが呟いていた。
「そうですか?」
「彼女はそれしか生き方を知らなかった。それに、幼いころから『白亜色の髪』ということでもてはやされ過ぎたし、両親もそれに胡坐をかいた」
「父上と母上は胡坐をかかなかったと?」
「かきようがない。私たちは追われた身だ」
 確かに。王宮で生まれ、オヤヤルヴィ公爵領で育った。それがヴァルッテリだ。

 そして貴族にしては珍しく冒険者にもなった。否、冒険者になる貴族はそれなりにいる。ただ、ヴァルッテリが嫡男であったということ、そして、他の貴族子息とは違い最前線にいたということ、それが珍しかった。
 魔力過多ということもあったが、何よりもキュヨスティが「世間にもまれろ」といって送り出したからだ。それには感謝している。おかげで魔力の扱いも慣れた。

 リーディアの喪が明けてから、またキュヨスティに呼び出された。
「色々と調べているんだが、リーディア嬢の息女に関して情報が殆どない」
「は?」
「分かっているのは、アベスカ男爵家の一人娘であること、名前がマイヤということと年齢くらいだな」
「……それってデビュタントの年齢になるまで何も分からないということですか?」
「うむ。なのでしばらく大使館付き武官として赴任するといい」
 その言葉を受け、ヴァルッテリはグラーマル王国へ渡った。ヴァルッテリの魔力であれば、毎日帝都から通える。

 あえてそれはせず、十日に一度報告と共に帰還していた。
「アベスカ男爵領は自体は、王国で一・二を争う位豊かだということしか入りませんね」
 王国で情報規制されているというのもあるが。アベスカ男爵に何度か会ったが、覇気の感じられない男だった。

 なかなか会えないマイヤ。そしてヴァルッテリに媚びを売るグラーマル王国王族。嫌気がさして、「運命の出会い」を諦め、王国に直接婚約話を持ち掛けた。
 のらりくらりと躱され、ブチ切れかけたときに国王から言質を取った。

 ここまでしないと言質が取れないとはどういうことだと思ったが、向こうもローゼンダール帝国との繋がりが欲しかったのだろう。
「やっとお会いできた」
 そう言ってマイヤに抱き着いた。
 露骨に嫌そうな顔をして逃げようとしたマイヤを、なおのこと強く抱きしめ、キュヨスティがよくやるように匂いを嗅いだ。

 何故か、彼女となら公爵領をうまく盛り立てていける、そんなことを思った。
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