のんきな男爵令嬢

神無ノア

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調合師教育計画

公爵たちの誓約

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 ……それはともかくとして。マイヤは気持ちを切り替えた。
「その話が事実だとするなら、この付近で育成は難しいですわね」
 魔獣はいないに越したことはないが、薬草がないというのはきついし、性病用薬にはとある魔獣の肝が必要なのだ。
 その魔獣自体、どこにでも生息している上、あまり強くないので、狩りに苦労することはない……はずだ。最悪、冒険者ギルドから肝を買い取ればいい。
「ポーションを作るには問題ない量だと思うがね」
「練習が出来ないですわ」
「? 要らんだろう、練習は」
 公爵に方法を伝えるのを忘れていた。
「この方たち、調合スキルをお持ちでないんですもの。お持ちの方は召し上げれてしまって、こちらには来ないそうですわ」
「であれば、公爵領に来てもらうしかない」
 何かを察した公爵が、マイヤに何も問わずに言う。薬草の豊富な場所に移動するのはありがたいが、ここからどれくらい距離があるのか、というのが大事になってくるが。
「……これで全員?」
 今まで黙っていたヴァルッテリが口を開いた。そういばいたんでしたわね、という言葉をマイヤは飲み込んだ。
「マイヤ、言いたいことは分かったから。言わないでくれてありがとう」
 そう言うなり、店主に向き直っていた。
「どこまでの連中を言ってやがる?」
「う~ん。一緒に移動したいと思う人、かな」
「さすがに赤子や子供がいるところは無理だろうがよ」
「人数にもよるけど」
「ざっと百五十人」
 今まで黙っていた女性が言った。
「問題ないかな、父上」
「お前が決めたのなら、私は口を出さんよ。私は陛下に形式だけでも許可を取っておくが」
「じゃあ、場所を見繕ってだね」
「ふむ。密偵が紛れ込まないようにだけはしないとな」
 一体何の話でしょうか。マイヤは店主たちと顔を見合わせた。

「とりあえず、どれくらい準備期間があると大丈夫?」
「全員って考えてか?」
「勿論。父上の言うように密偵が入らないよう、『選別』する必要は出てくるけど」
「……だと、その選別とやらのために、七日後に一度集める。その七日後ぐらいなら、問題ねぇはずだ」
「店主の言うとおりね。密偵は気にしなくてもいいのではないかしら」
 入って来た女性がそう言うと、ヴァルッテリは己の邸宅内情を赤裸々に暴露し、どこに密偵がいるか分からないと、説得していた。
 それは、あなたが迂闊だからです。半数近い人数が同じことを思った。


 そして七日後。
 スキル「真贋」を使用して調べたところ、勝手に術式を組み込まれて密偵にされているものが十名ほど、家族を人質に取れれて密偵もどきをしていたのが二十名ほど、そして、金で密偵になっていたものも、二十名ほどいた。
 組み込まれた術式は、ヴァルッテリとアハトの二人がかりでこっそり解除した。七日後に最終的に術式を解き、そのまま連れていく。家族が人質に取られている者は、公爵たちが救出に向かった。

 最後、金で密偵になった者たちだが。
「あぁ? 混血児の癖に何偉そうに。この人たちが公爵? お前らごときにお貴族様が目をかけるはずがないだろう」
「混血児は俺らにこき使われてりゃいいんだよ」
 等々、暴言を吐く者や、己がいいスキルを持っているため、店主たちを見下しており、店主たちが食堂から放り出していた。
 その時に、公爵夫人が記憶混乱の魔術を使い、しばらくの間は大丈夫だろうとのことだった。
「七日後に、ここに来て。赤子やお年寄りにも優しい旅にすると、ヴァルッテリ・スミアラ・ニッキ・オヤヤルヴィの名に誓う」
「私も、己が名、キュヨスティ・イーロ・ニッキ・オヤヤルヴィに誓う」
「お貴族様の本気な誓約、初めて聞いたぜ」

 どんな重要な誓いであっても、平民の、しかも虐げられた者たちにとて、「物珍しいもの」という認識しか湧かなかった。
 だが、本気なのは伝わったようだ。

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公爵の名前、やっと考えた!←ヲイw
というわけで(?)キュヨスティ・イーロ・ニッキ・オヤヤルヴィです。
因みに、夫人のフルネームはエヴェリーナ・ミルヴァ・ニッキ・オヤヤルヴィです。
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